66 一緒に煽りましょう
タピオカをかばった俺は、闘技場中央に着地する。
幸いダリオンたちとアルベルトも無事だ。
ミニマップを見ると、三人とも青い点で味方。ゲーム通りな性格なら、彼らは裏切りや聖女を襲う人間じゃない。ガチのNPCモブ騎士よりよっぽど安心できる。
彼らが王の観戦台へ向かう背中を見送りながら、俺はセルディスの方に視線を戻すと、奴は俺を無視して、背を向けて逃げていたダリオンを再び狙う。俺は素早く割り込んで魔剣の攻撃をパリィした。
ちらっとシルヴィアの方を見る。ダリオンたちはもう彼女のところに戻った。シルヴィアは封印の術の準備に入っている。多分、もう大丈夫だろう。俺は再びセルディスに向き直る。
「貴様!なぜ魔剣の一撃を受けても何もなかったように俺の前に立っているんだ!!」
まぁ、バカ正直に答えるわけがない。俺は沈黙したまま、剣を構え続ける。
セルディスの黒いオーラが急に濃くなる。奴の目が血走り、呼吸が荒い。焦りが隠しきれなくなってる。
「くそっ……聖女が現れただけではないのか……! お前は何者だ! なぜ俺の計画を!……その仮面……そっか、貴様は報告書に書かれた裁きの塔に入ったアリスという冒険者か……。貴様が聖女を救ったのか、よくやってくれたな!! 」
でもな……こっちも冗談じゃなく、左肩が今すごく痛い。痛すぎで左手は使えない。
魔剣に刺された瞬間は何も感じなかったが、今はじわじわと熱が広がり、鈍い痛みが強まっていく。心臓に刺さってなくて本当に良かった。ゲーム仕様の体でも、あの魔剣が心臓に刺さったらどうなるか、想像したくもない。だから俺は今、実は痛みを我慢しながらセルディスと向き合っている。
幸い仮面をつけている。あまりの痛みに歪んだ顔も誰にも見られなくて済む。タピオカくんに見られたら、きっと前に出て俺の代わりに戦おうとするだろう。
しかし、タピオカくんの代わりにその攻撃を受けたのは本当に良かった。
肩だけでもこんなに痛いんだ。手乗りサイズの妖精姿のタピオカがあの攻撃を受けたら、全身この痛みを感じるかもしれない。
肉体は大丈夫でも、全身この痛みは精神的に死ぬレベルだ。
左手が使えないので、いつものUR短剣は使えないが、幸い〈覇者の塔〉40階の限定ボスからドロップした刀身が淡い白い光を発するUR片手剣——オーロラ・セイバーがある。
左手が使えなくても、前に遊んでたゲーム〈ドラゴンの遺産〉では片手剣メインだったから、多分いつもの短剣と同じように戦えるはずだ。
それに相手は弱い。レベル差が30以上ある。ハンデしても負けない……ガチで勝負にならない。
セリーナ:精霊さん、この前にドロップした片手剣を使うの?
サクラリア:あの光の剣ですね。勇者の剣みたい~!
