45話 変えていく未来
五日目
有意義な時間であった五日間も終わりに近づき、とうとう最終日となってしまった。社長からは、今日中に会社へと顔を出せばいいと言われているため、まだ余裕はある。
「夏帆、忘れ物はないか?」
「うん、ちゃんと全部持ったよ」
昨日の卓球でいざこざはあったものの、今は来た時よりも親密度は上がっていると言える。ベットの中で強く抱きしめ、朝までも離してはいなかった。起きてから再び謝ると夏帆は許してはくれた。そんなこんなで、現在時刻は九時であり、チェックアウトを済ませないといけない。
「よし、行くか。…ここには、五日間も過ごしてたから、なんか名残惜しいな」
「そうだね、なら、また今度来ようよ」
過去にもそう約束し、八区に行くことは叶わなかった。今回はそうならないと願いたい。
「あぁ」
夏帆と再び来る約束を交わして、部屋を出る。受付に行くと、初日に会った女性がいたので、かずまは無礼をしたことを軽く謝罪し、チェックアウトを完了した。
「この後の予定は決まってるの?」
ホテルを出ても、特にやることは考えておらず、消去法で帰宅をすることになってしまう。だが、かずまなら考えがあるだろうと夏帆は問う。
「そうだな、四区に有名なカフェがあると聞いたからそこに行くのはどうだ」
「いいね。ここからどのくらいかかるの?」
「ざっと二時間ぐらいだ。来た時は六区から二区と五区の中間を通って来たから、四区に行くと少し遠回りって感じだな」
「わかった。カフェ楽しみにしてるね」
そうして、二人は四区のカフェへ向かった。公共交通機関を駆使して、時間通りの二時間後、十一時三十に辿り着いた。こんな混んでそうな時間帯なのに、全く客がいない。来る店を間違えたのか?
「人が少ないね。やっぱり平日だからかな」
そういえばそうだった。俺たちは学校を休んできているのだ。水雨や霜華は元気にしているだろうか。
「まぁ、とりあえず入ろう」
店に入ってみると、意外と客はいた。俺たちは、コーヒー二杯とパンケーキとサンドイッチを注文して、シャアをしようと決めた。
「こちら、ブレンドコーヒーをお二つですね」
注文をとったすぐにコーヒーは届けられ、二人はその早さにちょっと驚いたが、コーヒーを飲むとその美味しさにもっと驚いた。芳醇な香りがいっぱいに広がり、人気な理由も納得だ。
「…」
コーヒーを堪能していると、かずまはどこからか奇妙な視線を一瞬感じた。かずまだけではなく夏帆を含めて、二人を見られたようだ。でも、誰かはわからない。
「ご注文のたまごサンドイッチと絶品パンケーキでございます。ご注文は以上ですね」
「…」
「あっはい、そうです。ありがとうございます」
店員に無反応なかずまに代わり、夏帆が対応する。
「何かあったの」
「見られた、そんな気がするんだけど、確証はない…」
「そっか、んーかずまなら大丈夫だよ。なんとかなる」
全然フォローになってはいないが夏帆にはどうすることもできない。できるとすれば…
「私、かずまに食べさせてほしいな」
パンケーキを見ながら、かずまに甘える夏帆。かずまは少し悩み、いつもの雰囲気に戻った。
「夏帆はほんとに、俺のこと分かってるよな」
すると、シロップをかけて、丁寧にパンケーキを切り分ける。そして、それを夏帆の口まで運び、慣れた手つきで食べさせた。よっぽど美味しいのか、夏帆は微笑んでいる。それを見ているかずまもつられて笑顔になってしまう。
「じゃあ、次は私だね」
かずまからフォークを奪い、切り分けられた一切れを夏帆が食べさせる。
「どう?」
「美味しいな」
「ふふ、良かった」
そうか、これでいいんだ。過度な警戒はせず、夏帆と幸せでいられた方がいい。
「ありがとな」
「いいよ」
サンドイッチもお互いに食べさせ合いをして、昼食を終わらせた。会計は三千円、高くはないが会社の経費で落としてくれるだろう。そして、二人は六区にある会社にむかって歩き始める。
「…」
今、俺たちが店を出た直後に続いて出たやつがいる。そいつは後ろを悟られないように尾行しているつもりだろうが、俺には通じない。やっと、確信できた。だが、相手も様子を伺っているのか、二十分経っても何もしてこない。だったら…
「夏帆、ちょっとだけこの店で待っててくれ」
たまたま通りかかった本屋で夏帆を待たせ、かずまは犯人を突き止めようとする。
「うん、長めでもいいからね」
夏帆は読書が好きなため、長く読んでいたいらしい。
「努力するよ」
そして、かずまは来た道を引き返し、尾行したやつを追う。風の速さでいくとすぐにやつを目で捉えた。その人物もかずまに見つかったことに気づいたのか、裏路地へと走って逃げる。かずまには遠距離で攻撃する手段もあるが、なぜか相手から敵意を感じないため、それはしない。
「しめた」
かずまも裏路地へ入ると、同じくらいの年齢の男が待ち構えていた。
「久しぶり…」
「もう戻ってきたんだ。で、何かあったの」
夏帆が本を立ち読みしていると五分も経たずにかずまが帰ってきた。
「そのことは、後で話す。今はもう帰ろう」
「…うん、わかった」
かずまの表情を見たら、複雑な顔をしていて、何を考えているのかよくわからない。けれど、良いことではなさそうだ。そして、かずまは能力を駆使して、早急に自宅への帰路についた。ひとまず、妹達のいる自宅に夏帆を置いてから、会社に行くことにした。
会社に入り、入り口の社員名簿を見ると、日比谷日奈の下に岡田廉の名前があった。そのことに疑問を抱きながらも、中に入ると社長とその秘書である的召さん、そして、喑薬がいた。
「もう帰ったのか、お前さんにしては早いな。もっと遊んでくると思ったのじゃが」
「あぁちょっと急用でな」
「そうじゃ!伝えなければいけんことがあるんじゃ」
「なんだ、どうせ新入社員が入ったことだろ。俺はそんなことより…」
「ちょっと聞きたまえ。その新入社員は岡田廉くんという子じゃ。彼はいい子でのぉ、もう仕事を任せてちゃったわい」
かずまの話を遮り、社長は意気揚々と話している。
「ほんとよく考えてください。入ったばかりの子にいきなり遠出の仕事だなんて、日奈さんも苦労しますよ」
的召が注意をするも、全く聞き入れていない。
「いいではないか、日奈も満更でもなさそうじゃったしな」
「ん?日比谷と岡田が仕事だと…どこに行ったんだ」
「それはな、七区の果てにある保護監視施設じゃよ。で、二人はそこの調査を任せた」
確か、あそこには危険な生命体が封印されていると聞いたことがある。
「そうなのか、だが、今はこいつの傷の方が気になるぞ」
かずまは喑薬を指差して、説明を求めている。
「それは、俺から言わせてもらうが、お前がいない学校で遠征過激団の襲撃を受けた。幸い、死者はゼロ人だが…まぁいい。その共犯者は俺が捉えて、地下に収容している」
「やはり、そうか…」
「なんだ、知っていたのか」
「俺はみんなに話さなければいけないことがある。それは…」
ここから、それぞれの組織の壮絶な戦いが始まる。
人物紹介
・風解かずま
かずまは知り得ない事件を知っていた。それは、あの男が関係しているのではないか。能力〈風〉
・十六夜夏帆
本好きな女子。かずまが何かする時、いつも自分に関することだと理解している。能力〈夜〉




