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軍事訓練なんか、まっぴらご免の勇者様

辺りを見渡すと、

甲冑を着た兵士や魔法使いのようなもの達がいる。


雰囲気的には、これから鍛えましょうみたいな。

新人研修的な空気が辺り一帯に漂っていた。


「では、勇者殿、今日からは戦闘のための軍事訓練です」

と賢者ムスメサンは笑顔を作った。


軍事訓練?

58歳の男をつかまえて。

軍事訓練?


「なぜ私が軍事訓練を?」

と私は尋ねた。


「勇者様が、魔王軍と戦われるからですよ」

と賢者ムスメサンは当たり前のように言った。


私は、まるでブラック企業のようだと感じた。

しかし、どう答えるか?

これが問題だ。


「なるほど。では仮に私が倒れたら、戦闘不能になれば、どうするの?」

と私は賢者ムスメサンの目を見て尋ねた。


「……それは、新しい勇者殿を召喚するしかないですね」

と賢者ムスメサンは頭をかいた。


「そう簡単にできるものなの?」

と私は尋ねた。


「成功率は低いですね」

と賢者ムスメサンは唇をかんだ。


「私が倒れたら、兵士や国民の士気はどうなる?」

と私は尋ねた。


「それはかなり下がるでしょうね」

と賢者ムスメサンはうなづいた。


「確認したいのだけど、兵士では倒せない種類の魔物っているのかな?」

と私は確認した。


「それはわかりませんが、兵士たちで倒せる魔物はいます」

と賢者ムスメサンは言った。


「だったら、兵士たちで倒せる魔物で、私が倒されたら、この国にとって損失じゃないの?」

と私は首をかしげる。


「たしかに……。そうですな。じゃあ、こうしましょう。兵士たちで倒せる魔物と、兵士たちで倒せない魔物を分けましょう」

と賢者ムスメサンは手を叩いた。


「それがいいね。それの方が効率がいいし、兵士の士気が下がらないのが良い」

と私はうなづいた。


「……では軍事訓練はやめますか?」

と賢者ムスメサンは考え込んでいる。


「いやいや軍事訓練はするよ。体を動かすの好きだからね。

それに私にしか倒せない相手もいるかもしれない」

と私は言った。

ここで臆病者だと思われるのも嫌だし、

なにより、現場の空気感や、戦い方などを知ってると、

非合理なところにも気が付ける。


「そうですね。そうしましょう。では、この世界での戦い方からご指導しましょう」

と賢者ムスメサンは言った。


私は騎士団の団長から、

この世界の武器について教わった。


私がもといた世界とほとんど変わりがなく、

剣、槍、弓矢、鞭、短剣などが主な武器だった。

基本的に身分が高いものほど、剣や弓矢を使い、

槍は練度の低い兵が使うことが多いようだ。


これはもといた世界の戦争の鉄則とも、ほとんど変わらない。

槍はリーチが長い分有利だし、訓練も剣ほどはかからない。

弓矢はリーチが長い分有利だが、訓練に時間がかかる。

剣は小回りが利くが、相手の懐に飛び込まないといけない分、リスクが高い。

そんなわけで、槍が使われることが多い。


私は、それぞれの武器を30分ほど指導してもらう。

すると、一つ気付いたことがあった。

武器が研磨されていないのだ。


「つかぬことをおうかがいしますが、この武器が研がれてないのは、練習用だからですか?」

と私は尋ねた。


「武器は購入したら、それっきりで研ぎはしません」

と騎士団長は言った。


「それで、切れ味は鈍りませんか?」

と私は言った。


「武器はそんなものですよ。使えなくなったら交換しますから」

と騎士団長は笑った。


「軍事費のうち、武器の買い替えに使う費用はどの程度の割合ですか?」

と私は尋ねた。


「4割ほどですね」

と騎士団長は答えた。


「可能性の話ですが、仮にその買い替えの費用が半分程度に減れば、軍はもっと強くなりますか」

と私は尋ねた。


「そんなことができれば、そりゃ強くなります」

と騎士団長はうなづいた。


私は考えた。

この武器を買い替えでなく、メンテナンスする文化が広まれば、この国の軍事費は削減され、結果的に魔王軍に勝ちやすくなるのではないかと……。

しかし、新品好きにメンテナンスをしろとか、使い捨て感覚だった者たちに、大事に使えと言っても、批判されるだけだ。

どうしようか。

武器のメンテナンスは文化だ。

どうやって、導入する。


私の思考が止まった。

今日のところはやめておこう。


……


「勇者殿。お茶にしませんか」

と賢者ムスメサンは言った。


すでにお茶が用意されていた。

騎士団長とトミーコも席に座っている。


「はい」

と私はテーブルに急ぐ。


紅茶のような香りがする。


「どうぞ。チャンペです」

と騎士団長は茶色の飲み物を勧める。


チャンペ……。

聞きなれない言葉に、少し抵抗を感じる。


「色が独特ですからな。

あっこれは作法がありましてな。

飲むときは、チャンペの上に人差し指と中指をしばらく置き、湯気と共に香りがついてから、鼻の下に指を置き、香りをかぐのが作法です」

と賢者ムスメサンは言った。


トミーコと騎士団長は、チャンペの作法を行う。

どこかで見た事のある風景だ……。


「面白い作法ですね」

と私は言った。


「こちらの世界では、3歳の頃には、チャンペの作法を習います。これができないと、お茶の席では、少し問題がありますので、勇者様も覚えてください」

とトミーコは、何度もチャンペの作法を見せてくれた。


私は、チャンペの作法を行い、チャンペを飲む。

味は完全に紅茶だった。

ただ紅茶より若干甘く感じた。


「少し甘いですね」

と私は言った。


騎士団長の眉が上がる。

「なるほど。勇者殿は甘く感じますか?ほほほほ。まだお若い証拠ですね」

と騎士団長は私の肩を叩いた。


トミーコは、顔を真っ赤にしている。


賢者ムスメサンは、ニヤニヤしながら、私の耳元でささやいた。

「チャンペが甘く感じるのは、精力絶倫の証拠なのですよ。

そういう発言は、

ご婦人の前ではお控えください」


私は、異文化交流の恐ろしさを改めて知った。


そこで、

私はふと思い出す。

部下が金属磨きマニアだったことを。

その部下に錆びついてボロボロの包丁を、ピカピカに磨く動画を見せられて、

興奮したことを。


このビフォーアフターを見せたら、いけるかもしれない。

私はそう思った。


「私も武器や防具が欲しいですね」

と私は切り出した。


「もちろんです。宝物庫から、この国の最高峰の武器と防具をお出ししましょう」

と賢者ムスメサンは宝物庫の方角を指さす。


最高峰の武器と防具……。

最前線にいるのなら、

まだしも。最後方にいるのに、それは困る。


「最後方にいるのに、最高峰の武器と防具とは……」

と私は言った。


「さすが、上手いですな。さいこうほうだけに」

と騎士団長は笑った。


しまった。

意図せず、駄洒落が……。

まぁいいか。

駄洒落が通じるんだな。

この世界は。

これは間違いなく。

文化レベルは高い。


「洒落は、オシャレに通じますし。

勇者様は、オシャレなのですね」

とトミーコは微笑みかけてくれた。


「そういえば、勇者殿が駄洒落を言われた時、魔力値が上がったのは、なぜなのでしょうな。

あれは我々もできるのでしょうか」

と賢者ムスメサンは遠くを見た。


「そんなことが可能なら、とんでもない発見だぞ」

と騎士団長は腕を組み考えている。


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