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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第二章 月と夢と精霊と
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帰郷 7

 ミッション二日後——

 

「ウィーっす。っと皆さん、お揃いで」

 

 昼下がりのIN-PSID本部IMCに、気怠さを装ったティムが入室してくる。IMCには、既に直人、カミラ、アラン、そして、藤川、東、田中、真世が詰めていた。

 

「ティム、ずいぶんのんびりな出勤ね」そう言うカミラの口調は、言葉とは裏腹に、事務的だ。いつもの小言相手ではないと、張り合いがないようだと思いつつ、ティムは言葉を返す。

 

「へいへい。万年遅刻娘がいねぇと、五分でもこれだ。で、いつ帰ってくるんだっけ? アイツ」

 

「サニとIMSは、例のプラント跡地の現地調査も含めて、明後日まで向こうでの滞在を許可してある」カミラに変わって、東が答えた。

 

 ニヤリとして、ティムは東を見る。

 

「調査……とは言いつつ、サニに家族との時間を作ってやるなんて、チーフもなかなか粋なことするじゃないの」

 

「サ、サニにも、ち、ちゃんと今回のミッションと現地調査に関するレポート提出を課しているからな。勘違いするな」東は顔を強張らせて、ティムの視線から逃げた。

 

「へいへ〜い」

 

 すると、壁面モニターの方から、騒々しい声が聞こえてくる。一同の視線が、モニターに集中すると、通信ウィンドウいっぱいに、亜夢の顔が映し出されていた。

 

『ねぇ、ねぇ、ねぇ! まだぁ!?』

 

 亜夢の通信元が<アマテラス>のブリッジである事は、皆すぐにわかる。

 

「わっ、亜夢!? アイツ、もう??」ティムは、苦笑して一歩引いた。

 

『あ、こら、亜夢! 勝手に通信を!!』調整に乗り込んでいたのであろう、アルベルトが亜夢の後ろで怒鳴っていた。

 

『早く訓練、やろ! やろ!』アルベルトには耳を貸さず、亜夢は、モニターの向こうからせがんでくる。

 

「亜夢ちゃん! こっちはまだ、これから……」真世が宥めようと声をかけた。

 

『やぁだー!! また、あの虹の蛇さんと、早く遊びたいぃ!』亜夢は、眉を吊り上げ、駄々をこねる。

 

『あーもう、煩くて敵わん! さっさと始めてくれんか!?』亜夢の後ろで、禿げ上がった頭を撫で上げながら、アルベルトがボヤいている。

 

「チ……チーフ?」カミラは、東を窺う。

 

「ああ、ブリーフィングはいい。シミュレーション内容はその都度説明する」呆れ顔を浮かべて東は言った。「ふふ、早く行きたまえ」藤川が付け加えて促す。

 

「は、はい。じゃあ、行きましょう!」

 

「はい!」

 

 インナーノーツの四人は、<アマテラス>格納庫直通エレベーターへ、足を進める。

 

「ナオ」「ん?」カミラ、アランに続こうと、足を踏み出した時、直人はティムに声をかけられ振り向いた。

 

「よかったな、サニのヤツ」

 

 ティムは、珍しく裏表の無い笑顔を見せ、直人の肩を軽く叩くと、エレベーターへと駆けて行った。

 

「ああ……本当に」

 

 晴れやかな顔を上げ、直人はエレベーターへと駆け出した。

 

 

 ****

 

 同刻、オセアニアIMC——

 

「それじゃあ、シドレアは……」モーガンは、腕組みした片手を顎に当て、クリバヤシに話の続きを促す。

 

 クリバヤシは、多数に枝分かれする樹形図か、マインドマップを思わせるグラフィックをモニターに投影しながら声を弾ませる。

 

「はい! あのPSI波動砲発射時に、再フォーマットされて、未補完領域の80パーセント以上を量子ニューロンで自己ネットワーク化しています。つまり、シドレアのシステムは……」

 

「完成した、ということか?」モーガンの隣で、前屈みでモニターを覗き込むライラは、怪訝な表情を浮かべ問いただす。

 

