表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気が付けばニチアサ世界に紛れ込んだみたいです  作者: 濃厚圧縮珈琲
第二部 第四楽章 戦場を駆ける

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

108/112

がんばれあかり!ドキドキの期末テスト! Bパート

 期末試験初日の三教科目——理科の試験の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、ずっと息を止めていたかのような息苦しさを追い出すようにため息とうめき声が一斉に漏れ出す。


 その中で、あかりも手応えは感じていたものの、完璧とは言えない出来に何とも言えぬ表情を浮かべながら静かに息を吐いていた。


 教師が解答用紙をまとめ、教室を出ていくと教室内にはワッとおしゃべりの花が咲いた。

 今日の試験の出来がどうだったかという雑談に、一夜漬けのヤマが外れたと嘆く声。翌日の三教科の復習で問題を出し合う声など、皆思い思いの言葉を吐きだしている。


 

 「はぁ……」


 筆記用具を筆箱に入れ、通学鞄にしまいながらあかりは翌日の試験に思いを馳せる。

 

 美術・社会・英語。どれも特に得意でも不得意でもない……頑張れば出来るかもしれない科目。

 どちらかといえば社会と英語に力を入れ、美術はほどほどに……。

 というより、初日の数学に全振りしたせいで他の科目が若干疎か……。 


 「……あかり」


 「ふぁいっ!? な、何かなアリサちゃん!」


 びくっと肩を跳ねさせ、あかりは慌てて振り向いた。

 アリサはいつも通りの落ち着いた表情で、じっとあかりを見ている。


 「本日の試験、お疲れ様」


 「え……あ、うん! お疲れ様っ!」


 拍子抜けしたように目をぱちくりさせるあかり。

 そんな彼女に、アリサはわずかに頷いた。


 「理科の出来はいかがですか?」


 理科と聞いて、あかりはむにゃりと口をへの字に曲げた。


 「う~ん……怪しいかも……最後の問題、多分やらかしたかなぁ……」


 「最終問題の解は、上から『ウ』『ア』『カ』『オ』『イ』です」


 「あぁぁぁぁぁっ!? 間違えてるぅぅぅ!」


 あかりは頭を抱え、ぱったりと机に突っ伏してしまう。その様子に、アリサはほんの僅かに口元を緩めた。


 「過ぎた事は仕方ありません。今日はしっかり休息を取りつつ、明日の対策を行いましょう」


 「うぐぐぅ……うん~……」


 元気なく返事をしたあかりは、ガバッと突然起き上がり、ぐっと拳を握った。


 「明日も乗り切るよっ!!」



 そんなやり取りの最中、予鈴が鳴り響き、あかりはやる気に満ち溢れたまま下校前のホームルームを迎えるのだった。



*   *   *


 

 試験期間中は正午で下校となり、皆空腹を訴えるお腹を抱え、早々に帰路に着いていた。

 足早に歩く生徒達の波の中に、あかり達4人組の姿があった。 

 話題に出すのは、やはり今日の試験の事。


 「あかりはどうだった? 初日は」


 「ふふ~ん……! 数学良い感じだったの!!」


 「へぇ、やるじゃん! 良かったねぇ~」


 あおいが感心したように眉を上げ、みちるも優しく微笑んだ。


 「やっぱり勉強会の成果があったのかしら」


 「えへへ~……♪」


 褒められて照れるあかり。

 だがしばらく無言で彼女達の話を聞いていたアリサが、ぼそりと呟いた。


 「……明日の復習はお済みですか?」


 その一言で空気がピシッと引き締まる。

 

 「私はしっかり復習してるから大丈夫。みちるは?」


 「私も大丈夫。あかりは?」


 「あー……うん。してる……よ?」


 あかりの歯切れの悪い返事に、三人はじっとりした目で彼女を見つめる。

 

 「……してるって顔じゃないけど?」


 「正直に言いなさい」


 「うっ……」


 あかりはたじろぎ、視線を泳がせた。


 「……まだです」


 観念したようにぽつりと白状すると、二人のため息が重なった。

 そのやり取りを静かに見ていたアリサが、鞄からノートを取り出す。


 「では――帰宅しながら復習を行いましょう」


 「え?」


 「移動時間も有効活用すべきです」


 さらりと言い切るアリサに、あかりは「それもそうだけどぉ……」と苦虫を噛み潰したような絶妙に嫌そうな表情を浮かべる。

 だがアリサは容赦なかった。


 「第一問」


 「もう始まったぁ!?」


 あかりが思わず抗議の声を上げる。


 「日本近海を流れる四つの海流。それぞれの名称は」


 「ええっ!? えっとえっとぉ……日本、対馬……千歳と……うぐぐぐ……」


 「リマンだよね」

 

