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55 シルヴィア

『……シルヴィア。』


「うっ……うん……。」


『シルヴィア……。』


「誰……?」



目を開けると、目の前にはエリシア女神の神像があった。ここは――王都のエリシア大聖堂の礼拝堂?私はいつの間にここに連れてこられたのだろう。


女神像の前の床に倒れた私は、虚ろな目で聖堂の天井を見つめていた。すると、天井から知らない優しい女性の声が降りてきた。


『もう少し……もう少し我慢して。』


……もう、無理かもしれない。


友人のシスター・ソフィアから聞いた。先月、マティルダ様もいわれのない罪で捕らえられ、今は軟禁されているらしい。私の無実を証明できる人も、ここから逃れる術も、もう残されていない。


『あなたの毎日の祈りは届いています。大丈夫。もう少し我慢すればいいの、シルヴィア。』


……わかりました。もしこの声が本当に女神様のものなら、私は信じます。どうか、死んだ後は天国へ導いてください。


瞼が重く、私は再び目を閉じた。




滴る水の音で目を覚ます。


「……夢……。お腹が……減った。」


目に映るのは、いつもと変わらぬ石壁と錆びた鉄格子。湿った空気が肌にまとわりつく。ここは王城の地下牢。


私――シルヴィアがここに閉じ込められて、もうすぐ二年になる。


平民の両親に似合わぬこの真っ白な髪のせいで、4歳な時、まだ子供だった私は捨てられた。だから、この髪が好きではなかった。


当時、捨てられたことに気づかぬまま、市場の端に座り込み、戻らぬ両親をずっと待ち続けていたあの日。白い修道服を纏ったおばあさんが現れ、この髪を見て驚いた。私はこうして――大司教マティルダ様に拾われた。


両親から与えられた名前も知らなかった私は、マティルダ様から「シルヴィア」という名を授かった。彼女は時に優しく、時に厳しく指導してくださり、私にとって本物のお母さんのような存在だった。白髪を「綺麗だ」と褒めてくださったこともある。子供の機嫌を取るための言葉だったのかもしれないけれど、私は嬉しくて、嫌っていたこの白い髪への偏見を捨て、いつの間にか腰まで伸ばすようになった。


なぜ私が捨てられたその日に、偶然大司教のマティルダ様が市場にいたのか――ずっと不思議に思っていた。尋ねたとき、マティルダ様はただ「あなたとの出会いは女神エリシア様の導きだ」と微笑んで答えてくださった。だから私は、その言葉を信じ、感謝を込めて毎日女神様に祈りを捧げている。



年月が過ぎ、二年前――私が十八歳になったある日。いつものように礼拝堂を掃除していた私の前に、大勢の騎士が踏み込んできた。彼らは、伝承にある邪竜を封じた聖女の聖杖を壊した疑いで、私を捕らえたのだ。


そんな……私はただのシスターなのに!聖杖がどこに保管されているかすら知らない。それに、あの大事な聖杖は本来なら聖王国にあるはずで、エルセリス王国にいる私が壊せるはずがない。冤罪だ。


後で知ったことだが、聖杖は千年前の封印儀式を再現するため、先月エルセリス王国に運ばれていたらしい。そんなことは司教以上の立場でなければ知るはずもない。


聖杖が壊されたの責任を問われ、大司教だったマティルダ様は降格され、司教となった。大司教の座は彼女のライバルであるヴァルター様が継いだ。


それでもマティルダ様は私の無実を信じ、毎週牢に来て励ましてくださった。地下牢の看守たちも、その会話を耳にして私は嵌められたことを知り、無実だと信じてくれるようになった。そのおかげで拷問されることもなく、処遇も良くしてもらえた。


しかし、マティルダ様が「聖杖壊したのは私ではない」という証拠を提出してくださっても、なぜか同時に「私が犯人だ」とする証拠が現れた。その証拠を出したのは、今の大司教ヴァルター様だった。マティルダ様は次第に、彼の関与を疑い始めた。


「ある情報筋では、ヴァルターは邪竜復活組織“奈落の七印”に関わっているそうだ。シルヴィア、大丈夫。もう少し我慢して。すぐにここから出してやる。」


その言葉を残した後、マティルダ様は二度と牢に姿を見せなかった。


それから、私への扱いは日に日に悪くなり、食事も残飯ばかり。わずかな欠片でも口にできれば、それだけで嬉しいと思うほどだった。


看守たちは申し訳なさそうに、こっそりパンを渡してくれることもあった。もしそれがなければ、私はとっくに餓死していたに違いない。けれど――なぜマティルダ様が来なくなったのか、看守たちも知らないという。……きっと忙しいだけ。そう信じるしかなかった。私はただ、彼女の身体が壊れていないように祈ることしかできなかった。


