77 パーティーの終わり
セリーナたちはレオンと共に噴水の縁で話し合い、レオンはセリーナの父親がカースティア伯爵のご子息、エドガーであることを初めて知った。
しかしレオンは、この一ヶ月の間にダリオンと共に騎士団から与えられた依頼をこなす中で、カースティア伯爵に纏わる黒い噂を耳にしていた。セリーナはもうエドガーのことを父親だと思っていない。けれど、もしもの時のため、レオンはその噂をセリーナに話すことにしたのだ。
「君がどうして『アリス』になったのかは分からないが……『奈落の七印』と戦ったあなたには、知っておくべきだ」
「はい」
「カースティア伯爵とその御子息を含めて、あの伯爵領では慈善事業として孤児院が多く建てられ、孤児の育成にかなり力を入れているんだ」
「それは……良いことなのでは……?」
「表向きはな。噂では……『奈落の七印』の戦闘員の多くが、あの伯爵領から出ているらしいんだ。……あくまで噂だがね」
「嘘……。伯爵領の孤児院が、奈落の七印の戦闘員を育成する場所だと言うのですか?」
「確証はない。見た目上は、捨てられた子供を優秀な人材に育て上げ、人材を求めている場所へ送り出したり、養子に出したりしているだけだ。……だが、これは騎士団長のアルベルト様が裏で俺たちに釘を刺したんだ。『あの伯爵には近付くな』とな」
それを聞き、セリーナはすぐに小さな声でサクラリアへ囁いた。
「(これは……精霊さんに話さないとダメみたいです)」
『(お父……エドガーのことはもう気にしないのでしょう? もうわたくしたちに関係のないことではありませんの?)』
「(そ、それもそうですけど……一応、精霊さんとシルヴィアさんに話しましょう。あの黒い魔力も気になりますし)」
『(セリーナが話したいならわたくしは構いませんけれど……本当にいいの?)』
「(もう大丈夫です。なぜかレオンさんと話した後、なんだかどうでもよくなってしまったのです)」
『(分かりましたわ。シルヴィアさんも心配ですし、会場に戻って“あの人”を続けて監視しましょう)』
「(はい)」
セリーナは再びレオンの方を向き、言葉を紡ぐ。
「レオンさん、貴重な情報をありがとうございます。一応、シルヴィアさんにもお話ししておきますので、私は会場に戻りますね」
「あ、ああ……」
セリーナが繋いでいた手を離し、会場へ戻ろうとしたその時――レオンは思わず、去りかけるその手を再び強く掴み返してしまった。
「え……?」
「せ……アリス。君とサクラリアが強いことは知っている。だが……無茶はしないでくれ。……えっと、俺が……心配だから」
「え、あ、はい……。私はただ、シルヴィアさんに伝えるだけですので。あの人のひと目を見る目的は果たしましたから、もう私には関係のないことです」
「そうか……。わかった。で、では……またカフェで」
「……うん。また」
レオンはゆっくりと手を離した。セリーナは再び「アリス」として演じ直し、静かに会場へと足を進める。隣にいたはずのサクラリアも、いつの間の間にか姿を消していた。
ダンスの時間も終わり、レオン自身もそろそろ会場に戻らないとマズい時間だった。レオンはお皿を抱え、アリスとは時間差を置いて別々に会場へと戻った。
その途中、正装姿のダリオンと鉢合わせる。
「レオン! ここにいたのか! 探したぞ」
「どうした、モテ男。何人の令嬢と踊ってきたんだ?」
「踊ってない! そもそも俺は踊れないだろ。そうじゃなくてさ、王子様からの急な依頼があって、お前を探していたんだよ。お前、ダンスの時間に一体どこへ行ってたんだ?」
「なぁに、美しいご令嬢たちに囲まれたダリオン様を見て、邪魔をしちゃ悪いと思ったのさ。俺はその辺で一人、優雅に食事を楽しんでいたんだよ」
「はあ!? 俺も呼べよ! こっちは令嬢たちの話し相手をするのに必死で、まだ何も食べてないんだぞ!?」
「はいはい、モテる男は辛いねぇ」
「ははっ、安心しろ! お前を探しているご令嬢が、そこの角で待ってるぞ」
「げっ……。先に宿屋へ帰ってもいいか……?」
「不敬罪だぞ! いや、王子様を待たせるのはマズいから、早く戻ろうぜ」
「トホホ……」
