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82 両親への挨拶?!

このシーン何回書き直したのかはもう数えていない(汗)

リアルの金曜日、夜の8時。



今のセリーナたちはもう久しぶりにカフェに戻った頃だろう。


妖精の女王様の前にクラリス夫人は大丈夫なのかなあと思って、俺とタピオカくんは今日も早めにログインした。


もし女王様がセリーナや聖女以外の人間とお会いしたくなければ、夫人を大聖堂に連れ戻し、マティルダ様に預けた方がいいかもしれない。


……なんて思いながらログインした直後、俺たちが見たのはセリーナの小屋のリビング、隣には昨日のパーティーの正装姿で苦笑いをしているレオン、そしてすごく真面目な顔をしたクラリス夫人だった。


何かあったのかを聞く前に、セリーナたちはすぐにチャット欄で救難信号を出してきた!


セリーナ:精霊さん!!ちょうど良かった!レオンさんを助けて!!

サクラリア:おばあちゃんはレオンさんのことを人間の貴族と思って、

サクラリア:二人に付き合いを認めないのです!

セリーナ:彼は普通な冒険者と言ったのに……。


続けて、夫人の厳しい声が耳に入ってきた。


「レオン様! 申し訳ございませんが、セリーナは家の事情で貴族とはお付き合いできません! お帰りいただきたいのです」

「いや、違う。俺はただの冒険者で……」

「隠しても無駄です、もううちのセリーナに会わないでいただきたいのです」


セリーナとサクラリアの話を聞くに、レオンがいつもの夕飯の時間にやってきて、セリーナが彼を小屋に招きったところ、この状況になって、俺たちがログインしてきた……ということらしい。


夫人の反応はおそらく、自分の娘同然だったエメラルダさんが、貴族のエドガーに裏切られたトラウマがあるからだろう。だからこそ、隣にいるレオンの正装姿と、その整った顔立ちだけを見て、「まさかあのレオンは貴族で、セリーナを騙したのでは」と警戒しているのだ。


あ〜、なんとなく現状を理解した。まあ、レオンは一応ゲームキャラなだけあって、その容姿は他のモブNPCとは比べ物にならないほど整っている。彼のことを貴族のお坊ちゃまと言っても誰もが信じるだろう。しかも、なぜか彼は昨夜のパーティーで着ていた貴族っぽい正装姿で来ているのだから。


けれど俺たちは、レオンが正真正銘ただの冒険者であることを知っている。彼は主人公ダリオンをレベル30まで手厚くサポートしてくれる『お助けキャラ』だ。性格は爽やかで、誰とでも仲良くなれるみんなのお兄さんポジション。


……とはいえ、セリーナの父親であるエドガーのように、この世界ではゲームと違って『性格が歪んでしまっている可能性』だってゼロじゃない。


それでも、俺がレオンという男を信じようと思えるのには理由がある。


俺たちはこれまで何度もレオンと話し、命を懸けて一緒に戦ってきた。それに何より、昨晩の王宮のパーティーでの出来事だ。ダリオンの失言のせいで、セリーナへの好意がうっかり本人の前にバレてしまった時の、あのレオンの慌てぶり。


同じ男だからこそ断言できる。あんな初心で必死な反応、演技でできるはずがない。彼はガチでセリーナに惚れている。


だからこそ、俺はレオンという男を信じるんだ。


この二人の恋を自然に発展させたいが、流石にこのままレオンを帰らせるのは悪い方向に向かってしまう。俺は女王様の隣にいるタピオカくに目を向けた。……レオン推しの彼女は当然、レオンをかばうことに大賛成の様子だ。


身長差があるので、俺はレオンの二の腕を小さくポンポンと叩く。


レオンはすぐに反応し、こっちに苦笑いして「困ったな」という顔で俺を見つめてきたが、当然夫人はすぐに反応した。


「セリーナ! こっちに来なさい!!」


俺は一応アリスのキャラをキープしたまま、いつも通り冷静に夫人に答える。


「クラリス夫人、何かあったかは大体わかりました」


夫人のことを「おばあちゃん」ではなく「クラリス夫人」と呼ぶと、彼女はすぐに察してくれた。今セリーナの中にいるのはセリーナ自身ではなく、一応精霊扱いである俺だということに。


