23話 記憶のピース
ーここはとある重要機関の一角
「隊長。この事件ですが、どう考えますか?」
赤と黒を主調とした制服を着こなした金髪の男が上司と会話をしている。
「例の脱獄をした者だろう。極楼署長が解決するのを待てば良い」
同じ制服を着ているはずなのに、鍛え上げられた筋肉により、窮屈に見えるのが隊長だ。
「はい。了解です。…おい、交介…いつまで寝ている。さっさと仕事をしろ」
金髪は書類を抱え、ソファで横になる同僚に視線を移す。
交介をよく思っていないようで、いつもことあるごとに注意をしている。
「蜜澤隊員、寝かせておけ」
金髪が起こそうとしたところを隊長に制止された。
「…了解、です」
これは従うしか無い。
「隊長殿?これはどぉっ!?」
ーツっ、ドッカーン!!ズン!ズン!
すると、同じ部屋にいた別の隊員が隊長に声をかけようとした瞬間、外部からの衝撃を伴った騒音に遮られる。
「何事だ」
隊長はすぐさま窓の外を確認した。
すると、憂いの感情を宿した声音で
「緊急事態だ。問題の対処に向かう。直ちに玄関口へ出動だ」
と隊員に指示を下した。
そうして、部屋にいる隊員三名を連れて、音のした方へ向かう。
「良かったんですか?交介のこと起こさなくて?」
念のため金髪は部屋で寝ている交介を連れて行かなくて良かったのかと問う。
「二度も聞くな」
それに対して、隊長は目も合わせぬまま答えた。
「すみません」
彼、交介は入隊時から寝てばっかりで病気を疑いたくなるほどだ。
なのに、隊長は何の処置をしないので、金髪は不信感をずっと抱いている。
「何の用だ。遠征過激団」
建物を出ると同時に隊長は声を上げた。
それは、誰もが知っている組織であり、隊長は一目見ただけで分かっていた。
「かぁー!また、それか!」
すると、見窄らしい髪の男が大袈裟な反野を示した。
「?」
彼らが首を傾げている時、頭領であるノボルはこう思っていた。
本当は終集家と言う名前だか、やはり、ちゃんと認識されていないようだ。
ノボルは特に訂正するつもりは無いが、ここでカタイを牽制して前に出た。
「久しぶりだな。また、俺を捕まえるか?」
そして、挑発をするかのような口ぶりで隊長に話しかけた。
「こちらは何の用だと聞いたのだ。それ以外でお前らに話すことはしない」
「…なら、闘うか?こちらは四人で、そっちは五人だ。やれるだろ?」
そう仲間に問う。
見渡せばそこには自信に満ちた顔が並んでいた。
「…」
「冗談だ。本気になるなよ。最初の問いに答えてやろう。俺たちは遊びに来た」
隊員達は舐められていることを感じ取ると
「我ら陰国警備隊にむかって、遊びに来ただと?」
長身の隊員が怒りを表した。
そうだ、陰国警備隊というのは、国家保安隊の裏で暗躍する少数精鋭の組織。
過去にはノボル逮捕にも貢献したこともある影の英雄達でもある。
「ふふ、坊やが居てよかった」
だが、そうして怒りを露わにした隊員にノボルは不吉な笑みを浮かべる。
一方の彼は虚をつかれたのか、目を見開き驚いていた。
それに重ねるかのようにノボルは続ける。
「こちらの要件は一つ。仲間の矯溜をそこの坊やに触れさせること」
「そ、その行為に何の意味があるんだ!?」
長身の隊員は慌てふためいている。
「何を言っているんだ?意味がないから面白いんじゃないか!」
その言葉に陰国警備隊は絶句する。
ノボルに狂気すら感じていた。
「さぁ矯溜。やっていいぞ」
「えぇ!?今ですか!?」
すると、いきなり前に出された矯溜は驚く。
「安心しろ。もし、こいつらが邪魔をすればこの国を壊滅させてやろうじゃないか」
「なら、心配いりませんね!」
そして、ノボルと矯溜は目的の隊員へとゆっくり歩み寄る。
その時、長身の男はとても焦っていた。
まずい、自分に触れて何をするんだ?
ータッ、タッ、タッ、
っ!いっそのこと、自分が二人まとめて片付けるか…
いや、それはリスクが高い。
でも、確か親玉の方は〈炎〉の能力者、触れておきたい!
ならば!
ーギュッ
つ、掴んだ!