こうしてレオンはダリオンと合流し、王子の元へと戻ってプライベートな依頼を受けることとなった。
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一方、ダンス初心者である聖女シルヴィアは、王子たちからの怒涛の猛攻をやっとの思いで凌ぎ切り、精神的に限界を迎えていた。今は聖騎士たちに護衛されながら、大司教と共に会場の端で休息を取っている。
「お疲れ様、シルヴィア」
「本当に疲れました……。ヒールも未だに慣れませんし、王子たちのダンスに付いていくだけで精一杯なのです」
「大丈夫、今回だけですよ。今回は間に合いませんでしたが、今後のために『聖女様がパーティーに参加する際は、すべての贈り物とダンスの誘いを禁止する』という案を、聖王国側がすでに草案として出していますから」
「はぁ……それは助かります……」
その時、頭上からサクラリアがすっと舞い降りてきた。
彼女の姿を視認したシルヴィアは、マティルダを伴い、聖騎士たちから少し離れた窓際のスペースへと移動して話を聞く。
『シルヴィアさん、レオンさんから先ほど“カースティア伯爵の噂”を聞きましたわ』
「サクラリアちゃん、お疲れ様です。その噂って……もしかして孤児院のお話?」
『もう知っていらっしゃいましたの?』
「はい、この国の宰相閣下から裏で伺いました。このパーティーも、彼が私に近づかないよう裏で手配されたそうなのです。ですが……あの子のお父様のことですので、どうやってお伝えすべきか迷っておりました」
『そうですのね。でもセリーナはもう大丈夫なのですよ。エドガーが生きていることの確認はできたので、もう再会する気はないそうですわ』
「そう……ですか。では、アリスをここに連れてきていただけますか?」
『構いませんけれど、エドガーの見張りをしなくてよろしいのですか?』
「私の側にいてもらった方が、いざという時に私の名を使って動きやすくなります。彼女ひとりでは立ち回りにくいでしょうから」
『あ〜……人間の貴族社会の面倒なやつですね。分かりましたわ、アリスを連れてきますね』
「お願いします」
サクラリアは伯爵を監視しているアリスの元へと引き返していった。妖精の姿が見えないマティルダは、何が話されていたのかをシルヴィアに尋ねる。
「サクラリアが来たのね?」
「ええ。アリスはエドガーに会えたようです。それと、彼の噂についても……」
「そうですか……」
「話を聞く限り、アリスは伯爵側に入るつもりはないようです。ひと目見て生きていると確認できれば満足で、やり直す気はないと」
「最悪の場面にならなかったのは本当に良かったわね。……しかし、彼女たちが話していたあの『黒い魔力』も気になるわね」
「そう……ですね。私にもあの黒い魔力は見えませんが、遠くからエドガー様を見た時、なんとなく嫌な気配を感じました。ですから先ほど、サクラリアちゃんにアリスをここに連れてくるよう頼んだのです」
「わかったわ。……精霊様もいらっしゃるから大丈夫だとは思うけれど、もしアリスが敵側に回ったら、誰にも彼女を止められないでしょうからね」
「私たちは仲が良いですし、マティルダ様もご存知の通り、エドガー様はアリス親子に酷いことをしました。今さら父親面をされたところで、アリスが応じるとは思えませんわ」
「そう……ね」
二人は再び自席に戻り、アリスの到着を待つことにした。
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サクラリアがシルヴィアの元へ向かっていた頃、冷静さを取り戻したセリーナは再び「アリス」を演じ、エドガーを監視するために彼を探していた。黒い魔力を纏ったエドガーはすぐに見つかり、距離を保ちながら怪しい動きがないかを監視していた……のだが。
「おや? アリス嬢ではないですか。先ほどは何か私が失礼をいたしましたか?」
あろうことか、エドガー自らがアリスの元へと歩み寄ってきたのだ。そして手を差し出し、再び握手を求めようとしてくる。
(どうしよう……握手していいのかな。嫌な予感がするけれど、貴族からの握手を突っぱねるわけにはいかないし……!)