だが、祈りは届かなかった。先日、シスター・ソフィアがこっそり牢に来て、マティルダ様が軟禁されたと告げたのだ。


そう……だから来られなかったのですね。過労で倒れたのではなくて、それだけは救いだった。けれど、もう私を助けられる人はもういない。


お腹は空きすぎて、考えることすら諦めてしまった。




今に戻り、牢の中で、ふと人の足音が近づいてくるのを聞いた。


いつもの看守ではない。騎士の姿をしているが、どこか粗野で騎士らしくない男たち三人が、私の牢の前に立ち、扉を開けた。


「……おい、出ろ。」


釈放?――そんなはずはない。


私はゆっくりと立ち上がり、牢を出た。木製の手枷を掛けられた瞬間、悟った。これは自由ではない。ついに、その時が来たのだ。


彼らに連れられ、二年ぶりに牢の外へ出る。けれど、周囲は暗く、日はすでに沈みかけていた。


「誰にも見つかる前に、こいつを樽に入れて運べ!」

「はいよ。」


私は樽に入れと命令されました。リーダーらしい男のこの発言を聞くと。”誰にも見つかる前に”を言うと、もしかして彼らは私は助けに来たの人ですか?


樽は馬車に積まれ、激しい揺れとともに走り出す。暗闇の中、彼らの会話が耳に届いた。


「おい…ロニー。こいつを適当に殺して森に捨てればいいだろ?わざわざ裁きの塔に運ぶ必要あるか?」

「知らねぇよ。セルディスの旦那から命令されたんだ。武闘祭の前に、死体すら残らねぇように裁きの塔に捨てろってな。」

「……ギリギリだな。もう予選が始まる頃だぜ。」

「馬鹿言うな!王城の地下牢に入り込むだけで、どれほどの準備と金が必要だと思っている!」

「はいはい……でも勿体ねぇな。こいつ、美人だし、売れば高くついたのに。」

「冗談言うな。もしこいつが生きてると知られたら、俺たちが殺されるぞ。」


……やっぱり。私は処刑に向かっている。


私を嵌めたのは、セルディスという男だ。どうすれば、このことをマティルダ様に伝えられるのだろう。けれど、もう諦めるしかない。暗闇の揺れの中で、私はただ静かに目を閉じた。



何時間走ったのか分からない。やがて馬車は止まり、樽の蓋が開けられ、私は外へ引きずり出された。


「おい、さっさと歩け!逃げられると思うなよ。」


ローブを頭から被せられ、抵抗する気力もなく、私はただ彼らの後ろを歩くしかなかった。しばらく進むと、目の前に高い塔が現れる。――裁きの塔。死刑囚の処刑場として扱われるダンジョン。ここが、私の死に場所なのだ。


結局、あの夢の声も嘘だったのだろう。ただのシスターが女神の声を聞けるはずがない。……そうか、もう少し我慢すれば魂は解放される、という意味だったのだ。女神エリシア様、申し訳ございません。どうか私が死んだ後、マティルダ様をお救いください。


祈りながら歩く私の耳に、男たちの下卑た笑い声が響いた。


「本当に守衛はいなかったな……さすがセルディスの旦那の手配だ。それに噂通り、塔は前よりずっと伸びてやがる。十階だったのが今じゃ四十階か。高ぇな……」

「なあ、ロニー。この女はどうせ処分されるんだ。最後にちょっと楽しもうぜ。ここらじゃ誰もいねぇし」

「ゴルドてめぇ……うん、この女……結構いい体してんな。確かに勿体ねぇ」

「おいおい、ロニー、ゲル。楽しむならオレにも混ぜろよ」


リーダー格の男は、明らかに私を舐めるような目で見ている。囚人服ではほとんど隠せていない私の身体を、じろじろと。――あんな者たちに……絶対に嫌!


