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囲まれた御堂

衛兵たちに囲まれながら、

私は言った。

「ここだと、部屋が汚れたり、備品が壊れて皆に迷惑かけるから、庭にでよう」


騎士団長はうなづき、剣を身構えたまま、じりじりと下がる。

私は剣を鞘に入れ、両手をあげ、衛兵たちに囲まれながら、庭に向かう。

鎧君と盾君に、

「だいじょうぶ。みどうを傷つけさせたりしないから」

と声をかけられながら、私はゆっくりと庭に向かった。

途中、心配そうな賢者ムスメサン、マーガレット、トミーコを見かけたので、軽く手を振っておいた。

皆、苦笑いを浮かべていた。


そりゃそうだ。

こんなの笑えない状況だ。

しかし、どうしようか。

庭の中央につく。

衛兵たちは皆、緊張した面持ちだ。


(ごーん)

鐘の音がする。

あぁ、夕食の時間だ。


衛兵も、騎士団長もそわそわし始めた。


「騎士団長。とりあえず食事にしませんか?」

と私はあぐらをかいて座り込んだ。


「まぁ。そうだな……とりあえず狂人化してないしな。お前ら交代で食事を取れ。半分は剣を降ろすな」

と騎士団長は衛兵たちに命じた。


メイドたちが食事を庭に運んでくる。


私の元にはマーガレットが食事を運んできた。

少し怯えているようだった。


「ごめんね。こんなところで」

と私は謝った。


「いえいえ。私は大丈夫です。勇者様が心配です」

とマーガレットは上目遣いで私を見た。

少し涙ぐんでいた。


「マーガレット。大丈夫。

これでもね、30年間くらい営業畑でやってるからね。

トラブルなんて朝飯前だよ」

と私は笑った。


騎士団長はテンシンハーンをほうばりながら、

「しかし、勇者殿。なぜ剣や鎧、盾達に支配されないのですか」

と首をかしげた。


「逆に聞くけど、なんで剣や鎧、盾が人間を支配するの」

と私は尋ねた。


「いや。それは呪われた武具だからです。しかし、おかしいですな。以前のおどろおどろしい空気がまったく感じられない」

と騎士団長は眉をしかめた。


「彼らと話しながら、磨いたからね。ピカピカに」

と私は笑った。


「彼らと話しながら、磨いた……」

と騎士団長は目を丸くする。


「たしかに、キレイだ。それに邪気を感じない」

と騎士団長は言った。


そこにニクマーンをほうばりながら、賢者ムスメサンがやってきた。


「神官を呼んで、呪い判定すればいいのでは」

と賢者ムスメサンは騎士団長に言った。


「だれか……神官を呼べ」

と騎士団長は叫んだ。


すぐに神官が呼ばれ、私と武具たちは呪い判定される。

すると、特級呪具判定されていた武具たちの呪いは全て消えていた。


「どういう事かわかりませんが、この武具は特級呪具判定されていました。しかし今、この武具からは呪いが感じられません。勇者殿も同じです。

通常、呪具を身につけた者は呪いの状態異常になりますが、勇者殿は状態異常ではありません」

と神官は首をかしげた。


声が聞こえる。

「俺たちを一度外せ」

と武具たちが言っているのがわかった。


私は、

「これから装備を外す」

と一声かけた。


騎士団長も、衛兵たちもさらに後ろへ後退した。

怖いのだろう。


俺は防具を全て外し、剣の鞘も外した。


そして食事を再開する。

神官は再度私を調べ、武具たちも調べる。

しかし、呪い判定はされない。

神官は、大司教まで呼び、調査したが、呪い判定はされなかった。


「これはどういう事なのでしょうか」

と賢者ムスメサンは大司教に尋ねた。


「まったくわかりません。勇者殿の聖性によるものかもしれませんね」

と大司教は首をかしげる。


「私の世界では、モノを愛し磨けば、友達になれるという言葉があります。

私は今回、この武具たちに敬意をはらい、友達になりたいと語りました。

それは関係があるのでしょうか」

と私は大司教を見て言った。


「たしかに、そんな事もあるかもしれませんね」

と大司教は言った。


衛兵たちがざわつく。


「大司教様。教会ではモノを大切にされるでしょうか?」

と私は尋ねた。


「それは当たり前です。神様に関わるものであり、いつも清浄を保たねばなりません」

と大司教は深くうなづいた。


「では仮に、武器の手入れをきっちりする者と、武器の手入れをおろそかにする者がいたとしたら、どちらに神はより力を貸すでしょうか」

と私は言った。


「それは手入れをする者でしょうな。使い捨てなどとする者は、神の恵みを大切にしない者となるでしょうから」

と大司教はうなづいた。


衛兵たちの表情が凍り付いた。


「我々も、勇者殿を見習わないといけないですな。勇者殿、武具の手入れの仕方を皆にご教授いただけないでしょうか」

と騎士団長は頭を下げた。

衛兵たちも一斉に頭を下げた。


「もちろん、私でお役に立てるなら」

と私は笑った。


……


それから私は、数日、武器の手入れの指導に明け暮れた。

途中から、引退した鍛冶職人が使える事を知り、力量を調べ、

彼らが知っていて、私が知らない事。

私が知っていて、彼らが知らない事を、

確認し合い、

手入れマニュアルを確立した。

そして、3名の引退した鍛冶職人を採用し、

手入れについては、完全に鍛冶職人たちに任せた。


これで、軍事費の大幅削減につながる。

ただ、多少の問題はあった。

武器屋の反発である。

今まで使い捨て状態だった武器や武具がメンテナンスされ、

使われるようになると、売上が落ちる。


これについては、定期的なプロによる研ぎを依頼するという事と、

定期的なプロによる防具類のチェックという事でまとまった。


メンテナンス業務であれば、金属代や新しく作る手間が減るため、

その分、利潤も厚く、

コストは下がるものの、武器業者の利潤は確保できるという仕組みになった。


武器屋ギルドの会長はこう言った。

「はじめは、血が流れると思ったさ。

でもな、

現実は違った。

あいつは、悪魔のように売上を下げたのに、利益は同じようになるようにしたんだ。

流れたのはな、血じゃなかった。

俺らのうれし涙だったんだよ」


私はその言葉を人づてに聞いた。

……そしたら、営業をしていた頃のことが懐かしくなって、

思わず涙ぐんでしまった。


安心したよ。

こんな異常な世界に来て、

まだ人間でいられたんだなって。


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