アリスは意を決して手を差し出し、エドガーと握手を交わした。
「いいえ、エドガー様には何の非もございません。逆に、慣れない場ゆえ大変失礼いたしました」
(変だな……。先ほどと違って、今お父さんと握手しているのに『他人感』が消えない。さっきの悲しい気持ちが嘘みたいに消えて、代わりに『どうして私はこんな人に会うためにここに来たんだろう』という冷めた疑問が湧いてくる……)
握手が終わると、エドガーはすぐに本題へと入った。
「そういえば、アリス嬢は先日、武闘祭で魔剣使いを退けたそうですね」
「いえいえ、とんでもございません。すべて騎士団長のアルベルト様のおかげです。……私は最後の一撃を刺したに過ぎませんから」
「ははっ、ご謙遜を。実は我が領地に強いモンスターが現れましてね。ぜひアリス嬢に依頼したいのだが、引き受けてはもらえないだろうか?」
(しまった……! 貴族からの直接依頼なんて、どう断ればいいの!? こんな場面、私まったく経験がないのに……!)
その時、サクラリアが戻ってきた。アリスが危険人物であるエドガーと対峙しているのを見るやいなや、背後へ飛んで行き、小さな声で耳打ちする。
『セリーナ! シルヴィアさんが呼んでいますわ! 早くこの人から離れて……向けられている悪意が重すぎます!』
それを聞いたアリスは、すぐさまシルヴィアの名を利用してエドガーの依頼を断った。
「申し訳ございません、エドガー様。すでに私は聖女様よりご依頼を承っております故、他の方のご依頼をお受けすることはできません。聖女様にお呼び立ていただきましたので、これで失礼いたします」
エドガーへ深々と頭を下げ、アリスはさっとその場を離れ、早足でシルヴィアの元へと向かった。
取り残されたエドガーの笑みが、不気味に消え去る。彼はその場に佇んだまま、首だけを動かしてアリスがシルヴィアと合流する光景を凝視していた。不気味な無表情のまま、先ほどアリスと握手した自分の手を見つめる。……やがて、貼り付けたような微笑みを浮かべ直し、その場を去っていった。
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パーティー開始から二時間が経過した、午後八時。
終宴まで、あと一時間。
アリスはようやく最初の目的地であるシルヴィアたちとの合流を果たした。二人は人の少ない窓際へ移動する。アリスは先ほどエドガーから直接依頼を受けたことを、小声で報告した。
「そうですか……エドガー様が急にあなたへ依頼を……」
「はい。体に纏った黒い魔力も含めて、すごく嫌な感じがしまして……ごめんなさい、お名前勝手にお借りしました」
「いいのよ、それくらい。ですがお断りして正解だったかもしれません。受けてしまったら『アリスは自分の派閥に入った』と勝手に触れ回られかねませんから」
「それは嫌すぎます……」
「一応聞くけれど……エドガー様は、あなたのお父様……ですよね? あそこまで敵視してしまって大丈夫なの?」
「はい、大丈夫です。自分でもおかしいくらい……レオンさんと話した後、『あの人』のことは本当に関係ないんだって思えるようになりました」
「ほう……『レオンさん』と、ねぇ……?」
「あ……」
「逃げても無駄ですよ? あとで詳しく聞かせてくださいね」
シルヴィアの企みを含んだ美しい笑みを前に、セリーナは思わず冷や汗を流した。
「あ、えっと……はい……」
『セリーナの顔がまた真っ赤になりましたわね。仕方ありませんわ、わたくしが話してさしあげますわ!』
「いい! いいから! 自分で話すからっ!」
その時、サクラリアの雰囲気が一変した。彼女は周りの様子を油断なく確認すると、シルヴィアへ挨拶を交わす。
『あ、シルヴィアさん久しぶり〜。セリーナたちもこんばんは』
シルヴィアは即座に察した。タピオカがサクラリアへ憑依したのだ。
「タピオカ様、こんばんは」
「タピオカさん、こんばんはです」
『今、精霊くんが入ってきても大丈夫そう?』
「はい、大丈夫です」
『おっけー、じゃあ精霊くん呼ぶね』
サクラリアは、いつもの天然っぽい妖精姫のトーンへと戻った。
