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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第二章 月と夢と精霊と
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クナピピ 4

「……うぅ……‥時空転移……」ミアが目を開けると、すでに自席のコンソールパネルの中で時空間転移完了のサインが灯り、現座標情報を無言で知らせていた。

 

「とっくに明けているわよ。現在、次元深度LV4、予定座標との誤差三パーセント弱。修正急いで」後方のキャプテンシートの方から声がかかり、ミアは咄嗟に振り返った。

 

「サ、サニ……あんた……」

 

 オセアニアチームの四人が、軽い目眩や酔いを感じつつ身体を起こし始める中、キャプテンシートのサニは、淡々と手を動かしている。

 

 キャプテンシートには、船の一通りの操作機能が集約されている。ミアがすべき、先程の確認も、サニは既に自席で確認済みなのだ。ミアは、眉を吊り上げ、小さく舌打ちする。ようやっと身体をおこしたエリックに、ミアは、棘のある口調で修正座標を伝え、さっさと作業にかかるよう、せっついた。

 

「マジ、平気なわけ? 信じらんない……」マヤは、目眩が引いていくのを感じながら、サニを見遣る。

 

「皆、時空間転移……なかなか、慣れなくて。いつもは、段階的に跳躍するんですが……さすがに一気跳びは……」クリバヤシは、皆の弁明をした。

 

「こんなの、いつもよ。ウチらは」サニは、平然と答えた。初のミッションで、『船酔い』していた事など、もはや記憶の彼方だ。

 

「あぅう、気持ち悪ぅ〜〜」ミアはまだ、回復しないようだ。

 

「すぐにハーモナイズ調整した方がいいわ。確かにこの感じ、尋常じゃない……」サニは、PSI-Linkインターフェースからくる僅かな浮遊するような感覚に、警戒を強めていた。自席コンソールにシドレアの周辺観測データ報告が表示される。

 

「何なの……LV4ですでに、個体無意識と集合無意識の融合が進んでいる……」

 

「えぇ…….…ファビオさんの無意識領域の特徴です。生きながら、魂の自他境界が失われかけていた……それで、集合無意識のサンプリングに協力してもらってたんですが……」

 

「に、しても……これは、昨日より酷い……」クリバヤシの説明が終わるのを待たず、周辺情報を確認しながら、ミアが言う。

 

「直ちに、波動収束フィールド展開!」サニは迷いなく発した。

 

「おい、仕切るなよ!」エリックは、振り返り、サニを睨みつける。

 

「呑気なこと、言ってらんない。隊長さんと通信するにも、こんなんじゃ、フィールド拡げて時空拠点力場を作らなきゃ、無理よ」

 

「リョウ! 隊長との通信は?」サニを睨め付けたまま、エリックはクリバヤシに確認した。

 

「確かに……サ、サニ……の言うとおりです。ミア、波動収束フィールドを展開してください!」「OK! 副長がそう言うなら。展開するわよ!」

 

 先程から薄灰色のモヤを映し出していた全天型モニターに、今度は黄白色や濃青、赤系などの色がボンヤリと付き始める。一向に意味を成さない映像に、エリックは苛立ちを露わに腰を浮かせた。

 

「なんだよ! 大して変わらんじゃねえか! 通信は?」「……まだです!」

 

「通常装備じゃ、限界みたいね。さっそく、シドレアを使う。いいわね? クリバヤシくん」

 

「えっ! あ、そうですね……頼みます、サニ……」サニと視線が合いそうになると、気恥ずかしそうに、顔を俯けるクリバヤシ。

 

「あ……」ふと、何かに気づいて顔を上げ、サニの瞳を見つめる。

 

「……先輩……そうだ、サニ先輩!」クリバヤシは、嬉々とした笑顔で呼んでみた。

 

 思わず、席からズリ落ちそうになってサニはシートの肘掛けにつかまった。

 

「は、はぁ⁉︎ セ……センパイ?」サニは引きつった苦笑いを浮べながら身を起こす。

 

「なんじゃ、そりゃ?」エリックが眉を八の字にしている。「知らないの? 日本人独特の、言い回しよ」ミアは得意げに言った。「え、どう言う意味よ?」マヤは面白そうだとばかりに、ミアに訊ねる。「さぁ……何だったかしら」思い出そうとする素振りもなく惚けるミアに、マヤは目を細めた。

 

「え、、あ、あの……インナーノーツの先輩ですし」クリバヤシは、思わぬサニの反応に、視線があちこちに泳ぎ、アタフタしている。仲間らは、それをニタニタと見つめていた。

 

「ぷっ……ぷぷっ……アタシがセンパイって」吹き出す笑いを手で抑えながらサニが言う。

 

「……いけませんか?」

 

「……くくくっ。いや、そうきたかって感じね」「え?」

 

 サニは、垂れ下がった前髪を掻き上げ、クリバヤシを見る。捨てられた子犬のような瞳がサニを見つめている。

 

「何でもない。どうぞご勝手に。クリバヤシくん」「あ、ありがとうございます! サニ先輩!」

 

 満面の笑みを残して、自席のコンソールに向き直るクリバヤシ。純情少年にセンパイと呼ばれるのも悪くはないかと、小さな笑みをこっそりとこぼすと、顔を上げて気持ちを切り替えた。

 

「そんじゃ、いくよ! 起きなさい、シドレア!」

 

『了解。サニ。コマンドをどうぞ』

 

「コマンド?」

 

 クリバヤシが、説明しようと口を開きかけたが、それより先にサニの口が動いていた。

 

「そんなの知らない。いいから、ざっくりこの辺りをビジュアル再構成!」

 

『……音声命令認証……プログラム自動判定……通常モードからトランス・アクティブモードへ移行。[メイン・リゾネーション・ペタル]展開します』

 

 閉じた傘を開くように、<クナピピ>上部の六枚の感応パネルが開いていく。それと同時に、<クナピピ>の船体が、細かな振動を始めた。

 

「注意してください! サニ先輩! 接続者に時空間情報が一気になだれ込みますので、キャパを絞って……って⁉︎」

 

 クリバヤシが振り返って注意したが、既にサニの周辺に配置されているPSI-Linkインターフェースモジュールが青緑色に強く発光している。

 

「慣れっこよ!」サニは、眉を顰め目を閉じ、身体を小刻みに振るわせている。

 

「……うっ……見えた! ……うん、いいよ……これでフィールド固定……モニターに出して」

 

『了解しました』


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