私は塔に向かう足を少し遅くし、頭にかぶったローブの隙間から必死に逃げ道を探した。


「シスターなんだろ? 俺様みたいな迷える子羊を慰めてくれよ。へへへぇ!」

「め~~~ぇぇ!!」

「ひはははっ!」


「……!」


彼らが油断した瞬間、私は後ろへ逃げ出した。


だが子分の二人がすぐに退路を塞いだ。逃げられない!


私は勢いよく前にいるのリーダーの方に体当たりした。彼は反射的に横に避けた。その勢いのまま、私は塔の入り口へ駆け込んだ。どうせ私は死ぬ運命なのだ。せめてさっさと塔の中に入って、私を解放させて! あなたたちの思い通りになんかさせない!


「ちょっ! ゲル! ゴルド! こいつ捕まえろ! 塔に入る気だぞ!」


塔の中へ足を踏み入れた瞬間、左右の壁に備えられた松明が自動で灯り、中央の魔法陣が青白い光を放ち始めた。


あそこに入れば、私は解放される!


「はぁ……はぁ……きゃっ! ……いたっ……」


塔に入った直後、急に体が崩れ落ちた。何? 脚が……生暖かい。


見ると、太ももにナイフが深く刺さっていた。痛みを無視して、私は這うように魔法陣へ向かった。最近ろくに食事も取れていない。手枷のせいで思うように進めない。それでも持てるすべての力を振り絞って前へ。だが残念ながら、リーダーはすでに私の前に立ちはだかっていた。


彼はかがみこみ、いやらしい笑みを浮かべて私の顎を掴み上げた。


「おいおいおい、そんなに死にたがるなよなぁ! ひはははぁ! 俺様と遊んだ後から逝っても遅くねぇって。可愛がってやるよ。」

「いや……来ないで!」

「いいぞいいぞ! 叫べよ、興奮するぜぇ!」


もう……詰んだ。


「くおぅっ!!」

「くぅっ!!」


後ろから子分たちの悲鳴が響いた。


リーダーは倒れた私の背後を見て、急に顔色を変えた。


「誰だ! 貴様!」


「黙りなさい。」


冷たく鋭い女の声が響いた瞬間、リーダーの体が横に吹き飛び、塔内の壁に叩きつけられた。そして床に倒れた私の視界を覆うように、ローブをまとった少女の背中が立ちはだかった。


その視線はリーダーに向けられており、私ははっきりと「守られている」と感じた。やがて少女は顔だけを右に傾け、私に視線を落とした。


「……味方です。助けに来ました。」


キツネの仮面?


少女はキツネの仮面をつけている。味方……? 助けてくれたの? この子は一体……?リーダーは素早くポケットから回復ポーションを取り出し、一気に飲み干した。傷がみるみる塞がっていく。


「いってぇな! 英雄気取りのお嬢ちゃんかよ。俺様たちの後ろに誰がいるか知らねぇのか? はあ!! でも残念だったな! 俺達を見た貴様も、その女も死ななきゃなんねぇんだよ!!」


その言葉にも少女は何の反応も示さない。リーダーは迷わず腰の剣を抜いた――が。剣の刀身の上半分が、一瞬で消えた。


鋼の刃は音もなく斬り落とされ、静かに床に落ちる。そして次の瞬間、彼女はいつの間にかリーダーの背後に立っていた。


軽く押しただけなのに、彼はバランスを崩し、そのまま塔の魔法陣の中に足を踏み入れてしまった。

「や、やめてくれ! 俺は死にたく……!」リーダーの叫びは途中で途切れ、彼はそのまま消えた。


続けて、キツネ仮面の少女は気絶した子分たちを片方ずつ引きずり、ゴミでも捨てるように魔法陣へ放り込んだ。そして最後に私の側へやってきて、優しく、安心させるように囁いた。


「もう大丈夫です、シルヴィアさん。助けに来ました。」


……本当に……助けに来てくれた。


夢じゃないですよね。


脚の痛みが、これは現実だと教えてくれている。


「あり……がとう……」


その後、彼女は私の脚に刺さったナイフをそっと抜いた。


ナイフが抜かれた瞬間、意識が急速に遠のいていった。



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木曜日の夜、俺とタピオカくんは夜の11時まで〈覇者の塔〉を周回した。


周回が終わって小屋に戻ると、俺はセリーナのケーキ作りの材料を補充しながら、ひとをダメにするクッションでくつろいでいるタピオカくんに声をかけた。


「タピオカくん、週末は試しに41~50階層に挑戦してみませんか?」

『いいですよ。セリーナとサクラリアの今のレベルじゃ、31~40階層の経験値はもう旨味がないし、私の弓も出た……出るはずもないけど、40階層限定ボスの古代兵器のUR片手剣も今日ドロップしたからね。』