『やっと精霊様たちが来られましたわ! 人間のパーティーって本当に退屈ですもの。この時間、タピオカ様から精霊界のお話を聞いていた方がずっと楽しかったですわ』
「そうですね……まさか貴族様のパーティーがこんなにつまらないとは思いませんでした。この時間、精霊界のケーキの研究をしていた方がよっぽど有意義です」
それを聞き、シルヴィアは目が笑っていない絶品の笑みを浮かべて二人へ告げた。
「お二人とも……パーティーを楽しんでいただけて何よりですわ。私はこの一ヶ月間、上流社会のマナーもダンスもゼロから叩き込まれ、ずっと笑顔で国の偉い人たちと社交をこなさなければならなかったのですけれどね。……そうですわねぇ、ある王子はずっと私の手を握りしめて離さず、けれど振り払うこともできず。別の王子は私の胸元をずっと注視していて不快極まりなく、次の王子は――」
「『(マ、マズい……!)』」
セリーナたちはシルヴィアの危険なスイッチを押してしまったことを悟り、おとなしく彼女の毒吐きを聞き続けるしかなかった。
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現実世界の夜。今日はクリスマスだ。
俺はリアルバーストモードで残業を回避すべく爆速で仕事を片付けた。幸い上司も鬼悪魔ではない。無事に定時退勤を決めることができた。
帰り際に夕飯用のチキンを買い込み、タピオカくんとビデオ通話を繋いで一緒に食したあと、念のためタピオカくんを先にゲームへログインさせた。
もしセリーナが偉い貴族と話していたり、レオンとダンスを踊っている最中に俺が急に憑依したら、目も当てられない大惨事になるからな。
正直、セリーナたちのことが心配でたまらない。エドガーと会って何事もなければいいが……もしセリーナが耐え切れず、あの場で「自分が娘だ」と言い出してしまったら大惨事だ。
だが昨日、セリーナ自身も心の準備はできていると言っていた。「大丈夫」と何度も口にしていたし、サクラリアも側にいる。俺たちは彼女を信じるしかない。
本当にヤバくなったら、シルヴィアが聖女の権力でなんとかしてくれるはずだ。頼むから無事であってくれ……!
……おっと、タピオカくんからメッセージが届いた。
―豆腐くん、ログインして大丈夫ですよ! みなさん休憩中です。会場がヤバいですよ、あなたも絶対に驚きます!
―そんなに?
―ええ、金持ちのレベルを遥かに超えて豪華。本当に凄いとしか言えないわ。シルヴィアなんてガチで綺麗で、思わず抱きしめたくなっちゃうレベル!
―それは楽しみだな`
スマホを机に置き、俺はセレアグの世界へとログインした。
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ログイン後、俺の視界に飛び込んできた王宮パーティー会場の豪華絢爛さは、俺たち平民には一生無縁な別世界だった。正直、テレビの特番でもここまでの豪華さは滅多にお目にかかれない。どんな最新ゲームでも表現し切れない、現場に立って初めて体感できる圧倒的な空気感だ。
セリーナはシルヴィア、そしてマティルダ様と一緒に専用の貴賓席で休息を取っているようだった。俺は冷静さを取り戻し、すぐさま小声でセリーナたちへ挨拶を送る。
「(セリーナ、サクラリア、こんばんは)」
セリーナ:精霊さん、こんばんは。タピオカさんも、お帰りなさいませ。
サクラリア:こんばんはです! 精霊様、やっと来られましたね。
サクラリア:これで自由にセリーナとお話しできますわ!
サクラリアに憑依したタピオカくんは、星月ドレスの胸元に身を隠しながら囁いてきた。
『ただいま。二人とも、パーティーは大丈夫だった?』
セリーナ:はい、大丈夫です。エドガーにも会えましたので、もう十分です。
セリーナは“お父さん”のことを“エドガー”と呼んだ。遠目から無事な姿を確認できたことで気持ちに区切りがついたのか、それとも俺がログインするまでの間に何か心境の変化があったのだろうか。
サクラリア:そうです! 精霊さん! エドガーを見ていただけませんか!?
