58 これが救出作戦か?
【※ 緊急クエスト:司教マティルダを救え 残り時間:5時間43分 ※】
進行目標②: 隠し宝物庫の素材を確保。
隠し宝物庫という響きはいいけど……なぜ素材確保が必要なのか? 意味がわからないが、どうやらこれも司教を救うために必要なステップらしい。
セリーナ:隠し宝物庫……今からそれを探すんですか?
サクラリア:マップには表示されていませんか?
「今確認します。」
『ここですよ。』
場所を探す前に、タピオカくんはすでに執務室の壁に掛かった女神の絵画に飛んでいった。
『精霊くん、この絵画を外して。』
「わかりました。」
そっか! タピオカくんは一応ゲームのセレアグを最新章まで遊んできたから、隠し宝物庫の場所がわかるのもおかしくない。
女神の絵画は簡単に外せた。裏には小さな紋章プレートが隠されていた。それを取って、絵画を元に戻す。
『精霊くん、次は本棚のこの辺の本を赤、緑、青、白の順に並び替えて。』
「わかりました。」
最後の白い本を本棚に入れると、機械音が響いた。
カチャ!
本棚の前に直径10センチほどの魔法陣が水平に現れた。なるほど……俺は先ほど取った紋章を魔法陣に置く。すると、周りの景色が一変した。大司教の執務室から、隠し宝物庫へ転移した。
マップで確認すると、ここは執務室よりさらに高い、塔の一番上だ。大きな宝箱が並び、金貨は満タン。明らかに超レアな素材もたくさん置いてある。
「タピオカくん、ありがとうございます。助かりました。」
『ここは聖女のサブクエストで入ったことがあるから、覚えてたの! ドヤァ~!』
セリーナ:なぜタピオカさんが隠し宝物庫の入り方を知ってるのか、もう聞く気力がないわ……。
サクラリア:おお! セリーナが好きそうなもの、たくさんありますわ!
セリーナ:サクラリア……私が好きなのは自分で稼いだお金です。盗んだものは嫌いなのです。
「では早速、クエストの素材を回収しましょう。」
聖なる結晶 x1
天雷の結晶 x20
無垢の花弁 x10
アストリエルの光羽 x2
純白の聖布 x5
聖歌の残響 x30
黄色の点滅指示通り、素材を回収していく。
「えっと……聖なる結晶……。これって……」
『これで、まさか……。』
ドゴォォォン!!
乾いた雷の音が響いた。天を裂くような、耳を劈く雷鳴が轟いた。まるで神が怒っているように感じる。
それも当然だ。俺たちの前にいる〈聖なる結晶〉と表示されたものは、素材の山に隠れていた杖の残骸。杖は折れ、装飾は剥がれ、残った部分は杖頭のコアという結晶らしきもの。俺とタピオカくんにはわかる。
そのコアは、人気キャラ——聖女シルヴィアのモチーフ武器〈UR 聖杖セラフィナの杖〉のものだった。
最後の素材〈聖なる結晶〉を回収すると、クエストが再び更新した。
【※ 緊急クエスト:司教マティルダを救え 残り時間:5時間31分 ※】
進行目標③:キーアイテム UR 聖杖セラフィナの杖 x1の製作
進行目標④:キーアイテム UR 聖衣インノケンティア x1の製作
やっぱり、そういうことか。
俺とタピオカくんはすぐに納得した。そして、何となくこの世界がなぜこんな改変されたのか、なんとなくわかった気がする。すぐに製作メニューを開き、キーアイテムを製作した。製作時間はたった10秒。キーアイテムだから当然か。クエストが再び更新した。
【※ 緊急クエスト:司教マティルダを救え 残り時間:5時間31分 ※】
進行目標⑤:真正面から司教マティルダを救い出せ。
「え?」
『うそ……。』
セリーナ:真正面ですか?
サクラリア:真正面でどういう意味ですか?
いやいや、マジかよ。俺は一応サクラリアに答えた。
「多分、ここから普通に司教が軟禁された場所に移動して、救い出す……と思います。」
サクラリア:でもここは敵の本拠地ですよ。敵だらけではありませんか。
タピオカくんも驚いた様子で言った。
『そうするしかないみたいです。もしかして、この世界の神様は怒っている……かもしれない。』
ドゴォォォン!!
二度目の雷鳴。今度はより近く、より激しく。宝物庫の壁が微かに軋み、埃がパラパラと落ちてきた。本当にこの世界の神様は怒っているのか?