『……どう……精霊くん。あなたは彼を怯ませて、私が撃ちます。』
「わかりました。」
どうやら左手が使えないこと、みんなにバレバレみたいだ。
全く俺たちの眼中にいないセルディスは、焦りを混じらせて狂ったように攻撃してくる……が。まぁ、塔で何回奴の強化版と戦ったか覚えていないし、唐辛子の水を使わなくても99.9%勝てる。
「冒険者風情が! 偉大なる邪竜様の復活を邪魔するな!! 偉大なる邪竜様の力の下で死ね!」
攻撃が止まったように見えたから、簡単にパリィできる。
先ほど魔剣から黒い炎が出たが、パリィして攻撃が不成立になったみたいで、発動していなかった。
「なに?! またパリィされた?! ちぃぃ!!」
この世界では、パリィは達人の域に達した技だ。セルディスが驚くのも無理はない。
彼が怯んだ瞬間、タピオカくんは遠慮なく左脚を撃ち抜いた。頭を狙わなかったのは、恐らくアルベルトが撤退時に「セルディスを止めてくれ」と言っていたからだろう。
セルディスは今度は大技の剣技を繰り出してきた。
最初の一撃をパリィしたせいで剣技はキャンセルされ、奴は怯んだ。タピオカくんは流れるように奴の右足を狙い撃ち、矢が命中する。
ここで、タピオカが煽り始めた。
『はぁ、邪竜の力も大したことないわね。アリスが手を出さなくても、私だけで十分よ。がっかりだわ。』
あ~タピオカくん、八つ当たりモード全開だな。では俺も参加するか。
「やめなさい、彼はもう精一杯頑張りましたよ。弱いから、邪竜の力を借りないといけないのです。」『それもそうね。雑魚を沢山連れてきたけど、全員すでに私に倒されてることに未だ気づかないなんて、リーダー失格ですね。その様子では、迷宮都市周りの召喚柱も破壊されたことにも気づいてなさそう。』
「もうやめさせて。彼が可哀想ですよ。」
『なによ、自業自得でしょう。』
「間違いないけど、ただの妖精相手でも倒せない彼のプライドはもう、地に落ちましたよ。」
それを聞いて、セルディスは慌てて召喚魔法陣周りの魔法使いを確認する。
見事に全員倒され、生き残ったやつはすでに駆けつけた衛兵たちに確保されている。
奴の顔が青ざめる。今きっと頭の中で「召喚柱が破壊されただと! そんなバカな! だから魔法陣の魔力充填速度がこんなに遅かった! 計画は失敗だ!」って叫んでるはずだ。
「貴様ら!! 虫ケラの分際で!!!」
セルディスの返し文句が聞こえ、タピオカは薄く笑いながらこう返す。
『ふふっ、虫ケラにも敵わないあなたは何ですか? 言ってご覧なさい、虫ケラ以下の騎士様。』
「……おのれ!」
でも、そんなに煽ってもセルディスは逃げない。
あ~両足をタピオカの弓で撃たれてるからか……。タピオカくんはわざと脚だけを狙って、逃げられないようにしてから煽ってたんだな。……タピオカくん……恐ろしい子。
逃げることを諦めたセルディスは、今度は狂ったように魔剣に「もっと、もっと力を貸せ!」と叫び、完全な狂戦士状態のように俺に斬りかかってきた。
当然、こんな止まったような攻撃はすべてパリィできる。
ここで、タピオカくんがチャット欄で俺に話しかけてくる。
タピオカ:あなたのパリィでも魔剣のHPは減らないですね。
タピオカ:どうやって魔剣を破壊するの? 普通に魔剣を攻撃しても減らないわよ。
飛べる豆腐:もしかして、持ち主が持ってる時は破壊できないのか?
タピオカ:うん~わかんない。
飛べる豆腐:試してみようか。
タピオカ:わかった。
俺は余裕そうに攻撃をパリィしたまま、タピオカくんに話しかける。
「皆さん、もう怒りは収まりました?」
『まだですけど、帰ったらプリン出して。』
当然セルディスを煽ってるのは俺たちじゃない。
チャット欄の中でセリーナとサクラリアもずっと嫌味を言い合ってる。
セリーナ:ふん! 精霊さんを傷つけるなんて、私は絶対許さないですから!
セリーナ:私の怒りも収まっていないですが、あとであなたを叱りながらアイスを食べます。
サクラリア:そうです!! タピオカ様はもうすごく優しいと思ったわ。
サクラリア:わたくしなら、この人の両足を花いっぱい埋め尽くして、花人間にしたいのです!
