61 聖女の葛藤
マティルダ様が救い出された夜、私、シルヴィアは伝承で語り継がれてきた「封印の聖女」になりました。
精霊のタピオカ様からのお話では、聖女の務めは大聖堂の下に長年封印された邪竜の封印に魔力を注ぎ込むことだそうです。
最初はあんまり信じられなかった……だって、聖女が邪竜を封印した話は千年前のことで、それから長い間、他の聖女の誕生なんて聞いたことがありませんでしたから。
でも、聖杖を受け取った瞬間、なぜか頭の中に聖女の魔力の使い方がはっきりと浮かび上がってきたんです。どうやって封印の術を使うかも、何となくわかったような気がします。
長年の間弱ってきた邪竜の封印に魔力を注ぎ込む……これは女神エリシア様が私に与えてくださった仕事。これなら、私にもできるかもしれない……と思いました。
そういえば、先日地下牢内で見た女神像の前にいた夢、あの声はもしかして本当に女神様だったのでしょうか? でも、あれからあの声と夢の続きは見ていませんでした……。それをさて置き、女神様に私とマティルダ様を救ってくださった感謝の気持ちを伝えるため、私は今日も女神様に感謝の祈りを捧げます。
精霊様とタピオカ様は、マティルダ様が救い出された翌日の夜、私を連れてとあるダンジョンに転移してくださいました。一瞬で別の場所に移動できるなんて、驚きました。それから、私はただただ精霊様たちの後ろについて、出会ったモンスターに魔法を一発撃ってから退避……そんな感じで恐ろしいなクリスタルゴーレムやダンジョンを数回周回しました。
モンスターと戦うのは怖いです。私はずっと戦うこととは無縁でしたから。前は人々の怪我を回復したり、呪いや毒を浄化するだけで、急にこんな強いモンスターと戦えるまでに鍛えられるなんて、さすがに無理があるわ……。それに、私はただ精霊様たちについていくだけですけど……これで本当に強くなれるのでしょうか?
その夜、夜の11時までダンジョンを回って、また一瞬で小屋に戻りました。パジャマに着替えて、そろそろ休もうという時、私は思わず精霊様たちに質問しました。
「あの、精霊様。本当に武闘祭には何かが起きるでしょうか?」
精霊様は、目の前に見えないものを操作しながら、私に答えてくださいました。
「そうですね。これはあくまで予想です。もちろん、何もなければそれが一番いいのですが、あなたたちを救い出すにはきっと意味があります。それに……ワタシたちには別の目的がありますので、ずっとあなたたちを守ることができないのです。あなたたちはいずれ表の舞台に戻るでしょうから、そのためにあなたには大変ですが、自分自身を守れるくらい鍛えさせます。」
「そう……ですか。」
確かに、私たちもずっとこの小屋にいるわけにはいきません。でも……私が聖女で本当に良かったのでしょうか? もしかしてマティルダ様は私が聖女かもしれないから、子供の頃に私を大事にしてくださったのですか? もっと強い人が聖女になれば良かったのでは……? いやだ、嫌なことを考えてしまった。
「やっぱり、戦うのは怖いのですか? シルヴィアさん。」
「え?! ……は、はい。以前とは無縁ですから。それに私なんかに聖女様になってもいいのかと考えてしまったのです。」
「……。」
「……それに、思わず嫌なことを考え始めました。もしかして、子供の頃両親に捨てられた日、マティルダ様は私が聖女かもしれないから、私を拾ってくださったのかと……。」
ここで妖精姫のサクラリアに憑依したタピオカ様が、精霊様の頭の上で私にこう答えました。
『シルヴィアさん、それは簡単な問題です。』
「え?」
『確かにマティルダ様のお話しを聞けば、あなたが聖女かもしれないと薄々知っていたみたい。でも、あなたが思っていたマティルダ様は、もしあなたが聖女ではないと知られた時、あなたを蔑ろにする人ですか?』
「いいえ!! そんな……優しいマティルダ様はそんな人ではありません!」
『答えは自分自身で出てきたではありませんか。それに本当に答えが欲しいなら、直接マティルダ様に聞きなさい。彼女はあなたが言っていた優しい人でしたら、きっと隠さずに答えられますよ。』
「……はい、すみません。変なことを聞いてしまって。」
『いえいえ、急にこんな非日常なことになると、色々考えるのは当たり前ですわ。』
精霊様はここで話題を切り替えました。
「シルヴィアさん、新しい聖杖もいる今、あなたたちに被せられた聖杖を壊した冤罪は晴れました。マティルダ様があの証拠をまとめ、提出したら、彼女は恐らく大司教に戻れると思います。彼女は権力と人望があります。しかし、あなたのことを聖女だと認めない、逆にあなたを利用する貴族……これからあなたは権力闘争に巻き込まれることでしょう。自分自身を守れるくらい鍛える以外に、その方面にもマティルダ様に勉強しないといけないのです。」
え? た、確かに! 伝承にしか現れていない聖女が、私が今代の聖女だと言い出すと……きっと偽物呼ばわりされます!
