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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第二章 月と夢と精霊と
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クナピピ 6

『警告。警告!』

 

「うるさいよ、シドレア! あんたは、アタシとパパに集中! クリバヤシくん、こっちは手一杯よ。お客さん対応、できる⁉︎」「客だぁ⁉︎」サニの発言に、エリックが顔を顰める。

 

「や、やってみます! ミア、解析は⁉︎」

 

「今、やってる! ……次元深度レベル5相当にシグナル励起。波動収束フィールドを侵食してきてる!」

 

「フィールド場を偏向して振り切れない?」

 

「ダメ! 今、フィールド偏向したら、ファビオさんのPSIパルスを見失う!」

 

 ファビオのPSIパルスを捕捉するのに精一杯の<クナピピ>は、迫り来る波動収束フィールドの侵食に、なす術はない。

 

「一体、何者だ⁉︎」苦々し気に、エリックがモニターに向かって叫ぶ。

 

 ……くそアマァァァ……テェメェのせいでぇ……

 

 サニの頭の中で、その声ははっきりとした個性を持ち始めている。

 

 ……⁉︎ ……この声……あのがきんちょ(・・・・・)? ……

 

『総員! 第一種警戒体制! マヤ、トランサーデコイ、全弾装填しておけ。おそらく、これは……』

 

「敵よ!」

 

 ライラが言うより先に、サニは断じた。

 

「敵⁉︎」「このインナースペースに、敵って?」マヤとミアは、キャプテンシートへ振り返り、目を丸めてサニを見上げる。

 

「ど、どういう事なんです? サニ先輩⁉︎」

 クリバヤシも困惑して尋ねた。

 

「それはアタシも知りたいわ。最近、ウチらのミッションに絡んでくるヤツらがいるの!」

 

 サニは眉を吊り上げ、周辺を警戒したまま答えた。オセアニアチームの四人は、言葉を失う。

 

『……ソアマ……へへ……ぇ……ぶっ殺し……やるぜぇ……』次第に音声変換された、何者かの声がブリッジに忍び込む。

 

「声⁉︎ 日本語か?」「何て言ってんの、リョウちゃん?」

 

「こ、殺してやるとか……まって、今、自動翻訳、入れる!」

 

『……これは……何だ……? ……別の異界……船……? けけけ……ずいぶん、ダッセェ船に乗り換えたなぁ。クソアマ!』

 

「な、何だとぉ!」「クリバヤシ君!」

 

 姿の見えない相手にいきり立つクリバヤシを、サニは厳しい口調で制する。

 

『他のヤツらは。神子はどうした?』

 

「答える義理は無いわ! スッこんでなさい。このストーカー野郎!」サニは、声の(ぬし)に向かって、日本語で声をあげてみた。

 

『ス、ス、ス、ストーカーァだぁ⁉︎ ゴラァ⁉︎』

 

 相手は、怒りを露わにしている。シドレアを通して、コミュニケーションは可能のようだ。そうとわかったサニは、不敵な笑みを滲ませると、再び口を開く。

 

「そうでしょ! これで三回目よ! コソコソとちょっかい仕掛けてきてさ。堂々と出てこれないの⁉︎」

 

 オセアニアチームは、会話(サニの声も自動翻訳されている)の成り行きを静観する。

 

『な……』

 

「ははーん、わかった、アンタ。どっかのネクラハッカーね。たまたまアタシたちのミッションに入り込んで、アタシみたいなかーわい〜〜コとコンタクトできたからって、しつっこく追っかけてきたってワケね」『ば……バッカやろう……誰が……オマ……』

 

 相手の動揺に、サニは畳み掛ける。

 

「アンタの事、当ててやろうか? その感じだと、歳は十七、八。友達いないチビデブ! バーチャルネットで拾ったイケメンアバターを本当の自分と思い込んでる、厨二病拗らせどー"ピー"……お前の"ピー"は、"ピー"で"ピー"……」『て、てメェ〜〜よくも! オレは、オレは!』

 

 サニのあまりに下劣な言葉のオンパレードに、オセアニアチームは、唖然と苦笑いの混ざった複雑な表情を浮かべていた。

 

「サ……サニ……先輩……」見兼ねたクリバヤシは、サニを落ち着かせようと声をかける。サニは、片手をかざして遮ると、その手で何かを合図している。

 

「えっ⁉︎」サニの指差す方へとクリバヤシは視線を送った。装備モニターに、トランサーデコイ八発が、全発射管に装填され、発射準備が整ったことを示すサインが灯っている。サニの意図はわからないが、クリバヤシは、視線をマヤに送る。マヤは一つ、静かに頷き、トリガーに手をかける。

 

『ざけんな! オレは! オレはぁ‼︎』

 

「クソチビ! ネクラ! 陰キャブサ男! 変態ストーカー野郎ぉ‼︎』サニの舌は絶好調だ。その挑発に、声の主は怒り心頭になって絶叫する。波動収束フィールドに衝撃波が広がり、<クナピピ>は激しく揺さぶられる。

 

『いいか‼︎ クソアマ‼︎ オレは、オレは! オレはぁ‼︎』

 

『正真正銘‼︎ イケメンじゃあああああ‼︎‼︎』

 

 高らかな宣言がブリッジの中で何度もエコーを繰り返す。

 

「……」「マジ……」「ひくわーこいつ」

 

 クリバヤシは、皆の頭上に『ドン引き』の文字が浮かび上がるのを見た気がする。

 