 クリバヤシの後ろに控える<クナピピ>クルーらも表情を硬くして、クリバヤシの説明を待つ。

 

「ええ、大方。もちろん、細かい調整やバグの洗い出しは必要ですが……」「信じられん……なぜ、これまで進まなかったネットワーク構築が一気に……」モーガンは、モニターが描き出す、木枝が伸びるようにネットワークが構築されていく様子を食い入るように見詰めながら言った。

 

「簡単なことだ」

 

 ライラは、身体を起こして微笑む。

 

「あの歌さ。ファビオの魂もまた、家族の絆を求めていたのだろう。サニでなければ、成し得なかったことだ」

 

「ライラ……」

 

「ふふ、私は、あの人の娘にはなれなかった。そういうことさ……」

 

 微笑みを作ったままモニターを見つめるライラの横顔は、いつに無く儚げであった。

 

 クリバヤシの脳裏に、ふとミッションから戻った直後の光景が浮かぶ。

 

 目覚めたファビオの元に、一目散に駆けつけたサニ、そしてロワナ。三人は肩を寄せ合って、咽び泣く。身体の自由がままならないにも関わらず、ファビオは、しっかりとサニの肩を抱き寄せていた。

 

「サニ先輩……」クリバヤシは、目頭が熱くなってくるのを皆に悟られまいと、手元に視線を落とし、次の資料の説明に取り掛かった。

 

 

 ****

 

 着陸体勢に入ったヘリコプターのプロペラが、砂塵を巻き上げ、乾いた大地に生い茂る草木を揺らす。機体の側面には『IN-PSID』、そして『IWAKURA』の表記が見て取れる。

 

 機体が静かに着地し、機体に伝わるプロペラの回転振動が次第に収まってゆく。

 

「着いたよ、ファビオ」

 

 車椅子に乗せられ、窓の外を呆然と見詰めるファビオに、ロアナは優しく声をかけた。

 

「ここが……ママの」「ああ……」

 

 隣の窓からサニは、食い入るように外を眺めていた。窓の外には、林の中の幾分開けた場所に、簡素な古びた家が数棟、物置小屋のような建物がいくつかならび、中央の広場で遊ぶ、半裸の子供達が、物珍しそうにこちらを窺っているのが見える。どこにいたのか、いつの間にか、褐色、あるいはほぼ黒い肌の老若男女が、広場に群がってきていた。

 

「ファビオ……アンタが守ってくれた……アタシらの大地……」

 

「……ロワ……ナ……」脳に機能障害が残ったファビオは、辿々しくも、しっかりと妻の名を呼び、彼女を真っ直ぐ見詰める。ロワナは、ファビオの震える手をしっかりと握りしめた。サニは両親のその姿に、顔を綻ばせる。

 

「準備できたわ! さあ、降りましょう!」乗り合わせていたアイリーンが、ロワナとサニを手伝って、車椅子のファビオを機体から降ろす。

 

 

「おお……ロワナ、ファビオ……」

 

 ヘリコプターから降りたファビオ、ロワナの姿を認め、広場の人垣から、一人の老人が進み出てきた。

 

「えっ……あの人!?」サニは、その老人の姿が、ミッションの最中に心象に現れた人物その人である事に気づく。

 

「お父さん……」「……せん……せい……」

 

 ファビオは、胸元に抱える、袋に納めたディジュリドゥを硬く握りしめている。

 

「よく、戻ってきた」老人は、ロワナとファビオを迎え入れる。その後ろに控えるアボリジナルの人々の笑顔も優しい。

 

「その声……やっぱり……お爺ちゃんだったんだ……」

 

 老人は、両目を見開いてサニを見据える。

 

「おお、お前が……」「えぇ。私達の娘」

 

「サニよ。お爺ちゃんの声、確かに聞こえた。お陰でパパを連れて帰ることができたよ。ありがとう」サニは、初めて会う祖父に、不思議と懐かしさを覚えていた。

 