サクラリア:なぜか彼、真っ黒な魔力を全身に纏っているのです!
セリーナ:もしかして、シルヴィアさんの時のように、何か特殊な異常状態に陥っているのかもしれません……。
「(わかりました)」
俺は立ち上がり、会場全体をぐるりと見渡した。人混みの中に、不気味な黒いモヤモヤを纏った人物を即座に捕捉する。……だが、距離がある上に人が多すぎる。全員の頭上に「名前」と「HPバー」が表示されているため、ごった返す人群の中から特定のネームタグを判別するのは困難だった。エドガーに一定距離に近づくしかなさそうだ。
そこでタピオカくんが買って出た。
『精霊くんは目立つから安易に動けないでしょ。私が偵察に行ってくるね』
「(あ、はい。頼みます。気をつけてくださいね)」
タピオカくんはそのままサクラリアの体で、会場中央に吊り下げられた巨大なシャンデリアの陰へと飛び立っていった。
隣でコソコソと独り言を呟く俺を見て、シルヴィアが声をかけてくる。
「アリスさん、こんばんは」
「はい、シルヴィアさん、マティルダ様もこんばんは。ドレス姿、大変よくお似合いで美しいです。……初めてのパーティー、大丈夫ですか?」
「ありがとうございます。……もう、本当に大変です。えらい方々との社交をこなさなければならず……こうして『踊り疲れ』を口実に身を引かなければ、今も各国の王子様に囲まれていたことでしょう」
周囲を見渡すと、彼女は堅牢な護衛の聖騎士たちに囲まれ、誰も近づけない状態を作っていた。外側では王子たちが悔しそうにこちらを伺っている。シルヴィアがこの『聖騎士の壁』から一歩でも出れば、即座に群がってくる気満々だ。
「本当にお疲れ様でした。これはダンジョン周回よりも過酷ですね……」
俺の言葉に、シルヴィアは少しだけ聖女の面を脱ぎ、小声で愚痴を漏らした。
「そうなのです! 今の私は、あの遺跡ダンジョンが恋しくてたまらないわ……! ストレスを爆発させたいのです。アリスさん、あとで私をあの遺跡ダンジョンへ連れて行ってください!」
(もちろん構わないとも!)
俺だって会社のレセプションや会議で上司の接待をした後は、速攻で帰宅してゲームにログインし、ボスをボコボコにするまで狩り尽くしていたものだ。
俺はワールドマップを開き、この王宮内部に転送ポイントがないかを確認した。謁見の間前の転送ポイントは、今日セリーナが王様に謁見した際、運良く接触したため解放されていた。だが、流石にあの場所を使うのはマズい。庭園にもポイントはあるが、今から解放しに行くのは骨が折れる。
まぁ、今すぐダンジョンへ直行するのは無理でも、パーティーが終わり、大聖堂へ戻った後ならいつでも連れて行ってやれる。
俺はシルヴィアに向かって優しく頷いた。
「いいですよ。パーティーが終わって大聖堂へ戻ったら、ダンジョンへ行きましょうか」
するとシルヴィアは俺の両手をぎゅっと握りしめ、感激に満ちた目で深々とお礼を言ってきた。
「本当ですか!? ありがとうございます……!」
当然、隣にいたマティルダ様が「コホン」とわざとらしく咳払いをする。『素が出ているぞ、シルヴィア』と言わんばかりの圧に、シルヴィアは一瞬で凛としたクールな聖女モードへと戻った。
その時、チャット欄にメッセージが届いた。
セリーナ:精霊さん、先ほどシルヴィアさん、ずっと王子様たちへの毒吐きをなさっていたのです……。
セリーナ:彼女、どこかで発散させないと本当にマズいのです……。
サクラリア:そ、そうですわ……。シルヴィアさんの深淵のような闇の底を見た気がいたしますわ……。
(……シルヴィアも本当に苦労してるんだな)
俺が苦笑いを浮かべていた――その時だった。
偵察に向かっていたタピオカくんから、切迫した緊急チャットが飛び込んできた。
タピオカ:豆腐くん! エドガーの頭上のネーム表示、エドガーじゃない! “ゼノヴィウス”っていう全然知らない名前になってるよ!!
「(……なに!?)」