「イ……イタイわ……アンタ……」サニは額に手を当て、首を二、三回横に振った。

 

『んだどぉおお! このクソビッチ! ん⁉︎』

 

 そうしている間に、波動収束フィールドは、ディジュリドゥの音と共鳴しているかのように激しく波打ち始める。<クナピピ>の方へと引き寄せられながら空間の波が一つに集まり、この波紋が作り出す蠢きが、この空間を支配しつつあった、侵入者の思念波を掻き乱す。

 

『うっくっ……ち……このぉおお‼︎』

 

『……再試行……ターゲットPSIパルスの応答確認……リンク成功……同調率……二十二パーセント……』

 

 シドレアの音声が、待っていた時を告げる。サニは身を乗り出して叫ぶ。

 

「今よ! トランサーデコイ、一番、射出!」「発射‼︎」サニの発令に、マヤは咄嗟に反応した。

 

 一本のトランサーデコイが、蠢く波動収束フィールドの波に乗って、<クナピピ>の周囲を飛び回る。

 

『な、なんだぁああ、ちっ! そこかぁ!』憎悪の姿を見せない思念は、デコイを追って、闇雲に念波を叩き付ける。トランサーデコイは、何度かの念波の攻撃に圧壊し、キラキラと眩い煌めきを散らしながら、空間摺動の谷間に消えていった。

 

『……な⁉︎ ち、違う⁉︎ どこだ⁉︎』焦りを見せる声。ターゲットを見誤ったことを悟ったらしい。

 

「波動収束フィールド偏向! 追い出せ!」サニは、その隙をついて命じた。モニターの映像が虹色のマーブル模様を描き、一気に様相を変えていく。

 

『うわぁああああ⁉︎』絶叫がブリッジに木霊する。

 

『ちくしょう‼︎ どこいった⁉︎ 出てきやがれ、クソビッチ‼︎ オレは! オレはぁ……』空間の様相が、落ち着きを取り戻してくるに連れ、声は遠ざかっていった。

 

 モニターに、先程とは色合いがだいぶ異なるが、あのアーティスティックな空間が再び広がり始める。

 

「ふぅ……ったく、とんだ邪魔が入ったわね。クリバヤシくん!」

 

「……」クリバヤシは、茫然とモニターを見上げていた。「クリバヤシくん!」「は、はい⁉︎」驚いたように、返事する。

 

「今のストーカーのPSIパルスは?」「お、概ね、採れてます」「じゃ、波動収束フィールドにフィードバック! フィルタリングしておけば、しばらく、入ってこれないはずよ」「あ、はい! さっそく」

 

 クリバヤシは、目を輝かさせ、生き生きと作業にかかっている。

 

『大丈夫か、サニ? ファビオのPSIパルスは⁉︎』波動収束フィールドの偏向で一時的に乱れた通信も回復し、通信モニターの向こうからモーガンが声をかけてきた。

 

「そっちもなんとか。パパの身体の方はどう?」『……危機的な状況からは、一時的にしろ脱したようだ。<クナピピ>は、そのまま現状維持。<アマテラス>の到着を待て!』

 

「了解よ。シドレア、このまま現状維持。しばらく頼むわ」『了解しました』

 

「ふぅ……なんとかなったわね……」

 

 サニは、シート深くに身体を沈み込ませ、溜め息と共に肩の力を抜く。すると、火照った全身から、汗が滲み出ている感覚がじわりじわりと押し寄せてくる。幾分の不快さに、サニは眉を顰めて、目を瞑る。

 

 パチ パチ パチ……まばらに手を叩く音が聞こえてくる。次第にその音がまとまって、大きな拍手へと変わった。

 

 驚いてサニは身体を跳ね起こす。

 

「えっ、何……皆、どうしたの?」

 

「お見事!」開口一番、マヤがよく通る声で言った。「ホント、どうなるかと思ったけど」釣られるように、ミアが言う。「どうやら、アンタのこと、見くびってたようだな。悪かったよ」エリックは、気恥ずかしそうに頭を掻いた。

 

「凄い、凄いですよ! サニ先輩!」

 

 クリバヤシは、立ち上がって爛々と瞳を輝かせ、猛烈に手を叩いている。

 

「ク……クリバヤシくん」

 

「やるじゃないか……あのコ」盛り上がるブリッジを通信モニターの中に見守りながら、モーガンは、静かな微笑みを浮かべた。

 

「ああ……シドレアも、あのコを認めたようだな」「ライラ」一人、呟くようにこぼしたライラの言葉。モーガンはハッとして顔を挙げ、彼女の横顔を見つめる。厳しさの緩んだ微笑。レスキューを離れる時、一度だけ見せた顔だった。

 

「ファビオ……サニが……サニがやってくれたよ」ロワナは、ガラス張りの窓で隔てられた、ファビオの入れられた保護カプセルへと声を投げかけている。

 

「へ、へへ……ま、まぁ、ざっとこんなもん?」

 

 照れ臭さに、サニは頭へと手を持ち上げた。が、その手をすぐに止め、目を見開いて眉を顰める。

 

「って…………まだ……」 

 

 

 再び、何者かの声が、胸の内側から湧き上がってくる。

 

 ……お眠りなさい。熾恩……其方の悪夢、我らが祓おうぞ……

 

「どうした? サニ?」

 

 マヤの問いにサニは答えず、身を固くしている。<クナピピ>ブリッジの祝福ムードは一変、緊張が覆い被さってくる。

 

「まだ……何か居る……」サニは小さく呟いた。

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