57話 結果オーライ
「はぁ…はぁ…」
保護監視施設内部で封印が解かれ、辺境守護者までおかしくなるという非常事態が発生して、廉と日奈はなんとか逃げ出すことができた。
「…はぁ…ふぅ」
そうして、全力で走ること二十分。
息を切らした廉は日奈を担いだ状態で入口のゲートまで辿り着いていた。
「もう大丈夫」
日奈は担がれている途中で、ある程度は回復したのでゆっくりと下ろしてもらった。
ートサッ
すると、日奈が廉の顔を見ると何か悩んでいそうな表情をしていることに気がついた。
日奈には何を考えているかはすぐに分かった。
「…」
これは、正しい選択だったのか?
廉は心の中で自問自答を繰り返す。
そもそも、世界ってなんなんだ…
ーパチンッ
「…どうした?」
目の前にはデコピンを構える日奈がいた。
それは軽く打ったから廉は何も気にしていない。
「さっきのこと、考えてるでしょ?分かるよ、あたしだってそうだし」
「…やっぱり、今からでも…」
ーガシッ
振り返る廉の腕を日奈が強く掴んだ。
「戻ろうなんて言わないでよ!!」
「…」
目の端には涙が滲んでいる。
「みんなが繋いでくれたんだよ…だからさぁ、それを無下にしちゃ、ダメでしょぉ」
日奈はこれまでにないほど、廉に訴えかけている。
数分前に起こったあの現象の元には戻るべきではないのだ。
「…悪い、俺が浅はかだった」
「ヒグッ……グスッ…」
「…」
ーサッ
泣き止まない日奈の涙を廉は服の袖で拭った。
「…本当に、行かない?」
腫れた目で廉に問いかける。
「行かない、約束する」
ーギュッ
「これで何処も行けないだろ」
廉は固く日奈の手を握った。
「…う、ん」
ーギュ
俯いたまま日奈も握り返す。
そして、二人は今の自分たちに与えられたものを噛み締めながら歩き出した。
「…そういえば、日共水、あいつはどうなったんだろな」
ふと、廉は思う。
今回の中でもトップで怪しく謎に包まれた人物。
長く生きているらしい稀縞幸造が過去に会ったとも言っていた。
だが、そんな彼も早々に退場していったのだ。
「確信はない、けど、死んでは無いんじゃない」
それには廉も同意見である。
稀縞がかけた言葉には再度会えるようなニュアンスが含まれていたからだ。
「だよな…生きてるなら、どこにいるんだろうな」
ーガンガンガンガンッ!
「出しやがれ!テメー、くそっ」
日共水は一辺五メートルほどの機械でできた立方体に閉じ込められていた。
「あぁ!いくら壊してもすぐに戻りやがる!」
何度も攻撃を繰り出していた。
だが、粉々にしようとも、欠損部位から即座に修復され、脱出することが困難となっている。
「俺には元々時間がねぇのによ…」
そう言いながらも、その場に座り込んでいた。
いつか出られる日があると信じて。
日共水がそんな状況とは知らず、二人はただひたすらに荒野を歩いていた。
「これ、どんぐらいかかるんだ?」
「四時間じゃ全然足らないよ」
途方もない距離に嘆きながらも、今は足を止めるわけにはいかない。
行きは車、帰りは歩きだなんて、そんなに悲しいことはないだろう。
ーブゥゥン
「…?」
二人は目を疑った。
なんと、前方からこちらに向かってくる一台の車があるではないか。
「あ、あれに乗せてもらおうよ」
「そうだな」
そして、日奈は手をあげようとした。
ーブゥン
だが、そうするまでもなく、車は目の前で駐車したのだ。
ーガチャ
すると、扉が開いて運転手が顔をだす。
「あっ!」
その顔に二人は見覚えがあった。
それは、七区の駅付近にあったバーの店のダンディな店員だ。
「あなた方を探していましたよ。さぁ早くご乗車してください」
「…」
廉と日奈は一瞬見つめあって考えた。
これは信用して良いのかと…
「お早めにお願いします」
「分かった」
疑いの気持ちはあるものの、この獣がうろつく荒野を長時間歩くことに比べたらましだ。
ーガチャン
そうして、二人は後部座席に腰を下ろした。
ーブゥン
車は旋回して、駅に向かって走っていく。
それは安全な運転だった。
だが、廉は疑問を抱く。
「…ここを通った時に何もなかったのか?」
おかしい、行きにはたくさんの獣が行手を阻んできたはずだ。
たった数日でいなくなるはずがない。
「はい、特には。お会いしたのはあなた方だけですよ」
バーテンダーに嘘をつく素振りはない。
「そうか…」
これも、あの封印が関係しているのだろう。
そんなことを考えていると、前から声がした。
「そんなことよりも、私に言わなければならないことがありますよね?」
その声には怒りが少し混じっている気がした。
「すみません。助けていただいてありがとうございます。ほら!廉も」
すると、この会話を聞いていた日奈がすぐに頭を下げた。
廉にも強制させようとしている。
「あ、ありがとう、ございました」
「いえいえ、そんなことはどうだっていいんです」
「?」
二人は首を傾げた。
「お代金」
「それは日共水が払ったんじゃ…」
「足りてません」
「…」
バーテンダーは相当根に持っていたようだ。
それに、廉と日奈はてっきり日共水が全て支払ったものだと思っていたし、まさかと呆れていた。
「はぁ…今払います」
「全く、こっちは客が来なくて困っているのですからね」
そうして、日奈は社長から貰ったお金から足りなかった分をすぐに支払った。
これが解決した後は、特に何の会話もなく、駅に向かっていくのだった。
人物紹介
・日比谷日奈
灰色髪のショートで気の強い女子。この旅でお金の管理を全て担っていた。能力〈太陽〉
・岡田廉
黒髪でガタイのよい男子。世界に対する興味が湧く一方で、辺境守護者たちへの後悔に強く縛りつけられていた。能力〈拳〉