「そうですね……。ドロップのお知らせが出た瞬間、ワタシも本当に見間違いかと思いました。こうして、そろそろ上を目指して、不死鳥の紋章を取ろうと思います。」

『了解。じゃあ明日は作戦会議ですね。私ももう一回攻略動画見て予習しとく。完凸の火耐性指輪はもう作った?』

「全属性の指輪の準備は完了しています。そちらの閃光玉はどうですか?」

『量産完了。一応百個作ったよ。』

「では、攻略再開を明日セリーナたちに伝えましょう。……はい、ケーキ材料の在庫補充も終わりました。今日はこれでおしまいですね。」

『じゃあ私は先に上がるね。おやすみなさい~!』

「おやすみなさい、タピオカくん。」


タピオカくんは寝室のサクラリアのベッドに戻り、そのままログアウトした。俺もパジャマに着替えてセリーナのベッドに入り、ログアウトした。


リアルに戻って軽く体を動かし、明日の朝食の準備を済ませた後、俺もベッドに潜り込んだ。




目を開けると、そこは夜だった。


俺はとある塔の前に立っている……視線が妙に低い。月の光の下で見上げたその塔は、紛れもなく〈覇者の塔〉。


いつの間にログインしたんだ?


いや、意識がめちゃくちゃはっきりしている。先ほどログアウトして寝たはずなのに……ここは、夢?メニューを開こうとした瞬間、視界の中央に赤い文字が大きく浮かび上がった。



【※ 緊急クエスト:聖女シルヴィアを救え! 残り時間:3分 ※】



リアル側の俺は一瞬で目を覚ました!!


自分のベッドで目を開けると、リアルなのに、先ほど夢で見た巨大な緊急クエストの通知が目の前に浮かんでいる。周りを見回す。真っ暗だ。ここは俺の部屋。


考える暇はない!すぐにヘッドギアを被り、セレアグの世界へログインした。



残り時間:1分



ログインと同時にミッションページを開くと、当然のようにあの緊急クエストがリストにあった。


タップするとワールドマップが展開され、黄色く点滅するポイントは〈覇者の塔〉の転送ポイント付近を示している。


マイセットでいつものアリスのキツネ仮面姿に切り替え、即座に〈覇者の塔〉へ転送した。


転送直後、目に飛び込んできたのは、痩せた騎士風の二人の背中だった。



ゴルド Lv.10

ゲル Lv.9



さらに前を見ると、塔の入り口の中で、筋肉質な騎士風の男が、囚人服姿で脚にナイフを刺されたまま倒れている白髪の少女に向かって、にやにやと話しかけている。


「おいおいおい、そんなに死にたがるなよなぁ! ひはははぁ! 俺様と遊んだ後から逝っても遅くねぇって。可愛がってやるよ」

「いや……来ないで!」

「いいぞいいぞ! 叫べよ、興奮するぜぇ!」


ミニマップを確認。いつもの守衛の姿がない。しかもこの三人は見事に赤い丸、敵だ。倒れている女性は黄色く点滅する保護対象の聖女。


周囲は暗いので、まだ俺の存在には気づいていない。ここで騒がせたら面倒なことになる。まずは背を向けている雑魚二人から。下位格闘技〈昏倒打ち〉を発動。


「くおぅっ!!」

「くぅっ!!」


レベル差で確定気絶。短時間とはいえ完全に無力化できた。


仲間の悲鳴を聞いて、筋肉男がようやくこちらに気付いた。



ロニー Lv.15



「誰だ! 貴様!」

「黙りなさい。」


レベル低い、騎士になれるレベルかよ……と心の中で突っ込みながら、俺は塔の入り口へ飛び込み、その勢いのまま、ロニーを塔内の壁に蹴り飛ばす。手加減はした。本気でやったらバラバラになるし、後片付けが面倒だからな。


そして聖女の前に立ち、彼女を安心させるように静かに言った。


「……味方です。助けに来ました。」


ロニーは素早く回復ポーションを飲み干し、蹴られたダメージを癒すと、なぜか自信満々に笑った。


「いってぇな! 英雄気取りのお嬢ちゃんかよ。俺様たちの後ろに誰がいるか知らねぇのか? はあ!! でも残念だったな! 俺達を見た貴様も、その女も死ななきゃなんねぇんだよ!!」