「すう~はぁ~。ではこれより、真正面から司教を助けます。タピオカくん、変身をお願いします。」『え? うん、わかった。』
タピオカくんは魔法少女モードに変身した。続けて俺は考えた作戦を皆に伝える。
「大司教の執務室にはまだ誰もいません。今から隠し宝物庫から執務室に戻ります。ワタシは正面から進み、タピオカくんはワタシの背後の敵を全員〈スリープ〉で眠らせてください。味方か敵かわかりませんので、見かけた人を全員眠らせましょう。」
『了解!』
「マティルダ様を助けた後、彼女を連れたままでは転移できませんので、引き続きこの方法で大聖堂から脱出します。」
セリーナ:が、頑張ってください!
サクラリア:応援しますわ!
「準備はいいですか?」
『準備OK!』
「では、行きます!」
キツネ仮面を使うと「侵入者はアリス」と思われそうなので、俺は昨晩作っておいた〈般若の仮面〉を装備した。白いローブも外す。
急に現れたエリシアの修道服姿+般若の仮面……この姿を見た人は、真っ先に「呪いの仮面に操られたシスター」と思うはずだ。これで正体がバレることはないだろう。ヨシ。例の紋章プレートを再び魔法陣に置き、一瞬で執務室に戻った。
すると、目の前に金色のルートが現れた。どうやらゲームのように、このルートをたどればマティルダ様の軟禁場所にたどり着けそうだ。
執務室を出てすぐに、エリアを守る聖騎士2名に発見された。
「止まれ! 貴様は誰だ! なぜここに!」
バタン
「侵入者!!!」
バタン
俺とタピオカくんの〈スリープ〉が同時発動。2人とも即座に倒れ、眠りに落ちた。何だよ……急にステルスゲームからFPSに変わった気分だ。
止まらない乾いた雷の伴奏の中、俺たちは早足で進み、見かけた人たちを全員眠らせていく。
「きゃーーー!」
バタン
途中、他のシスターが悲鳴を上げて駆け寄ってきたが、襲ってくる様子はない。念のため眠らせた。
「誰だ! 貴様!」
バタン
「ここは立入禁……」
バタン
マティルダ様の軟禁場所に到着。扉のハンドル部分に丸い紫の魔法陣が浮かび、明らかに封印されている。
同時に遠くから悲鳴が聞こえ、眠らせた人たちが誰かに発見されたらしく、騒ぎが広がり始めた。
「サクラリア、扉の魔法解除方法はわかりますか?」
サクラリア:はい、わかりますわ。
サクラリア:ごめんなさい、タピオカ様。しばらく身体をわたくしに返してくれませんか?
『もちろん。どれくらいかかりますか?』
サクラリア:一分くらいで大丈夫です。
『了解。』
タピオカくんはログアウトし、身体をサクラリアに返した。
彼女が封印を解除している間、駆けつけた聖騎士や騒ぎを聞きつけた高位シスターたちが次々と現れた。
俺は真っ先に聖騎士たちを眠らせ、シスターたちの反応を伺う。動きがなければ、無視して待機。
『解除完了ですわ!』
扉にかかった封印魔法が硝子のようにバラバラと砕け散った。俺は扉を開け、中に入る。
部屋の中には司教の修道服をまとった、白髪混じりの水色髪のおばあさんがいた。俺を見るなり、少し厳しい顔でゆっくりと窓際まで下がった。
「とうとうわたしを殺しに来たか、ヴァルターめ。……わたしはそう簡単に倒せる人間ではないわ!」
マティルダ Lv.16
ターゲット発見!
般若の仮面を付けているため、マティルダ様は明らかに敵と見なしている。何かを詠唱し始めた。彼女を安心させるため、俺はすぐに目的を伝える。
「助けに来ました、マティルダ様。」
「…?!」
「ここからは長い道がありますので、早く準備してください。」
当然、すぐに信じるはずがない。少なくとも、マティルダ様の詠唱は止まった。
ここで、外からまた人の声が聞こえてきた。
「ここです! 人が倒れています!」
「おい! 何かあっ……」
バタン
「キャー! 聖騎士様!」
戻ってきたタピオカくんは扉を守って、聖騎士だけを魔法で眠らせた。
こっちには、俺は襲ってくる気配がないため、マティルダ様の警戒レベルが少しずつ下がっていくのを感じ。
「誰の指示だ。」
「わかりません。どうしても答えが欲しいなら、この世界の神様でしょう。」
「神様……だと?!」
セリーナ:精霊さん! ミニマップから真正面に赤い点が複数近づいてきます!!
