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気が付けばニチアサ世界に紛れ込んだみたいです  作者: 濃厚圧縮珈琲
第二部 第四楽章 戦場を駆ける

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穢れ祓え!鳴り響く爆音の大祓! Bパート

 シャーペンがノートを走る音だけが、静かな部屋に響いている。

 その音は途中止まる事もあるが、長い沈黙に飲まれることも無く、軽やかに音を刻んでいた。

 

 少しだけ開けた窓から吹き込む初夏の生ぬるい風がカーテンを揺らし、夕暮れの光が窓から柔らかく差し込んでいた。


 「……よしっ、ここは解けた!」


 達成感に、小さく拳を握る。


 机に向かっているのは――集中し、真剣な顔をして復習に取り組むあかり。

 

 そして――


 タタッ。

 タタタッ。


 その机の上では別の軽快なリズムが鳴っていた。


 ソラシーが小さな足を忙しなく動かしながらタップダンスを踊っているのだ。


 タッタタッ、タタッ♪


 「がんばれソラ~♪ あかり~♪」


 「むむ……」


 「がんばれがんばれソラ~♪」


 「むむむぅ……」


 「はっ……今のビート良い感じソラ! もう一回やるソラ!」


 「ぐぐぐ……うるさーいっ!!!」


 あかりが机から顔を上げて叫んだ。


 「集中できないよそれぇ!!」


 するとソラシーはぴたりと動きを止め、ポーズを取るように翼を動かした。


 そして、びしっとあかりを指差すように羽を向ける。


 「これぐらいで気が散るようじゃ、ダメソラ!」


 「ぐっ……」


 痛いところを突かれ、あかりが言葉に詰まる。


 「集中っていうのは、周りがどんなにうるさくても出来るものソラ!」


 「うぅ……正論……だけど、今はわざわざしなくていいじゃない~っ!!」


 あかりはぐぬぬと唸りながら、再びノートへ目を落とした。


 しかし、その時だった。

 ソラシーの羽が小さく震えた。


 「……ソラシー?」


 同時に、あかりの手首のブレッシング・リンクから振動とアラームが鳴り響いた。


 「あかりっ!ディスコードソラ!!」


 ソラシーが窓の方を見る。

 夕焼けに染まり始めた空。その空の一角が――どこか黒く、濁っている。


 「また……! いかなきゃ!」


 勢いよく立ち上がる。だが次の瞬間、あかりは机の上の教科書を見て固まった。


 「えっ……でもこんな時に!?」


 明日は期末試験。


 机の上には、まだ途中の問題集。


 あかりは数秒だけ固まって悩み――


 「……」


 ぐっと拳を握った。


 「仕方ない!」


 椅子から立ち上がる。


 「みんなを守る方が先だよね!」


 ソラシーが頷いた。


 「行くソラ!」


 あかりはその空を真っ直ぐ見つめ、机の上に飾っていたブレッシング・パクトを握り締めた。


 「ブレッシング・ノーツ、出動だよ!」


 部屋を飛び出し、階段を急いで駆け下りていくと、菜月とばったり出会ってしまう。


 「あら? そんなに急いでどうしたの?」


 菜月が首を傾げた。


 「うぇっ!?」


 思わず変な声が出た。


 「あ、あのっ……えーと!」


 頭の中で必死に言い訳を探すが何も出てこない。

 ソラシーが小声で囁いた。


 「落ち着くソラ……!」


 「え、えーとね……!」


 あかりはとっさに言った。


 「の、飲み物っ!!」


 「飲み物?」


 菜月がきょとんとする。


 「そう! 勉強してたら喉乾いちゃって!」


 「冷蔵庫ならキッチンよ?」