「えっと、ど、どうしましょう。私はただのシスターで、貴族にも数回しか会ったことがないのです! 何を言い間違えましたら、不敬罪で殺されます! 聖杖と聖衣もきっと奪われます!」
精霊様とタピオカ様はなぜか私の言葉を聞いて少し驚いた様子でしたが、すぐに冷静になって混乱した私に答えました。
「シルヴィアさん、冷静になってください。あなたたちが表舞台に戻るのは少なくとも二週間後、武闘祭の後です。」
「でも! こんな私では権力闘争の世界は無理ですよ! どうしよう! 実際聖女様は普段どんな感じがいいのかもわかりません!」
ここで、精霊様は一杯の水を渡してくださいました。私はそれを受け取り、一口飲んで少し落ち着きました。
「わからなければ、あなたの心の中にいる理想の聖女像を真似すればいいのです。」
「心の中にいる聖女像を……真似。」
「シルヴィアさん、聖杖と聖衣はあなた専用で、他人には使えません。それだけであなたが本物の聖女だと証明できます。そして、聖女の階級は恐らく大司教と同じかそれ以上かもしれません。それにあなたたちは聖王国の教会所属のため、貴族たちは無理やりあなたを利用することはできないと思います。少なくとも大司教の座に戻ったマティルダ様はきっと、あなたを守ってくれるでしょう。」
「えっと、では聖女の真似というのはどういう意味ですか?」
「そうですね。これはただの仕事です。あなたは自分の理想の聖女を演じるだけでいいのです。あなたは別に貴族令嬢ではありません。業務時間外ではいつもの自分に戻ればいいのです。」
「仕事……これはただの仕事。私は理想の聖女を演じればいい。」
「はい。例えば、いつも冷静で、邪悪なモンスターや悪い人には容赦しない。仲間を大事にし、慈愛の一面もある……みたいな感じです。」
「……。」
「もう夜も遅いですから、明日マティルダ様と話してから決めるのも遅くはありません。今日はお疲れ様でした。早めに休みなさい。」
「はい、わかりました。精霊様たちもおやすみなさい。」
こうして、私は自分の部屋に戻り、自分の理想の聖女像を考えながら眠りにつきました。
その翌日、私は見事に寝坊してしまいました。幸いみんなも私が夜中までダンジョンで戦っていたことを知っていたので、怒られることはありませんでした。
そして、私は精霊様たちに言われた通り、マティルダ様に自分が考えたことをすべて吐き出しました。
なぜ子供の頃私を拾ってくださったのですか? もしかして私が聖女だからですか? 聖女になったら権力闘争に巻き込まれるのですか? こんな私で聖女になって、本当に良いのですか?
