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13話 最重要拘束対象

ー同時刻、刑務所内最下層。

「来たか…」

手足や身体中に鎖を施され、一切身動きの取れない囚人が口角を上げる。

そして、意図も容易く鎖の拘束をすり抜け、一歩目で長身の剣を出し、深く構える。

さらに、二歩目には地上へ向かって炎を纏わせた剣を大きく振る。

これにより、膨大な熱が内側から刑務所を焼き、巨大な穴を開けていた。

「さて、私の目的は済んだ。出るとしよう」

小言を挟んだあと、その囚人は跳ねるように自分の開けた穴を進んでいく。

ちょうど階段のように凸凹とした形となっていて上がりやすい。

その穴の上から下に向かって水が垂れ流れていた。

何故なら、上部にあった水道管もろとも破壊したので当然だ。

あぁ色々な音が聞こえる。

解放を喜ぶ囚人の声。

囚人の逃走を許さぬ警官の怒号。

別れを惜しむ悲しみに満ちた女性の泣き声。

「麗音(れおん)さん!麗音さん!お願い、、目を、覚まして…」

一人の可憐な少女の腕の中には、焼き焦げ生死を彷徨う麗音の姿があった。

その少女、柚嬉(ゆずき)の涙は止まらない。

彼女は懸命に水で濡らしたハンカチで麗音の顔を拭いている。

だが、一向に反応を示さない。

何故、私達はこうして理不尽な目に遭わなければならないのか?

そうして、柚嬉は悲しみに満ちた。

柚嬉は変貌した。

そうとは知らず、テンポよく進む囚人は周りの光景など全く気にしない。

何とも思っていない。

だが、突然起きた現象に驚きを隠せない。

何が起こっている!?

「うわぁぁぁぁあ」

なんと、泣き崩れる少女に目が奪われてしまう。

顔が自然と少女の方を向いてしまうのだ。

…囚人はなす術なく立ち止まる。

そして、少女の方を向いたまま構え、炎の斬撃を飛ばす。

ーボワッ

避けた!しかも、致命傷の少年を抱えたまま。

その少女は囚人を見つけると憎悪の表情に変わる。

着地した地面に丁寧に少年を下ろした瞬間、少女は囚人の目の前にいた。

これはもう、容易に手が届く距離だ。

そして、囚人は目の端から流れ出る涙を見てしまった。

「ぐぉっ。おぉぉぉぉ」

囚人の胸から血が溢れ出している。

囚人は何故こうなったのか分からなかった。

だが、少女の涙を見た途端に、悲しい過去を脳裏をよぎり、気づけば胸には獣に抉られたような傷ができている。

まさかこの小娘…俺とは相性が悪い。

ならば一旦引き返そう。

そして、上がる時より速く最下層へ下っていった。

あの小娘の涙の能力、あれは危険だ。

意識しなくとも目が引き寄せられてしまう。

しかも、視界に捉えてしまえば大ダメージを負うことになるだろう。

「拘束対象発見」

自身が捕えられていた場所に戻ると、背後から声が聞こえた。

看守に見つかった。

し、しかも、こいつは…

―ガチャッ

「確保完了。お前にもう能力は使わせない」

黒の印象が強い制服を着こなし、そう告げるのは、この国家警察署の上官、締崎(ていざき)である。

「やはり、ここは俺が適任だった」

両手に手錠をかけられて、囚人は能力の使用はおろか、手の自由も失った。

「上官殿がこんな所で道草を食っていて、いいのか?」

締崎は坦々と、囚人を連れて奥に進んでいく。

「この署内で最も危険なのはお前だ」

「では、抵抗させてもらおう」

ちょうど今いるのは、拘束されていた部屋から少し離れた所だ。

俺は知っている、最下層の造りは円状になっていることを。

「今のお前に何が出来る?」

「先程使わせてもらった剣があるのでな」

不自由な両手で剣を持ち、斬りかかる。

―ギギギ

締崎も持ち前の警棒で防ぐ。

だが、力の差で警棒は弾き飛ばされる。

後ろに下がりながらも、締崎は瓦礫で攻撃を防ぐ。

まずい、もし俺が敗れて能力が解除されれば、最悪の事態に陥ってしまう。

ならば、能力の範囲内で逃げ回り、署長に片付けてもらうのが最適解だ!

「上官殿は逃げるのがお好きなようだ!」

しかし、そのような挑発には乗りはしない。

相手は手錠をかけられた不自由な存在。

到底追いつかれることはあり得ない。

―ピチャッ

感触が変わった。

締崎が下を見ると、そこには水溜まり、踏んでいたようだ。

「うっ」

すると、足の力が抜け水溜りに倒れ込んでしまう。

そんな締崎を中心にして、みるみる水は赤に染まっていく。

「ふ、かかったな。私とは怪我の程度が違うようだが、よっぽど悲しい思いでもしたのかな?」

この水溜まりは上から流れてきたものだ。

ということは、少女の涙も少なからず含まれている。

「こはっ」

口から大量の血を吹き出す。

それは囚人とは比べものにならないほどの致命傷のようだった。

「さて、そろそろかな?」

ービシャッ

ちょうど最下層を一周した彼らの前に少女が立ちはだかった。

その少女は囚人の喉元を狙い手を伸ばして斬りかかる。

ーチャキーン

それを囚人は、手錠で防いだ。

―パリン

徐々に力が加わり、手錠が切れた。

でも、間髪開けずに少女は攻撃を繰り出してくる。

「甘いな」

しかし、軽々とかわさせてしまう。

すると、少女は目にも止まらぬ速さで移動を行い、奇襲を試みる。

「だから、甘いんだよ。いくら速く動いたって俺にはどこに居るか分かる」

ーキーン

囚人の後ろ首を狙った攻撃は防がれる。

「その涙の能力とお前の速さは噛み合っていない」

なんと、囚人は見抜いていた。

少女の涙には、人の目を引き寄せる能力があり、いくら速く動こうとも、目で捉えられてしまうのだ。

ようやく、少女はそれに気がつき、涙を引っ込める。

ーポワワ

それは、能力を解除した途端に囚人が炎を締崎と少女をめがけて放っていた。

しかも、囚人はそれと同時に上へ飛び出していた。

囚人は笑い、さらに炎で二人まとめて吹き飛ばし、地上へと駆け上がっていった。

人物紹介

・囚人

最下層で幽閉されていた、一番の危険人物。

能力〈炎〉主に剣に炎を纏って戦闘する。そこから、炎を飛ばしたり出来る。

・柚嬉(感情暴走)

麗音が瀕死に陥り、悲しみのあまりに暴走する。自身の能力とは関係ない。能力〈?〉

感情〈悲(未完全)〉涙を見た者に過去一番悲しい記憶を思い出させ、それに応じて胸に傷を与える。その涙には人の目を奪い、注目させる効果もある。

・締崎

国家警察署の上官を務めている正義感の強い男。

能力〈拘束〉拘束具を造り出し相手を拘束する。能力者であれば、能力を使えなくし、非能力者であれば、脱力しその場に倒れ込む。

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