「そうか……サニ」「わっ!? ……と……」祖父は、孫娘をしっかりと抱きしめる。隔てられた二十年という時の隙間を埋めるかのように、祖父の温かな体温が、サニの全身へと伝わってくる。

 

 抱擁を解き、コミュニティの長老である祖父は、長い髭に覆われた口をモゴモゴと動かして語り出す。

 

「すまなかった……ロワナ、ファビオ……そしてサニよ……儂は、ファビオの成したことを感じてはいた……だが、掟により、其方らをここに入れること……かなわなかった。長年、お主らを苦しめてしもうた。許しておくれ……」

 

 長老は瞑目して俯く。長老の垂れ下がった腕を取り、しっかりと握るとロワナが答える。

 

「何をいうの、お父さん。全ては、アルチェリンガ(ドリームタイム)の足跡……でしょ? こうして絆が戻った。……今までのことは、アタシ達の絆を、強く結び直す為……虹蛇の贈り物よ」

 

 長老は、顔を上げ、娘、ロワナ、その夫、ファビオ、そして孫娘、サニ一人一人の顔をじっくりと見回す。

 

「うむ……そうじゃ……そうじゃな……」

 

 長老は、そっと横を向く。

 

 長老の視線の先、アウトバックの続く先は、未だ返還されていない彼らの聖地。向こうに小高い丘陵地帯が見える。かつて、あの電力プラントが建設された辺りだ。

 

「あの満月の夜……儂らは見た。聖地にかかる月虹を……大地と天の営みが一つ……甦ったのじゃ」

 

 間違いない……この長老は、私達のミッションを全て見通していた……サニはそう実感した。

 

 サニらに同行してきたIMS副長、斎藤が、一歩進み出る。

 

「長老。我々IN-PSIDの調査でも、この一帯の隣接次元における地脈の活性化を確認しています。災害の潜在的可能性が解消されたとは言えません。我々に任せていただければ、避難先もご用意できますが……」

 

 長老は、暫し斎藤を見つめると、広場に集う同胞らを見渡した。

 

「良いのじゃ、このままで。我々は大地の営みの一部。共に歩むのみじゃ」

 

 アボリジナルの皆は、長老の言葉に屈託の無い笑顔を浮かべている。ファビオ、ロワナ、そしてサニも、自然と同じ笑顔になっているのを見て、斎藤は、目を伏せ深く頷いた。

 

「……そう、おっしゃると思いました。聖地の返還に関しては、我々からもオーストラリア政府に働きかけてみましょう」

 

「ありがとう」

 

 長老と斎藤は、堅い握手を交わす。

 

「ロワナ、ファビオ。お主らは、これからどうする?」長老は、慈しむような微笑みで、娘、ロワナを見詰める。

 

「ファビオは、もうしばらくIN-PSIDに協力したいみたい。だからアタシも……サニ、アンタは?」

 

 ロワナに話を振られたサニは、イタズラな笑みを浮かべた。

 

「お爺ちゃん達の暮らしも楽しそうだけど、物欲にまみれたアタシには、今の暮らしが合ってるからねぇ」

 

「……それに、アタシがいないと寂しがる連中がいるから」晴れ渡るオーストラリアの広い空の向こうへ、サニは思いを馳せる。

 

「そうか……好きにするがいい。ここはお主らの故郷じゃ。いつでも帰っておいで」

 

 長老は、大きく腕を広げ、娘夫婦、そして孫娘をしっかりと抱きしめる。

 

 この大地のような温かさだと、サニは思った。

 

「……ありがとう、お爺ちゃん!」

 

 いつしかサニは、屈託のない笑顔を取り戻して(・・・・・)いた。


お読み頂きありがとうございます!

第二章 前半「サニ編」これにて完結となります。次話は、インターバル回、それを挟んで、後半「ティム編」へと続きます。引き続きお楽しみ頂けましたら幸いです。


サニ編、完結記念!前半のゲストキャラのイメージイラストです!ぜひご覧ください。

https://www.pixiv.net/artworks/112355779

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