持ってきた書類を下ろしたマティルダ様は、私の頭を優しく撫でながら、穏やかな声で答えてくださいました。マティルダ様は昔から市場で、当時のお母さんと私を何度も見かけていたそうです。
その日、マティルダ様は仕事が早く終わり、珍しく私が一人でいるのを見かけたそうです。小さい子が一人でいるのは危ないと心配になって、声をかけてくださったそうです。
あの時の私の話を聞いて、すぐに両親に捨てられたことを察し……だから私を拾ってくださったのです。
本当に、偶然だったみたいです。
そして、マティルダ様は最後、笑いながらこう続けました。「あなたの白い髪が綺麗だったから、拾う前から何度も見かけていたのよ。……あの時は全く、聖女だなんて想像もしていなかったわ。」マティルダ様の指が、私の髪を優しく梳く。
私が聖女かもしれないと知ったのは、私が以前大聖堂で魔法を使う時、薄く白銀の魔力が出てきたから。昔の書物には聖女は白銀の魔力を使って邪竜を封印すると書いてあったそうです。だから私のことをもしかして聖女と疑い始めました。
しかし、私の魔法は急に白銀の魔力が出てこなくなったため、マティルダ様は2年前に私に聖杖を触れさせて、何か起こるかを試してみようと思っていたそうです。でも、知っての通り、触れる前に聖杖は何者かに壊されてしまいました。
今ならわかります。なぜ急に魔法を使う時、白銀の魔力が現れなくなったのか……恐らくあの時、私はすでに誰かに封印されていたのだと思います。
現に昨晩ダンジョンで戦う時、光魔法は元々黄色の魔力のはずなのに、私の光魔法の色は黄色とキラキラした白銀色が混ざったようになっていました。その白銀の魔力……今でははっきりと感じます。まるで乾いた川が急に清い水が大量に流れ込んだように。これは私本来の力……。
最後、マティルダ様はこう言ってくださいました。
「シルヴィア、あなたは精霊様に話した通り、あなたの理想の聖女像を演じるだけでいいのです。私たちは全力であなたをサポートします。あなたは決して一人ではない。それだけは忘れないでくれ。」
それを聞いて、私は思わず涙が溢れ出し、マティルダ様を抱きしめました。
私の理想の聖女像……それはマティルダ様で間違いありません。
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緊急クエスト事件から一週間、俺たちは〈覇者の塔〉を休み、シルヴィアさんのレベル上げに専念した。
パワーレベリングができるから、シルヴィアはすぐにレベル40まで上げられるんじゃないか……多分誰でもそう思っただろうな。
セリーナの時はセレアグ2周年で新参冒険者経験値バフがあって、彼女のレベルは一晩でレベル20くらいまで上げられた。でも、今はそのバフがない。
レベル7のシルヴィアさんを適正レベル38の遺跡ダンジョンに連れて周回すると……焼き鳥丼の経験値バフがあっても、一晩で3回周回した結果、シルヴィアはレベル13になっただけだ。
見間違えじゃない。シルヴィアさんのレベルは最初3だった。ダンジョン周回前にセリーナが翠夢の森に連れてフェアリーイーターを数匹狩っただけでレベル7まで上がったのに、パーティーを組んでダンジョンを3周してもレベル7から13までしか上がらなかった。まるで神様が「パワーレベリングはダメ」と言ってるみたいだ。
パーティーを組んでいる間、獲得経験値はセリーナのレベルで計算されているんだと思う。だから元々楽なはずの聖女育成が、急にハードな作業に変わった。
まぁ、幸いシルヴィアとパーティーを組むことができたので、一緒に転移できる。そうじゃなかったら、またガンド村から遺跡ダンジョンまで走らないといけなかったところだ。でも、今の遺跡ダンジョンは俺たちだけの独占じゃない。この前、再びエルドラーナさんたちに出会ったのはまた別の話だ。
ダンジョンに入ったあと、シルヴィアとパーティーを一旦解散。彼女は俺たちが見守る中で一人でレベリングするしかない。
当然、あのチート装備の聖杖と聖衣があるから、レベル差があっても結構安全に戦える。最初は毎晩ダンジョン一周しか回れなかったが、シルヴィアさんのレベルも上がり、戦闘に段々慣れてきて、今では毎晩2周は回れるようになった。
