39話 神経切れる乱戦
ーモクモクモク
ーピキーーン、ザクザク
ーニョキニョキべチンッ
視界が悪くなっていく上に、全方位からの氷の玉が無数に飛んでくるし、挙げ句の果てには、予測不可能な白い触手の鞭が一斉に襲ってくる。
「たくっ、なんで三対一になるんだ!」
この窮地と呼ばれるだろう状況で、未だ互角に戦闘をしているのは双林暗薬他ならない。
だが、暗薬は視界不良の中で神経を研ぎ澄まして氷塊と白鞭をかわしながら反撃をしている。
「ガハハ、いい!お前こそ俺様が探し求めていた逸材だぁ!」
「ふぅ、これでもくらいやがれ!」
飛び交う障害の合間に猛毒のついたナイフを数本投げつける。恐らく、この繊維を操る男、ケイシンならば死にはしないだろうと予測を立てたのだ。
ーブスッ
暗薬が投げたナイフが一本ケイシンに命中した。その他のナイフは氷により、撃ち落とされてしまう。しかし、その氷はわざとではないのだ。
「これは、ぐはぁ。なんちゅうもの使うんだ。ははぁ、ふぅ、ぬぅぅぅ」
ーグチチチブチャ
それは、首元に刺さったらしく、血痰を吐きながら狂者のような笑いを見せ、ケイシンは患部を抉り取る。その様子は、雲で分かりにくいが肉を割く音は鳴り響いているのだ。なんとも、気色が悪い。
―ビュッン
「こざかしい!」
ケイシンに集中をすれば、雲からはヒョウクウが顕現し、勢いのある拳を放ってくる。だが、その拳はギリギリで避けて、暗黒を纏った剣で反撃をするも当たらない。
「鬱陶しいんだよ」
ヒョウクウは雲内を自由に姿を実体化させたり、消えたり出来るようだ。しかも、校庭に生み出された雲は、常に暗薬を中心に展開されているようで、一向に抜け出すことができない。
「ずっと、上から俺を弄んでやがる」
雲の上にヒョウクウと氷の元凶ココエがいることに気づいてはいるのだ。しかも、能力で空間全土の気温が低下してる。全く、対処が面倒くさい。
「一か八かだが、やってみる価値はある」
暗薬は氷の雨を避けながら、闇の力を溜めて集中させている。
「…お前ら、つまんねぇことしてんじゃ、ねぇ」
やはり、ケイシンは生きていた。その彼は、標的を終集家見習いの二人に変更して、腕から伸びた膨大な白い繊維が襲っている。
ーピキピキピキ、パリーン
そのおかげで暗薬はやらなくて済んだ。
「もう!何度凍らしててぇも、どんどん伸びてきて…キャァ」
流石にこのバフのかかった空間の中だとしても、ココエは大量の繊維を凍らしきれず、下に撃ち落とされてしまう。
「何をやっているんですか」
一方のヒョウクウは、華麗に繊維を交わしている。
「ちょぉっと!なんも見えないじゃない!この雲消しないよ!!」
大声でヒョウクウに訴えてかけるも、自身の位置を暗薬に知らせているとは思いもしない。
ーギリリリ
「なに!?」
忍びの如く、背後から毒のナイフを突き立てるも、何かに衝突して、ココエまで刃先が届かない。
「ばぁっかねぇ。こんな時のために、あたしだけ特別なバリアが出るようにしてるのぉよ」
ココエはこの空間の中で能力の向上だけでなく、オートマチックに氷のバリアを展開できるのだ。
ーバリッン
「えぇっ?」
「不意打ちは防げても、強度が足りてないみたいだな」
咄嗟に出したバリアも暗薬に破られ、ナイフがココエの腹部めがけて急接近する。
「本当に世話が焼ける」
その間際に雲が形を作り出し、ヒョウクウが現れてココエを突き飛ばす。
ーブサッ
「…やはり、本体じゃない」
「あなたなら勘付くと思いましたよ。ですから、攻撃をもらわないよう工夫をしていましたのに」
体の真ん中に小さな穴を開けたヒョウクウは雲に溶けながらそう語る。
「もういいです」
すると、校庭を覆っていた巨大な雲は霧散し、視界がひらける。
