49話 異常なサファリ
ーブゥンブゥンブブゥゥン
下手な運転の檻付き車両に廉と日奈と派手な髪の男の三人は乗って、保護監視施設に向かっていた。
「なぁなぁ!なんで、お前ら保護監視施設に行きたいんだ?」
少し進んだあたりで、男がとうとうこの話題を切り出してきた。やはり、何か目論見でもあるのか。
「なんでって、なんでもいいでしょ。てか、あんたの名前ぐらい教えなさいよ」
痺れを切らした日奈が男にくいかかる。
「あー、まだだったか。そりゃ悪い悪い。俺は…日共水。あだ名なんだが、これで勘弁してくれ」
背もたれに寄りかかったまま片手ですまん、と手を合わせている。
「そっちは廉と日奈だっけ?俺は呼び捨てでいくから、そっちも好きに呼んでくれ…って、日奈はまだ信用ない?」
日共水がペラペラと喋っているのを睨みを効かせた眼光で見張っている。その様子に日共水もお手上げだ。
「どうしたら、警戒を解いてくれるのかなぁ」
「あんたの能力を知れば、少しは安心できる。あと、日奈って呼ばないで」
どうやら、名前で呼ばれていたことにご立腹だったようだ。この怒りに合わせて、日奈は日共水の素性に探りを入れた。
「心を許してくれるなら、言うしかないな。〈爆〉だ。これが能力の名称。爆の文字がつく単語の能力が扱える」
なんなんだこの男は、普通ならば能力なんて友人ならまだしも、さっきあったような他人に教えるものではない。
「…分かったわ。あたしたちは保護監視施設を調査するために派遣されたの。それだけ」
「そうなんだぁ。うん!やっぱり人を信じるっていいな!でもまぁ、あんな火山地帯に若い二人だなんて考え甘いんじゃないのか」
下調べで火山にあると聞いてはいたが、言うほど危険なのかと廉が思惑していると、空の色が変わった。
「えっ、何これ。真っ赤な空…」
さっきまで晴天だったはずが、まるでマグマが吹き出して空についたような色の空に変貌した。こんなことは知らされていない。七区の保護監視施設に近づく人がおらず、情報共有が行われていないためだ。
「まじかよ…」
「こんなの驚いてたら、あとで腰抜かすぞ。まだ、序章に過ぎないんだからな!」
「この後に何が起きるって言うの…うわっ」
ーガシャンガシャガシャガシャ
突如、車体に獣が噛み付いて破壊をしようとしている。だが、檻のおかげで全く壊れる気配はない。この猫に似た獣には理性がなく、本能のままに暴走している。
「これは猫だ」
「は?何を言って」
こんなのが猫なはずがない。二人は日共水の発言を未だに信じられない。
「世界の影響を受けたんだよ。保護監視施設には世界のルールが封印されているんだ」
「前に風解から聞いたことがある。あたしたちのいる世界にはルールがあるって。詳しくはわからないけど」
かずまが下校中に出会った稀縞幸造の件は社内でしっかりと共有されていた。
「まぁそんな感じだな。そのルールを理解して力を得た存在は多大な影響を放って、ここら一帯に悪影響を与えたんだ。普通の能力なら生命に影響を与えることは至難の業だが、世界は難なくこなしてしまう」
そう言うと日共水は扉を開けて、格子をつたいながら猫の方へ向かっていく。
「今、楽にしてやるからな」
猫は狙いを日共水に代えて飛びかかる。それに対して大剣を取り出すと
「爆撃」
急激にエネルギーの高まった剣は猫の首を刎ね、猫の体は木っ端微塵となった。
「おい、運転手!何スピード緩めてんだ!また変なのが車に向かってきてるぞ」
廉は周りに動物が迫っていることにいち早く気づき、大声で呼びかけるも、返答はない。追ってきている獣の中には巨大なトナカイや猿など、明らかに危険そうだ。