「あ、申し訳ございません、精霊様」


頭を下げている夫人を制し、俺は来たばかりのレオンをテーブルに座るよう促した。


テーブルにはまだ食べかけの高級定食が置かれていた。どうやらセリーナは夫人がここに住むことを祝って、冷蔵庫から不死鳥周回用のバフ用定食を出してあげたらしい。この定食はメニュー画像通り品数が多く、ちょうどレオンが来たからセリーナは彼を招き入れてご馳走するつもりだったのだろう。


そのまま食べかけのものを客人のレオンに食べさせるのも悪いので、俺はそれを回収し、その<不完全な珍味豊かな高級定食>をメニュー操作で廃棄する。


その流れで、熱々の<カツカレーライス>を取り出し、彼の前に置いた。それを見た瞬間、当然のようにレオンのお腹から盛大な鳴り響きが聞こえた。……やっぱり、彼はまだ何も食べていなかったんだな。


「申し訳ございません、レオンさん。あとはワタシたちに任せて、どうぞ召し上がってください」


そんなレオンは混乱したような表情で俺を見ていた。


「え? え? この料理……どこから出てきた?! せ、セリーナ? 違うような……」

「ワタシはアリスです」

「うん? え? アリスはセリーナよね、でも違う人になったような……気のせいか?」


チャット欄にすぐメッセージが飛んできた。


セリーナ:あ、ごめんなさい。昨晩、精霊さんたちのことはレオンさんに話していないのです。


あ〜、そういうことか。アリスがセリーナであることは昨晩のパーティーでレオンに知られたが、俺とタピオカくんの存在までセリーナは彼に話していなかったのだ。だからこんな反応をしたのか、納得。


「なるほどですね。ではセリーナ、レオンさんへの説明はあとでお任せします。……レオンさん、ワタシたちにはお構いなく、どうぞ召し上がってください」

「あ、ああ……ありがとう……ございます。アリスさん?」


俺たち”精霊”の説明はあとでセリーナに任せて、先に夫人を説得しよう。


外野でお気に入りのクッションに座り、いつもと違うドレスを着て若々しく見える妖精の女王様は、空気が読めない様子で俺に話しかけてきた。


『精霊殿、もしかしてこれはタピオカ殿が話していた修羅場かい?』


一応、この場で最も立場が高いのは女王様なので、俺は先に彼女に答える。


「はい、そうですね。恐らく今の状態は、おばさまが孫の彼氏を認めていないのだと思います」

『ほう、なるほど。これはタピオカ殿が言っていた”ひるどら”で出た場面だな、面白そうだわ』


女王様の隣にいるタピオカくんを見ると、彼女は手を組んで「うんうん」と納得していた。……おい、女王様にそんなことまで教えたのか?! ていうか教えていいのかそれ?!


女王様は妖精メイドの手からお茶を受け取り、まるで観客のように今の状況の展開を高みの見物と決め込んでいる。……放っておこう。


一応、夫人は俺たちのことを上位の精霊であり神の使者のような存在と認識しているため、彼女の心の中では俺たちの立場が上だと思っている。だから俺たちが来てからはずっと黙り込んでいたのだ。


では、夫人と話すとしよう。


「クラリス夫人、レオンさんは貴族ではなく、本当にただの冒険者なのですよ」


そんな夫人は、正直に俺へ思いを明かしてくれた。


「精霊様。わたくしの目は騙せません。一目見ればわかるくらい、貴族の御子息のお顔、身につけた服の仕立てや裁縫の技術は貴族仕様です。たとえ彼が本当にセリーナを愛しているとしても、貴方様ならお分かりでしょう。平民が貴族のもとに嫁ぐのは不幸にしかならないことを……」


