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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第二章 月と夢と精霊と
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帰郷 1

「……ねえ、起きて……起きてよ……なおとぉ!! 起きろぉ〜〜!!」

 

「わぁ!!」耳をつんざく声の残響が、頭蓋を振動させ、直人は、微睡むいとまも無く覚醒した。目の前に、満面の笑みを浮かべた亜夢が、覗き込んでいる。

 

 直人は、身を起こして辺りを見回す。<アマテラス>のクルーは、皆、安堵を浮かべ、直人を見つめていた。フォログラムには、アムネリアの姿も戻ってくる。

 

「よぅ、ナオ。ずいぶんと、長いデートだったじゃねぇか?」ティムがニタニタとした笑みを浮かべながら、声をかけてきた。タイマーを確認すれば、この宙域の活動可能時間は、残り十分を切っている。

 

「そうだ、サニは! サニは無事に!?」「ああ、あいつなら、ほら」

 

 ティムは<クナピピ>との通信ウィンドウを指差す。付き添いのマヤに補助されながら、サニはゆっくりと身体を起こしている。クリバヤシが居ても立っても居られないとばかりに、駆け寄っていた。

 

『うぅんん……』『サ、サニ先輩!』

 

 <クナピピ>クルーらのサニの帰還を喜ぶ声が聞こえてくる。

 

「サニ……よかった……」ほっとなった身体に、肉体の重圧がのしかかってくるのを、直人はじっくりと受け入れた。すると、突然、ブリッジに警報が鳴り響き、直人は疲労が次第に広がる身体を跳ね起こす。

 

「まずい! 急激な時空収束だ! 巻き込まれるぞ! すぐに次元浮上を!」アランが解析報告を告げる。

 

「浮上レベルは!?」「レベル3だ!」

 

「わかったわ! <クナピピ>にも通達! 直ちに、時空間転移!」カミラは即座に命じた。

 

 

 ****

 

「むぅ……うぅ……」

 

 ミッションの間、身動ぎ一つなかったファビオの顔に苦悶の影が滲み出す。

 

「ファビオ!?」ロワナは、身体を震わせてモニター越しのファビオへと声をかけていた。オセアニア支部のIMCが、にわかに騒然となる。

 

「容態は!? 何が起こっている!?」

 

「の、脳波が、……活性化し始めています!」オペレーターがモーガンに答えた。

 

「では、彼は? 目覚めると!?」

 

「え、ええ……覚醒しつつあります。ですが同時に、身体PSIパルスにも変調反応が……このまま急激な現象化があれば……」「肉体は耐えられない……」

 

 モーガンとオペレーターの会話にロワナ、ライラは、顔を強張らせた。

 

「<アマテラス>、次元深度レベル3付近へ浮上、確認!」「<クナピピ>も同宙域へ浮上した模様!」「通信回復します」

 

『こちら<アマテラス>。対象者の深層無意識域で、急激な時空収束が発生し、退避しました。直人は無事、帰還。サニ、気分は……』『ご心配なく、カミラ隊長……こっちも、何とか……』

 

「サニ……」ロワナは、モニターの向こうで笑みを浮かべる娘の姿に、目頭を押さえていた。

 

『もう……みんなには、恥ずかしいの、見られまくりで……あのまま沈んだ方が良かったかも……』サニは、両手に上気した頬を埋めた。

 

「お前にも、恥じらいってもんがあったのか?」ティムが空かさず反応する。

 

『うっさい! ティム』サニは、ティムに噛み付かんばかりにシートから身を乗り出す。

 

『でも……』

 

『皆……ありがとう』サニは、モニターの中で顔を上げ、通信がつながる各所に向かって笑顔を向けた。

 

『ぶ、無事に戻って来てくれて……本当によかったです』クリバヤシは、小刻みに身体を震わせている。『お、大袈裟なんだから……もう』『だ、だだ、だって……』

 

 <クナピピ>クルーらの、笑い混じりの明るい声が聞こえてくる。サニはすっかり、彼らに受け入れられているようだと、直人は思った。

 

 サニは、<アマテラス>の方へと真っ直ぐ見つめ、声をかけてきた。

 

『アムネリア、亜夢。貴女達も……』

 

『……』アムネリアは小さく頷いた。

 

「サニ! また、勝負しよう!」亜夢の爛々と見開いた瞳にサニは、吹き出さずにはいられない。

 

『望むところよ!』サニは、亜夢の挑戦に笑顔で答えた。

 

『センパイ……』「サニ……」サニの青く輝く瞳に、直人は自ずと引き込まれる。暫しの時間、通信を見守る皆は、口を噤んだ。


言葉を交わさずとも、分かり合える。そんな感覚は、この一時だけなのだろう……二人は、そう噛み締めていた。

 

 直人は、意を決して口を開く。

 

「……まだ終わってない。ファビオさんを、お父さんを助けよう!」

 

 サニは、ふっと視線を下に落とした。ウェーブの髪が、直人を見つめていた瞳を覆い隠す。口元に微かな笑みを残して……。

 

 顔を上げたサニは、困難に立ち向かう、インナーノーツの気概をすっかり取り戻していた。

 

『ええ!』サニの短い返事に、インナーノーツの皆は、頷き合い、決意を確かめ合う。彼らに応えるかのように、再び警報が<アマテラス>と<クナピピ>のブリッジに鳴り響いた。

 

「波動収束フィールドが! 深層領域からの励起を捉え始めた!」すぐに解析を終え、アランが報告する。

 

「総員、第一種警戒体勢!」

 

「シドレア! <アマテラス>とデータリンク! アムネリアと一緒に、アレを捉える!」サニは、気迫を込めてシドレアに命じる。

 

『……ターゲット補足。波動収束フィールド、再構成します』

 

 アムネリアは集中を深め、シドレアの観測をサポートする。<アマテラス>と<クナピピ>が作り出す波動収束フィールドの一点が蠢き盛り上がると、そこから空間をめくり返すようにして、両船の下方に波打つ面を広げていく。

 

『……水と光の出会うところ……そこに現れるは夢の現し身……』

 

 アムネリアの言葉と共に、波打ちは星空を映しとる、水鏡へと変貌していった。その水鏡に、銀に輝く円盤が、浮かび上がってくる。

 

「あれは?」いち早く、直人がその変化に気づいて天井モニターを見上げ、指差して言った。

 

「月……満月……」ハッとなって、ティムも上方のモニターを見上げた。現世では、あり得ないほど、巨大な月が、<アマテラス>と<クナピピ>の天空を覆い尽くしている。

 

 水鏡の泉の中で、何かが銀盤の縁を辿るようにぐるぐると、渦を描く。まるで、銀盤との逢瀬を喜ぶかのように、赤や黄、青や紫といった光を浮かび上がらせていた。

 

 サニの脳裏に幼い頃、母から聞いた伝承が甦る。それは、見守るロワナも同じであった。

 

「月の泉……」「虹蛇の泉……」

 

 母娘の戦慄く唇が、同じ言葉を紡ぎ出す。

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