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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第二章 月と夢と精霊と
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クナピピ 3

「おっ、来たな」

 

 <アマテラス>ブリッジの自動扉が開く音に、アルベルトは振り向いた。カミラ、アランが駆け込んでくる。

 

「部長、予定繰上げです。乗船待機になりました」「ああ、聞いている。で、直人と亜夢は?」

 

「今、来るっす!」カミラとアランに続けて、ブリッジ入りしたティムが、親指で後方を指しながら言った。

 

 その後に直人が続く。背に、亜夢を背負って。

 

「……す、すみません……遅く……なりました。ほら、亜夢! もう……いい加減、起きて!」

 

 直人は亜夢を揺らしながら声を掛けるが、一向に起きる気配がない。

 

「ウゥン……むにゃ……なおとぉ……おんぶぅ……」「……して……きた……から! ねっ、もう着いたよ」流石に、腕と腰が痛い。後ろに傾く重心に、直人はなんとか抵抗する。

 

「構わん。直人、亜夢をレーダー席(ここ)へ。このまま、セッティング変更してしまう」アルベルトは、込み上げそうになる笑いを真顔で押し殺して、直人に言った。

 

「はい、お、お願いします」

 

 普段はサニが座る席に、亜夢を背中から滑り降ろすと、直人は自席へと向かった。

 

「ったく……船に乗りゃ、何とかなるって話だったけど、大丈夫か、これ?」レーダー席で、幸せそうな寝顔を見せる亜夢に、直人の隣席のティムは呆れ顔だ。

 

「さぁ……」

 

 数分前 IN-PSID本部IMC———

 

「アムネリア……起きて。アムネリア」

 

「ん……んん……あれぇ……」真世の呼びかけに、保護カプセルに横たわる少女は、ゆっくりと目を開ける。

 

「アムネリア、起きれる?」「んん……マヨォ? どうしたのぉ〜」目をこすりながら身を起こした少女は、自身の両肩に垂れ下がる、束ねられた髪の房を怪訝そうに持ち上げる。すると、少女は髪を束ねていた青いビーズのシュシュを無造作に引っ張りとって手首にかけ、頭をブンブンと振って髪を散らす。

 

「亜夢ちゃん? ……亜夢ちゃんなの?」

 

「亜夢だよ……」「アムネリアは?」

 

「うーん……わからない」ボンヤリと答える亜夢に困惑した真世は、上層のコントロールブースを見上げた。

 

 コントロールブースから藤川が声を掛ける。

 

「亜夢、状況が変わった。今回は、直接、船に乗ってもらうが、どうかね?」

 

「ふぅねぇ……?」真世は、亜夢の頭上に大きな『ハテナ』が浮かび上がるのを見た気がした。

 

「<アマテラス>だぞ! 亜夢!」ティムがコントロールブースから呼びかける。

 

「……あま、てらすぅ……?」

 

「ずっと、乗りたがってたじゃねえか! ナオも一緒だぞ!」「お、おい! ティム!」

 

 ティムは、直人を下層の亜夢に見えるように立たせる。

 

「……<アマテラス>!」直人の姿を認めると、急にハッと気づいて、目を輝かせる亜夢。

 

「えっ⁉︎ 乗っていいの⁉︎ なおと⁉︎」

 

「う、うん……サニが乗れなくなって……代わりに……」「やぁっっったぁぁああああ‼︎ 行く、行く、行く、行く‼︎ 絶対行くぅ‼︎」

 

 亜夢は、保護カプセルから跳ね降りると、コントロールブースへ向かう、数段の階段を登っていく。

 

「あ、ちょっ……ちょっと!」真世の声に振り向くこともなく、亜夢はコントロールブースの直人のそばへと駆け寄った。

 

「行こ、行こ! 早く行こ……え……」

 

 直人の袖を掴んでせがみ始めたのも束の間、亜夢は急に脱力して、その場にへたり込む。

 

「亜夢!」「どうした⁉︎」皆、驚きと共に亜夢の周りに集まる。

 

