30話 溶けたなら新たな形をとればいい
グスッグスッ。
…ねぇね…
…あつきくん…
…優姫ちゃん…
…栄都くん…
なんで、みんな僕を、独りにするの?
誰も居なくなった焼けこげた街に一人、甘丸はひたすら走り続けていた。
世界一優しい姉も、面白い友達も、わがままな女の子も、強がりな男の子も、もう、いない。
ーガンッ
目を瞑って走っていたら壁にぶつかってしまった。
壁にぶつかった衝撃で鼻血が垂れてくる。
ーポタ
いつもの癖で誰かが拭ってくれるのを待っている。
そうだった…今はもう、優しく拭いてくれる姉はいないのだ。
そうして、甘丸は前を向く。
すると、前には壁なんてない。
ーペタッペタ
「透明な壁?」
なんと、仲間に託された甘丸はとうとう八区の端っこまで来ていたのだ。
向こうの景色が見えるがバリアが阻んで通れない。
「そうである。これは透明な壁、すなわちバリアなのだ」
その絶望に満ちた甘丸の溢れた言葉を拾った男がいる。
男は後ろに手を組み、甘丸と同じ方向を見つめている。
背が高く、正装を着ていて、理想の男性像の権化のような人だ。
だが、話しかけられるまで甘丸は気づくことができなかった。
「君はここを出たいか?」
僕が思い出のある八区を出て何になるんだろう。
「…わ、分からない」
「私は今から出るのだが、ついてくるか?」
男は平然にハキハキとそう語りかける。
「…ねぇねたちが、僕を逃して、くれて、でも…」
「そうなのか。遠征過激団から遠ざけてくてたのか…それは勇敢だな。ならば、行くしかないな!」
「でも、ねぇ…」
「もう死んでいる!」
男は甘丸に現実を伝える。
辛くて、目を背けたくなる現実を。
「ぁぁ」
甘丸に残っていた希望は男によって闇に落とされた。
「せめて、願いだけは叶えてやったらどうだ!それが恩返しになるだろ!」
男は一喝する。
「…グスッ…」
「ふーー。じゃあ君が仇を取れ!そのために強くなれ!そのために生き延びよ!」
さらに、男は活力の消えかけた甘丸に激励する。
「僕が、ねぇねたちの仇を…」
その声には重みがあった。
「取れる!私が君にそうさせてやる!」
間髪空けずに男は言い続ける。
その言葉を聞き、甘丸の手には力が入り、気づけば立ち上がっていた!
「僕が、僕が悪い人を倒したい!!」
目の端には涙を浮かべながら叫んだ。
「その意気である。私は必過儚寂、君を鍛えてやる。師匠と呼ぶがいい!」
「シ、シショー?」
甘丸は戸惑っていたが、やることは決まっている。
「よし!では、今からこの状況を突破する!死ぬ気でやるのだよ!」
「は、はい!」
ーギュッ
そうすると、儚寂は屈んで甘丸の手を握った。
「えっ…」
突然のことに、困惑している。
そして、儚寂は付近に置いてあるニメートルほどの機械を操作し始めた。
それをよくみると一分のタイマーをセットしている。
ーカチッ
「これは、時限爆弾だ」
「え…」
甘丸は一瞬聞き間違いだと思った。
しかも、それは姉のきえこからよく聞いた言葉で、とても危ないものだと教えられていた。
だが、怯えてる甘丸を気にする様子もなく、儚寂は話始める。
「では、手短に説明しよう」
手を引いていき、二人はバリアのギリギリに立った。
「私たちは今から十秒後に行く」
「えっ、ど、どこに?」
十秒後と言われても訳の分からない甘丸だが、行くと言われたので、咄嗟にどこに、と返してしまった。
だが、儚寂はそれに対しての答えを教えてくれない。
「いいか。このタイマーが残り十をカウントした時が大切なのだ。その時に十秒後に行くと強く思い込め!」
説明をしながらもカチカチと時間は進んでいく。
甘丸は全然理解できていない。
だが、もう二十秒だ。
十九、十八、十七、十六…
緊張で鼓動が速くなる。
十三、十二、十一、十…
「今!!」
儚寂は叫ぶ。
八、七、六…あれ?
