ドリームタイム 6
「サニ! くっ、我慢して」直人は、PSIブラスターのトリガーレバーを引き倒す。<アマテラス>両舷、六基の凸レンズ状ブラスター放射機が発光し、その上方に稲光を伴うエネルギーストリームが形成され、発射体勢に入る。
<アマテラス>のPSIバリアに侵入し始めていた、サニの幻像の両手が、エネルギーストリームに弾かれ、虹色の雫を撒き散らしながら仰け反った。
「今だ! ティム!!」「機関いっぱい! 全速!!」
<アマテラス>は、サニの巨像の傍を、最大船速ですり抜けて行く。
「今は、アムネリアだ! ティム、アムネリアを!」「わーってるって!」
サニは再び蛇のような形をとって<アマテラス>を追う。<アマテラス>は、デコイを散らしながら、アムネリアを見失った座標を目指す。
『センパイ……どうして……なんで、いつもそうやって……』
『アタシから逃げんのよ!』
「くっ……サニ……」サニの叫びが、直人の胸を抉る。
ディコイの妨害を、虹色の蛇と化したサニは、次々と粉砕しながら<アマテラス>との距離を縮めていく。
『た〜〜ま〜〜ゆ〜〜れ〜〜ふるべ〜〜、ゆら〜〜ゆら〜〜とぉ〜〜……』
目的座標に近づくにつれ、突如、音声変換された呪詛が聞こえてくる。
「こ、この呪文⁉︎」カミラが気づいて言った。
「ああ、まただ!」アランは、すぐに解析にかかり、これまでのミッションで集積した同様の声音と同種のものであることを確認している。
呪詛に混じって、アムネリアの苦痛の呻きが聞こえてきた。
「アムネリア!」『なおと!』
『アムネリア、アムネリアって! どうしてセンパイは!!』
突然、<アマテラス>は後方へ引き戻される強力な引力に捕まった。ブリッジにも衝撃が走り、インナーノーツは、激しく揺さぶられた。
『へへぇ! 捕まえた』
<アマテラス>の船体に絡み付いた虹色の螺旋が、再びPSIバリアを侵食し始める。
「PSI-Linkに干渉⁉︎ サニのパーソナルサインが⁉︎」モニターに現れる警告表示に目を見開き、アランが声を張る。
「えっ⁉︎ データはオフにしていたはず⁉︎」カミラは、ギョッとしてアランに聞き返す。
『うっさい! この船は、アタシの船よ! アタシだって! アタシだって、まだ!!』アランより先に、音声変換が、苛立ちに満ちた声を上げた。
サニの持ち場であるレーダー席のコンソールの各計器が勝手な動きを見せ始め、半球状のPSI-Linkインターフェースモジュールが、緑白色の光を放つ。モジュールには、まだレーダー席で俯して、眠ったままの亜夢の腕が覆い被さっている。それに抗議するかのように、モジュールの光は、発熱を伴って、強烈に輝いた。
「ひゃあああ!!」
情け無い悲鳴を上げ、亜夢が跳ね起きる。
「えっ、えっ、えっ⁉︎」二の腕あたりに感じる痛烈な痛みに、亜夢は腕を上げて、覗き込んだりしている。
「亜夢!!」
直人に呼ばれた亜夢は、キョトンとなったかと思うと、あたりを不思議そうに見回し始めた。
「あれ、あれれ? <アマテラス>……?」
亜夢の顔が、パァッと明るくなっていく。『ワクワク』とでも言い出しそうな顔付きだ。
『どきなさいよ! 亜夢! そこは、アタシの席よ!』「あっ! サニ⁉︎ え、どこ??」
亜夢は気配の感じるまま、サニを探し始め、すぐに自分を目覚めさせたPSI-Linkインターフェースモジュールに目を留める。
「あ、ここかな??」
発光著しいモジュールに、誘われるまま亜夢は、左手を翳していく。
「だ、ダメだ! 亜夢! 今、それに触っちゃ!!」直人が言うより早く、サニの左手は、モジュールへと乗せられていた。
「ひゃあああ!!」『亜夢ぅ! どきなさい! アタシと、センパイの間に入らないで!!』
音声変換されたサニの、抗議の声の抑揚と、モジュールの発光が同期している。
「えぇ⁉︎ ヤァだよ! 亜夢だって、乗りたかったんだもん!」
亜夢の身体から仄かに赤みを帯びた、炎のような揺めきが立ち上る。モジュールの熱も、まるで感じているそぶりが無い。亜夢、自らが、能力を開放して、発熱しているようだ。
「あ、亜夢!!」直人の制止は、亜夢の耳に入らない。
『アンタ、やる気⁉︎』『やるよぉ!』
亜夢の炎のオーラが、輝きを増す。亜夢は、はしゃぐ子供そのままの嬉々とした表情を浮かべていた。
『熱! このガキィイイイ! シャアアアアア!!』『ウニャアアアアアアアア!!』
「収束反応! 左舷⁉︎」
アランの報告を待つまでもなく、左舷のモニターの映像に、巨大なサニの虹色の幻像と、亜夢の幻像が立ち現れる。お互い両手を固く掴み合ってキャットファイトを演じ始めた。
「……何、やってんだぁ?? あいつら」
ティムは、額に手をやって、呆れ顔をつくっている。
「しめた! サニのPSIパルスを抑えた! ナオ、今のうちだ!」アランが、声を挙げた。
「りょ、了解! 亜夢、そのままサニを抑えてて! ティム!」「あ、ああ! コース修正!」
サニが亜夢と戯れあっているのを横目に、<アマテラス>は、目標座標へと舳先を向ける。
……ちっ……禍ツ神子め……なんと勝手な……
夢見頭の心眼は、向かってくる<アマテラス>を真正面から捉えていた。
……それにしても……
背後には、火の粉を撒き散らせ、赤とも黒ともつかない長い髪を振り乱して、禍ツ神子と戯れる少女の姿が見える。
……なんだ、この火のような気配は⁉︎……これが熾恩を退けたという、神子の片割れ?? ……
神話の女神さながらに、光の矢を番えた<アマテラス>が迫る。
……くっ! ……今は捨て置くべきか……
「皆、急げ! ……神子の魂を、この夢見堂に封じるのじゃ!」
夢見子らが一斉に唱える魂寄せの祈祷が、夢見堂に高らかに鳴り響く。水瓶の波打ちが、次第に弱わり始めていた。
……ふふ、獲ったぞ! 神子!!……
夢見頭の口角が、持ち上がったその時。
『うぉおおおお!』「あぁああああああ!!」
サニと組み合う亜夢の、雄叫びが、炎の柱となって立ち昇る。その瞬間、夢見頭が水瓶に沈めた呪符が、あろうことか、水中で燃え上がる。
「なに⁉︎」たまらず、夢見頭は呪符を握りしめた手を開いてしまう。
「しまった!」
呪符は、たちまち燃え滓となって水瓶の底へと沈んでいった。同時に、<アマテラス>が、光の矢を放つ。光の矢は、夢見頭の想念をかき乱すだけでなく、水面に僅かな電流となって現象化、痛烈な痛みを腕に受けた夢見頭は、水瓶から弾き出され、大きくのけ反って、そのまま床に崩れる。
「お、お頭ぁ!!」夢見子らは、驚愕し、祈祷の唱和を止めてしまう。盈月は、思わず頭の元へと駆け寄った。
「おのれぇ、くっ、じゅ……術が!!」
夢見頭は、痺れに震える右腕を、左手で庇いながら、歯軋りしていた。