真正面!外の樹!!ちっ……元々今日、マティルダ様を暗殺するつもりだった連中か!!
俺はすぐに前に跳び、マティルダ様を隣のベッドに押し倒した。
パリンッ! パリンッ!
ズドン! ズドン! ズドン!
窓ガラスが割れ、マティルダ様がいた場所に数本の短剣が床に突き刺さった。ギリギリだった。その流れで、全身黒いの暗殺者数名が窓から部屋の中に飛び込んできた。
当然、すぐに俺の〈スリープ〉で眠らせた。
バタン
バタン
バタン
すぐに脱出しないと! 俺はベッドに倒れたマティルダ様に謝る。
「無礼な真似で申し訳ございません、マティルダ様。時間がないので、大事なものはありませんか? すぐに脱出します。」
マティルダ様はこの状況を見て、俺が本当に助けに来たことを理解したようだった。すぐにベッドから降りてきた。
「ないわ。すべてのものはヴァルターに没収された。」
「わかりました。ではここから逃げます。」
マティルダ様をおんぶして窓から飛び出すつもりだったが……例の黄色のルートが「そうはさせない」と言っているらしい。
「すみませんが、走れますか?」
「ええ、大丈夫よ。」
セリーナ:やっぱり、この黄色の線に付いていくしかないみたいですね。
サクラリア:これは神様からの指示ですから。
セリーナ:どうしてでしょう。
サクラリア:精霊様たちの力ではきっと大丈夫ですわ。
セリーナ:そうですね。私は引き続きミニマップを確認するわ。
サクラリア:わたくしもタピオカ様をサポートします。
ここで、部屋の扉を守っていたタピオカくんがチャット欄で俺に話しかけてきた。
タピオカ:豆腐くん、一応近づいた人は全員眠らせたわ。
タピオカ:でも、襲ってこなかったシスターたちは段々集まってきてる。
飛べる豆腐:窓から逃げることはできない。そのまま黄色のルートに従って脱出する。
飛べる豆腐:大聖堂から脱出後、何が出てくるのかわからないので、MPを半分残して、
飛べる豆腐:シスターたちが襲ってこなかったら無視。今から出る。背中は任せます。
タピオカ:了解!
タピオカくんは扉からこっちに飛んできて、マティルダ様の背後で警戒態勢を取った。
軟禁部屋の扉から出ると、結構離れた距離でシスター数名が隠れてこっちを見ている。
セリーナ:精霊さん! そのシスターたちは味方らしいですよ。
ミニマップを見ると、そのシスターたちは青い点だった。同時に、彼女たちは出てきたマティルダ様を見て、すぐに駆けつけてきた。
「マティルダ様! 大丈夫でしたか?」
「君たちが……わたしは大丈夫。ここから離れなさい、巻き込まれるわよ。」
「いいえ、そんなことはできません。」
「だめだ! あなたたちは引き続き王城の地下牢内のシルヴィアを守ってください。あの子は聖女かもしれない人だ。ここで失うわけにはいかない!」
「だめです、マティルダ様が軟禁されたあと、私たちは地下牢に近づくこともできませんでした。」
「なっ!」
こんな風にゆっくり会話する暇はない。俺はすぐに口を挟んだ。
「シルヴィアさんはすでに救出しました。証拠も全回収済みです、マティルダ様。」
「なん……だと?!」
「時間がないので、そろそろ行かないといけません。」
「わかった。すみません。」
シスターたちもシルヴィアが無事救出されたと聞いて、すぐに道を開けた。そしてこう言った。
「あとのことは私たちにお任せください、マティルダ様。」
「わかった。無理をするな。部屋の暗殺者たちを縛ってくれ。第三騎士団に渡せば、いい証拠になる。」「わかりました。」
シスターたちはすぐに軟禁部屋に入っていった。彼女たちとの会話は終わり、マティルダ様はこっちに軽く謝った。
「ごめんなさい。行きましょう。謎のシスターさん。」
「わかりました。」
まぁ、マティルダ様の年齢では走るのは無理そうだから、相変わらず早足で脱出するしかない。
しかし意外だったのは、出口に近づくにつれ、俺たちを見た聖騎士とシスターたちの大半が自ら道を譲ってくれたことだ。
そのため、すんなりと大聖堂から脱出成功。大聖堂正門の門番の聖騎士たちは、まさかの「お気をつけてください」まで言ってくれた。
もしかして、「真正面からマティルダ様を救う」の意味は、わざと大聖堂の他の信者たちに「マティルダ様は救い出された、今の大司教に反旗の準備を」というメッセージを送るため……?