サクラリア:わたくしはパフェをお願いしますね。精霊様。
(おい……)と思わず心の中でツッコんだ。
左肩の痛みを慣れ、痛みも段々と薄れてきている。最初は焼けるように熱かったものが、今は鈍い疼きに変わった。我慢できるレベルだ。息を吸うたびに少し響くけど、もう動ける。
自分のすべての攻撃がパリィされ、タピオカくんと俺の煽りを聞いて、イライラの限界に達したセルディスが、2つ目の範囲必殺技を繰り出そうとする。
「おのれ!! 偉大なる邪竜様の力を舐めるな!!!! 【スパイラル・シェイバー】!」
奴の身体が黒いオーラに包まれ、魔剣を軸に螺旋状の攻撃が広がり始める。
あ、これはダメ、俺は即座にシャドウステップを発動。
視界が一瞬ブレ、セルディスの背後に移動する。オーロラ・セイバーが淡い白光を放ちながら、奴の邪竜化した右腕を一閃で切り落とす。黒い鱗が飛び散り、その腕と魔剣が地面に落ちる音が響く。
矢数発とこの一撃だけで、セルディスのHPは残り三分の一に落ちた。
俺は軽く無力化済みの奴を蹴り飛ばし、アルベルトたちのいる方向へ転がす。魔剣と右腕を失い、もう動けないセルディスを見て、王の観戦台周りの騎士たちが一斉に駆け寄る。奴はすぐに確保され、動きが封じられた。
まるでタイミングを計ったように、その瞬間——闘技場中央の上空に白い光が生まれる。
召喚魔法陣と同じくらい巨大な魔法陣が空に浮かび上がり、白銀の粒子が雪のように降り注ぐ。粒子が紫の召喚陣に触れた瞬間、陣の線が浄化されるように薄れ、消えていく。
やがて召喚魔法陣は完全に消滅し、すべての粒子が闘技場の真ん中——俺の前に集まる。手のひらサイズの変わった形の紫水晶に変わった。
シルヴィアを見ると、彼女は魔力を大きく消耗し、額から汗を噴き出しながらアルベルトに支えられて座っている。
俺たちが事前に渡したMPポーションを飲み、こっちに気づくと、弱々しく微笑んで頷く。「成功しました」と伝えているようだ。
よくやった。
召喚魔法陣は完全消滅、邪竜の召喚は阻止された。
緊急クエストはもうすぐクリアだ。
俺はまずその紫水晶をストレージに入れ、最後のターゲット——魔剣、奈落爪剣モルスを破壊しに行く。
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魔剣使いの裏切り者——セルディスは、邪竜の力を借りて、武闘祭の優勝候補である二人の冒険者だけでなく、この国で最強クラスと謳われる第一騎士団長アルベルトすら圧倒するはずだった。
なのに……一瞬でその強大な魔剣使いを無力化したアリスの一撃に、観衆席の人々も周囲の騎士・衛兵たちも、ただ呆然と見つめていた。
そして聖女シルヴィアが展開した巨大な白銀の魔法陣が、召喚魔法陣を飲み込むように輝いた瞬間、闘技場は息を呑むような静寂に包まれた。
敵将と思われた魔剣使いは倒され、他の敵もすでにタピオカに倒され、襲撃は完全に抑え込まれた。
そんな沈黙を最初に破ったのは、ロドリック侯爵だ。
彼は声を拡大する魔道具を手に、落ち着いた声で周囲に指示を出す。
「皆の者、落ち着け。襲撃は抑えられた。逃げる必要はない。衛兵の指示に従い、ゆっくりと闘技場を離れよ。」
逃げ惑っていた観衆たちも、侯爵の声に耳を傾ける。
パニックが収まり始め、大人しく衛兵の誘導に従って出口へ向かう人々が現れる。侯爵は続けて宣言する。
「本日の武闘祭は来週の日曜日に延期する。増援の騎士と衛兵は、倒された組織の戦闘員たちを確保せよ。」
当然、侯爵は聖女のことを大々的に発表していない。
ここにいる人々はシルヴィアを本物の聖女だと感じているが、王と聖王国が正式に認めていない以上、民に公表するわけにはいかない。