何も起こらない…
「なん、でぇ…」
時限爆弾を横にして、涙目で訴える甘丸の眼差しは、裏切られた失望で溢れていた。
四、三、二、一…
「行くぞ」
何故そんなに屈託のない…
ーキーーーー
そんな考えも虚しく、一体は過激な光に飲み込まれていた。
「今!!」
ーシュンッ
「あれ?ここは?」
「バリア外だ!成功したのだ!」
まだ、甘丸は少し頭が混乱している。
爆発で体ごと消えてしまった記憶と爆発を免れた記憶が混雑しているからだ。
「無理もないだろう。私たちは一度完全に消滅し、その代わりに十秒前から来たのだ」
よく分からないが、時間を超えて来たらしい。
だが、不明点はある。
「場所が違うのはなんで?」
「それは世界の誤差だ!言わばバグ!私たちの存在を読み込み間違えたのだ!」
今はまだ理解に難しいため、生きていることにホッと息をつく。
「ちなみに無いとは思うが、私のいない時にやろうとは考えない方がいい」
やるわけないよ!と思いながらも
「う、うん」
「なぜなら、さっきのは一朝一夕で出来るものでは無い。私の〈時間〉とこの世界具〈時計〉があってこそ成り立っている!」
ポケットから取り出した球体を見せつけている。
「そうなんだ…」
「なんだ?興味ないのか…はっ、せっかちだな!」
儚寂は甘丸の意志を察したようだ。
「早く…倒したい…その力が欲しい」
そして、儚寂は少し黙り、真剣に問いかける。
「どうなって私は責任を取れないが、いいのだな?」
「僕はもう八区と一緒に死んだ」
「…了解した!」
そして、儚寂の案内の元に甘丸は消えていった。
ーキーーーーー
直後に爆発したものなんて気にすることはしなかった。
ー巾着袋ありがとう!にぃにー
「いくらここが、国家直轄の解決屋だと言っても、これは無いじゃろ」
手紙を読む元気な老人はそんな愚痴をこぼす。
「そのようなことは言ってはいけませんよ。もしかしたら、仕事の依頼かもしれませんから。ですよね、かずまさん?」
ここはかずまの働く会社の中だ。
「また、俺に依頼ですか?…それは?」
秘書である的召に促され、社長の机に置かれた手紙を見つめる。
「イタズラかもしれないが、郵便受けに入っててな」
そして、かずまも文面に目を通す。
「これ!甘丸だ!良かったぁ無事だったんだ!」
これは終集家による八区の事件、三日後の話である。
「やっぱり、きえ…さんがいれば何とかなると思ってたんだ!」
きえこの呼び方につっかかりながらも、かずまの歓喜の声をあげた。
それに気付き夏帆も横に来ていた。
「この手紙がきたから一安心だね」
もちろん夏帆も気が気ではなかったのだ。
「よし!じゃあ会いに行こう!」
「うん、そうしよう」
バカップルは乗り気だ。
「待った!お前さんらには仕事をしてからにしてもらおう」
そして、社長に遮られたせいで、かずまが甘丸の元へ赴くのはもう少し先になるのであった。
人物紹介
・散玉甘丸
みんなの意志を受け継ぎ、仇を取ることを決意した。能力〈飴〉
・必過儚寂
バリア外への脱出を目論み、甘丸の師匠となった男性。
能力〈時間〉制限や代償はあるが、時間を止めたり時間の操作をできる。
世界具〈時計〉直径二十センチメートルほどの滑らかな球体。どこから見ても時間がわかる仕組みとなっていて、知りたい時間を見ることができる。