「おっ?やっと、うぜぇもんがなくなったぜ」
「最初から、こうすればいいぃのよ。あたしが終わらぁせてあげる!!」
雲が消えた瞬間にココエはトラックほどの大きさの氷塊をケイシン、暗薬の上空に生み出して、重量の攻撃を仕掛ける。
「けっ、つまらねぇ」
ケイシンは唾を吐き捨て、微動だにしない。
「…」
暗薬はただ右手のひらを上に向け、その手は闇にまみれでいる。
「うおぉぉ!お前ぇやるな!」
みなの意識が上に向いている最中、地面から黒く澱んだものが三人を包みこもうとする。だが、ケイシンは鳩尾の位置まで覆ったが、体をちぎりなんとか逃れる。
「はぁぁ?ありえない!」
ココエは足首まで浸かったが、その闇に向けて膨大な氷を生み出して逃げ切るも、闇に触れた代償は大きい。
「引っかかるとお思いで?」
持ち前の雲の軽さを活かして、ヒョウクウは飛んだ。
「っ!」
なんと、目の前には闇を右手に宿した暗薬がいる。それはもう防ぐことができない。
ーバコン
二重の仕掛けにより、ヒョウクウはもろに攻撃をくらい、地面に倒れ伏してしまう。体に闇が侵食し、能力の使用が制限されてしまう。
「あっ…」
これはもう勝てないと、ヒョウクウと暗薬とのやりとりを眺めていたココエは察して、闇から逃げた反動で校舎に飛んでいく。
「あぁぁぁ!つまらねぇ!」
失われた半身を再生しつつ、ココエに繊維を伸ばすもカチカチに凍結されて、まんまと逃してしまう。
「あとは厄介なお前だけか」
校舎へ逃げた女はどうでもいい。闇に侵食された彼女にはもうなんもできまい。
「楽しもぉぜぇぇ」
ケイシンは体の全てを使い、白い繊維を発生させて、暗薬を倒そうとしている。だが
ーシュパパパパ
あとちょっとのところで全て切り落とされ、毒のナイフで切られた箇所は腐敗し、闇の剣で切断された箇所はどす黒く侵食する。そして、暗薬はケイシンとの距離を詰め、もちいる全ての力を使用して、何十回もの斬撃を浴びせる。
「お前は危険だ。だから、封じさせてもらう」
見るに堪えない姿となったケイシンを闇が包み、最終的には黒いカスの塊となり、風に吹かれて散っていった。
「目星い奴は大体片付けたが、現実空間には戻らないか」
そうして、ため息をつきながら、傍らに転がるスガに目をやる暗薬。
「やっぱり、やってみるしかないな」
先ほどもやろうとしていたように闇の力を集中して込める。
「ふぅぅ」
それで、その力をこの薄暗い空間全部を塗りつぶすように展開させる。
「飲み込め!」
すると、一瞬にして空は青さを取り戻し、現実に戻ったことを実感した。膨大な力を使った暗薬はヒョウクウとスガの近くに座り、脱走しないように警戒をしながら一息つく。
「やっとだ、はぁ。…あの女は誰かがなんとかできるだろ」
スガによって作られた空間を自身の闇で上書きしたが、ココエの所在については分からない。だが、これで学校の平和が守られたと思い、最後は誰かに任せてよいと考えた。そして、誰かが応援に来てくれるのを待つ暗薬であった。
人物紹介
・双林暗薬
風紀委員に所属している。恐らく、ケイシン攻略の最適解。
能力〈毒〉刃に毒を付与させて攻撃する。
〈闇〉ドス黒い闇を自在に操る。成功すれば仮死状態にさせることも可能。
・ケイシン
どこからきたのか不明の中年。
能力〈?〉白い繊維を無数に扱う。自己再生も可能。
・ヒョウクウ
終集家見習い。敬語を使うが、敬意は全く無い。
能力〈雲〉雲を生み出して混乱を生む。体の一部を雲に変え、強力な攻撃が可能。
・ココエ
終集家見習い。女王様気質で常に上から目線である。
能力〈凍〉物を凍らせたり、寒波を扱える。また、氷を放つことも可能。




