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56 緊急クエストの続き

緊急クエストで聖女シルヴィアを救い、徹夜覚悟の俺がお風呂のお湯と食事の準備を終えた後、彼女が寝ていた部屋に戻った。


彼女が起きたらローブで全身を隠し、キツネ仮面のままだと警戒されるかもしれない。俺は装備をセリーナのお嬢様魔法使い風のスカートに変更した。これで優しげな印象になるはずだ。では隣の椅子に座り、彼女の目覚めを静かに待ちましょう。


このままログアウトすると、セリーナたちが起きた時に彼女を侵入者と勘違いするかもしれない。俺はこの世界の文字はまだ数字しか書けないから、伝言も残せない。それに現状がよくわからない以上、今セリーナたちを起こして一緒に待つ必要もない。


聖女が目覚めて話を聞いた後で、セリーナを起こしても遅くないはずだ。同じ理由で、聖女が急に起きてこの小屋から出て行ったら危ない。レベル3の彼女が翠夢の森に入ったら、迷子になるかモンスターに襲われるか……。徹夜1日くらいなら、俺は平気。それに「彼女の話を聞く」のクエストが終わったら、何かすぐに動く必要があれば即座に対応できる。


暇なので、製作スキルを上げるつもりで〈覇者の塔〉のボス素材を使ってどんな装備が作れるか、図鑑で検索していると――聖女が目覚めた。


「う……うん……ここ……は……」

「こんにちは、シルヴィアさん。」

「ひぃ!!」


あちゃー。真っ暗な部屋で急に話しかけるんじゃなかった……。シルヴィアは反射的に布団を胸元まで引き寄せ、怯えた目で俺を見ている。


知らない場所で目を覚ましたら、そりゃ警戒するよな……。俺はすぐに明かりをつけ、できる限り優しく穏やかな声で話しかけた。


「ご安心ください。ここは翠夢の森の小屋です。安全な隠れ場所ですよ。」

「翠夢……の森?」

「はい。ここは誰にも見つからない場所です。先ほどのことは覚えていますか?」

「先ほどのこと……キツネ仮面の方ですか?」

「ええ、ワタシはアリスと申します。」

「えっと……私、シルヴィアと申します。お助けいただき、本当にありがとうございました。」


シルヴィアは少し警戒を解いた様子で、頭を下げてお礼を言った。


部屋を見回しているが、普通の木製小屋だ。ただ中にあるものが少し現代風なだけ……うん、大丈夫そう。


俺は彼女に水を渡す。彼女はそれをゆっくり飲み、肩の力を抜いてようやく落ち着いたようだ。では……まずはお風呂だな。


「えっと、アリス……さんは、もしかしてマティルダ様から私を助けてほしいと依頼されたのですか?」「そうですね……シルヴィアさん、お食事は用意していますので、まずはお風呂に入って、食事を済ませたらゆっくりお話ししましょう。」

「おふろ……?」


彼女を浴室に案内し、ボディソープとシャンプーの使い方を簡単に説明した。初めてのものに戸惑っていたが、あとは任せることにした。


俺はリビングで冷蔵庫から食事を出し、温かいお茶を用意する。すると、彼女が俺が製作メニューで作った白いワンピース風のパジャマ姿で、モジモジしながら意外と早くお風呂から出てきた。


……早っ! 女の子のお風呂って、少なくとも30分はかかるんじゃなかったっけ?


「あ……あの……こんなにきれいな服を着ていいのですか?」

「はい、大丈夫ですよ。パジャマですから。」


はぁ……やっぱり。


彼女はボディソープを使わず、お湯で体を拭いただけのようだ。体臭はまだ残っているし、濡れた髪もボサボサでちゃんと洗っていない。俺は無言で食事を冷蔵庫に戻し、彼女を再び浴室へ連れ戻した。


