サニ・マティーニ 6
「……わかった。やってみよう」
『いいのか、コーゾー』「ファビオの魂が失われてしまっては元も子もない。サニ、お前に賭ける」
藤川の承諾に、サニは大きく頷いた。
『任せといて、所長!』
「アル、直ちにサニのパーソナルデータを<クナピピ>へ」『……承知した』「それから、<アマテラス>のセッティング変更を急いでくれ」
モニター向こうで立ち上がったアルベルトは、部下らに指示を飛ばす。
「真世」「あ、は、はい!」
突然祖父に呼ばれ、真世は、自席から腰を浮かす。
「聞いたとおりだ。亜夢、いやアムネリアをすぐに起こしてくれ」「わ、わかったわ、おじいちゃん」
席を立つと真世は、IMC下段の対人インナーミッション受入区画へと降りる、数段の階段を駆け降りてゆく。
『セッティング変更にもう少し時間をもらうぞ。到着予定は、プラス十分だ。それまで保たせろ、サニ』アルベルトは、モニターに向き戻って言った。
「了解よ!」サニは、笑みを浮かべて答えた。
「本当にいいの? 貴女も、隊長のように、なるかもしれないよ……」サニから見ておよそ左手側に座る、<クナピピ>レーダー手、ミアが、サニの方へ振り返り見ながら言った。
「いーんでない、それならそれ。お手並み拝見〜〜」前方、左舷側に座る、ミッション装備を担当するマヤは、自身のコンソールパネルをチェックしながら、含み笑いをこぼしている。
「だな。あんたは飛び入り参加者だ。隊長席に座ってるからって、勘違いするなよ。あんたはシドレアに集中してさえいればいい」マヤの右隣で、操縦桿を握るエリックは、冷ややかな視線をサニに送っている。
「わかってるわよ」サニは、平然と言った。
「み、皆さん、船の指揮は、IMCから隊長が執ります! だから皆、マルティーニさんに協力してください!」クリバヤシが、腰を浮かせて声を張るが、三人にはあまり響いていないようだ。
この頼りなさそうな『男の子』に、副長とは、何のイジメかしら、とサニが思った時。
『その通りだ』通信モニターを通して、よく通る低い声がブリッジに流れてくると、一転、緊張が漲る。
『お前達のことは……くっ……IMCからしっかり監視している! 下手な事して、サニの足引っ張ったりすんじゃないよ。細かいことは、リョウの指示を聞く事!』
通信モニターの向こうから、隊長ライラが睨みを効かせていた。
「うわっ! こわ……」『いいね! これは命令だ』エリックの呟きが聞こえたのか、その声をねじ伏せるかのような威圧感だ。
「Yes,ma'am!」オセアニアチームらは、脊髄反射で応答していた。
……やっぱ軍隊? ……ってより、女王様と僕達かしら……
サニが薄ら笑いを浮かべていると、僕一号が、ハツラツとして声をかけてきた。
「大丈夫、僕がフォローしますので。安心して、シドレアに専念してください!」
「あ、ありがとう、クリバヤシくん」なるほど、彼が副長に選ばれている理由が、わかる気がした。
「い、いえ……マルティーニさん……」クリバヤシは、はにかんで俯いた。
「マルティーニ……ねぇ……おっ⁉︎ きた!」
サニの席のパネルに、サニのパーソナルコードの読み込みを知らせる通知が表示されている。
『サニ、貴女のパーソナルデータとシドレア起動コードを紐づけた。これで、シドレアは、貴女を認識する』モニターの越しのモーガンが、説明した。
「わかったわ! じゃ、いくよ! シドレア、起動!」
『……オーラスキャン……チェック……オールクリア…………』
感情の起伏のない、女性の声が答え、サニの席の中央のモニターがグリーンに発光する。
その中央に、
“the
Circuit for
Direct
Observation and
Reconstruction of
Archeringa”
の表記とロゴが浮かび上がる。
「うわっ、喋った??」「シドレアは対話型オペレーティングシステムなんです! 大体のことは、話しかけるか、そのインターフェースモジュールを掴んで念じるかすれば、動かせますので!」
『パーソナル認識番号X9-59。ようこそ……サニ・マルティーニさん』
シドレアの合成音声が呼びかけてくる。
「うわ、アンタも『マルティーニ』? ……やっぱ、しっくりこないなぁ」
「えっ……?」クリバヤシは首を傾げる。
「名前登録、変えられる?」「え、ええ……喋りかければ……」
「シドレア! 登録名変更!」
オセアニアチームの四人は、怪訝そうにサニへ視線を運ぶ。
『登録名変更、受け付けました。再登録をどうぞ』音声は、抑揚なく促す。
「いい、シドレア! アタシの名前は、サニ・マティーニ! ちゃんと覚えなさいよ!」
「はぁっ⁉︎」エリックは、顔を顰め、「マティーニって……」ミアは、呆れ、「ぷぷ、カクテルかよ?」マヤは嘲笑めいた笑いをこぼす。クリバヤシは、呆然として言葉を失っている。
『……サニ・マティーニ……登録しました』
「よろしく! シドレア!」サニは、満足気なしたり顔を浮かべていた。




