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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第二章 月と夢と精霊と
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サニ・マティーニ 2

「すまないな、休日の夜に」

 

 カミラ、アラン、ティム、そして直人のインナーノーツ四人がIMCへ入室するなり、藤川が声をかけてきた。

 

「いえ、問題ありません。で、状況は?」「うむ、一時間ほど前、<イワクラ>はオセアニア支部のあるメガフロート、[セカンド・ジーランディア]へ入港した」東は、カミラに答えて言った。

 

 IMC壁面モニターに映し出されたマップの中で、ニューカレドニアに程近い、オーストラリア、ニュージーランドに挟まれた海域に光点が点灯し、メガフロート[セカンド・ジーランディア]を示している。その海域は、太古に沈んだ大陸『ジーランディア』があったという。

 

「予定通り、オセアニアのインナーミッション管制システムとの同期作業に入っている。ここ、IN-PSID本部との時空間差、重力補正を考慮すると、完全同期まであと一時間といったところだ。従って、出動予定は一九〇五を予定、諸君はIMC(ここ)で待機だ」カミラに答えて、東が説明する。

 

「了解!」

 

 藤川、東が立つIMC管制ブース中央の卓状パネルにインナーノーツの四人が集まる。加えて、既にIMCで待機していた真世と田中も席を立ち、遠巻きにパネルを覗き込む。

 

 東は資料をパネルに展開しながら説明を続けた。

 

「さて……朝、話したとおり、今回のミッションは、サニの父親、ファビオ・マルティーニの救命だ。ファビオは昨日の晩、オセアニア支部の研究プログラムへの協力中、意識混迷に陥り、そのまま、オセアニア支部の対人インナーミッション保護カプセル内で延命処置中だ。君達には、オセアニア支部のシステムと同期した<イワクラ>を中継し、先発したサニを回収しつつ、ファビオの魂領域へと向かってもらう」

 

「オセアニア支部のPSIクラフト……えっと……」ティムは、数日前に聞いた話の記憶を思い返す。

 

「<クナピピ>だ」「そう! その、<クナピピ>は? 使えないんすか?」

 

 ティムの質問に、藤川が口を開く。

 

「潜れることは潜れるが、まだ船の艤装が不十分でな。オペレーション装備は、誘導パルス放射機とトランサーデコイ八発しか積んでいない。しかも、いずれもテスト段階の代物だ」

 

「なるほど、それで私たちの出番ってわけね」「うむ……」

 

 ティムは、芝居じみたように腕を組み、二、三深く頷く。

 

「対象者の魂は、おそらく集合無意識次元と一体化しつつある。それを肉体へと戻すには、PSIブラスターによる情報転送が有効と考える」ミッションの概念図を表示しながら説明する東の言葉に、直人はハッとして顔を上げた。

 

「PSIブラスター……あ! 亜夢の時と同じ方法……」

 

「そういうことだ。尤も、状況次第で、手段の変更は十分あり得る」「わかりました」

 

 インナーノーツ一同の顔が引き締まる。

 

「しかしなぁ……サニの親父さんを助けるってのはいいけど……なんかこう、モヤっとするんだよなぁ」大げさな手振りを付けながら、神妙な面持ちでティムが言う。

 

「親父さんが死んじまうと、オセアニアの研究が大きく後退する事になるからってのが……な。結局、その研究とやらを守りたいだけなんじゃね?」

 

 確かにその通りだ。カミラ、アラン、直人の三人は顔を曇らせた。藤川が再び口を開く。

 

「否定はできない。だが、オセアニアの研究は、今後、我々のミッションの行末を大きく左右するものだからな」

 

「所長、オセアニア支部の研究とは、一体……サニの父親はどういった協力を?」

 

 カミラの問いに、藤川は一つ、頷いた。

 

「うむ……君たちには話をしておかねばならぬだろうな」

 

 

 ****

 

「バカ親父……これじゃ、文句も言えないじゃん……」

 

 オセアニア支部内IMCへと通されたサニは、既に対人インナーミッション受け入れ区画の保護カプセルに収容され、ただゆっくりと呼吸を繰り返すファビオと対面していた。

 

「文句、言うために、わざわざ戻って来たんかい? アンタってコは?」

 

 後ろから不意にかけられた声に、サニは振り向く。

 

「ママ……」

 

 眉を顰めながらも、わずかな笑みを湛えた母ロワナ、そして母をIMCへ招き入れたのであろう、ここオセアニア支部の責任者である中年女性が立っていた。

 

「久しぶりね、サニ」「モーガン支部長」

 

「先月のミッション、立ち会わさせてもらったよ。日本でも、しっかりやってるようじゃないか?」「ええ、まぁ」

 

 浅黒い肌、縮毛の長い髪を背に垂らした大柄な女性支部長モーガンは、笑顔を作って見せたが、すぐに真顔に戻って口を開く。

 

「こんな事になって、大変申し訳なく思っている」モーガンは眉を寄せて、目を伏せる。

 

「いえ、ですが一体、どうして?」

 

 モーガンはファビオを収めた保護カプセルに寄ると、カプセルにそっと手を乗せて話し始めた。

 

「貴女の父親、ファビオが、我々のPSIクラフト、<クナピピ>の基幹システム、[シドレア(Ci・D・O・Re・A:the Circuit for Direct Observation and Reconstruction of Archeringa アルチェリンガ(ドリームタイム) ダイレクト観測再構成回路)]の開発に協力していた事は?」「ええ、何となく訊いてます」

 

「うむ。PSIシンドロームを発症していた彼を受け入れて間もなく、彼の精神活動が非常に特殊なケースである事は、すぐにわかった」

 

「一方、当時からインナースペース深次元領域、集合無意識領域へのアプローチは我々、IN-PSID全体にとって最重要課題であったわけだが、彼の精神活動をサンプリングする事で、その課題は大きく前進し、先月ようやく、<クナピピ>の稼働試験とシドレアの調整段階にまでこぎつけた……」

 

 モーガンは、保護カプセルから離れると、サニとロワナの方へ向き直り、二人をじっと見据えて言う。

 

「……だが、昨夜、トラブルは起こってしまった……」

 

「続きは、僕の方から話しますよ」

 

 再び、サニの背後から声がかかり、サニは声のする方へと向いた。四人の若者らが、区画へと下る階段を降りてくる。

 

 オセアニア支部の黒色ベスト状の所内ユニフォーム姿ではあったが、彼らがここのインナーノーツであると、サニはすぐに直感した。

 

「サニ・マルティーニさん? 初めまして、リョウタロウ・クリバヤシ(栗林良太郎)です。<クナピピ>の副長をしています。こちらは、クルーのエリック、ミア、それとマヤ」

 

「サニよ。よろしく。日本人?」クリバヤシと名乗った青年が求める握手に応じながら言う。

 

「ええ、貴女と交換留学みたいな形でこちらに。インナーノーツに選ばれたのを機に、こっちに籍は移しましたけどね」

 

 センターで分けた、短い明るめの黒髪、幾分大きい丸っこい両目、背丈は百七十程だろうか? 一目見て、サニは人の良い好青年なのだろうと思った。どこか、あの『センパイ』みたいだとも……

 

「ふーん。で、隊長さんは?」

 

 インナーノーツは基本五人構成だ。副長が紹介した中には、隊長らしき者はいない。

 

 サニの問いかけに、インナーノーツ、オセアニアチームの表情が一様に曇る。話出しにくそうにしながら、クリバヤシが口を開いた。

 

「それが…………今回の件は、ファビオさんだけじゃない。うちの隊長も、巻き込まれて……」

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