「…触るのは俺じゃないぞ」
そう言うと、ノボルは矯溜に掴まれた腕を無理やり差し出して触らせた。
だが、長身の隊員は勝ち誇った表情をしている。
「はは!かかったな!今!自分がお前の能力で…な、なぜ、だ?」
そんな顔もすぐに曇っていく。
「矯溜、この坊やが何を言いたいのか教えてくれ」
「はい、彼の能力は〈借〉です。触れた相手の能力を借りることができるそうで、頭領の能力が使えず困惑しているようです」
ノボルに促されると、矯溜は能力の解説を始めた。
「そうか。それは残念だったな。なら、矯溜の力も使えるのか?」
「問題ありません。極限まで近づけただけですから」
それを聞き、長身の男は矯溜に急いで手を伸ばす。
ーグッ
しかし、それをノボルによって阻まれてしまう。
「それはルール違反だ」
けれど、ノボルはその手をすぐ離す。
さっきと同じ距離に戻り、場が落ち着くと矯溜が解説を始める。
「では、私が今知った記憶を話しますね。彼は、循環包、能力〈借〉。そして、左の彼女は、過津日和、非能力者」
「えっ」
今まで話を聞いて見守るだけだった彼女は驚いている。
その控えめな胸を抱きしめて、怯えているようにも見えた。
「無能もいるんだ。知らなかったな」
すると、シノギは単純な驚きの言葉をこぼす。
「続けますね。その隣の彼は、蜜澤拓真、能力〈光〉」
なんと、今暴かれた金髪の隊員はかずまのいる会社に働いている蜜澤であった。
「クッソ!」
だが、それよりも国家秘密の組織が、悪党に丸裸にされている事に拓真は怒りを隠せない。
「四人目は副隊長、沸照平、能力〈棘〉。最後に、隊長、兆賢虎男、能力〈衝撃〉です。建物内にも一人いるようですが、言った方がいいですか?」
「もういい。俺はお前たちのその顔が見れて十分だからな」
「済んだならいくよ。こっから大仕事があるんだから」
こうして満足したノボルを確認して、シノギは急かした。
「そうだな。帰りはシノギ、頼んだ」
すると、シノギは、はいはいと返事をする。
そして、終集家たちは陰国警備隊など相手では無いと言うかのように堂々と入り口のゲートから出ていく。
「…俺たちがここまでされて、ただで帰すと思うなよ!!」
蜜澤が痺れを切らし、手に光を宿らせ四人に迎って追撃をするが
ーピキーン
「な、何!?」
何かに阻まれて光が散っていく。
光は終集家に命中して多少の傷を負わせるするはずだった。
だが、その光は途中で透明な壁に憚られて、空気中で霧散した。
その光にシノギは振り返り
「そんな簡単に壊せるわけないでしょ?だってそれ、僕の〈障壁〉だし」
と嘲笑った。
そして、終集家は地上を堂々と歩いて行った。
「許せません!はっ、そういえば最初あいつらは上から来たんだった!」
蜜澤は空を隈なく探したが、雲一つ無い天気で、他に怪しいものも無かった。
そんな蜜澤は強い視線を送り、隊長へと指示を仰ぐ。
「今日は何も無かった。そうする他もない」
そんな言葉に悔しがり、周りの隊員を見渡すが…
起きた事に衝撃を隠せない日和。
記憶を読まれ動揺する包。
命令遵守の照平。
「昔は正義感に溢れた方だったのに今はどうしてっ!!」
「これが最善の行動だ、蜜澤隊員。我々陰国警備隊は事件を未然に防ぐためにあるのではない。国家を裏から支えるだけで、それだけで良いのだ」
「そ、そんな…」
「命令だ。職務を続けよ」
納得のいかない蜜澤だか、それに従って建物内へと戻っていく。
この時、これからあんな凄惨な事件が起こるとは誰も予期していなかった。
人物紹介
・蜜澤拓真
かずまと同僚でありながらも、陰国警備隊として働いている。ちなみに会社の誰もこのことは知らない。
能力〈光〉光を操り攻撃や移動に使う。
・循環包
陰国警備隊に務めている。自分はこの隊の中で1番強い自負がある。
能力〈借〉自分が触れた相手の能力を使用できる。だが、その代償は計り知れない。
・兆賢虎男
陰国警備隊隊長を務め、昔は正義感の塊と呼ばれていた。能力〈衝撃〉
・ノボル
今日国邸へと来たのは遊びに来たと言っていたが、実は、逮捕された仕返しの意味もあった。能力〈炎〉
・シノギ
この後の大仕事とは何をするのだろうか?ただ終集家の面々は理解していたようだ。
能力〈障壁〉強力なバリアを扱う
・刻時矯溜
陰国警備隊にやられてしまう心配があったが、横にノボルがいてとても安心していた。
能力〈記憶〉今回は極限まで近づけるだけで記憶を読み取った。たださっきノボルに触れた時には発動しなかった。