アルベルトとダリオンたちはアリスに頼まれた通り、彼女が王の観戦台に戻る前に引き続き聖女を守っていた。聖女シルヴィアは大型の封印の術を使ったため、観衆席に腰を下ろし、息を整えている。
そんな彼女の後ろでは、こそこそと話す貴族三人がいた。普通なら、王が襲われたら貴族たちは王のもとに駆けつけて守るはずだ。現にロドリック侯爵は今も王の席の隣で指示を出している。
だがこの三人は逆。
王の側が一番安全で、同時に忠義を装える——そんな無能な貴族たちだ。今、彼らは王の安否より、どうやって聖女に媚びを売るかを相談している。
ロドリック侯爵はそれに気づき、近づいてわざとらしい咳払いをする。
「コホン!!」
貴族三人は慌てて侯爵に一礼し、王の側へ向かう。
シルヴィアも咳払いに釣られて後ろを振り返り、侯爵を見てすぐに立ち上がろうとするが、侯爵は優しい微笑みで制した。
「いえいえ、聖女様、どうぞそのままお休みください。ホントに助かりました。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
アルベルトたちも侯爵に一礼する。
侯爵は手を上げて「礼はいらん」と示し、彼らに話しかける。
「アルベルト殿とその冒険者の二人もご苦労だった。怪我はないか?」
「はっ、アリス殿に魔法で治していただきました。」
「そっか。落ち着くまで、そのまま聖女様の護衛をお願いする。」
「承知しました、ロドリック侯爵様。」
「「承知しました。」」
侯爵はそのまま王の側に戻った。
高位の貴族たちが離れていく。
ダリオンとレオンは肺に溜めていた息を一気に吐き出す。
民間人だから普通ならそのまま帰れるはずなのに、敵と戦った以上、事情聴取がある。呼ばれるまで待つしかない。
二人は先ほどの戦いを振り返りながら、ぼそぼそ話す。
「レオン。俺、見間違ってないよな。あのおっさんが……あんな簡単に無力化されたぜ。パリィでこんなに簡単にできるのか?即座に腕落とすなんて……ありえねぇだろ……」
「ああ……あの噂のアリスの実力が……桁違いすぎる。俺たちはただ、彼女の到着までの時間稼ぎだっただけだ。この5分、長かったな……。」
セルディスの力を身をもって味わった二人は、苦笑いするしかない。アルベルトも同じく邪竜の力を知る一人として、会話に加わる。
「君たち、彼女のこと知ってたのかい?」
「え! あ、雑談ですみませんでした!」
「すみませんでした!!」
アルベルトは頭を下げる二人を止める。
「気にするな。君たちは俺の部下じゃない。疲れてるだろう、気楽にしていい。ただ、君たちがあの少女を知ってるのか知りたかっただけだ。」
ダリオンがすぐに答える。
「彼女は最近一人で裁きの塔に入った人で、迷宮都市では有名です。塔内でとある素材を探してる以外、情報はありません。いつもキツネの仮面と白いローブ姿で、ローブの中にチラッと見た人の話では、貴族のパーティードレス着てるらしいです。何処の貴族のお嬢様かと噂されてます。あ、聖女様、すみませんでした! 聖女様の前でご友人の話をして失礼しました。」
「いえいえ、大丈夫です。ただ、彼女のことについては、私は何も答えられません。」
アルベルトもハッとする。聖女の前で彼女の連れと思われるアリスの噂話をしていたとは、本当に失礼だった。すぐにシルヴィアに頭を下げる。
「大変申し訳ございませんでした、聖女様。」
「気にしないでください、アルベルト様。」
「ありがとうございます。すみませんが、聖女様のそばにいる小さな使い魔はどこですか? 彼女にもお礼がしたいのですが。敵の大半もほぼ彼女が倒してくれたので。」
「彼女は私の使い魔ではございません。」
シルヴィアはそれ以上答えず、明らかに紹介したくない様子を見せる。そして、話題をアリスから離れるように、彼女はそっと話題を変える。
