43話 雇用契約更新
三日目
昨日のかずまと夏帆は朝食を堪能したり、一区を回った後に、国立便所に行ったりした。二人は遭遇した魂精敬拝教のこともあり、念のためすぐにホテルに戻って部屋で残りの時間を過ごしていた。特にやることもなく、二十二時にはベットに入っていた。そうして、今は昼間の十二時となっている。
「お昼どうしよっか?」
一つのベットの上に転がる夏帆が呟くようにかずまへ問いかけた。
「あー夏帆はどうしたいんだ?どっか外にでも行こうか?」
すると、隣から力の抜けた返答が来た。朝食でバイキングを食べた後、一緒にゴロゴロしていたらこんな時間になっていたのだ。当然だが、あまり腹は減っていない。
「…やっぱりめんどくさいから、ここで済ませよう」
夏帆は顔を横に向けて、苦笑しながら意見を述べる。その顔を見てかずまは、ベットで横になったまま、這いつくばって夏帆に近づいた。そして、夏帆の胸に顔を埋める。
「えっと…外がよかった?」
「すぅーはぁ、すぅーはぁ。ただ抱きつきたくなっただけだから。てか、三階に食べ物売ってる自販機あったから、それはどうだ?」
夏帆に絡まりながら、深く夏帆の匂いを吸うかずまは、代替案を提示する。
「それ、いいね。…あと、どんぐらい?」
夏帆は納得し、部屋の外に出る準備をしようとしたが、かずまが邪魔で動けない。
「はぁぁ落ち着くー。一生こうしてたい」
「かずまはしょうがないんだから…でも、もう食べたいから行こ?いつもやってるでしょ」
そうして、かずまの拘束を解いて、ちょっとした身支度を始める。かずまも満足した表情でベットから降りて、着替えをし始めた。
「私の服どこだっけ?」
夏帆はスーツケースを漁っているが見当たらない。
「探してたら時間がかかるから、俺のを適当に着ていいぞ」
「うん、ありがとう」
十分ほどで支度を完了し、ホテル三階に向かった。そこには、多種多様な食べ物が販売されている自販機が沢山あった。お菓子からラーメンまで、幅広い料理があり、なんでも選び放題だ。
「まさか、こんなにあるとは思いもしなかった…」
「すごいね、何食べようかな」
ずらーと並んだ機械を二人は周り、全体を見てまわる。
「見てみろ、夏帆。焼き鳥もあるぞ」
「こっちにはおでんがあるよ」
物珍しい自販機ばかりに、二人ははしゃいでいる。
「決まったか?」
「これにする」
夏帆が指を指しているのは、ホテルによくあるカップラーメンの自販機だ。せっかく、他にも種類があるのにカップラーメンを選んだ夏帆に対して、疑念を少しも抱かずにかずまは財布を取り出した。そして、札を一枚入れて、夏帆がボタンを押す。
ーピッ
「ありがとう、かずまは何にするの?」
「俺はこの醤油味にしよう」
同じ台のカップラーメンを購入した二人は、エレベーターに乗り、部屋に戻ろうとする。その途中で夏帆が口を開いた。
「いつも言ってるけど、私に気を使わなくていいんだからね」
「分かってるよ。俺は俺が食べたいの選んだだけだから」
「ふーん」
八九一号室に着き、かずまが扉を開ける。かずまは早速お湯を沸かして、簡易的な食事の準備を始めた。すぐにお湯は沸いて、二人は小さな丸机ので手を合わせる。
「なんか、いつもより美味しく感じる」
「それはそうだな。やはり、何を食べるかより、どう食べるかが大切なんだよ」
どんなに質素な食事だろうと、好きな人と食べるのなら、倍以上に美味しさを感じられるだろう。
「だから美味しいんだ。…かずま」
夏帆は手を止めて、真剣な表情で話を切り出す。
「〈w〉のこと、もう大丈夫だと思うの」
〈w〉とは、夏帆の持つ〈夜〉の能力を狙う謎の人物である。そして、それはかずまと夏帆が知り合うことができたきっかけだ。
「…すぅ…んん…」
かずまは動揺して言葉が出ない。
「えっとね…」
「何か嫌になったとか」
「…?」
自分の今までの行動を振り返り、何か知らぬうちに夏帆に嫌なことをしたのではないかと思った。
「そうだよ」
図星、かずまは胸が苦しくなる。
「だから、〈w〉なんかに構ってないで、もっと私の事を考えてほしい」
「…えっ…」
「私を護衛するってなってからも、結局〈w〉は何もしてこないし。かずまは、私の事よりも、私を守ることが優先になってるから、〈w〉はもういいかなって」
「…そういうことかぁ。ふぅ、別れ話かと思った」
かずまはそっと胸を撫で下ろし、一安心する。夏帆と別れてしまうと仮定しただけでも、最悪の気分になり、何事も手がつかなくなるだろう。一方の夏帆は、ここまでかずまを怖がらせているとも思ってはいない。
「ふふ、そんな別れるわけないでしょ。私まだ、かずまのこと好きだし」
「ほんとに心臓に悪いから…というか〈w〉は、本当にいいのか?」
「じゃあ、私とずっと一緒にいて。ついでに守ってよ。それでどう?」
「あぁ、夏帆が望むなら、俺もそうしたい。これからもよろしくな」
「うん」
二人は本音で話し合い、前よりも強い絆を結ぶことができた。真剣な話だったため、カップラーメンは冷めてしまい、再び買いに行ったかずまと夏帆であった。
人物紹介
・風解かずま
夏帆のことを一番大切に思っている高校生。いずれ〈w〉を倒すつもりだが、夏帆と逢えたことにはめちゃくちゃ感謝している。能力〈風〉
・十六夜夏帆
かずまが大好きな高校生。普段から感情の起伏は控えめで、本気か冗談か分かりにくい。能力〈夜〉