 「そ、そうなんだけど!」


 あかりは慌てて玄関の方を指差した。


 「気分転換にコンビニ行こうかなって!」


 「コンビニ?」


 菜月が少しだけ眉を上げる。


 「明日テストでしょ?」


 「すぐ戻るからっ!!」


 あかりは勢いよく言った。


 「ほんとすぐだからっ!!!」


 「……はぁ」


 菜月は小さくため息をついた。


 「寄り道しないで帰ってきなさいよ」


 「はーい!!」


 返事と同時に、あかりは玄関へダッシュ。


 勢いよく扉を開けて家から飛び出すと、夕暮れのほんのり涼しい風が身を包んだ。

 見上げる空には黒い瘴気がゆっくりと広がっている。


 ――近い。


 「急ごう、ソラシー!」


 「ピ、神社の方ソラ……!」


 ソラシーがふわりと飛び上がり、あかりの肩に止まる。


 「よぉーしっ! 走るよっ!!」 


 あかりは夕焼けの道を駆け出した。

 きっと仲間達も向かっていると信じて。



 ———————————————————————————————————



 神社の石段を駆け上がり、境内へ飛び出したあかりの目に飛び込んできたのは、無残に荒らされた屋台の光景だった。


 倒され千切られたのぼり旗。ひっくり返された団子の箱。

 割れた氷の入れ物からは氷の溶けた水が流れ、石畳を濡らしている。


 そしてその中心で――


 「ワルイゾォォォォォ!!」


 巨大な輪の怪物が、屋台を踏み潰していた。

 その輪の中央に開いた黒い口からは、どろりとした穢れの霧が吐き出される。


 

 境内の奥にある本殿の周りでは、参拝客達が感情を奪われ至る所で座り込んだり倒れ込んでいた。



 「ふははははッ!!」


 頭上から聞き慣れた高笑い。

 見上げればフォルティシモ男爵が空中で腕を広げていた。


 「いいぞワルイゾー! 穢れ塗れにしてやれ!! 混乱と絶望のコーラスを響かせるのじゃッ!!」


 あかりの目が怒りで揺れる。


 「やめてっ!!」


 境内にあかりの声が響いた。


 「酷い事しないでっ!!」


 「むッ?」


 あかりの声に、男爵がゆっくりと振り向く。


 「おおッ?」


 そしてすぐに笑みを浮かべた。


 「来たかッ! ブレッシングノーツの娘ッ子め!」


 「男爵っ! 性懲りもなくまた悪い事してっ!! もう許さないんだから!」


 あかりはブレッシング・パクトを高く掲げた。


 「ブレッシング・チェンジ!!」


 パクトから光が弾け、柔らかな七色の輝きの光が身体を包み込む。



 「響け、祝福の音色! 一緒に紡ぐ想いのメロディ―!」



 「愛の旋律、届けます! メロリィ・エンジェル!」


 

 着地と同時に風が舞い、キラキラと天使の羽のような光の粒子がふわりと舞い上がった。

 

 「ピピッ!! エンジェル頑張るソラーっ!!」


 パタパタと変身したエンジェルの頭上を飛び回り、エールを送りながらソラシーが離れていく。



 彼女の輝きを眩しそうに目を細め、睨むように見ていた男爵は指揮棒を振り上げ、エンジェルへと突き付けた。


 「さぁッ!! 思う存分暴れて穢せィッ!! ワルイゾーッ!!!」


 「ワルイゾォォォ!!」



 ドバァァァッ!!


 ワルイゾーの口から黒い穢れの霧が噴き出す。

 それと同時に、輪の内側から無数の紙の人形――ヒトガタが飛び出した。


 「うわわわっ!?」


 エンジェルは慌てて地面を蹴り、横へ飛んだ。それでもエンジェルを追尾し続けるヒトガタを避け続け、近くの木を盾にする。

 細い枝は切り裂かれるも、太い幹には次々と突き刺さっていき、ようやく動きを止める。

 

 