 あおいの助け舟に、アリサはコクリと頷いた。


 「正解。では千歳海流と日本海流、それぞれの別名は」


 「あ! それ知ってる! 親潮と黒潮!」


 「正解」


 「やった!!」


 思わずガッツポーズをするあかり。

 そんな様子に、あおいがくすっと笑う。


 「なんかクイズ大会みたいだね」


 「悪くないわね、このやり方」


 みちるも満足そうにうんうんと頷く。

 アリサは構わず続けた。


 「では――三陸海岸の特徴的な地形の名称は?」


 「三陸……えーっと……覚えてる! 覚えているんだけど言葉が出てこない……!」


 ぶつぶつと呟きながら考え、そして――みちるへ視線を向けた。


 「はぁ……仕方ないわね、リアス式海岸」


 「正解。ではそれは何県に存在するでしょう」


 「福井県ね。若狭湾でしょ?」


 「……はい、その通りです」


 「おぉー! さっすがみちるちゃんっ!」


 「ふふ、社会も得意なの」


 パチパチとあかりから拍手を受け、まんざらでもないようにみちるが胸を張る。


 「でも、あかりもちゃんと身についてるじゃない」


 「そうそう! やれば出来る子なんだよね~、あかりって」


 あおいがあかりの肩へ腕を回し、空いた手で脇腹をツンツンとつつく。

 その感触にくすぐったそうに身をよじりながらも、あかりは満面の笑みを浮かべていた。



 今にも降り出しそうな灰色の曇り空の下。

 四人の足取りは学校を出た時よりも、ずっと軽くなっていた。



———————————————————————————————————


 

 それからの二日間は、まるで風のように過ぎていった。


 放課後はそれぞれの家に帰り、短い時間の中で復習を重ねる日々。

 分からない問題はブレッシング・リンク越しに確認し合い、時には笑い、時には頭を抱えながらも、四人で乗り越えていった。

 


 オンライン勉強会が解散した後も、あかりは一人、夜遅くまで机に向かっていた。

 そんな彼女のそばにソラシーもぴったりと寄り添い、時々茶々を入れながらも応援し励まし、ソラシーなりの親切心を見せていた。


 「ピ、消しゴムのカスはソラシーが掃除するソラ~」


 「ありがと……って、わぁぁっ! それはまだ使える千切れた消しゴムだからだめーっ!!」


 「ソラぁ……あかりは物を大事にして偉いソラ!」 




 ――二日目の試験は、美術・社会・英語。


 美術では思わぬ問題に首を傾げ、社会では前日のみんなとの復習が役に立ち、英語では単語の綴りに最後まで悩まされた。


 (だいじょぶ……私ならできる……っ! 集中集中……!)


 意識を深ーく潜らせ集中する為に何度も深呼吸を繰り返しながら、あかりは一つ一つの問題に向き合っていった。




 ――そしてあっという間に迎えた、三日目。

 

 期末試験、最終日。

 体育・家庭科と続き、最後の科目は――音楽。

 

 主要五教科ではない科目が並び、教室にはこれまでとは少し違う、どこか柔らかな空気が流れていた。

 それでも試験である以上、緊張感が消えることはない。


 試験開始を告げるチャイムが鳴り響き、配られた問題用紙をゆっくりと裏返す。

 さっと問題へ目を通すと、各音符の名称や楽譜の読み方。音楽記号の意味を答える問題がズラリと並んでいる。 


 (……大丈夫)


 あかりは軽く息を吐き、口元をきゅっと引き締めた。


 (これは……分かるよっ!)


 授業で学んできた事。

 家で復習し、オンライン勉強会で問題を出し合った事。

 そして――自分達(ブレッシング・ノーツ)がディスコードとの戦いで歌い奏で、自然と身についた音楽の感覚。紡いできたメロディー。


 それら全てが、今目の前の問題と自然に結びついていく。


 カリカリとシャーペンを走らせながら、あかりは少しだけ微笑んでいた――が、一つの設問でピタリとペンが止まる。

 音楽記号の読みと、その意味を『ア~キ』から選択する問題。その中に……ソレはいた。


 『ff』


 この音楽記号、読みはもちろん分かる。意味だってしっかり勉強したから分かる。

 分かるからこそ――手が止まってしまった。


 『ff(フォルティッシモ)』その意味は『とても強く』


 だがあかりは――いや、きっとみちるやあおいまで、同じところで一瞬手を止めていたに違いない。

 何故なら――


 『我ァが名はッ!! フォォォォォルティッッッシモ男爵ゥッ!!!! んん~んッ!! 誰が読んだかこの名前、爆音のマエストロたァ、ワシの事よッ!!!!』


 (あーもうっ!! うるさいっ!!!)