……いや、知らんけど。神様がそんな回りくどいことするかな。
外に出たあと、クエストの更新がない。まさか小屋まで戻らないといけないのか。
乾いた雷はいつの間にか止まっていた。ミニマップを見ると、まだ追手はない。大聖堂内のマティルダ様の派閥が多くて助かった。でもこんな大騒ぎでは、王城が兵を動かす可能性もなくはない。
すぐに王都から脱出しないと……。
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同時刻、王城内では密談が行われていた。
今晩、大司教ヴァルターは大聖堂にいない。彼は王城で聖遺物の警備について、第一騎士団副団長のセルディスと協議していた。
白い祭袍に金の刺繍が鈍く光り、頭には冠のようなミトラを戴いた初老の老人——大司教ヴァルターは、護衛の聖騎士たちに案内され、第一騎士団副団長の執務室の前に到着した。
ヴァルターは護衛たちに静かに言った。
「すまぬが、君たちはここで待機してくれ。私は副団長と聖遺物の警備について話してくる。」
「「はっ!」」
聖騎士たちは部屋の外に控え、ヴァルターは執務室の中へ入った。
王国騎士団の銀白の鎧を纏い、短い茶髪の30代ほどの副団長セルディスが、穏やかに彼を迎えた。
「お待ちしておりました、ヴァルター様。どうぞこちらへ。」
扉が閉まり、防音の魔道具が起動したのを確認すると、セルディスはすぐにワインを注ぎ、大司教を友人のようにソファーに座らせた。
「ヴァルター殿、昨晩シルヴィアというシスターを塔に捨てました。」
ヴァルターはワインを一口飲み、静かに答えた。
「そっか。こちらもヘマをしたトーマスがやったことを、あの目障りなマティルダに被せて、今晩彼女を排除するつもりだ。」
ここでヴァルターはある疑問をセルディスに問いかける。
「セルディス殿。あのシルヴィアという子は、本当に我々の教王の計画を邪魔する存在なのかね。」
「わからない。ホントならあんな小娘はすぐに殺せばいいんですが、教王様の話し方ではなぜか彼女のことをすごく嫌っていた気がします。彼女を絶望に落としたあとで殺せと命令されたが……。今の王とあのマティルダのせいで、ただ二年間地下牢に閉じ込めただけ……マティルダを軟禁した後、生きる気力もないから、もう絶望したはず。」
「もう裁きの塔に食われたからな。我々はもう考える必要はない。そういえば、我らの神の分身——魔剣〈奈落爪剣モルス〉は?」
「今週中にはここに届くでしょう。」
「そっか、あとは勇者の末裔と言われたこの国の王族の血を媒介にすれば、我らの神は蘇る……。」
ドンドン。
その時、外から魔法鳥が窓を叩いた。セルディスが窓を開けると、鳥はヴァルターの手に降り、手紙に変わった。
「何だ、もうマティルダを排除したのか?」
ヴァルターは手紙を読み、すぐに立ち上がった。
「なに?!」
手紙にはこう書かれていた。
”マティルダは何者かに救出された。影全員失敗、犯人は鬼の仮面を付けたシスター。現在捜査中。”
彼は手紙をセルディスに見せ、セルディスも驚愕した。ヴァルターは怒りを抑え、ワインを一気に飲み干した。
「ちっ……マティルダめ! 大人しく死ねばいいのに!」
彼が怒るのも無理はない。
ヴァルターは長年、当時まだ大司教だったマティルダの後ろで司教を務めていた。信念……いや、そもそも信じる”神”が違うため、お互いは噛み合わなかった。二年前、やっと彼女を嵌めに成功し、自分は大司教になった。そして今日、マティルダを亡き者にできるはずだった……のに、ここで彼女はまだ誰かに救われてしまった。
そんなヴァルターを見たセルディスは、新しいワインをグラスに注ぎ、落ち着かせようとした。
「まぁ、教王様の話ではマティルダは計画を邪魔する存在ではない。君はそのまま彼女を被せるつもりの罪を発表し、彼女は”やましいことがあって逃げた”と説明すればいい。」
「わかった、そうする。君も例の計画を頼むぞ。」
「大丈夫だ。魔法陣と人員はすでに準備完了。魔剣〈奈落爪剣モルス〉が到着したら、誰もこの計画を邪魔することはできない。」
「わかった。では私は大聖堂に戻る。明日はすぐにマティルダの”罪”の発表をする。」
ヴァルターはソファーから立ち上がり、隣の大司教の杖を取り、副団長の執務室から出ていった。