 「ワルイゾォ!!」


 だが動きを止めれば再び穢れの息が吐き出され、エンジェルが身を隠す木陰を穢し、次々に木が倒れていく。



 「くっ……!」


 エンジェルは木陰から身を翻し、崩れた屋台の柱を蹴って跳び上がった。


 空中に逃れるエンジェルを狙ったヒトガタの群れが足元をかすめていく。


 「これじゃ近付けない……!」


 あまりにも攻撃が激しすぎる。

 攻撃の隙間が見えず、追い込まれてしまうエンジェル。

 だが例え圧倒的不利な状況でも、彼女はぎゅっと力強く拳を握った。


 「……それでもっ! 私なら出来るっ!」


 着地と同時に地面を強く蹴った。

 ぐんっと一気に加速し、ヒトガタのミサイルが着弾するギリギリをすり抜け、吐き出される穢れの息を紙一重で回避する。


 そのまま、一直線に突っ込んでいく。


 「はぁぁぁっ!!」


 勢いのままに、構えた拳を振り抜いた。


 ドンッ!!と鈍い音と共に、エンジェルのパンチが、ワルイゾーの茅の輪の身体に叩き込まれる。


 しかし――


 「えっ!?」


 確かに手応えを感じる、身体の芯を捉えたはずの一撃を食らっても、ワルイゾーの身体はびくともしない。

 干し草で編んだ細い身体のはずなのに――まるでどっしりと構える巨木を殴ったかのような感覚。


 「そんな……!」


 エンジェルの目が驚愕で見開かれる。


 「ワルイゾォォォ!!」


 お返しとばかりに、ワルイゾーの口から黒い穢れの息が至近距離で噴き出した。


 「きゃっ!!」


 エンジェルはとっさに腕を交差させ、身体を守る。

 しかし面で襲い掛かる息の前には防御姿勢も無力で、あえなく吹き飛ばされ石畳の上を転がった。


 「うぅっ……!」


 なんとか起き上がろうとするも、穢れ塗れの身体は力が抜けてしまい、立ち上がろうと力を入れた両足が小刻みに震えてしまう。


 上空から、男爵の笑い声が降ってきた。


 「ふははははッ!!」


 指揮棒を振り回しながら、男爵は愉快そうに叫ぶ。


 「どうじゃどうじゃッ! 穢れを祓う輪は、中々頑丈であろうッ!!」


 エンジェルは歯を食いしばる。


 「……まだ、終わってない!」


 しかしワルイゾーはすぐに追撃に移った。


 「ワルイゾォォ!!」


 ヒトガタが穢れの息と共に再び飛び出す。


 空を裂き弾丸のように飛び交うヒトガタ。


 エンジェルは重い体を無理やり動かし、横へ跳び、後ろへ跳び、必死に回避する。


 だが……数が多すぎた。


 「くっ……!」


 ヒトガタの一枚が肩をかすめた。


 バンッと小さな爆発が起き、エンジェルがよろめき、動きが鈍った所に連続してヒトガタが着弾していく。


 「うああああっ!!」

 

 連続した爆発と爆炎でエンジェルの身体が宙を舞い、力無く地面へと転がる。

 

