アイロニック
宜しくお願いします
レントルス公爵家にある裏山の敷地はその家並みに大きく、そこには広々とした草原があると思ったら神秘的な森もあり、壮観な滝があると思えば静かな湖もある前世でもメリエード伯爵領でもあまり見かけられない自然の庭園です。
でも当のレントルス公爵家の人達は一生に何回しか裏山に行かず、そこはもはや王都にある誰も知らない楽園になっている。
思えば翔さんが変にならなかった時私は翔さんに裏山の奥へ連れてってもらったことがある。確かあの時私はミミやエーナにもあっていなく、ただ悪役令嬢の心得を翔さんから教わっている最中に気分転換として連れてってもらっただけ。
楽しかった、そして、あの時久々に心から笑えた、
そして夕焼けが沈み、寂しさと同時にここから帰ろうとしたとき、翔さんは闇に染まった草原を指して言った、『次はここでピクニックするか。』っと。
嬉しかった、
とても、とても嬉しかった。
あの時私は安物王子に、実の家族に、信じていたすべての人々に軽蔑され、この約束は多分当時の私にとって前を向く光になっていたのでしょう。
きっと、いつかまたここに来れるよう頑張ろうと思いながら......
でも光は今でも持ってもいいのでしょうか?
昼過ぎの光が私を纏い、影がくっきり地面に写っている。
私はレントルス公爵家にある現当主自慢の花園で少しだけ見える裏山を眺めながら思う、私は、このままでいいのかっと。
“カサッ”
はあ、
後ろに二人、草陰にもう一人、多分あともう一人ぐらいいるってところですわね。
ほんと、ペドルアと暗部さん達には知らされてないようだけど私は翔さんに少しでも尾行を察知できるよう血が吐くほど鍛錬したの!
まあ、私は今昔の優しい思い出に溺れてる暇も時間もないのですし、このクソゲーに関する知識はオープニングのちょっとぐらいしかない。
だから私はどうしても裏山に行きたいのです。
行って、エーナが無実だという証拠を、いいえ、せめて手掛かりを見つけて、そしてもうこれ以上仲間割れがないように、私の心に迷いがないようにしないといけません。
ですがどうでしょう、私は今レントルス公爵家直属暗部達にお風呂と着替えとお花摘み(手洗い室)に行くとき以外24時間体制で見張られています。
「はあ、」
どうしましょう、あれからペドルアはあれこれ理由をつけながら公爵家の特権を使って私をここにいさせるし、闇ちゃんはいつの間にかいなくなっちゃうし、エリティは寄宿学校へ放り出されましたし、お父様やお母様はまだ領地から帰ってきてませんし、いや、確か二人はお兄様と性悪女の婚約披露パーティーの時でも隣領地でのんびり観光とかしていましたな。
「はあ、」
どうしましょう、
夜になっても見張られてますし、流石にレントルス公爵家の関係者に翔さんが残してくれたものを曝すわけにはなりませんし、
ですがこのまま何もしないのですか?!
ううううううううううううう、
それはそれでなんか悔しいですわ!
「やはりここにいらしたのですか。」
この声は......
「翔さん!?」
「。。。。。。。。。。。。。。。。。」
ああ、
「......れ、レントルス公爵令息......ご機嫌よう。」
そうですよね、翔さんはもう......
いけません、前を向くって決めたじゃないですの!
「。。。。。。。。。。。。。。」
なんですかその苦笑いは、私は現在色んな意味で怒っていますのよ。
「レントルス公爵令息?」
「......ごめんなさい。」
「え?」
「本当はエモリア嬢が婚約破棄するのを待ってから僕に溺らせるはずでした。」
「。。。。。。。。。。。。。。。」
あれ、一見辻褄が合ってるように聞こえますが順序間違ってません?
そこは告白をしてから両方の同意の状況でつなげるべきでは?
私の気持ちはどうでもいいのですか?
「エモリア嬢?」
はあ、
「いいえ、お構いなく、それにレオール様と婚約破棄してから私は一生独り身になると神に誓いますから安心してくださいませ。」
ええ、例え眼の前に翔さんと同じ見た目の人がいても、翔さんと同じ声がする人がいても、私は......
「どうして?」
「。。。。。。。。。」
「僕は、最初っから言ってるのに、どうして......?」
「はあ、もうお互い芝居をお止めになられては?
私はもう疲れたのです、それに私はレオール様を愛してませんし愛せません、ですから私はセレナ嬢が愛する人を奪いませんし奪いたくもありません、」
そう、あの性悪女が私達悪役令嬢の安全と利益を脅かさないのであれば彼女が誰とフシダラな関係を持つか全然興味ない。
だから、
「ですからもう、開放してください、」
愛する人の側にいるようでいないこの生き地獄から......
「。。。。。。。。。。。。。。。。」
「あと、私は何もしないのでどうか暗部の皆様にお引取りして貰いませんでしょうか?
