56話 彼らは祝福した
ーダンッダンッバンバババン
常に銃声が鳴り続けている。
しかし、この音は鳴り止むことはない。
何故ならば、いくら鉛玉をぶち込んでもその〈存在〉は朽ちることなく、生き続けているからだ。
「くそっ。どんだけ撃てばいいんだよ」
そんな状況に流石の廉も頭を抱えている。
今は保護監視施設で世界〈存在〉と対峙している最中であるが、苦戦を強いられているわけではない。
それは、あちらから攻撃をしてくるわけではないが、こちらが近づけば話は変わるからだ。
集致の合図で突っ込んでいった一人の隊員は、強力な攻撃を受けて即死した。
そのため、今は距離をとりながらの攻撃となっている。
「絶対おかしい…当たった時に効いてる素振りはあるのに」
一方で廉の隣で立つ日奈は、疑問を抱いていた。
目の前の敵、世界〈存在〉は封印が解かれてから一歩も動いていなかった。
しかし、封印を解いた稀縞幸造を吸収してからは違う。
僅かだが、徐々に行動範囲を広げている。
そんなことを考えていると肩を掴まれた。
「日奈、このままじゃ、状況は変わらない。だから、やってくれないか…」
やるって…多分…。
「〈太陽〉ぐらいじゃないと、あの怪物には決定的なダメージが入らない、と思う」
「…」
廉は悲痛な表情を浮かべながら、日奈に頼み込んでいる。
それは、日奈が命を慮っていることを廉がよく理解しているからだ。
日奈にあの怪物に〈太陽〉をぶつけることに躊躇いはない。
だが、一応稀縞幸造が吸収されていることは気にしているのだろう。
「…分かった。…今回はもう、仕方ないよね」
「ごめんな」
俺がもっと強ければ…
廉は初めて、弱気な姿を日奈に見せた。
「っ!!」
その顔を見た日奈は、自身の葛藤が吹き飛んで覚悟が決まった。
あたしは好きな人にそんな顔をさせてしまったんだ…
もう二度とそんな顔をさせない!
ーポワン
すると、〈太陽〉が日奈の手から浮かび出した。
「今から、やるから」
「ごめ…」
「廉にお願いがある。あたしが攻撃した時の怪物の様子をよく見といて」
即座に日奈が言葉を重ねる。
再び謝らせないように…
「任せたよ?」
「…あぁ任せろ!」
ようやく、廉にも覚悟が伝わった。
ービュン
そして、日奈は〈太陽〉を世界〈存在〉に向かって飛ばしていった。
ーボシュウウウ!
「おぉ!」
まだ尚も銃を撃ち続けている辺境守護者達からの歓声がきこえる。
なんと、日奈の攻撃は世界〈存在〉の中心を捉えるように貫通してた。
ーパァァ!
「何だって…」
廉はしっかりと観察していた。
だからこそ、それを知って絶望に近いものを覚えたのだ。
世界〈存在〉を〈太陽〉が貫いた、そこまでは良かった。
だが、次の数秒後には何事も無かったかのような状態まで回復していた。
果たして、これを回復と表現して良いのだろうか?
いや、そんな次元の話ではないだろう。
とりあえず、今分かったことを日奈に共有しなくては。
「ーーー」
そして、分かったことを伝えると日奈の表情が変化した。
「そっか。じゃあ、いくらやって死なないんだね」
話を聞いた日奈はまるで、作戦があるかのような希望に満ちた様子だった。
ーダッダッダッ
すると、集致がこちらへ走ってきた。
「今やったのどちらかな?」
「あたしです」
「あぁ。本当にいてくれて助かった!!」
集致は日奈の手を握り、感謝の意を表している。
「まだまだですよ。これから、もう一度あたし達が攻撃をするので、そちらは距離をとったまま銃を撃ち続けてください」
ーボシュッボシュウウウ
〈太陽〉は自由奔放に動き回り、世界〈存在〉の体に次々と穴を開けていく。
それを見た集致は、腰の辺りからトランシーバーを取り出した。
「流石の火力だ。…全隊員につぐ、弾が無くなるまで撃つことを命令する」
ーダンッダッダンッダッダンッダッ
指示により、辺境守護者達の発砲はより過激になっていった。
この時、廉は無力感に駆られていた。
主とする〈拳〉の能力は接近戦に特化したもので、中距離に拳の衝撃を飛ばせるが、今は味方の邪魔となってしまう。
そのため、もやもやした気持ちを抱えながら世界〈存在〉を観察することだけに集中していた。
「ん?」
と、廉は微かに声をあげてしまうくらいの違和感を覚えた。
それは、日奈と辺境守護者の完璧なまでの攻撃をくらうだけだったのが、少しずつ動いてかわしているように見えたのだ。
四つの足を拙いながらに動かしている。
それに加え、相変わらず攻撃を受けては元に戻るの繰り返しだったのが、徐々に戻る速度が遅くなっていた。
すると、廉は世界〈存在〉の近くで発砲をしている隊員を発見した。
ーバンバンババババ
「おい!そこの人、もっと距離をとれ!」
ーバババババッ
必死に叫んだ廉の警告は銃撃音により、あちらまで届かない。
まずい…このままじゃ…
ーズズズ
「う、うわぁぁ!動いてる!こっち来るなぁー!」
目に見える動きを視認した時はもう遅い。
世界〈存在〉は歩き始める。
それに気づいた他の面々も助けたい気持ちはいっぱいたが、近寄る勇気が出ない。
「あ、あ、あぁぁぁ!」
ーバキュン!バキュン!