無理もない、夫人もただ孫の将来を心配しているだけなのだ。それにエメラルダさんのこともあって、セリーナの相手を貴族にはしたくないのだろう。


それを聞き、俺はすごく冷静に夫人と話し合った。


「クラリス夫人、大丈夫です。レオンさんは本当に普通の冒険者で、貴族の御子息でも隠し子でもありません。ワタシの言葉でも信じられませんか?」

「……」

「もしレオンさんが本当にセリーナを騙すような男なら、サクラリアが彼と仲良くすることなどできないのですから」

「……そう……ですわね。精霊様のお言葉は信じております」


夫人は申し訳なさそうな顔で、レオンに再び確認をした。


「レオン様……あなたは本当に……貴族ではない……のですね?」


テーブルに座っていたレオンはすぐに立ち上がり、改めて自己紹介をした。


「は、はい! 俺はただの冒険者で、この服も昨日表彰された時に貰っただけです! 俺自身はオーヴィレール村出身の平民です!」

「オーヴィレール村の……」


夫人はそれを聞いて、驚いた顔でレオンの方を見た。そこにはすごく緊張した面持ちのレオンがいる。


タピオカくんはそんなレオンの側に飛び、彼に話しかけた。


『レオン様、セリーナのおばさまもただセリーナのことが心配で、こういう行動を取っただけなのです。どうか彼女のことを、お許しくださいね』

「え? いいえ、俺は……別に……」


プライドの高そうな夫人はすぐに頭を下げ、レオンに謝罪した。


「本当に申し訳ございませんでした、レオンさん」

「あ、頭を上げてください、セリーナのおばあさん! 俺は平気です! ……俺、両親がいないから、おばあさんに説教されたのは初めてで……いや〜、すごく新鮮だなぁ、は、ははっ!」


どうやらレオンもレオンなりに、この件を無かったことにするつもりらしい。どうやら無事に和解できたようだ。俺は一応、レオンの気持ちを確認しておいた。


「レオンさん、申し訳ございませんが、セリーナから彼女の昔の話はお聞きになりましたか?」


未だに俺がセリーナなのかアリスなのか分かっていない様子の彼は、一応俺に返事をしてくれた。


「え? あ、ええ、はい! 一応……昨晩彼女から聞きました。だからセリーナのおばあさんが心配するのも無理はないです。まあ〜今回は俺が悪かった! 昨日パーティーで貰ったこのカッコいい服を着て、花を持って扉の前で告白なんて……するべきでは……なかった……」


セリーナ:あう………。

サクラリア:そうだわ! あの綺麗なお花はそこに置いてありますわよ、精霊様たち。


本棚の横にある棚の上に、綺麗な花束が花瓶にいけてあった。レオンは顔を赤くしたまま視線を外した。まあ、今の俺はセリーナの体に入っているから、彼にとっては本人の目の前でもう一度告白したようなものだろう。


「そうですか、お互いに和解できたのですから、めでたしめでたしですね。では親御さんへのご挨拶を続けてください。ワタシもあなたにお礼を言いましたら、この体をセリーナにお返しします」

「え? お……お礼? 俺に?」

「レオンさん、先ほど心の中にいるセリーナから話を聞きました。セリーナのために、裏でたくさん助けてくださっていたのですね。本当にありがとうございます」


俺とタピオカくんも一緒にレオンに頭を下げ、お礼を言った。先ほどセリーナがチャット欄で、カフェの常連さんから「レオンが裏でかなり助けてくれていた」と聞いたことを教えてくれたからだ。


「え? いや〜〜何のこと……かな、は、ははっ! 俺はすごく腹が減ったので、このすげぇ美味そうなご飯を食べていいのか?」

「もちろんでございます」


顔を真っ赤にしたレオンはすぐに手を動かし、カツカレーを食べ始めた。「うめぇ! うめぇ!」と勢いよく頬張りながら話題を逸らしている。


ログアウトする前に、俺は女王様に明日の予定を予約しておいた。


「女王様、明日の朝、お時間をいただいてもよろしいでしょうか? 少し口の悪い水晶玉について、あなた様にご相談したいのです」


女王様は飲んでいたお茶をテーブルに置き、面白そうな表情で俺に答えてくれた。


『口の悪い水晶玉? 面白そうね、良いでしょう。明日ここで待っているわ』

「ありがとうございます。ではセリーナ、サクラリア、あとはお任せしますので、体を返しますね」


セリーナとレオンの邪魔にならないよう、俺はログアウトした。



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リアルに戻り、俺はベッドから体を起こした。


「ふう〜、まさかログインしたあと、あんな修羅場を見ることになるとは思わなかったぜ」


すぐにタピオカくに連絡を入れた。しかし、返事はなかった。


「はぁ〜〜〜〜あいつ、明らかに推しのレオン様とセリーナのその後が面白そうだから、そのままあの世界に残ってるな。……まあいっか」


ネットで『セレアグ』のストーリー解説動画を探し、少しでもいいからあの生意気な水晶玉の情報を探しながら、彼女からの連絡を待つことにした。


それから約1時間後。普段のセリーナたちが寝るくらいの時間だ。タピオカくんもそろそろ戻る頃では?


