24話 落ちるのはいつも一瞬
ーもう、悲鳴すら聞こえない。
ただ聞こえるのは、建物の倒壊する音。
そして、子供たちの不安の声。
なんで、こんなことをするんだろう。
大切な町が、人が、地獄になってしまった。
「あ!ねぇね!もうお仕事終わったの?」
仕事を終えたきえこが公園に入ると薄紅色の髪をした子供が抱きついてきた。
「そうよ。今日はみんなと約束だったからね」
そして、辺りを見渡すと六人の子供がいる。
「お姉さんは、ほんとに素晴らしいです!大人たちが困っていることをすぐ片付けてしまうなんて!この町のいや、八区の誇りですっ!」
すると、その中の眼鏡をかけた賢そうな小学生がそうきえこをおだてた。
だが、きえこはそんなことないよ、とその小学生の頭を撫でる。
「えへっえへへ」
その小学生は満面の笑みで喜んでいる。
まるで、こうなることを分かっていて仕組んだようだった。
「いいよなー、甘丸はこんなおねーちゃん居て」
すると、きえこを眺めながら頬に絆創膏を貼った小学生が言った。
「うん!ねぇねは優しいの!でも、栄都くんもねぇねいるよね?」
甘丸は姉が羨ましがられて素直に喜んでいる。
「あれはただの暴力野郎だよ」
と唾を吐き捨てがら言った。
きっと、家ではこき使われているのだろう。
「まぁ蛮堂家はヤンキーが多いですからねっ」
頭を撫でられて調子に乗った眼鏡の小学生はそんな発言をするも、
「こーら!そんなこと言っちゃダメよ」
きえこにピシャリと叱られてしまう。
「はいっ!すみません!」
だが、これには懲りず、叱れたことに悦んでいた。
「ねぇ揃ったし、かくれんぼしない?お姉さんもいい?」
すると、男たちに呆れたような声で気の強そうな女の子が提案した。
きえこには了承を得ようとするが、男たちには許可は取らないようだ。
「うん、やろっか!じゃあ探す人は誰にしよっか?」
そんな女の子に少し苦笑いをして、話を進める。
「そうね…蛮堂あんたがやりなさい」
女の子は頬に絆創膏を貼った小学生を指差した。
「はぁ?なんで俺だよ」
「あんたねぇ、甘丸はこの中で一番年下なのよ!じゃんけんなんかで負けたら可哀想じゃない!言うことを聞きなさい!」
「…しゃーねーな。範囲はこの公園内な!いーち、にーい、さーん」
きえこの前でそんなことを言われれば従うしかない。
だが、みんなはきえこがそういうことで贔屓をしない優しい人だと言うことは重々理解している。
「もう!これだから男子は!」
自分の命令を聞いて、すぐにカウントを始めたことに女の子は苛立っていた。
そして、蛮堂を除いた六人は一目散に隠れる場所を探して、身を隠す。
「きゅーう、じゅう、もういいかい?」
「…」
もちろん返事をする者はいない。
「よーし、じゃあすぐ終わらせてやる!」
そうして、蛮堂は閉じていた眼を開き、すぐに六人を捕まえようと意気込んだ。
だが、そんなことよりも、目の前に広がる赤に染まった光景に困惑する。
「…夕方?」
おかしい、まだ一時なのに…
「き、きえねーちゃん…」
助けを求めて蛮堂はこの場で一番頼りになる名を呼んだ。
けれど、蛮堂が呼ぶ前にこの異常事態に気付いたきえこは
「みんな!私の周りに集まって!!」
その切羽詰まったような声で子供たちを呼び集める。
声から本気さが伝わったのか急いで駆け寄ってきた。
ー同時刻 七区天近山
「ここは見晴らしがいい、八区のほとんどが見渡せる」
七区にある天近山、それは八区に隣接する急勾配の多い山であり、国内で上位に入るほどの高い山だ。
「シノギ、地図を出してくれ」
豪華な衣服を纏った男は理知的な男、シノギに指示を下す。
「ここに」
そして、ポケットから出した地図を広げ、ノボルに見せる。
