宝物庫と呪いの3点セット
今日やる事も一通り終わった事もあり、私は騎士団長に宝物庫を案内された。
本当は、宝物レベルの武器や道具なんて断りたかったが、
国を代表する勇者の装備がしょぼいのでは、士気に関わると、騎士団長に言われ、
仕方なく、宝物庫に来た。
そして、数々の名剣や防具類を騎士団長に勧められる。
どれもカッコはいいが、分不相応すぎる。
どうやって断ろうか。
「ここにある武器防具なら、どれでもお使いください」
と騎士団長は言った。
そうか……、
ここにある武器でメンテナンスされていない物を選んで、それを磨き上げればいいんだ。
と私は思った。
「さっそくですので、吟味したいです。お時間いただけますか?」
と私は尋ねた。
「そういう事なら、好きなだけ選んでください。終わったら衛兵にお伝えくださればいいです。武器防具も衛兵が運びますから」
と騎士団長は衛兵を指さした。
衛兵は敬礼をする。
「私の世界では、武器は徹底的に磨くのが礼儀作法ですので、磨く道具も用意してもらえますか」
と私は尋ねた。
「では、お選びいただいているうちに、用意させましょう」
と騎士団長は答えた。
「では砥石も荒い番手から細かい番手まで」
と私は声をかけた。
衛兵は敬礼をして、どこかに出て行った。
「では……、私はここまで、食事はメイドが、どこでも運んできますので」
と騎士団長は敬礼をした。
私は騎士団長に敬礼をし、
宝物庫の中を探し始める。
どれもキレイな状態だった。
30分ほどして、薄汚れた木箱に入った剣と鎧と盾を見つけた。
カッコは良さそうだが、錆び付き、どす黒くなっている。
なにか、黒いモヤがかかっているような気もしないでもない。
なるほど、
こういうのをキレイにしたら、
きっとスゴイと思われるに違いない。
私はそう直感した。
ちょうど衛兵が帰ってきていたので、
「これにするよ」
と私はその装備を見せた。
衛兵はあわてた様子で、
「さすがに、それはダメです。怒られます」
と断られた。
営業は断られてからが仕事。
そんな君ごときの断りなど。
私に通じるわけがない。
「騎士団長が私に一任されたのだよ。つまり決定権は君にはない。私にあるんだ。
わかるよね」
と私は衛兵の目を覗き込んだ。
「もちろんです。しかし、何かあった時に、責任が取れません」
と衛兵は固辞した。
「だいじょうぶ。全ての責任は私が取るから。任せてくれ」
と私は胸を叩いた。
衛兵は仕方なさそうに、うなづき、武器と防具を部屋まで運んでくれた。
その様子が、気持ち悪いものを運ぶような顔をしており、
この国のメンテナンス意識を変えるのは、時間がかかるのだろうと、
私は覚悟した。
……
部屋につき、私は剣を手に取り、磨き始める。
「お前は何者だ。なぜ私を磨く」
心の中に声が聞こえる。
私は思い出した。
一流の野球選手は、道具と会話をすると。
そうか……。
私は異世界に来て、道具と会話ができるようになったんだ。
そう思った。
声が聞こえるなら、答えないといけない。
それが仮に道具だったとしてもだ。
「私は御堂二三男。勇者として、この国に召喚されました。あなたを磨いているのは、良い剣だと思ったからです」
と私は剣に語りかける。
「お前、私が恐ろしくないのか?こんなにおどろおどろしい姿をしているのに」
と剣から声が聞こえる。
「多少は錆びついたり、汚れたりしていますが、本来は美しい剣だと思いますよ」
と私は剣に微笑みかける。
「珍しい人間だな。お前、欲しいものはないか?」
と剣は尋ねた。
私は考えた。
欲しいものがないわけではない。
アパートにある、落語のカセットと、充電できる電力が欲しい。
しかし、剣に頼んだところで、それは不可能だろう。
「そうだね。話し相手は、欲しいかな。話友達にでもなってくれたらウレシイな」
と私は笑った。
「権力でもなく、女でもなく、私と話友達になって欲しいと……。
変わった奴だな」
と剣は鈍く光った。
「だって、剣のお友達なんて、なかなかいないよ。剣君って呼んでいい?」
と私は尋ねた。
「いや。それはやめてくれ。俺は魔剣ジークフリートという名だ」
と剣は少し冷たくなった。
「負けん?それは、絶対勝つ的な。縁起のいい名前だね」
と私は言った。
「いや。勝ち負けの負けんじゃなくって、魔の剣のほうな」
と剣は少し赤く光った。
「そっかそっか。じゃあジークと呼ぶな。私の事はみどうと呼んでね」
と私は言った。
「わかった。みどう」
とジークは少し暖かくなった。
私は剣を磨き続ける。
心なしか、剣がうっとりしたような表情をしているように感じた。
「なぁ~みどうよ。お前は俺がどんな過去を送ってきたのか、そういうのは気にならないのか?」
とジークは鈍く光った。
「ジークの人生……、いや剣生……、
どうだろう。
私は、気にはならないな。
話の話題をあわせる目的で、過去を聞くってのは、あるけど。
あんまり意味がないしね。
そんな事より、私はね。落語が好きなんだよ。
こう自己開示するほうが、傷つけなくていいからね。
ほら、聞かれたくない過去もあったりするだろ」
と私は笑った。
ジークは何も答えなくなった。
ただジークに宿ったぬくもりが、すべてを表しているかのようだった。
「もう俺は十分だ。これ以上は削れる。他の奴を磨いてやってくれ」
とジークは言った。
「わかったよ」
と私は言い、鎧と盾を磨いていく。
鎧も盾も、打ち解けるまでに少し時間はかかったが、
友達になってくれた。
ただ鎧も盾も名前はなく、鎧君、盾君で構わないという事になった。
全ての装備が磨き終わり、装備をした頃、慌てた様子で騎士団長がやってきた。
「勇者殿、あの武器や防具だけはダメです。あれは呪いの装備で、つけたが最後、狂人となって死ぬまで外せません」
と騎士団長は息を切らして叫んだ。
「えぇ~。そうなんだ。もう装備したんだけど」
と私は言った。
騎士団長は、私の姿を見て、剣に手をかける。
「衛兵。衛兵。勇者殿が呪いの装備をつけられた。狂人化するぞ。囲め」
と騎士団長は叫んだ。
衛兵がどんどん集まって来る。
あれ……これ詰んじゃったのかな。