私はこう見えてもプライバシーを大事にする人なのです。」
「。。。。。。。。。。。。。。。。。」
「。。。。。。。。。。。。。。。。。」
うう、気まずい、でも、
悪役令嬢の心得その19、
真の悪役令嬢はどんな気まずい沈黙があっても消して動じることがなく、相手になんの隙もない完璧な令嬢を魅せ付ける。
そう、私はここではこの世界では悪役令嬢、
ですから悪役令嬢は敵の前ではクールで完璧にならねばいけません。
ええ、例え眼の前にいるのが翔さんと同じ外見と声をしても、絶対にしくじってはいけません、絶対に。
「わかりました、」
う、
「エモリア嬢がお気になさらないのでしたら今日はここで引き取りますし見張りもやめさせます。
ですがひとつだけ、エモリア嬢、僕が愛してる令嬢はセレナではなくエモリア・メリエード、あなたです。」
「またこのような事を、」
「本当です、それと、以前お話したように僕は『しょうさん』が誰か知っています、」
ああ、
「今も、ここに、あなたの目の前にいるのでしょう、だからあの時、いいえ、今でも確信します、僕が例えあなたに変なことしてもあなたは『しょうさん』に免じて僕を恨まないと。」
うう、確かに、そうかも知れない......
「ですがこんなの僕は嫌なのです!」
「え?」
「エモリア・メリエード伯爵令嬢」
「あ、はい、」
「確かに僕はあなたがドン底にいる時手を差し伸べられなかった、一緒に困難を乗り越えられなかった、そしてあなたがドン底にいる時、世界に絶望した時あなたの側にいたのは誰でもない、『しょうさん』でした。」
「ええ、そうですわ、それに「でも!!」」
「でも、僕は『しょうさん』じゃない!『しょうさん』じゃないけど僕が愛してる人は彼を愛してる......僕だけを見ていればいいのに......」
うう、
なんか、私、悪役になってません?
いや、最初っから悪役令嬢ですが......
「あの、」
「ですがもうこれでいいのです。」
「え?」
そしてペドルアは素速く片膝を地面に置き、気付いたら私の目の前には私の髪色と同じ色の宝石が乗ってる指輪が現れた。
「え、その、何してるのですか?!」
いけない、私はクールでいなければならないのに!
「エモリア、僕と結婚してください!」
え
「ええええええええええええ!!!」
もう悪役令嬢どころかご令嬢らしく居られない!
なんですのこれ、新手な詐欺ですか?!
ふう、落ち着け、落ち着くのですわ私、そう、大丈夫、まだクールにいられる。
“ガバッ”
って、いつの間に立ったのですか?それに私の腰を抱かないでください、近い!
「エモリア、愛してるよ、ずっと、ずっと、永遠に......」
イヤイヤイヤイヤやめて、怖い!
「その、私は婚約がある身で、「今はもう多夫一妻の時代です、貴族としていい見本になりましょう。」」
う、
「ですが私はあなたを愛し「『しょうさん』は僕の一部でしょう、だからあなたは絶対にぼくを愛せる。」」
うう、
「いや、ですが私の親は「それは大丈夫です」」
え?
気がつくとペドルアは服のインサイドポケットから折り畳められた紙を取り出し、そして彼は私の腰を抱いたまま書類を私に見せた、
「。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。」
「。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。」
「。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。」
「。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。」
「。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。なあっ!」
「ほらね、これで僕たちは永遠に一緒だよ。」
その書類は前世で言う結婚届けみたいなもので、そこにはレントルス公爵家現当主のサインとその紋章が刻まれてる印ある以外に見覚えがありすぎてままならない私のお父様のサインとメリエード伯爵家御用達の印がくっきりとあった。
ちなみにこの国では最低半年も婚約して結婚するのが貴族の中では暗黙のルールみたいにあっており、国は半年間婚約してきたカップルに初めて結婚届をもらってもいいよという通達を送る。
“カタカタカタカタ”
え、なにこれ、怖い、
どうして、あの性悪女とお兄様でさえ婚約届しか出してないのに!
「勘違いしないで、今の所僕はまだこの書類を出さない、
僕はただエモリアの心を、本当の愛を欲しいだけだ。」
そう言って彼は私の手を取り、同時にあたりと私の時間が止まったように静かで、私はペドルアが太陽の反射でキラキラ輝く黒に近いサファイアリングを私の右手の薬指に嵌めるのを止めたくても止められなかった。
「あ、うう、」
「今回は我慢して右手に嵌めました、ですが次回はあなたの左手の薬指に僕たち二人で選んだ指輪を嵌めましょう。」
うう、
本当は言ってくれてる人も言っている人も嬉しいはずなのに、
それなのに私は嬉しさとは別の言葉では言い切れない情が湧いてきて、目の前で立っているペドルアの顔はなぜか悲しく歪むのを見ながら心が何かに押し潰されるかのように重く感じてきた......
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