38話 消去法で僕
ーバシャーン
「空室…」
双林暗薬から逃亡する際に猿の姿に化けたピーチが入り込んだ3Fの教室はハズレだったようだ。なので、ピーチは片っ端から教室を見て回ることにする。力を込めて隣の教室に向けて猿の拳をぶつける。
ーボカン
「きゃー!なによ!」
思いっきり殴ってはみたが、ヒビが少し入った程度で、その薄くなった壁からは悲鳴が聞こえていた。風穴を開けるつもりの攻撃が想像よりもしょぼくて、ピーチのモチベーションは下がってしまった。もう失敗はしないために、正々堂々扉から入ることにする。
ーガラガラガラ
「まさか。いやー流石に廊下から来るとは思いませんでしたよ」
教室から出た途端に、居合わせた生徒に敬語で話しかけられる。それは生意気で人を嘲笑うかのような口調を扱う二条離であった。
「…」
「お猿さんの能力の方が何かようですか?今は大人が誰一人おらず困り果てているんですよ。しかも、クラスでは無能ばっかりときました。どうしましょう」
寡黙なことをいい事に言葉攻めにして、二条離は時間を稼いでいる。実は、クラス一強い風解かずまとその彼女夏帆は旅行に行き、欠席だ。しかも、伸縮もかずまに完膚なきまでやられてから、学校にも来ていないし、一応能力者の天涯迅斗も居ないときたら、頭の回る二条離がクラスで一番になってしまうのだ。
「我が猿だと…許さん!!」
猿というワードが気に障ったのかリーチの長い腕を使って二条離を握り潰そうとする。
「ふふふ、無能力者が何の策も無しに行動しませんよ」
勝つ確信を孕んだ言葉には意味がある。右ポケットに手を突っ込み、薄緑色の透明な塊を取り出す。それは波模様で美しいものだ。そして、ピーチの猿の手が二条離の体を覆った時、その塊は本領を発揮する。
―ビュロロロロロ
「名付けて護身風とでも言いましょうか」
塊は一瞬にして形を失うが、その代わりに爆裂的な威力の風が吹き出してピーチを廊下の端の壁にめり込ませた。
ードゴシャーン
「あはっ聞こえませんよね。…風解くんには今度会った時に感謝をしませんと」
実はピーチから身を守った塊はかずまお手製の護身用の武器なのだ。危険な時に強い意志で願いを込めると、爆風を発生することが出来ると説明を受けたが、同時に口にしてはいけないとも言われ、今になって思い出した。
ーガシャッシャッ
「非力だと、油断した。…世界具を使うとは」
だが、遠目に二条離の手元をみると、何も持っていないことに困惑するピーチ。
「世界具ではない、か。なら能力者ということ」
「まだ、立ちますか。さて、どうしましょう」
両者の独り言はお互いに聞こえてはいないため、相手の詳しい心情は分からないが、これだけは分かった。
「逃げるつもりか…」「まずいですね…」
「我が先に決める」
そう宣言したピーチの体は発光し、鳥のフォルムに変身する。
「まさかの能力二つなんて言いませんよね」
猿から鳥に変化したピーチは二条離へと焦点を合わせて、全力で走ってくる。その頭は肥大化し、鶴とダチョウを足して二で割ったような見た目のピーチは狭い廊下を破壊しながら、着々と距離を詰める。迫り来る獣になす術のない二条離は、自分教室に手をかけるが
ーズドーン
あとちょっとのところでピーチの蹴りを受けて、5メートルぐらい飛ばされる。
「…今の感触、おぬし、能力未所持か」
蹴った手応えから二条離が無能力だと勘付き、哀れみが込められたような声音で語りかける。
「見逃してやる」
「…」
ーガラガラガラ
二条離は応答しない、なのでピーチは行ってしまった。否、喋れないのだ。蹴られた勢いで肺が凹み、声が出ない。これが、能力の有無による違いなのだ。そんな時でも二条離は内心ほっとしていた。自分の教室にピーチは入って行ったが、恐らく死人は出ないと思うことが出来たから。そうして、苦しみの中二条離の意識は途切れた。だが、最後に教室の方から
「…〈桃奇獣〉すら知らない…」
と聞こえた桃奇獣という新しく聞く単語に疑問を抱いたのだけは覚えていた。
一方体育館では…
「もおー!!なんーでー誰もミィのとこに来ないのよー!」
開始から誰一人として生徒が来ず、広い体育館で駄々こねているスモミであった。
人物紹介
・ピーチ
古伝一味の変わり者。
能力〈桃奇獣〉犬、猿、鳥などの動物に化けることができる。他にも変身できるが、その能力には弱点ももちろんある。
・二条離
かずまと同じクラスであるが、頼りになる者が欠席のため、率先して戦った勇者。能力〈×〉