「えっと、体はもう拭きましたけど……ア、アリスさん?」


俺はシルヴィアの体を隅々まで丁寧に洗い、髪も二度洗いした。その間、彼女から事情を少しずつ聞いた。


「なるほど……その聖杖は本当に壊れたのですか?」

「ごめんなさい。私にはよくわかりません。見たこともないので……」

「大体のことはわかりました。うん……では、今のシルヴィアさんはすでに『死んだ』と思われているでしょうね。」

「あ、あの……私はただの普通のシスターですが、こんな贅沢にお湯を使っていいのですか?」

「……ではシルヴィアさん、浴槽に入って、100まで数えてから出てきてください。」

「え?! 100、100ですか?」

「はい。」


俺の笑顔を見て、彼女は少し怯えたように大人しく浴槽に入り、「1、2、3……」と数え始めた。俺はリビングに戻り、再び食事を出してた。


現状を整理してみる。彼女の話をまとめると……哀れな騎士セルディス――いや、あの裏切りの副団長に聖杖を壊した罪を嵌められ、二年間王城の地下牢に閉じ込められていた。


元大司教のマティルダはずっと彼女の無実を証明しようと奔走したが、先月彼女自身も捕まったらしい。


そしてセルディスはあの偽騎士三人を雇い、裏でシルヴィアを排除しようとしたところを、俺が助けた形だ。


うん……それもさて置き……。


今冷静に考えると、俺はあの超人気キャラの聖女シルヴィアを隅々までこの手で洗ったことになる。……おかしいな。心が湖どころか、完全に死海レベルで波一つ立たない。普通の男ならここでHP全回復どころか、ソウルがクリティカルヒットで爆発してるはずなのに……。


セリーナに長期間憑依し続けたせいで、俺の理性ステータスがカンストして強制的に賢者に転職したのか? いや、もう完全に「賢者」じゃなくて「枯れた仙人」領域に入ってる気がする……。


まぁ、今さら後悔しても遅いな。ミッションリストを確認すると、案の定クエストが更新されていた。



【※ 緊急クエスト:司教マティルダを救え 残り時間:22時間16分 ※】



今度は司教マティルダを救うのか。


シルヴィアが話していた、彼女を守り、無実を証明しようと奔走した人だな……。


クエスト詳細を押すと、ワールドマップが開き、ターゲットの現在地が表示された。


どうやら司教マティルダはこの国、エルセリス王国の王都グランベルのエリシア大聖堂の中に閉じ込められているらしい。


今、シルヴィアは〈裁きの塔〉に捨てられ「死んだ」と思われているはずだ。次に排除するのは聖女をかばう邪魔な司教……だから急にこのクエストが出てきたんだな。聖女が亡くなった翌日の夜に司教暗殺……怖い話だ。


幸い、迷宮都市と王都は隣接している。はぁ……王都まで走るしかないか。


本来はシルヴィアにご飯を食べさせてベッドで休ませた後、セリーナたちを起こしてこの件を説明し、俺もログアウトするつもりだったのだが……無理っぽいな、トホホ……。


その後、シルヴィアが再び浴室から出てきた。


俺は彼女をテーブルの前に座らせ、食事を食べさせながら、その長い白い髪を風魔法で優しく乾かした。


「あ、あの……アリスさん。マティルダ様でなければ、一体誰があなたを雇って、私を助けに来てくださったのですか?」

「ごめんなさい、ワタシも詳しくはわかりません。ワタシもただ急に依頼が来て、それを受けただけなのです。」

「そう……ですか。」


この世界の神様があなたを救ったよ、と言うべきか……?


