37話 トイレトラップ
ーじゃゃぁぁぁぁ
突然の学校の変化に身構え、静寂を保とうとする中で、水流の音が主張される。
「…何かが起きた」
別に催していた訳ではないが、気分的に流しているのだ。
ーバンッ
そのものは乱雑に扉を閉め、便器から遠ざかっていく。そう、ここは2階の男子トイレである。
「うおわっ!!」
自分が入っていた個室は一番端っこであり、手前の個室に差し掛かったあたりで視線を感じ、チラ見をすると男子が座っていた。いや、男子トイレなのだから男子がいるのは当たり前のことなのだが、扉全開にしていたため、驚いたのだ。背中には何かを背負っている。
「…」
少し取り乱したが、相手も対話をする気配がないため、無視をして先に進み廊下に出た。
ースタスタ
「なんだ、俺に用か?」
理由は分からないが、その男子はついてきていた。さっきはよく分からなかったが、背中にあるのは甲羅だ。場違い過ぎる。
「あんたなら殺っても大丈夫そうだ」
ぼそっと発するが、疑問の表情の男子には聞こえていない。すると、甲羅男子改め、ラシーマは殺意を徐にしていく。
「お前は共犯者なんだな…」
疑いから確信に変わり、戦闘の構えをとり、正拳突きを溜める。だが、ラシーマは何の反応も示さない。脅威とすら思っていないようだ。
ーバシンッ
拳のような気合いがラシーマに直撃し、激しめな暴力音が鳴る。
「…もっと溜めるべきだった」
生半可な攻撃をした故に、反省はもちろんあるので、もう一発強めなものを打ち込んでやると意気込む。しかし、ラシーマは半歩下がり、体はのけぞっている。
「ふぅぅ」
無傷という訳では無いようだ。そんなことは気に留めず、拳はチャージされ続けている。
「うをぉぉぉぉぉお」
突如、廊下に響き渡る咆哮に気をとられてしまう。あいつだ、目の前の男子、ラシーマが大声を上げている。
「なん、だと…」
信じられない光景に唖然としてしまう。だが、それは無理もない。何故なら、ラシーマの身体はみるみる爬虫類の化け物のような姿に変化していく。まるで
「亀の怪物だ」
泥沼の池から出てきたみたいな色をしていて、とても近寄り難い。でも、戦うと決めて以上、逃げはしない。
「廉!!」
「ッ!?」
背後から自身の名を呼ばれて、咄嗟に振り返る。そこには、以前裏門で会った日比谷日奈がいたのだ。
「い、今は授業中のはずだ。すぐに戻れ」
「それどころじゃないでしょ!」
「でも、俺一人で平…」
「危ない!!」
ーガッチン
背を向けたままだったのを狙い、ラシーマは廉を噛みちぎろうとした。が、廉は間一髪避けることに成功した。
「…」
そんな廉を見て、日奈はジト目で何かを訴えかけている。
「ほら、言わんこっちゃない」
「…」
しかも、口にまで出してきた。流石に反論は出来まい。
「…怪我はするなよ」
「最初からそう言えばいいのに」
二人はラシーマへと向き直し、交戦態勢をとる。一方、ラシーマはその巨躯を微動だにさせず、待ち構えている。
「まず、あたしにやらせてっ」
日奈は大剣を出し、それを朱色に輝かせて斬りつける。
ーじゅわわわ
「をぉぉぉ」
その剣先は肩に命中し、灼熱が硬度な亀の鎧をも焼き切っている。たまらず、ラシーマは人間とはかけ離れた悲鳴を上げ、日奈に反撃の鉤爪をあびせようとする。
ーバシンッ
「させるか」
日奈に振りかぶった腕を拳の衝撃波がそれを阻止する。だが、ラシーマも負けじと日奈に噛みつこうとするも、日奈は難なくかわした。
「はぁ…はぁ…」
廉の隣に並んだ日奈は白い息を切らしている。し、白い?
「大丈夫か?」
「うん。一撃も当たってないから平気、だけど…少し、寒くて」
寒い…言われてみればそうだ、深く呼吸をすると肺がツンとする。
―ファサ
「えっ、い、いいのに」
制服を日奈に掛け、ラシーマへと走り出す。そして
ーバンッバンッババババ
廉は拳の嵐をラシーマに浴びせ続ける。それに対し、鈍い動きだが、亀の怪物も抵抗している。
「お前…ただの亀の能力者じゃないな」
攻防の際に廉がそう口にする。これといった返事は無いが、口元が微かに上下している。唇ではなく嘴なため、分かりにくいが何となく読み取ることができた。
「〈亀虐末路〉…?」
何なんだそれは。言っていることは分かったが、意味は全然理解できない。造語の類だろうか?あれ…
「手が悴んで!」
ーバコン
「ぐぁ」
頭を回らせながらも激戦を繰り広げていた廉だったが、寒さ故に拳を放つテンポがズレ、その隙を見逃さなかったラシーマは腹部に渾身のパンチをお見舞いした。
「はぁっ!廉!はぁ…はぁ…」
体は震え感覚すら失いかけた日奈はぎこちない動きで廉のそばに駆ける。
「くぅ…。ぶちのめしてやる…」
「うふっ、もう…」
「何で笑うんだ」
「ふふ」
日奈は言葉を返さず再び笑い声が溢れる。そして、右手に握った大剣を地面に置いてラシーマを指差す。すると、赤くギラギラと輝く光の玉が出現する。それを前にしても、ラシーマは重い足を動かし、二人を見つめることしかしない。
「〈太陽〉をあの亀にぶつけるから、その後はよろしく」
「ま、待…」
ーシューージュワァァ
一直線に光の塊は飛んでゆき、ラシーマの腹を突き進む。
「やっぱり…」
順調に溶かして進んでいた光は次第に威力を失っていき、ぽつりと消えてしまった。一方ラシーマは腹の3分の1を溶かされてもなお不動立ちをしている。よく見ると
「あいつはこの寒さでもうほとんど動けないんだ」
体は硬直し、まるで冬眠でもしているようだ。
「あ、ほんとだ」
「今の脅威は片付いた。俺は他の見回りに行く」
それだけを言い残し、拙い足取りで壁に手をつきながら歩いていく。
ーよろっ
「もうっ!強がらなくていいから…」
倒れそうになった廉を日奈が支える。
「でも、誰かを守らないと」
「…だったらあたしと一緒に居てよ」
下を俯きながら、しどろもどろに答える。
「…」
「寒い」
廉も自分の状態を理解していたので、優しくしてくれた日奈をそっと温めるのだった。
人物紹介
・ラシーマ
古伝一味に属している。甲羅を背負った寡黙な男子。
能力〈亀虐末路〉自身を亀の怪物に変えて戦う。能力の制限や弱点も多々ある。童話由来の能力。
・岡田廉
授業をサボりトイレに篭っていたところラシーマに遭遇した。
能力〈?〉主に拳の攻撃が強化され、溜めれば力を飛ばすことが出来る。
・日比谷日奈
かずまと同じ会社に勤めている。咆哮を聞きいち早く行動を起こし、ラシーマに遭遇。
能力〈太陽〉剣に太陽エネルギーを宿したり、擬似太陽を用いた攻撃を行う。