モンスターは俺たちが倒していないので、素材は自動でストレージに入らない。剥ぎ取りは必須だ。でも剥ぎ取りには時間がかかる。武闘祭の本戦までは一週間しかない。できれば何も起きないのが一番いいが、もし本当に聖女が必要な事件が起きたら、きっと予選が終わり、本戦の週に起きると思う。だから、少し勿体ないが剥ぎ取りはなし。
ただ、今無一文のシルヴィアのためにも、見かけた素材と宝箱はこちらから回収して、シルヴィアが表の舞台に戻った後に返す予定だ。これで彼女の私用金は多少は確保できるはず。
こうして一週間、毎晩ダンジョンに籠もると、シルヴィアも自分に自信をつけ始めた。育成前、俺たちに相談する時の「聖女になる自信がない」という彼女とは違って、段々とゲームの設定通りの凛々しい聖女シルヴィアになってきた。
彼女は俺たちが見守る中で一週間ダンジョン周回した成果、レベルは37になった。レベル37ならあの神速のセバスチャンにも超えられるので、これで自分自身を守れるはずだ。
レベル上げが難しくなってきた頃、ダンジョンを慣れてきたシルヴィアさんに、もし魔法が封じられ、魔法が使えない場面にあったときのために、俺たちは〈覇者の塔〉で溜まっていたボス素材を使って、彼女のために〈SR インビジブルナックル〉を作った。
【SR インビジブルナックル】
武器効果:
ー攻撃速度20%アップ
ー受け流す成功率10%アップ
ークリティカル率10%アップ
完凸していないが、護身用としてはこの性能で十分だ。一番重要なのは、このナックルの見た目はただの普通の腕輪。敵を殴る時には透明なナックルが付くから、これでたとえ聖杖が使えなくても、自分の身を守れるはずだ。
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【名前:シルヴィア】
レベル 37
• 武器:UR 聖杖セラフィナの杖
• 武器:SR インビジブルナックル(OFF)
• 頭:UR 聖衣インノケンティア
• 体:UR 聖衣インノケンティア
• 手:SR リチュアルグローブ
• 足:SR グレイスバングルシューズ
• アクセサリー1 なし
• アクセサリー2 なし
• アタッチメント サンクチュアリハロー(OFF)
• インナー:N ピュアホワイトパンツ
‐魔法レベル14→31
‐格闘レベル1→18
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多分シルヴィアさんはNPCのため、ナックルも聖杖と同時に装備できた。それにナックルと、この前に聖女っぽいと思って俺たちが勝手に装備させたアタッチメントの光の日輪も、シルヴィアの意思で自由にオンオフできるようになった。
武器を2つ装備できる、それも聖女の特権か? 流石にゲーム内最強キャラの一角だな。まぁ、このくらいに育成するのはもう十分だろう。
それから、マティルダ様について。セリーナから聞いた話では、大司教は彼女を悪者として、聖杖を壊した黒幕に仕立て上げ、なぜか違法奴隷の罪まで被せて、民衆に発表したらしい。でも迷宮都市では信じる人が半々くらいで、おまけに多分セリーナが救出作戦のことをカフェのお客さんに話したせいで、ここの教会では逆に「マティルダ様は本当に女神様に救われた」と信じる人が増えたそうだ。最近は大司教に悪い噂も段々広まってきている。セリーナ……実はあなた、わざとカフェを使って、世論操作したのか?
まぁ、マティルダ様は一週間、俺たちが回収した大司教の悪事の証拠をすべて整理してくれた。新しい聖杖と聖衣も現れたことで、大司教の「彼女を聖杖壊した真犯人にする」という策は完全に無効になった。あとは武闘祭のあと、マティルダ様とシルヴィアを王都の大聖堂に連れ戻すだけだ。
その前に、今週から武闘祭の本戦が始まる。何も起こらないといいんだが……。念のため、セリーナは今週カフェを休みにして、いつでも動けるようにした。俺とタピオカくんも今週は残業しないように、一生懸命働いた。
幸い、武闘祭の本戦の週、月曜から金曜までは何も起きなかった。
そして明日、土曜日。いよいよ武闘祭最後の日……。