「皆、準備はいいな?」
「早く始めてくれよ!俺はうずうずしてんだ!」
その掛け声に見窄らしい髪の男、カタイはノボルを急かしている。
「だ、そうだ。シノギ」
「あいあい」
頭領であるノボルに言われ、だらしない返事をした。
そして、シノギは自身の能力〈障壁〉を込めて、地図を円状になぞる。
ーファン
途端、目の前には透明なバリアが現れたが、すぐ見えなくなる。
「これで、部外者に勘付かれることはないよ」
地図を向けられたノボルは頷いた。
そして、次にシノギが囲った円の中をノボルがなぞっていく。
「ん?なんも見えねーぞ?」
ノボルがなぞっても目に見えた変化が起こらず、カタイは疑問を呈する。
「はぁその為に、認識阻害バリア、重厚バリアを僕が出したんだよ」
それに対して、シノギは簡潔に説明した。
いわば、八区をシノギが外部から見えなくなるような障壁を張り、その中にノボルの能力〈炎〉を出したのだ。
「くー!見たくてたまらねぇ!俺は入るぜ。シノギ開けてくれ!」
流石に障壁が張ってあるため、能力者であるシノギに開けてもらわないと入れない。
「いいや、俺たちも行く。四人で突入だ」
「了解」
シノギはちょうど前にある障壁の位置を地図上でタップした。
ーシュウィン
すると、目の前の透明な障壁に大きな穴が空いた。
その中は紅に染まっている。
「あのーシノギさん…それって入ったら私たちに直撃しませんか?」
「平気だよ。僕が守ってあげる」
ふぅ、と矯溜は胸を撫で下ろす。
「じゃあ、作戦どうりだ。行くぞ」
そうして、空いた穴から四人は八区に突入した。
「…夕方?」
「みんな!私の周りに集まって!!」
「怖いよーお姉さん」
「大丈夫よ、落ち着いてね」
ーシュッ
きえこは子供たちが揃ったことを確認して、能力で結界を創り出した。
それは白濁色で公園の四分の一ほどの大きさがある。そして、きえこはさっき見た光景を思い出す。
「炎が、空を埋め尽くしてた…」
こんなこと初めてだ。
誰も人生の内で一度も見ることはないだろう。
まさか、メラメラと燃えたぎる炎が落ちてくるなんて…
だが、今しなければならないのは
「お、お姉さん?」
子供たちを安心させること!
そうして、一人ずつ抱きしめて、優しい言葉をかける。
すると、眼鏡をかけた小学生、衣野あつきは、興奮して鼻血を垂らして倒れた。
ードサッ
「あつきくん!!」
それをきえこは心配してもっと強く抱いた。
「あー、心配しなくて大丈夫だよ。こいつ変態だから」
そんなきえこを蛮堂が止めた。
周りいる友達はこんな時にまで何やってんだ、と呆れている。
だが、甘丸はいまだにきえこにしがみついたままだ。
「はっ!ここは?天国ですか!」
すると、いきなり目を覚ました。
「もう、どちらかと言えば、じ・ご・くよ!!」
「なんと!ならばここから出なくてはー」
まだ、興奮しているのか、あつきは走り出して結界に触れようとする。
「触っちゃダメー」
きえこは大声で止めた。
だが、もう遅い。
「あぁぁぁっ!て、てがぁ」
あつきが結界に触れた右手からは血が止まらない。
結界をよく見ると、あつきの触った後がある。
いや、これは手のひらがこびりついた証だった。
「たくっ、何やってんだ!ねーちゃんに迷惑かけてんじゃねぇ。手を見せてろ」
蛮堂はでかい〈絆創膏〉を創り出し、あつきの手にぐるぐる巻く。
「これ貼ったら治るから、メソメソすんな」
「ぅ、あ、ありがとうございます」
ードゴゴゴ、ガシャガシャガシャーン
結界の外で怒号が響く。
落ちた。
あの空にあったどデカい炎が落ちたのだ。
ーシュュュュ
この結果はなんとか耐えたようだ。
今、外を確認したほうが良いのだろうか?