 

 過るのは、余りにも濃い記憶のあの男。

 試験中にも関わらず、文字を見るだけであの男爵の雄叫びとレゲエホーンの音が聞こえて来る気がして……。


 パキッと音を立ててあかりの握るシャーペンの芯がへし折れる。その音で我に返ったあかりは、ぶんぶんと頭を振り、そのイメージを無理やり振り払う。



 (落ち着いて……落ち着いて……!)



 あかりは小さく深呼吸を繰り返し、震える指で新しい芯を出す。


 

 (これはただの音楽記号……ただのテストなんだから……!)


 ぐっとペンを握り直し、再びその問題へ視線を向けた。



 『ff』

 

 やはり、脳裏にあの男のドヤ顔で笑みを浮かべる姿がちらつく。


 「――……っ!!」

 


 (違うっ! これはとても強く!!)


 今度は惑わされず、しっかりと力強く解答欄を埋めた。



*   *   *



 

 やがて――試験終了のチャイムが、教室に響き渡る。


 「――そこまで。用紙を前へ送って下さい」


 

 教師の声と同時に、あかりは大きく息を吐いた。


 (終わったぁぁぁ……!)


 気が抜けて机に突っ伏しそうになるのを何とか堪えながら、凝り固まった肩をほぐすように大きく伸びをする。

 少しリラックスしたその顔には、確かな達成感が浮かんでいた。




 期末試験、その全日程が終了した。

 ……そして。


 (フォルティッシモ男爵……)


 心の中で、そっと呟く。


 (次会ったら、絶対静かにさせてやるんだから……!)


