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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第二章 月と夢と精霊と
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サニ・マティーニ 5

「<クナピピ>を出す⁉︎ それにサニが乗ってるだと⁉︎ どういう事なんだ‼︎」

 

 <アマテラス>の最終確認を行なっていたアルベルトは、寝耳に水の報告に眉間に皺を寄せ、通信パネル向こうのアイリーンへ怒鳴りかけた。

 

『それが……ミッション対象者の容態が急変したとか……あ、オセアニアの支部長が話すそうです。繋ぎます!』アイリーンは、通信パネルを切り替え、オセアニア支部IMCのモーガンを出す。

 

 通信は、<イワクラ>を中継して、日本本部のIMC、およびアルベルトが作業指揮を執る<アマテラス>メンテナンスエリア制御室に共有され、其々が分割されたウィンドウに表示された。

 

『オセアニア支部のティアナ・モーガンです。ミッションプランの一方的な変更になってしまい、申し訳なく思っています。ミッション対象者、ファビオ・マルティーニの容態急変に伴う緊急処置とご理解頂きたい』

 

『モーガン支部長、仔細を教えてくれ』

 

 本部IMCのウィンドウの中で、藤川が答えた。

 

『はい。<アマテラス>の到着まで、少なくともあと三十分……それまで、<クナピピ>による生命維持活動を展開します。ファビオの魂は、既に深層無意識領域LV6界面付近まで達していると推測されます。この領域の探索は<クナピピ>のシドレアを用いる他、ありません。ファビオの魂情報を見つけ出し、<アマテラス>到着までシドレアとのPSIパルスリンクを維持する予定です』モーガンは、冷静に説明する。

 

「変更プランは了解した。だが、なぜ、<クナピピ>にサニが?」藤川の隣に立つ東が厳つい顔を顰めて問う。<アマテラス>チームの皆も一様に怪訝な表情を浮かべていた。

 

『私の……うっ……代行です』モーガンの隣から、ラウラがウィンドウに姿を現す。

 

「君は、確か……」

 

 藤川が、事前に確認していた名前を思い出す前に、ウィンドウに現れた、頭を抑え、苦痛をこらえた女性は、話を続けた。

 

『<クナピピ>隊長、ラウラ・パテル-トンプソン。ファビオとシドレアの同期サンプリングの事故……アレは私の心身にも……うっ……。見兼ねたあのコが代わりをやると……名乗りを……』ラウラは、そこまで言うと、椅子に崩れ落ち、呼吸を荒げていた。彼女の傍らに医師と看護師らしきスタッフが立ち、彼女の症状を確認しながら対応にあたっている。

 

「無茶苦茶だ! すぐに中止を……」東は声を荒げた。

 

『いや……』モーガンは動ずる事なく答える。

 

『我々もそう考えた。だが、サニの能力、これまでのミッション経験……総合的に判断して、彼女に任せる事にした』

 

『それにシドレアの認識コアは彼女の父親、ファビオのコピー……娘の彼女なら……』「ん?」モーガンに続けて、ライラが口にした言葉に、藤川が引っかかるモノを感じた時、新たに通信ウィンドウが立ち現れ、拡大した。

 

『そいう事!』

 

 オーシャンブルーのフィットスーツに、チェストパック——PSI-Linkシステム感応制御装置と生命維持機能を内蔵し、耐衝撃防護も兼ねた保護具——のインナーノーツ、オセアニアチームの、次世代型ユニフォーム(<天仙娘娘>チームと同じもの)に身を包んだサニが、その通信ウィンドウの中央で、手を振っていた。同じユニフォームを纏ったオセアニアチーム四人の姿も見える。

 

 四人の席は、サニの座る席を中心に、半円の弧に沿う形に配置されてる。そこが<クナピピ>のブリッジである事は、明らかだ。

 

「サニ⁉︎ お前!」ティムが眉を吊り上げて声を張り上げた。構う事なく、サニは話し始める。

 

『あとは、アタシのパーソナルデータを<クナピピ>に転送してくれれば、出られるわ! チョチョイとやっちゃってくれる? アルお・じ・サ・マ』

 

 ウィンドウ越しのアルベルトに向かって、サニはウィンクしてみせた。アルベルトの禿げ上がった額に血管が浮き出てくる。

 

「お、おじサマぁ? ふざけんな! だいたい、こっちはどうするってんだ⁉︎ LV6界面となりゃ、PSIバリアは五人揃ってなきゃ、まず保たない! さっさと降りて、こっちと……」『居るじゃない? 適役が』

 

 苛立つアルベルトの声をサニの一言が封じる。

 

「適役?」直人とティムは、顔を見合わせた。

 

『亜夢よ。あのコを乗せればいいでしょ』

 

 ウェーブがかったブルネットが、サニの目元を覆う。

 

「サニ⁉︎」カミラ、アランは目を丸め、アルベルトは言葉を詰まらせている。藤川、東は黙したまま、モニター越しのサニを見詰めていた。

 

『アタシと交代させる準備もしてあるんでしょ? 好都合じゃん?』モニター越しのサニは、顔を上げて、いつもの笑顔をみせた……つもりなんだろう、と直人は思った。

 

「え、お爺ちゃん……亜夢の訓練は、そういう……こと? ……」真世は、心配気に尋ねるが、祖父はそれには答えず、通信モニターに向かい合っていた。

 

 田中、そしてモニター向こうのオセアニアチームの面々も息を潜めて、ことの成り行きを見守る。

 

「サニ……お前、聞いてたのか?」

 

 沈黙を破ったのはアルベルトだ。それに対してサニは、コンソールに上がってくる機体チェックサインを確認しながら、飄々とした口ぶりで答える。

 

「さあ……でも、いいんじゃない、亜夢がやれるんなら。アタシは構わないよ」

 

「バカ言うな、サニ! お前無しでなんて、ありえないだろ?」「ティム…….ありがと……でも、おしゃべりしてる暇、ないのよ! 所長、お願いします!」

 

「うぅむ…………」

 

 藤川は、愛用の補助杖に両腕を乗せて、立ち尽くしたまま、暫し思考を巡らせた。

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