「これは……ん……」保護カプセルの監視モニターに、異常を知らせるサインが立っているのに気づいた東は、モニターデータに素早く目を走らせる。

 

「東くん?」藤川も、そのデータを覗き込んだ。

 

「やはり……アムネリアは、すでに<アマテラス>に居る」東の解釈に、藤川も頷く。

 

「アムネリアは、対人インナーミッション接続で<アマテラス>とリンクを始めていた。それを途中で解除したせいで……」

 

「亜夢の身体から、一時的に離れたままに……か」アランも、東の説明に納得を示す。

 

「亜夢の身体は、亜夢、アムネリアの二つの魂でバランスを保っている。一方が遊離している状態では、身体の活力が失われ、長時間その状態が続けば、最悪、死に至る危険もある」東のさらなる説明に、インナーノーツの四人は、顔を曇らせた。

 

「すぐに乗船させるしかなかろう。亜夢を<アマテラス>とPSI-Linkさせれば、戻るはずだ」

 

 藤川の判断に、皆、異論はない。

 

「そうですね。やむを得ない、予定時間を繰り上げる。直ちに、亜夢を連れて乗船!」東は、声を張って命じた。

 

「了解!」

 

「っつっても、亜夢は……」へたり込んでぐったりとしている亜夢を一瞥して、ティムが言う。

 

「ナオ、ティム、二人で運んでちょうだい」カミラは、当たり前のように言った。

 

「えぇ?」「しゃぁねぇ、ほら、ナオ」

 

「う、うん……亜夢、行くよ」

 

 ティムと直人は、亜夢を立ち上がらせようと、腰を屈めた。すると亜夢は、ふらふらしながらも、直人の背中に覆い被さる。

 

「! って……おい!」亜夢がそのまま、全体重を乗せてくるので、直人は思わず声を荒げた。

 

「へへ……おんぶ……おんぶぅ……」「はぁ⁉︎」意識が朦朧とし始めているのか、はたまた、まだ微睡の中なのか。亜夢は、離れようとはしない。そうしているうちに、亜夢の腕が、直人の首に絡みつく。

 

「なおとぉ〜〜」

 

 ティムはにべもなく立ち上がった。

 

「って、おい! ティム」

 

「ぷっ! こりゃいいや。我らがヒメは其方をご所望です。おぶってってやんな」

 

「な、て、おい! 手伝えよ!」「やーなこった」ティムは、ニタニタと笑いを浮かべながら、カミラらが待つ、<アマテラス>メンテナンスエリア直通エレベーターへと駆けてゆく。

 

「おんぶ〜〜」亜夢はお構いなしに、直人の背に身体を預ける。

 

「ナオ、急いで」「あ、はい! くっ……」

 

 直人は、仕方なく亜夢を背負ったまま、ゆっくりと腰を上げる。

 

「風間くん、大丈夫?」よろける直人に、咄嗟に手を差し伸ばしながら、心配げに真世が言う。

 

「そ、そんなに重くないから……何とか」直人は、俯いて言った。幼子のような言動の亜夢とはいえ、身体は二十歳の女性だ。真世にこんなところを見せる事になるとは……。

 

「き……気をつけて……」「う……うん」

 

 真世と視線を合わせる事なく、直人が体勢を整え、エレベーターへ向かおうとした時。

 

「……くぅ……」気持ち良さげな寝息が聞こえてくる。

 

「え、寝た……」————

 

「くく、ケッサクだったぜ、お前の子守り姿。サニにも見せてやりたかったなぁ!」

 

「ティム、言ったら殺す」「わ、目がマジ⁉︎ じょーだんだよ」

 

 直人は、鋭いナイフのように目を細めてティムを睨んだまま、自席に着席した。ティムは、引きつった苦笑いのまま、自席の操縦桿に手をかける。

 

「部長、あとどれくらいかかりますか?」カミラは自席にて、システムチェックを起動させながら問う。

 

「三分くれ。その間に発進準備を」

 

「わかりました。皆、準備を進めて頂戴!」「了解!」

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