うーん、シルヴィアは聖女の件も含めて、やっぱり先にタピオカくんと相談してから話した方がいいな。


「シルヴィアさん、もしかして誰かに『封印』や『呪い』をかけられたことはありませんか?」

「え? いいえ、そんなことはないと思います……。」

「そうですか。では念のため、この薬を飲んでください。これは封印や呪いのような術を解く薬です。」

「は、はぁ……わかり……ました。」


彼女は俺が出した薬を見て、少し怪しげな顔をした。あまり信じていない様子だ。


「ご安心ください。これは怪しい薬ではございません。ワタシが先に一口飲んでみましょうか?」

「いえいえ! 大丈夫です。」


勇気を出して、シルヴィアはガラス瓶の蓋を開け、一気に万能薬を飲み干した。しかし、残念ながら〈封印〉の異常状態は解除されなかった。当然、原因はわからない。


「今日はもう遅いですから、食べ終わったら早めに休んでください。詳しいことは明日またお話ししましょう、シルヴィアさん。」

「はい……ありがとうございます。スープ、とても美味しかったです。」

「お粗末様でした。」


スープの最後の一口を食べ終えたシルヴィアは、まだ何か言いたげな顔をしている。言うべきか迷っているようだ。


「何か、ワタシに聞きたいことがありますか?」

「え? えっと……アリスさん……マティルダ様を助けることはできませんか? 私、お金はありませんが、何でもします!」


……我慢しろ。


シルヴィアはやっぱり人気キャラだな。こうして両手を前に合わせてお願いされると、かわいすぎて抱きしめたくなる。冷静に、冷静に……。


「大丈夫です。彼女を助けることも依頼の一部ですから、安心してゆっくり休んでください。」


シルヴィアは嬉しそうな顔でお礼を言い、大人しく部屋に戻った。布団に入った途端、すぐに寝息が聞こえてきた。緊張が解けて、深い眠りについたのだろう。


では、こっちももう少し踏ん張るか。メニューでリアルの時間を確認……今は午前2時半。


ワールドマップを見ると、迷宮都市から王都までは全速で走れば1時間半ほどだ。司教の顔や大聖堂内の監禁場所はわからないが、とりあえず王都の転送ポイントを解放してから考えよう。俺は再びアリスのキツネ仮面姿に戻り、夜の闇の中で王都に向かって走った。


午前4時、王都「前」の転送ポイントを解放した。しかし王都には入れなかった。当然だ。深夜の城壁門は閉ざされている。王都だけあって警備も厳しく、飛び越えてもすぐに発見される。


夜が明けたら、セリーナたちを王都前に転移して中の転送ポイントを解放し、それから迷宮都市に戻ろう。俺はこのまま翠夢の森の小屋へ転移した。


時間はまだ午前4時。小屋に戻った俺は寝室に入り、可哀想だが、セリーナのベッドの隣で寝ていたサクラリアを起こした。


「サクラリア、起きてください。」

『うん……。』

「サクラリア。」

『うん? ……セリーナ、何かしら。』

「いいえ、ワタシはセリーナではなく精霊ですよ。」

『あら……精霊様。こんばんは~。』


まだ寝ぼけているが、俺は彼女を手に乗せ、リビングへ連れて行った。


出したお茶を飲んだ後、サクラリアは完全に目を覚ました。


『あら、精霊様。今は何時ですか?』

「ごめんなさい、今はまだ午前4時ですよ。」

『何が……あったのですか? セリーナを起こしますか?』

「ええ、お願いします。」


彼女は意外と冴えていて、この時間に俺がいるというだけで何かあったとすぐに察した。俺はすぐにログアウトした。その間に彼女がセリーナを起こしてくれるはずだ。


リアルに戻り、メッセージアプリでタピオカくんに「緊急クエストで聖女を拾った。」と送る。数分待ってから、再びログインした。


『お帰りなさい、精霊様。』

「ただいま戻りました。」


セリーナ:あ、おはようございます。精霊さん。

セリーナ:えっと、一体何があったのですか?


「そうですね、実は……」


俺は翠夢の森の小屋の周りで木材を採集しながら、シルヴィアを助けたこと、現在進行中の緊急クエストのことも彼女たちに説明した。


『なるほどですわ。ではあのシルヴィアさんという子は今、わたくしの部屋で寝ておりますのね。』

「はい、勝手にあなたの部屋を使ってしまって。申し訳ございません。」

『いえいえ、別に気にしませんわ。そのまま使ってくださいませ。』

「ありがとうございます。」


セリーナ:精霊さんが助けたのですから、私も別に何も言うつもりはありません。

セリーナ:とにかく私は今まで通りで大丈夫ですよね。


「はい、今まで通りで大丈夫です。司教を救うことはワタシとタピオカくんで何とかします。」

『精霊様、セリーナと何を話していたのですか?』

「はい、あなたたちは今日は普段通りで大丈夫です。シルヴィアは二年間地下牢に閉じ込められていたため、少し衰弱しています。彼女にお食事や、小屋から出ないようにお願いします。」