「任せてくれ」
すると、掴まっていた格子から手を離して、日共水は鈍い車の後ろを押しながら走り始める。
「いくぜ!爆速ッ」
止まりかけていた車はだんだん加速し始めて、元の速度に戻ることができた。けれど、後ろの追っ手は振り切れていない。
「廉、ジャングルが見えてきた」
「嫌な予感しかしない」
七区に入ってから荒野しか見えなかったはずが、次は緑いっぱいのジャングルを目の先に捉えた。
「順調だ!あのジャングルを抜けた先に保護監視施設の入り口がある!」
このままいけば動物どもを撒くことができるが、車は止まらない。
「ちょっと!あんた、前は見えてないの!?」
「この先にジャングルだろ?」
「目の前だってば!」
無我夢中で車を押す日共水は前を見てはいなかった。そのせいで、ジャングルにぶつかってしまう。たくさんの木が生い茂っているところに突っ込めば、間違いなく身動きが取れなくなり、多少の怪我を負うだろう。
「俺の前に来い」
日奈を檻の中心に立たせ、強く抱き支える。そうして、廉は前方に向かって攻撃をする構えをとった。ぶつかる衝撃を相殺するつもりだ。
「廉…」
ードグシャ
ードゴンッ
「なんとかなった」
「ありがとう、廉。…あっ、来てるっ」
車の事故による負傷は防ぐことができたももの、迫り来る獣の対処が残っている。
「迎え打つぞ」
衝突により開いた穴から廉と日奈は運転手を置いて抜け出し、日共水の元に向かう。
「いやー、誤算だった。だが、まぁなんとかなった。結果オーライだな」
「…」
この期に及んで何を言っているんだと言いそうになった二人だが、獣の対処が先だ。今は堪えよう。
「俺と日奈はあの猿をやる。お前はトナカイをやれ」
「あいよ!」
そうして、三人は飛び出した。日共水は真っ先にトナカイへと斬撃を浴びせ、大剣が深く刺さったタイミングで能力を発動させる。
「爆発ぅ!」
小規模な爆発がおき、トナカイは倒れ込んだ。一方で廉は拳に力を込めて猿へと何発も飛ばしていた。動きが止まったところを日奈の〈太陽〉がトドメをさして終わらせた。
「いい連携だった」
廉が日奈にそう言うと
「廉の〈拳〉のおかげだから」
日奈は耳元で囁いた。流石に能力を日共水に聞かれてはまずいので、その配慮をしたまでだ。
「二人!強いな!結構嬉しいぜ」
「あ、あぁ」
日共水が敵ではなくて良かったと安心しながらも、疑いはまだ消えない。
「じゃあ、このジャングルを越えるだけなんだが、面倒なんで…爆裂ッ!」
いきなりジャングルの方を向くと、一直線上を爆ぜて吹き飛ばしたのだ。木々しか見えなかったのが、すっかり消えてなくなり、新たな道が作られた。
「あ、あれが保護監視施設…」
なんと、あらわれたのは高さはないが広い山に聳え立つ建築物が遠めに捉えることができた。果たして、保護監視施設では何があるのか…
人物紹介
・日比谷日奈
半日の旅を通して、廉との連携もうまく取れるようになっている。ちなみに、動物は苦手で触りたくない。
能力〈太陽〉自身の周りに小さな太陽を創り出して、それを操作できる。
・岡田廉
荒野に入ってからたくさんの獣を見て、やっぱり動物は可愛くないと再認識した。
能力〈拳〉しっかりと構えて力強く殴ることで拳の衝撃を飛ばすことができる。また、基本的な攻撃動作が強化される。
・日共水
派手な髪型の男。初めてあったばかりの二人に親切だが、所々抜けていて危険に晒される場面があった。しかし、それに見合わないほど強いため、怪しまれている。
能力〈爆〉爆の含まれる単語の能力を使うことができる。