そう思ったタイミングで、タピオカくんからのビデオ通話が入った。


『やばい……甘すぎるよ、豆腐くん!』

「おかえり」

『ただいま』

「そのあと、どうだった?」

『聞いてよ!! あなたがログアウトしたあと、生レオン様がみんなの前でセリーナに正式に告白して、セリーナもそれに応じたの! もう完全に乙女ゲーのワンシーンになってる!! 甘すぎ〜!」

「良かったね。夫人は大丈夫そうだった?」

『ええ、二人とも何もなかったみたいに結構話していたわよ。夫人も彼らの交際をちゃんと認めたわ』

「それだけ?! 夫人はレオンに年齢とか出身地とか、元カノとどうして別れたかとか、経済面とか……いろいろ聞きそうだと思ったけど……」

『なにそれ、両親への挨拶っていうより面接のイメージしかないんだけど』

「男だと、両親への挨拶は面接より大変なんだぞ! 俺は経験したことないけど……」


タピオカくんは呆れそうな顔でこう言った。


『あ〜、うちのお父さんなら絶対「娘は渡さん!!」ってテンプレをいいそう……』

「え? マジで?」

『ええ、そのあと、きっとスマ◯ブラで決闘を申し込むと思う』

「面白いお父さんだな」

『あ! いえ、こんな話をしちゃってごめんなさい』

「いや、俺もそんな一緒にスマ◯ブラをやってくれるお父さんが欲しかったな。羨ましいよ」


タピオカくんは少し沈黙したあと、コホンと咳払いをして話題を再びセリーナとレオンに戻した。


『コホン……うちのお父さんはいいとして、話を戻すね。セリーナとレオン様が正式に付き合い始めたから、セリーナは一応私たちと女王様のことをレオン様に説明したわ』

「まあ、きっと驚いているだろうね。そこにいる妖精が実は女王様なんだから」

『そうですね、彼なら秘密は守ってくれるでしょう。でもそんなことより、まさかレオン様がわざわざ商業ギルドで自分はセリーナのカフェの出資者だと語っていたことの方が驚きよ! だからセリーナに迷惑をかけていた商会たちは手を引いたのね』

「まあ、今のレオンは迷宮都市じゃかなり有名だし、冒険者ランクも最高の5に上がったからな」


俺には分かっている。レオンのその行動は、たぶんセリーナのカフェを守るためというより、セリーナを口説こうとする奴らへの牽制だ。間接的にカフェが守られただけに過ぎない。当然だ、自分の好きな人に店目当てのチャラい男たちが毎日寄りついていたんだから。


「それで、そのあとはどうなった? レオンも小屋に住むことになるのか?」

『いいえ、話を聞くと、騎士団長のアルベルト様が彼を第一騎士団に勧誘したらしいの。ちょっと騎士団に見学に行ってから考えるみたい。でも立場上断りにくいから、彼も結構悩んでいるみたいね。同棲はそれを決めてからにするつもりみたいよ』

「第一騎士団か……すごいな。セリーナを彼に任せるのも安心だね」

『そうですね。レオン様が本当に平民だと知ったあと、夫人の態度は360度ガラリと変わって、「セリーナのことをよろしくお願いします」と言っていたわ』

「両親への挨拶はこれで終わりか……。360度変わるねぇ、現実的だな」

『あの世界だと、両親への挨拶はたぶんこれが普通なんだと思う』

「まあ、間違いないな」


レオンの未来に関しては、セリーナを泣かせない限り干渉するつもりはない。この件はこれで解決だ。俺はあの生意気な水晶玉に話題を変えた。


「そうだな。俺はさっきずっとセレアグのストーリー解説動画を探していたんだけど、あの水晶玉のことは全く出てこなかったんだよね」

『そうですか……でも昨晩それをストレージから出した時、あの生意気な水晶玉はただ説明欄で私達と会話するだけで、何もできなかった……大丈夫でしょうか』

「何かあったら、すぐにストレージに入れればいいしな。それに明日、女王様もいるから、邪竜の魂の欠片が暴れてもなんとかなりそうだ」

『そうだね。ねえ、豆腐くん、今からあっちにログインするとセリーナたちを邪魔しちゃうかもしれないし……一狩り行く?」

「いいぜ」


セリーナたちのことは気になるが、もし彼女がレオンとイチャイチャしている最中に俺に代わってしまったら……うん、考えるのはやめておこう。


その夜、レオンはセリーナの家に泊まるらしい。夫人もいるし、たぶん何も起きないだろうけれど。空気が読める俺たちは、その夜は再びログインすることはしなかった。一狩り行ったあと、俺はそのまま眠りについた。

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