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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第二章 月と夢と精霊と
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ドリームタイム 1

 ……熾恩の思念を辿ってみれば……ふふ……

 

 ……この感じ……其方……[禍ツ神子]か……なるほど……熾恩が拘るわけよ……

 

 サニの胸の辺りに響いてくる声。さっきの『クソガキ』とはまるで違う。心を押さえつけてくるかのような圧迫感。狙った獲物には、情け容赦のカケラもないであろう、冷徹さ。

 

 ()だと、サニは悟る。

 

「マガツ……ミコ?」

 

 さっきのガキンチョが、これまでのミッションでも何度か口にしていた『ミコ』なる言葉。サニも引っかかるものを感じていたが、よもや自分がそう呼ばれるとは……いや、まて、そうじゃない。何か頭に付いている。『マガツ』って何⁉︎ おそらく良い意味ではないことは、理解できる。それが勘の虫に触る。自分を蔑んで呼ぶ、いけすかない女。

 

 サニは、正面をきつく睨みながら、指示を飛ばす。

 

「ミア! 全周スキャン! 急いで!」「りょ、了解! ……あっ⁉︎」

 

 ミアが、操作にかかろうとするや否や、音声変換が、自動的にその者の声を再現し始めた。

 

『……眠りは、大いなる源……法身へと帰る束の間……それが夢……我ら[夢見衆]の本地なり』

 

「夢見……衆?」

 

 サニの問いかけに答えはない。

 

『夢を乱す、夢魔よ! 禍ツ神子よ!』

 

「来るわよ!」サニの張り上げた声に、ブリッジの一同は、コンソールや、シートの肘掛けにつかまって身構える。

 

『滅せよ』

 

「波動収束フィールドに変調! 三時、六時、九時方向に急激な波動励起!」レーダーに浮き出た警告表示をすぐさま、ミアが報告する。

 

「シールドは⁉︎」「ま、まだ積んでません!」クリバヤシは、焦り混じりに答える。

 

「くっ! PSIバリア出力最大!」「出力最大! 皆さん、衝撃に備えてください!!」

 

 三方から押し寄せる空間の畝りが、<クナピピ>に襲いかかる。

 

「わぁあああああ!!」ブリッジは、まるで地震に見舞われたかの如く、激しく攪拌される。

 

『対象者PSIパルスとの同調が、撹乱されています。同調率十五パーセントに低下……』

 

「このままじゃ、リンクが切れる! クリバヤシくん、船の防御はみんなに任せる! 指揮を!」

 

「は、はい! サニ先輩は⁉︎」

 

『お、おい! サニ⁉︎ お前、まさか⁉︎』画像が乱れる通信モニターの向こうから、ライラが覗き込んで声を張る。

 

「シドレア、あんたへのダイレクト接続、もちろんできるよね⁉︎」

 

「い、いくらなんでも、む、無茶です! ましてや、こんな状況で!」クリバヤシは、振り返り、サニに向かって叫んだ。

 

『止めろ! サニ! 私の二の舞になるぞ!』

 

「シャラップ!!」

 

 サニの一声が、クリバヤシ、ライラの口を塞ぐ。ブリッジの一同の視線が、サニに注がれた。

 

「どうなの? シドレア⁉︎」

 

『……接続可能時間は、五分です。それ以上は、システム、及び接続者の生命に甚大な影響を及ぼす可能性があります。リミッター、解除しますか?』

 

 サニは、全天モニターに表示されている、ミッションインフォメーションウィンドウを一瞥する。<アマテラス>の到着予定を測るタイマーが、ちょうど残り五分に達していた。

 

「……やるしかない! いいわ、シドレア! リミッター解除!」

 

『リミッター解除します』

 

『サニ!』ライラは必死に呼びかける。激しく乱れる通信モニターの向こうで、モーガン、そしてロワナも、ライラの後ろで顔を強張らせていた。

 

『聞いているのか! サ……』「くそ、通信が!」

 

「だめです! サニ先輩!!」「お願い、やらせて」

 

 激しい揺れの中、立ち上がって止めようとするクリバヤシに、サニは穏やかな笑みを浮かべる。

 

「あんな人でも……パパなの……」

 

「先……輩……」

 

 一抹の淋しさを隠したサニの笑顔に、クリバヤシはそれ以上何も言えない。

 

『シドレア、ダイレクト接続モードへシフト。システム全コントロールをサニ・マティーニへ譲渡します』

 

「アタシがいくよ……パパ……まだ、死なないで……」

 

 PSI-Linkインターフェースモジュールが、翡翠色の激しい光彩を放ち、サニは眠るようにシート深くに身体を沈めていった。

 

 クリバヤシは、サニを見送ると自席に戻り、意識して気持ちを立て直す。

 

「くっ……皆、船を死守する! 僕らもダイレクト接続でPSIバリアを!」

 

「それしかなさそうだな。ミア、マヤ、やるぞ!」「はい!」「あいよ!」

 

 クリバヤシ、エリック、ミア、マヤの四人は、各自の席に設けられた、通常PSI-Linkインターフェースモジュールに手をかざし、意識を深く落としていく。

 

 

 ****

 

 夢見の術に入り、(かしら)と共に熾恩の想念の広がりを追った先に見つけたのは、一本の大木。それは伝説に語られる世界樹なのだろうかと、小夜はふと思った。

 

 だが、違った。夢の中に浮かびあがる、奇妙な人工物であるそれこそ、御所に仇なす、祓うべき禍ツ神子の宿木。

 

 夢の中で小夜は、呪縛の念を空間波動に変えて、打ちつける。共に夢見に入った盈月、夢見頭も同様に念を放ち、大木を追い詰めている。

 

 呪縛に抗おうと言うのか、大木は、その姿が見えなくなるほど振動し、表面は、薄青の光彩を強く放ち始めていた。

 

 念が徐々に押し返される不快感が、夢の中で『自分』と認識する部分へと押し寄せてくる。

 

 ……お頭…………

 

 お互い、姿の見えない夢見頭、盈月もそれを感じ取っているようだ。

 

 ……ふ……無駄な抵抗を……

 

 三人の術者は、更に念を強めていく。すると大木の根元あたりから、光球のようなものが発せられた。人のようだと、小夜は思った。

 

 ……おや? …………あれは? ……

 

 盈月もそれに気づく。

 

 ……禍ツ神子め……夢に遊ぶか……

 

 ……面白い。なれば、少々……楽しませてやらねばなるまい……盈月、小夜……アレをやる……

 

 ……其方らは、引き続き、船の方を締め上げよ……

 

 ……は! ……

 

 命じる夢見頭の姿は見えずとも、心なしか笑みを浮かべたように、小夜は感じた。

 

 夢見頭は、大木の呪縛包囲から離脱し、一人、先程の光球を追う。

 

 夢の空間は、距離があってないようなもの。立ち所に、夢見頭の想念は、サニの後方へと迫っていた。サニはまるで気づきもしない。

 

 ……ふふふ、禍ツ神子……もはや逃げられませんよ……

 

 ……さぁ、『良き夢』を……


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