その隊員は接近する怪物に手がぶれながらも急所と思われる箇所をしっかりと撃っていた。
ーブシャァァ
「あぶはぁぁ!何が起きてるんだぁぁ!」
それは、突然のことだった。
世界〈存在〉が目の前まで近づくと隊員の腕から何か小さな粒のようなものが吹き出した。
「あぁぁぁぁ!」
どんどんと溢れていく。
数秒後には隊員の腕は消滅していた。
「まずい…あいつ、こっちを見てやがる」
世界〈存在〉は腕のない隊員の横で廉達を見渡している。
そして、徐々に歩き始めた。
「はぁ…はぁ……」
今までずっと能力を酷使していた日奈は息を切らしている。
「大丈夫か」
そんな姿を見て、廉は心が苦しくなった。
「はぁ…あと少し……」
「もう、日奈は休め」
だから、背中を摩って休息をとらせようとする。
「…こっちに、近づいたら、もっとでかいのを当てるから…」
日奈の目には強い信念が宿っていた。
最初に飛び回っていた〈太陽〉はちょうど、腕を失った隊員と廉達の中間の上空で浮かんでいる。
それは、みるみるエネルギーを増していき、通常のソフトボールサイズから大玉転がしに使われる玉くらいの大きさになっていた。
ーズズズズズ
世界〈存在〉は進行を続ける。
そして、その瞬間はやってきた。
「はぁ!」
日奈が力を込めると、巨大な〈太陽〉はゆっくりと落下し始める。
だが、世界〈存在〉はこれを避けられるほどの知能と速度を有していない。
ーゴゴゴォシュワワァァ
真上から直撃し、全てを焼き尽くすと〈太陽〉は消えた。
そして、残るは焼け跡だけ。
「勝ったー!」
「やりおったなぁ」
「ざまーみやがれ」
周りからは歓声の声がポツポツとあがっている。
ーパチパチパチパチ
集致に関しては拍手をしている。
それに続くように、辺境守護者達は続々と拍手を始め、日奈と廉は拍手喝采に包まれていた。
ーパチパチパチパチパチパチザザパチパチパチパチパチパチパチパチザザパチパチザパチザザザパチパチ
そんな中で日奈は照れながらも、力を使い果たしたため、ふらっと廉に寄りかかった。
「よく頑張ったな」
「うん」
ーパチパチザザザパチ
拍手に紛れてモザイクを連想しそうな砂嵐の音が鳴っている。
ーパチザザザザパチザザザザパチ
「?」
ーザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ
ーザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ
「っ!」
「あ、あぁ」
恐ろしい…こんなことが現実にあってよいのだろうか…
先ほど、日奈の〈太陽〉に焼き消されたはずの世界〈存在〉が佇んでいる。
身体中には、モザイクをかけているかのような砂嵐が施され、徐々に解像度が上がっていく。
ーパチパチザザザパチパチパチパチ
ーパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
ようやく、砂嵐の音が消えた。
だが、拍手は鳴り止まない。
「どうなってるの…あの怪物もそうだし、隊員の人たちだって…」
「…もう、俺たちしか、居ない、のか」
廉は理解した、この場に日奈以外の仲間はいなくなったのだと。
そんなことを考えた瞬間、拍手よりも大きな声が響いた。
「諦めるなぁー!!」
それは、集致の声だ。
すると、大勢をかき分けて、世界〈存在〉に飛びついた。
「あぁなた方はここから逃げなさい!早く!!」
年齢に似合わない動きで世界〈存在〉に攻撃を繰り出している。
その中で、拍手をしていた者達は銃を握りしめて、廉と日奈に向け始めた。
「案ずるな!私の能力で制御しておる!構うなぁぁ!」
廉は迷った。
だが、この状況で集致は助けられない。
だから、動けない日奈を担いで走り出す。
今、そんな二人に向けられているのは沈黙の銃口だけ。
みんなは引き金を引こうと指を振るわせている。
そんなこんなで二人はこの状況を脱出することができた。
「良かった。助けられて…」
ーザザザザザザザザザザザザ
ーカチャッカチャッカチャッ
砂嵐の音の後、一斉に銃が地面に落ちた。
乗っかっていた人がいなくなり、自由となった怪物は硬直する。
そして、縦一列にヒビがはいった。
「あーあ。行っちゃった。別にいいんだけど」
中からモザイクのかかった声が聞こえる。
ースタッ
「はは、最高」
世界〈存在〉から出てきたモザイクだらけの男は笑っていた。
人物紹介
・岡田廉
黒髪でガタイの良い男子。この件で自身の非力さを痛感した。能力〈拳〉
・日比谷日奈
灰色髪ショートの気の強い女子。強い力を酷使し過ぎて、最後には気を失っていた。
能力〈太陽〉ソフトボールサイズの太陽を自在に操る。また、より力を溜めることでサイズをデカくできる。
・集致収群
保護監視施設の辺境守護者・総司令を務めている。若者には未来があり、生きてほしいという願いで二人を逃した。
能力〈軍隊〉自身が作り出したワッペンをつけた者の能力向上、位置や状態を知ることができる。又、最大の力を使えば、行動も制限できる。
・怪物
封印が解かれたことにより、生まれた生命体。また、この怪物を創り出した原因は、地中に埋まっている稀縞綾である。
世界〈存在〉意のままにどんな能力でも使うことができる。ただし、制限はある。(※作中では、自我が無かったため、敵と判断した時にはその相手を攻撃するような能力、負傷を負った時は治るような能力を無意識に使用していた)