「先ほど邪竜の黒い炎を受けたのですが、体に異常はありませんか?」
「え? はい、お心遣い感謝いたします。アリス殿に魔法で治していただきましたので、大丈夫です。」
「それは良かったです。冒険者のお二人は?」
「聖女様、自分たちも無事です。団長様とレオンのおかげで、自分は何の怪我もありませんでした。」「はい、自分もアリスさんに回復してもらいました。」
そう言われてみると、なぜダリオンが魔剣使いに狙われたのか……とアルベルトは気になり始めるが、ここで戦闘後、ずっと闘技場中央にいるアリスがシルヴィアを呼んだため、聞けなかった。
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一方、伝承では邪竜の爪から作られたはずの魔剣を使っていたセルディスは、右腕を一瞬で斬り落とされ、呆然と地面に倒れる。アリスに軽く蹴り飛ばされ、アルベルトたちのいる場所へ転がる。
瀕死の身体はもう動かない。
ただ、充血した目だけが、信じられない現実を睨みつけている。
(一体何が起きた……?俺は偉大なる邪竜——ネザーヴェイル様の力を借りていたはずだ。あの小僧ダリオンも、アルベルトすら圧倒していた。勇者の末裔と呼ばれるこの国の王の血を魔法陣に与え、それを媒介に邪竜様を召喚する。召喚魔法陣の魔力が満タンになれば、我らの神はここに現れるはず……)
周囲から「魔剣使いを捕まえろ!」という声が響く。衛兵たちが近づいてくる。
しかし、セルディスの身体は指一本動かせない。
頭の中だけが、まだ必死に現実を否定しようとしている。
(長い時間をかけて……奈落の七印の教王様が練り上げた計画だった。迷宮都市の周りに召喚柱を六本立て、地脈を通じて魔力を魔法陣に送り込む。計算上、5分で満タンになるはずだった。召喚には莫大な生贄が必要。だから武闘祭の最終日を選んだ。この迷宮都市のすべての人々が、生贄になるはずだった……なのに、なぜ?召喚柱の場所がバレていた? なぜ?今朝まで無事だった? なぜ?! なぜだ!?)
衛兵たちが彼を押さえ、動きを封じられる。
それでもセルディスの目は開いたまま、ただ虚空を睨んでいる。
(教王様の予言通り、聖女と思われる少女を罪に嵌め、地下牢に閉じ込めた。裁きの塔に捨てたはずだった……まさか!教王様が言っていた「絶望」が足りないせいか?それとも本当にアリスが塔の中から彼女を救い出したのか?!俺は悪くない! 聖女を絶望させる部分はヴァルターの仕事だ。あの男の報告では、聖女は前から生きることを諦め、絶望しているはずだった……)
腕の切り口から血が滴る。痛みはもう感じない。代わりに、頭の奥で何かが軋む音がする。
(いや……俺は邪竜様の力を借りて、教王様が嫌う冒険者ダリオンとアルベルトを殺せるところまで行った。あの生意気な羽のついた虫ケラとアリスが出てこなければ!!なぜ俺の攻撃をこうも簡単にパリィされた?は……ははっ! ありえない!俺は第一騎士団副団長だぞ!邪竜様の力を借りた俺は無敵だ!そう、これは夢だ……計画は明日だ。念を入れて召喚柱にもっと多くの戦闘員を配置し……それと……)
セルディスの口元が歪む。いやな、乾いた笑いが漏れる。
(ふふっ……ふふふっ……そうだ、魔法陣の魔力が満タンになれば……勝てる。ふふっ……)
笑いが次第に途切れになり、目が虚ろになる。
魂が抜け落ちたように、ただ虚空を見つめるだけになる。衛兵たちが彼を厳重に縛り上げ、外へ運び出す。
その背中は、もう「騎士」でも「裏切り者」でもなく、ただ壊れた人形のようだった。邪竜の力を求めすぎた代償は、こうして彼を蝕んでいた。
残っているのは、繰り返す「なぜ」と、意味のない笑いだけだ。




