【K】 第十一話
情報を得た以上、早急に伝え対策を練らねばならない。そう思いながらキーンの足取りは重かった。手持ちの布に包んだ“収穫”はレジスタンスの1人が命懸けで隠した決定的な証拠。それが示す事実、ルネファーラ王国の直属ということはエルンストに連なる相手の可能性が大きいということ。
これが偽装の証拠という可能性もゼロではないが、明らかにレジスタンスへの口封じは荒さが目立っていた。一刻も早く命を奪うことだけを優先したように。明け方が近かったとはいえ、入り組んだ路地裏での惨劇は発覚が遅れるはず。にも拘らず帰路の途中では物騒な連中が通った、悲鳴を聴いた等の多くの証言者が居た。形振り構わなかったというわけだ。
色々考えたところで情報は伝えるのだから躊躇している時間が惜しい。素早い移動をしながら今後の事を考えるキーンの眉間にはいつも以上に皺が寄っている。城内部の事は詳しくない。というより……あまり介入する気にならないというのが本音だ。シェリウスに任せればいいと思う反面、どうにも感情がないような印象が強い相手に任せるのに抵抗がある。頭も良い、安定した魔術を評価しないわけではない。けれど見下すような態度が許せない。自身がスラム出身ということもあるが身分や実力を鼻にかけて見下す態度を当たり前とする相手は全て嫌悪の対象なのだ。
恐らくこの情報を明かせば心穏やかではないだろうエルンストの心情とその傍らに居るであろう相手を思えば余計に気が滅入るという状況にキーンの口が何か呟いた。それはきっといつもの口癖――「面倒くせぇ」
室内に滑り込むように戻ったものの珍しく口篭る。証拠を隠した胸元に手を置いて小さくため息をつけば、気遣わしげな声と共に手が差し伸べられた。キーンはやんわりとその腕を止め微かに苦笑した。
「傷が痛むのか?」
「……大丈夫だ。ただ……今回は随分嫌なものを拾っちまったみたいだぜ?聞く勇気はあるか、エルンスト王子。」
「貴様っ」
いつも通りとはいえ無礼な物言いにシェリウスが黙っているはずもなく、それが途中で途切れたのはエルンストの所作。静かに制するように上げられた手と肩越しの穏やかな瞳。
「聞こう。……私はそれほど柔ではないつもりだよ、キーン。」
「……無礼をした。」
何処までも穏やかな強い瞳。キーンは愉快そうに僅かに表情を和らげ片膝を付いた。左手を床に、右手を立てた膝に置いての最高礼。普段滅多に見せないが一応の礼儀は身に付けてあるのだ。シェリウスには青天霹靂といった感じだろうか。
何事もなかったように立ち上がったキーンは報告を始めた。淡々と。件の暗殺の時に感じていた違和感、先の襲撃時にツバキに鎌をかけたこと、レジスタンスが口封じされたこと。そして、懐から取り出したものをエルンストの傍の座卓に置く。開かれた布から現れたものに重い沈黙が落ちた。伝達者は各々が衝撃を受け、受け入れるのを黙って待つ。
「……なるほど。兄上の件、今回の件と首謀者は内部に居るということか。」
「ああ。裏付けは少ないが馬車の配列を知っていたこと、あっさりとこの部屋に暗殺者が来たこと、口封じの手段が形振り構ってないことからも、多少の騒ぎなら権力で潰せるってことだと思うぜ。」
キーンは事実とそこから予想され得ることを全て隠さずに口にする。それに対し配慮が足りないと非難されることも多い。けれど護るということは命懸けなのだ。相手のことを心配して綺麗事を並べて護れるほどエルンストの周りを取り巻くものは甘くはないのだから。