 その姿を見て男爵は楽しそうに腕を広げ、煽る様に手を打った。


 「ほれほれッ! 踊れや踊れィ! ブレッシングノーツの娘ッ子よッ!!」


 エンジェルは膝をつきながら、震える両手で身体を支えながら必死に立ち上がろうとする。

 まだ彼女の闘志は折れていないのだ。


 「……まだ……! まだやれる……っ!」


 「ほう、じゃあ……お替りじゃッ!!」


 「ワァルイゾオオォォォォッ!!!」


 再び無数のヒトガタが宙を飛び交い、獲物を狙う鳶の如くエンジェルの頭上で旋回を続け――鋭い軌道で彼女へと襲い掛かった。


 「……ッ!!」


 エンジェルが覚悟を決めた――その時。境内の入り口から、ヒトガタとは違う何かが風を切り飛来してきた。


 それは次々とヒトガタを切り裂き、金と銀の尾を引きながらエンジェルを守るように彼女の周りを旋回する。


 そして――石段の方へと戻っていった。


 「「エンジェルっ!」」


 聞き慣れた声――今聞きたかった声達がエンジェルの耳を打った。


 「……! エストレア! ソラリス!!」


 光と希望の戦士達が、軽やかにエンジェルの隣へと着地する。


 「一人で無茶しすぎだよ、エンジェル!」


 「そうよ!……でも、一人でよく頑張ったわね!」


 エンジェルの表情がぱっと明るくなった。


 「みんな……!」


 エンジェルの隣に並び立つ二つの影。


 星の輝きを纏う戦士――メロリィ・エストレア。

 太陽の炎を纏う戦士――メロリィ・ソラリス。


 三人のメロリィが、境内の石畳の上で肩を並べた。



 「ふふんッ! 数が揃ったところで何が出来るッ!」


 上空から男爵が愉快そうに指揮棒を振り回しながら、にやりと口元を歪めた。


 「今回のワルイゾーは中々に強いぞォ? せいぜい足掻いてみせるがよいさッ!!」


 男爵の煽りに乗る事無く、エンジェルはエストレアとソラリスへ視線を向けた。


 「みんな、気を付けて! 結構攻撃が激しいよっ!」


 「みたいだね!」


 「分かったわ!」


 三人は同時に地面を蹴り、ワルイゾーへと向けて走り出していく。

 

 「ワルイゾォォ!!」


 再びワルイゾーからヒトガタが無数に吐き出された。

 弾丸のように、ミサイルのように飛び交う紙の人形が、メロリィ達へ向けて襲い掛かる。


 

 「わわっ! きたっ!!」


 「私に任せて!」


 ソラリスが走る速度を上げて先頭へ躍り出ると、魔力を籠めて掌を突き出した。

 燃え上がる炎の壁が三人を守るように現れ、次々にヒトガタが炎へと飛び込んでいく。


 穢れに塗れた紙の身体は一瞬で燃え尽き、灰となって崩れ落ち、一枚とて無事に通り抜ける事は叶わない。


 「ワルイゾッ!?」


 ワルイゾーがわずかに身じろぐ。


 その隙を、エストレアが見逃さない。


 「今!」


 彼女の両手から星の輝きを纏う円刃が放たれ、鋭い軌道で飛翔したチャクラムはワルイゾーの身体に火花を散らす。


 「ワルッ!?」


 攪乱され、身を削られた怪物がぐらりと身を揺らす。

 だが三人が近付くのを見ると、黒い穢れの息を煙幕を張るかのように吐き出した。


 穢れの息の霧が石畳を飲み込み、触れた地面が黒く濁っていく。

 たまらず三人はそれぞれ跳躍し、穢れの息から逃れる。


 「この息……厄介ね……!」


 ソラリスの呟きに、エストレアも冷や汗を一筋垂らす。


 「うん……! 食らったらヤバそう」


 「しかも凄く硬いよっ! このワルイゾー!」


 輪の怪物は穢れを吐き続け、その上空では男爵が楽しそうに拍手していた。


 「ふははははッ!! どうじゃどうじゃッ! 近付けぬであろうッ!!」


 三人は穢れの息を避けながら、どう攻めるか考え込んでいた。


 「このままじゃ攻撃が届かない……!」


 エンジェルは拳を握りながらワルイゾーを睨む。


 「……何か、何か方法があるはず……!」



 その時だった。


 穢れの息を避けながら後方へ着地したエンジェルの視界に、境内の端へ転がっていた白い紙がふと映り込んだ。


 それは、さっき茅の輪の近くに立てられていた作法書きの立て札だった。

 戦いの余波で倒れ、無残に泥に汚れながらも、そこに書かれた文字はまだ読める。


 ――左、右、左。 


 「……あ!」


 エンジェルの目がはっと見開かれた。


 「どうしたの、エンジェル!?」


 エストレアが叫ぶ。

 

 エンジェルはワルイゾーを再びじっと見つめた。

 巨大な輪の身体。そして中央にぽっかりと開いた……大きな穴。


 そこから吐き出される穢れの息。


 ——あれは……今は口だけど、本当はくぐる為の輪なんだから……!