サクラリアは自信満々に胸を叩いて、きっぱりと言った。


『わかりましたわ。セリーナはカフェがありますから、わたくしが彼女を見張っておきます。』


気のせいではない、 サクラリアは最近、ほんとにタピオカくんに似てきた気がする……。そんなことを考えていると、セリーナがチャット欄で話しかけてきた。


セリーナ:シルヴィアさんはサクラリアのことは見えないですから、

セリーナ:私も彼女のことを見ときますね。


「お願いします。二人とも。」

『精霊様、今のシルヴィアさんはセリーナのことをアリスと認識しています。精霊様がいない時はどうしますか?』

「そうですね……彼女がいつまでここにいるのかもわかりません。明日……今晩、ワタシはできる限り早めに来ます。司教を救い出した後、この緊急クエストの続きを見てから、また考えましょう。だからセリーナ、しばらくは彼女の前ではアリスの真似をしてください。」


セリーナ:わかりました。精霊さんのことは隠しますね。


『了解しました! 隊長!』


これで、二人への説明は完了だ。あとは王都の城門が開くのを待ち、中の転送ポイントを解放したら、俺もログアウトできる。製作メニューを開き、救出作戦で使えそうなアイテムを作り始めた。


6時になり、城門が開く時間になった。シルヴィアの様子を覗くと、まだ熟睡中。しばらくは起きそうにない。


俺たちはささっと王都前に転移し、正規の方法で王都に入り、最寄りの転送ポイントを解放した後、すぐに小屋へ戻った。


今日は金曜日、平日だ。そろそろログアウトしないとまずい。小屋に戻った後、あとのことはセリーナたちに任せて、俺はすぐにログアウトした。




ログアウトしたあと、真っ先にスマホの着信音が鳴った。タピオカくんだな。


ヘッドギアを外してスマホを取ると、ちょうど着信が切れたところだった。朝食を準備しながら、かけ直す。


『もしもし! 豆腐くん! あれはどういうこと?!』

「おはよう、タピオカくん。」

『あ、おはよう。って、何かあったの?』

「文字通り、聖女シルヴィアを拾った。」

『“カードは拾った”みたいに言わないでくださいよ……。』


俺はスーツに着替えながら、昨晩の緊急クエストのことを彼女に説明した。


『なるほど……昨晩はそんなことがあったんですね。』

「ふぁあ~~。だからこっちは徹夜明けで、めっちゃ眠い。」

『お疲れ様。でもシルヴィアは聖女じゃなくなってる……展開がゲームと違いすぎない?』

「君もそう思う? 俺たち、メインストーリーには干渉してないはずなのに。セリーナと妖精の女王様を救っただけでは、この影響はデカすぎる。それにシルヴィアは“二年前”にすでに地下牢に閉じ込められてたんだぜ。それは明らかに俺たちの影響とは関係ない。」

『それな……。うん、まあ、とにかく私たちは指示通り、今晩あの司教を救い出すしかないわね。』


俺は朝食を食べながら返事した。


「ああ。だから昨晩は王都前に走って、先ほどセリーナと一緒に中の転送ポイントを解放済み。今晩は直接王都に転移できる。」

『待って……あれ?』

「なんだ?」

『今攻略サイトで調べたんだけど、マティルダは王都の大聖堂の大司教で、エルセリス王国ではエリシア教の最高権力者よ。』


俺もすぐに攻略サイトの人物紹介を開いた。……ホントだ。またゲームとは違う展開になってる?!


「うわ……マジだ。メインストーリーはとっくに改変されてるな。」

『ごめん、話はあとで。もうそろそろ出かけないと。』

「俺もだ。今晩は早めにログインできるか?」

『うん~、昼休みにもう一回連絡するね。』

「わかった。」


はぁ~~~~~~。厄介なことに巻き込まれた気がするな……。でもタピオカくんの言う通り、俺たちにできることは緊急クエストをクリアするだけだ。


……やべぇー、遅刻! 行ってきます!!




【※ 緊急クエスト:司教マティルダを救え 残り時間:17時間54分 ※】

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