でも、子供たちしかいない以上、どんなに危険だろうと私がするしかない。
「ちょっと私、外を見てくるね」
「ねぇね、居なくなったらいや…」
甘丸は強くきえこにしがみつく。
「優姫ちゃん、甘丸をお願いしてもいい?」
「えっはい、お姉さん、気を付けてください」
優姫が甘丸を優しく引き離す。
「大丈夫!少し顔を出すだけだから!」
そうして、いやいやと言う甘丸を優姫に託した。
よし、じゃあこの中に空気は入らないように注意しながら顔を出さないと…
「つっ!」
灼熱が覗いた顔を襲う。
外を覗くとまさしく地獄の体現。
いつも見慣れた町は、揺らぐ赤に支配されていた。
「うっあっつ!」
さらに熱波が襲ってきた!
くっ左目が焼けた。
長居してはいけない。
そして、結果内に戻る。
「ね、ねぇね!目がっ!」
想像以上に驚かれてしまった。
そんなに酷い見た目になってしまったのか。
「ねーちゃん!これを」
栄都くんが左目を覆うほど大きな絆創膏を付けてくれた。
「ありがとう…」
どうしよう、どうしよう。
私がこの子たちを守らなくちゃいけないのに…
「みんな!お姉さんが困ってるわ!」
そう言うと優姫を始め、次々と子供たちが私を慰めてくれる。
「ふふふ、私、みんなから元気もらっちゃった!」
その時、また
ードゴゴゴゴォォ
きっとこれが、第二波だろう。
これは、人を害する意思が満々の炎だ。
ならば首謀者がいるはず。
このまま隠れていても、いずれ見つかってしまう。
もう一度外に出てみよう。
「…」
やはりだ、もう熱の心配はない。
「今からこの結界を解くわ。だから、あなたたちは、あっちの方に走って!」
決意を決めたきえこは子供たちに指示を出した。
「それって、お姉さんはどうされるんですか?」
当然そう聞かれる。
「ねぇねも一緒にいこうよ!」
甘丸は半泣きになりながら、そう訴える。
「甘丸、ねぇねの言うこと聞けるね?」
「嫌だよぉ」
半泣きどころかボツボツと涙を落としている。
「栄都くん、あつきくん、優姫ちゃん、他の子たちも、甘丸をよろしくね」
きえこは一人ずつ名前を呼ぶ。
もしかすると、もう呼ぶなくなるかもしれないから…
蛮堂はきえこの覚悟を感じ、泣き喚く甘丸の手を取る。
「私は悪い人たちを退治してくるから!また、あとでね!」
それは大切なもの守る覚悟を笑みに変えた美しい笑顔だった。
その直後、結界は破れそれぞれのやるべきことをする為に飛び出していったのだ。
人物紹介
・散玉きえこ
仕事終わりに子供たちと遊んでいたところ厄災に襲われる。皆を守るため、結界を創り上げた。能力〈?〉
・散玉甘丸
ねぇねが大好きな男の子。遊んでいた中では最年少。みんなからも可愛がられている。能力〈飴〉
・蛮堂栄都
集まりの中ではガキ大将のような位置にいる。が、優姫には頭が上がらない。
能力〈絆創膏〉自由な大きさの絆創膏を創り、貼られた怪我は、自身が怪我自体を忘れた頃に完治する。
・衣野あつき
一見すると賢そうだが、お姉さん好きの変態。特にきえこと会話することを幸せと感じている能力〈?〉
・優姫
男子をこき使う女王様。そんな彼女もきえこを尊敬している。能力〈?〉
世界具〈地図〉能力者が地図を通して能力を使用することで、広範囲且つ低消費に能力を使用できる。ただし、地図を通した能力は本人のものとは異なるため、操作する場合は全て地図を通す必要がある。