 


 「ねぇ!ワルイゾーで茅の輪くぐりしてみない?」


 ソラリスが息を呑む。


 「ワルイゾーで!?」 

 

 「うんっ! お昼にソラリスが言ってた作法の……左、右、左で八の字にくぐるんだよ!」




 男爵が眉をひそめ、呆れたような表情を浮かべた。


 「あん? 何をごちゃごちゃと――」


 


 次の瞬間には、エンジェルは地面を蹴って飛び出していた。



 「まずは左っ!!」


 「ワルイゾォォ!!」 


 ワルイゾーが迎え撃つように黒い穢れの息を吐き出す。

 だがエンジェルは持ち前の猛スピードで大きく弧を描くように左側へ走り込み、息を回避しながらワルイゾーへと接近していく。


 「きゃっ……!」


 接近する分、どうしても避け切れなくなり僅かに穢れの息が身体を掠め、ズンと身体が重くなる。

 だが、そのままワルイゾーの口——茅の輪をくぐり抜けた。



 ――刹那、身体を覆っていた重さが嘘みたいにほどけていく。


 「……軽い!」


 エンジェルが振り返る。


 「やっぱり穢れが消えてるっ!!」


 「何じゃとォ!?」


 ソラリスが目を細める。


 「違う……それだけじゃないわ」


 続けて右、左と輪をくぐる度にエンジェルの身体が白く輝いていく。



 「いっくよぉぉーっ!!」


 勢いに乗ったまま、エンジェルが拳をワルイゾーへ叩き込む。



 「ワルイゾオオオッ!?」


 バチンッと乾いた音と共に、ワルイゾーの身体を覆っていた穢れの膜が割れ、頑強な巨体がぐらりとバランスを崩し、地響きを立てて地へと身を倒した。

 


 「くぐって清められないと――このワルイゾーにダメージが入らなかったんだ!」


 「ぐぬぬぬッ……!!!」


 

 男爵が悔し気な声を漏らし、指揮棒を勢いよく振り上げた。


 「だかしかしッ!! まだ負けたわけじゃあないぞッ!! 行けワルイゾーッ!!!」


 「ワ……ルイゾォォーッ!!」


 倒れていたワルイゾーは身体を起こしながら再びヒトガタを大量に生み出すも、すぐにソラリスの炎が唸り灰と還していく。

 続けて穢れの膜というバリアを失ったワルイゾーの身体に、エストレアのチャクラムが幾度となく襲い掛かり、反撃を許さない。



 そして――エンジェルが高く跳躍した。


「これで決めるよっ!! プリズム――シャイニングキック!!」


 振り上げた足を光輪が包み込み、プリズムのような七色に輝く閃光となってワルイゾーへと突き進んでいく。



 ドォンッ!!



 凄まじい衝撃と共に、ワルイゾーの輪の身体が『くの字』に歪む。

 そのまま巨体は弾き飛ばされ――賽銭箱などを巻き込みながら本殿へとめり込んだ。



 「ワルイ……ゾォォ……」


 「むおォォッ!? ワルイゾーがッ!!」


 「このまま、決めるよっ!!」


 エンジェルがパクトへと手を添え、パクトも彼女に応えてその姿を楽器へ変えた。


 「この想い、旋律にのせて――!」


 エンジェルの指がライアーの弦を弾き、音色と共に淡く光る五線譜が宙に浮かび上がる。



 彼女の背後に大きく広がった五線譜は、まるで空に描かれた虹のように輝き、音符がひとつ、またひとつ、弾けるように生まれ、そよ風のような優しい旋律がまるで春の陽だまりのように、やわらかな色で世界を包み込んでいく。