彼は剣を抜いた。


俺も無駄に時間をかけない。UR短剣を抜き、その剣を斬り払う。武器を弾くつもりだったが、攻撃力が高すぎて、刀身の上半分が綺麗に斬り飛ばされた。


まぁいい。そのまま流れるようにロニーの背後に回り込み、軽く押す。ロニーはバランスを崩し、〈覇者の塔〉の転送陣の中に足を踏み入れてしまった。


「や、やめてくれ! 俺は死にたく……!」


外で気絶していた二人も、同じように転送陣へ放り込んだ。


〈覇者の塔〉挑戦者三名、ご案内~~!……酷い?いや、何があったかは知らないが、聖女の姿を見てみろ。あの薄っぺらい囚人服の前で、不良みたいな騎士三人。先ほど明らかに薄い本のようなことをしようとしてたぞ。悪い奴に決まってる。許せない。


再びミニマップを確認。周囲に人影なし。ヨシ! 目撃者全員消去完了。ステルス任務完了。


もう一度聖女を見ると、彼女は脚にナイフが刺さったまま床に倒れ、虚ろな目で俺を見つめている。


なぜメインキャラの聖女シルヴィアが囚人になって殺されかけているのかはわからない。とにかく今は酷く衰弱している。先に安心させてから、小屋に戻ろう。


一応、シルヴィアの状態を確認してみようか。



シルヴィア Lv.3 <封印>



封印?こんな異常状態、聞いたこともない。セレアグの通常システムにこんな異常状態はないはずだ。それにレベルが低すぎる……攻略動画で見たNPCの聖女シルヴィアは、光魔法をバンバン使ってたはずなのに。


そんなことより、まずは彼女の脚を治して、ここから離れなければ。


「もう大丈夫です、シルヴィアさん。助けに来ました。」

「あり……がとう……。」

「シルヴィアさん、脚のナイフを抜きますね。少し我慢してください。」


聖女シルヴィアはゆっくりと頷いた。


俺はハンカチを彼女の口に優しく噛ませ、ナイフを一気に引き抜く。布を強く噛みしめて耐えようとした彼女だったが、痛みに耐えきれず、そのまま意識を失ってしまった。すぐに回復魔法をかけ、傷を塞ぐ。守衛たちが戻ってくる前に現場を片付けなければ。



よし、片付け完了、ミニマップを確認すると、周囲に人影はない。


シルヴィアをそっと背負い、セリーナのカフェへ急いだ。カフェに入り、翠夢の森の小屋と繋がっている扉を通る。


サクラリアはまだ寝室で眠っているようだ。俺はシルヴィアをソファに下ろし、使ったことのないサクラリアのプライベート部屋の家具を片付けて、新しいベッドを設置した。


彼女をそっと寝かせてみる。……まだ起きる気配はない。


うん……臭う。女性にこんなことを言うのは失礼極まりないが、正直に言うと、シルヴィアからはかなり強い体臭がする。


仕方ない。粗末な麻布の囚人服は汚れきっているし、痩せ細った体を見れば、長い間まともな食事も風呂も与えられていなかったのだろう。


これは……ゲームのメインストーリー前の出来事?いや、聖女シルヴィアにそんな設定はなかったはずだ。まぁ、彼女が起きたら直接話を聞いてみよう。


封印の異常状態について、試しに〈聖護の首飾り〉を彼女の首にかけてみたが、効果なし。当然か。この装備は異常状態を「防ぐ」ものであって「解除」するものではない。仕方ない。起きたら〈万能薬〉を飲ませてみて、封印が解除できるか試してみよう。


メニューを開き、クエストページを確認する。


緊急クエストは一応達成扱いになり、時間制限の表示は消えていた。しかし、進行目標が更新されている。



【※ 緊急クエスト:聖女シルヴィアを救え! ※】


進行目標②:聖女シルヴィアの話を聞く。



……連続クエストか。時間制限もないし、今日中に最後までクリアする必要はないな。俺は静かに浴室へ向かい、彼女のためにお湯を沸かし始めた。


続いて、消化が良くて食べやすいスープや柔らかいパン、果物などを用意する。



はぁ……どうやら今日は徹夜になりそうだ。

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