 まったく身に覚えのない恨みを向けられる男爵には少し気の毒だが――それもまた、いつもの事だった。




———————————————————————————————————




 「……終わったぁぁぁぁぁっ!!!」


 校舎を出て校門へ向かう途中、うずうずと我慢していたあかりの喜びの叫びが、曇り空へと突き抜けていく。


 そのまま両手を高く掲げ、その場でぴょんっと跳ねる。

 くるりと一回転して、さらにもう一度ジャンプ。


 まるで溜め込んでいたものを一気に解き放つように、全身で喜びを表現していた。


 「ちょ、ちょっとあかり! はしゃぎすぎだって!」


 「だってぇぇぇ!! 終わったんだよ!? ぜーんぶ終わったの!!!」


 あおいが思わずツッコミを入れるも、あかりのテンションは止まらない。

 その隣で、みちるがくすりと笑う。


 「ふふ……よっぽど解放されたのね」


 「そりゃあねぇ……あれだけ毎日やってたんだもの」


 肩の力を抜いたように、あおいも苦笑しながら頷く。

 ただ一人、アリサだけはいつも通りの落ち着いた様子で――しかし僅かに、表情を緩めていた。



 「で、どうだったの? みんなは」


 あおいが話題を振ると、みちるは少し得意げに笑みを浮かべ、アリサも静かに目を瞑っていた。


 「私はまぁ、いつも通りかな~。大きなミスはないと思う」


 「私もいつも通りかしら。アリサはどう?」


 「……問題ありません」


 みちるとあおい、そしてアリサがさらりと答える。

 その安定感に、あかりは「すごいなぁ……」と素直に感心していた。


 そして三人の視線は、自然とあかりへと向いた。


 「あー、えっとぉ……私の番だよね?」


 あかりは少し咳払いをすると、少しだけ胸を張った。


 「今日のはね! 私も結構いけた気がするの!」


 「へぇ? 本当?」


 あおいがにやりと笑う。


 「ほんとほんと! 初日の数学も解けたし! 音楽も最後までちゃんと答えたし!」


 「……フォルティッシモ男爵の呪い、乗り越えたのね」


 みちるが苦笑いしながら呟くと、あおいとあかりは思わず「ぶふっ」と吹き出した。


 「あれはほんと危なかったんだからね!?」


 思い出したのか、あかりは笑いながらも器用に頬を膨らませた。

 ぽこぽこと怒るあかりを見てさらにおかしくなったのか、あおいがお腹を押さえながら笑い続けている。


 「ふっくくく……ちょ、変なツボはいっちゃった……!」


 そんなやり取りに、四人の間に自然と笑いが広がる。

 ――その時だった。


 ……ぐぅぅぅぅ……


 小さく、しかしはっきりと聞こえた音。

 数秒の沈黙の後――


 「えへへ……お腹空いちゃった」


 あかりがぽつりと呟き、三人の視線が一斉に彼女へと集まる。


 「ま、あれだけ頭使ったんだしね」


 「私もお腹空いたかも。早く帰りましょ」


 「だよねだよね!? もうぺこぺこなの!!」


 あかりは勢いよく頷きながらお腹を押さえる。


 「ねぇねぇ! どっか寄っていかない!? 甘いのとか! ジュースとか!」


 「出た、あかりのご褒美タイム」


 あおいが肩をすくめる。


 「だーめ。まずはお家でお昼ご飯食べるのが先よ」


 「うぐぐ……」 


 みちるの言葉にあかりは一瞬項垂れるも、すぐに目をキラキラさせながら顔を上げた。


 「まずはって事は、その後みんなで集まれるって事!?」


 「私の家で良ければ、歓迎するわ。きっとお店もお昼後なら落ち着くでしょうし」


 みちるの言葉に同意するように、アリサもコクコクと頷く。


 「やったぁぁぁっ!!」


 あかりは再び両手を上げて跳ねた。

 さっきよりもさらに軽やかに。


 「じゃあみちるちゃん家に集合ねっ! あおいちゃんも来れるよね??」


 「うん、大丈夫。さすがに試験終わった後だから私も気分転換したいし!」

 


 結局いつものように少しだけ振り回されながら、楽しそうに笑い合いながら、四人は歩き出した。


 晴れとは言い難い、灰色の曇り空の下。

 空模様と対照的に、四人の表情は輝いていた。




Cパート


 ――その後。

 昼食を取り一休みを終えた後。

 四人は約束通り、みちるの家である喫茶『rosse』へと集まっていた。


 あかりとあおいが店内に入った瞬間、ふわりと漂うコーヒーの香りとケーキの甘い匂いに、あかりの目が一気に輝く。


「う~ん……! やっぱりいい匂い~!」


「はいはい、騒がないの」


 あおいに軽くたしなめられながらも、あかりの視線はカウンターに並ぶ焼き菓子に釘付けだった。

 

 パウンドケーキにたっぷり穀物を使ったクッキー。マドレーヌとフィナンシェの黄金色がキラキラしている。

 そのどれもが、試験を乗り越えたご褒美としてはあまりにも魅力的すぎる。


 「……全部食べたい」


 「欲張りすぎでしょ」


 あおいが呆れたように笑う。


 「でもまぁ、今日は特別だからね」


 「だよねっ!?」


 その一言で、あかりのテンションは再び最高潮へ。

 

 「いらっしゃい……って、もうあかりは元気なのね」

 

 「奥の席へどうぞ。マスターから許可を頂いています」


 エプロン姿のみちるとアリサに出迎えられ、他の客の迷惑にならないよう一番奥のテーブル席へと案内される。

 ここならソラシーが少し動いても人目につきにくい――そんな楠家の配慮だった。


 二人はコーヒーとケーキセットを注文し、あかりはバスクチーズケーキ、あおいはレモンのパウンドケーキを選んだ。

 「甘いものは別腹ソラ! 試験お疲れ様なんだから、盛大にやるソラっ!」

 

 というソラシーのお許しも加わり、湯気の立つカップの隣に、焼き色の美しいケーキやクッキーが次々と並べられ、気が付けばテーブルの上は色とりどりのスイーツでいっぱいになった。


 笑い声が絶えない、穏やかな時間。


 戦いも、試験も乗り越えた後だからこそ――

 そのひと時は、ちょっぴり特別に感じられたのだった。



~~次回予告~~


 教室はひんやり快適、外はジメジメ蒸し暑い……。

 もうすぐ梅雨明け、そして――やってくるのは夏休みっ!!


 どこ行こうかな? 何しようかな?

 考えるだけでワクワクが止まらないよ~っ!


 でもでも、ディスコードにも不穏な動きが……?


 次回!

 『待ち遠しい夏休み!忍び寄る不穏な影!』


 新しいハーモニー、始まるよっ♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