 「心のメロディ、響けっ!」


 次々に優しい音が空へと広がり、温かな光の波紋が地面を包むようにひろがっていく。

 空に舞い上がった光の音符たちは、まるで花びらのようにひとつひとつふわりふわりと落ちていき――まっすぐに、ワルイゾーを包みこむように降り注ぐ。



 「ハーモニック――フィナーレ!!」


 静かな祈りのように響いた最後の音。その一音で、音符たちは光となって降り注ぎ、ワルイゾーを包み込む。

 ――温かく輝く初夏の日差しのように。




 「愛の旋律、届けましたっ♪」



 穢れに身を落とした茅の輪のワルイゾーは、優しい音の波に身を沈められ、目の辺りからひとすじの涙のような光が漏れ落ち、空気中に溶けるように薄くなり消えていく。




 浄化された後には小さなハーモニック・ジュエルが静かに浮かんでいた。


 「やったソラ!! さすがエンジェルソラ~!!」


 ハーモニック・ジュエルを優しく受け止め、閉じ込められた感情を解放しながら、エンジェルは嬉しそうに空を飛びまわるソラシーへと笑みを見せた。


 「くぅぅぅッ!! 仕方あるまいッ!! また会おう娘っ子共!!」


 捨て台詞を吐いて男爵が転移ゲートに消え、周囲を覆っていた赤黒い霧もたちまち消え去っていく。

 それに合わせて破壊された屋台も、穢され倒れた木々も、荒れ果てた参道も光に包まれて元通りの姿を取り戻していた。


 「ナイスだったよ、エンジェル!」


 「お疲れ様、さすがね」


 エンジェルへ労いの言葉をかけ、ハイタッチを交わし合うブレッシングノーツの少女達。

 へにゃりと安心したように笑みを浮かべたエンジェルは、キラリと輝くライアーを今一度しっかりと握り直した。


 「えっへへ~! ありがとう~! ……でもまだ、最後の仕上げをしなきゃね!」


 スッと楽器を構え直し、目を閉じて優しい旋律を奏で始める。


 「――エンジェリック・リストレーション!」


 ぽろんと音が弾かれると、虹色の音符が空中へと広がり、町中に優しいメロディが響き渡っていく。

 男爵とワルイゾーによって植え付けられた恐怖も、刻まれてしまった悪い思い出も、全てをエンジェルの奏でるメロディーが包み込み洗い流すように消し去っていく。


 

 エンジェルの演奏を、エストレアもソラリスも、ソラシーも静かに目を閉じて楽しみ、最後の一音が奏でられ、余韻が空へ消え去っていくと、自然と拍手が溢れ出した。


 「ピピィ! 素敵ソラ! エンジェル最高ソラぁ~!」


 「ええ、本当に今日も素敵な演奏だったわ、エンジェル!」


 「うんうん、テスト勉強する時にずっと聞いていたいくらいだよ」



 ——エストレアの言葉に、沈黙が流れる。


 「テス……ト……?」


 ギギギと油の切れた機械のようにぎごちなくエストレアへ視線を向けたエンジェルは、ぺたんとその場に座り込み、頭を抱えた。


 「うわああぁぁっ!! そうだっ! 早く帰ってやらなきゃあぁぁぁ……」



 すっかり薄暗くなった境内に、エンジェルの苦悶の叫びが木霊していた。





 

その後、あかりは全力ダッシュでコンビニに駆け込み、適当なジュースを買おうとするも……財布が無い事に気付き、手ぶらで家に帰る事になりました。


帰宅後菜月に問われると、「その場で飲んできちゃった」と冷や汗の滝を流しながら答えたあかりの姿があったそうな……。


~~次回予告~~


 ディスコードとの戦いから一夜明け、ついにやってきた7月!


 でも私の目の前に立ちはだかるのは――期末試験!


 うぅ~……ちゃんと解けるかなぁ……。


 あおいちゃん達との勉強会も、毎日の勉強も。

 積み重ねた努力は、ちゃんと力になってるはず!



 戦うのはワルイゾーじゃない。

 けど――これは、もう一つの戦いなんだっ!


 次回!

『がんばれあかり!ドキドキの期末テスト!』


新しいハーモニー、始まるよっ♪

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