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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第二章 月と夢と精霊と
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空音 5

 ……聞こえる……この音は、何……何なの……

 

 暗闇が辺りを包んでいる。頼りになるのは、その風が吹き抜けるような音だけだ。

 

 サニは、音を追いかけずにはいられない。

 

 ……待ちなさい、サニ! ……

 

 背後から呼び止める声。

 

 ……カミラ隊長⁉︎ ……なの……

 

 ……その音は違う……貴女の合わせる音ではないわ……

 

 ……えっ……でも………

 

 …………サニ、もっとよく聴いて、合わせようよ……

 

 不意に直人が、隣に立って囁いた。バイオリンを持つ手を力無くぶら下げている。

 

 ……セ……センパイ……わ、わかってるわよ! ……で、でも……

 

 そうしている間に、音は闇深くへと沈み込んでゆく。

 

 ……音が……追わないと! ……

 

 駆け出そうとするサニ。

 

 ……だめだ……

 

 直人が言いながら、先回りする。

 

 サニは踵を返す。

 

 ……行くな……

 

 ……帰って来れなくなるぞ……

 

 また、不意に目の前に立ち現れた、アランとティムが言う。

 

 ……ダメよ、サニ……

 

 背後から迫ったカミラが言う。

 

 ……で、でも! ……

 

 サニは、構わず一歩踏み出すが、仲間達は、無表情のままサニを取り囲んで、彼女の行手を阻む。すると、その頭上を、火の塊のようなモノが飛び去ってゆく。鳥——火の鳥だ。

 

 ……きゃははは! ……はははは! ……

 

 ……あ、亜夢⁉︎ ……な、なんでアンタが⁉︎ ……

 

 火の鳥と一体となった亜夢が、笑い声をあたりに振り撒きながら、消えゆく音と戯れるように舞う。

 

 ……ふふふふ……

 

 サニの目の前で、亜夢は満面の笑みを残し、音の消え行く渦へと火の鳥の亜夢は飛び去り、溶け込んでゆく。

 

 ……な、なんでアンタなのよ! ……

 

 ……待って! 行かないで! ……

 

 音はもはや絶え絶えだ。その先へとサニは、必死に手を伸ばしていた。

 

 

「……お、おはよう、サニ」

 

 ぼんやりと世界が開けてくる。その中で、覗き込んでいる人影が、呼びかけている。

 

「……ナ……セ……センパイ……んん……?」

 

 サニは直人の顔が、キスでもできそうなくらい近い事に気づき、慌てて周囲の状況を見まわした。

 

 ここは、よく知ったIN-PSID本部地下のスタッフ専用医務室。その検査ベッドに横たわったサニは、自分の両手が、しっかりと直人の右腕を握り締め、彼を引き寄せていることに気づく。

 

 体勢を崩した直人は、ベッドの上でサニに覆い被さらんばかりだった。

 

「見せつけてくれますなぁ、ご両人。相変わらず、仲がよろしい事で」ニタニタと面白がるティムの顔が、直人の背後に見え、サニは顔を引き攣らせた。

 

「な、何でもないから!」「うわっ!」

 

 サニが、解いた両手で直人を突き放し、身を起こすと同時に、鈍い衝突音が聞こえた。仰け反った直人が、口を歪めて後頭部を撫でている。ベッド上方の移動式身体スキャナに打ちつけたのだった。

 

「つぅ……また(・・)かよ」

 

 いつか見た光景に、ティムは苦笑する。

 

「好っきだなぁ、お前も。そこにぶつけんの」

 

「ほっとけ」直人は口を尖らせた。

 

「……アタシ……一体……」サニは、自分の身体を見回している。ここに運び込まれた記憶が見当たらない。

 

「昨日の夜、練習の途中で気を失って……」

 

 直人は、後頭部をさすりながら立ち上がって言う。

 

「え…………また(・・)……」サニの唇が震えている。

 

「また?」「……う、ううんん。何でもない」

 

「で、先生。どうなんです?」ティムが検査コントロールブースの医師に問いかけた。

 

『一言で言えば、寝不足……だな』

 

 医師は、コントロールブースからマイクを通して答える。

 

「はぁ?」直人、ティムは医師の答えに拍子抜けした。

 

 医師は話を続ける。

 

『気絶も、寝落ちのようなものだろう。この一晩の眠りの測定結果だけだが、ノンレム睡眠の時間が、非常に短い。よく眠れてないんじゃないか?』

 

 医師の問いにサニは、目を伏せる。

 

「……かも、しれない……最近、低く唸るような、変な音が時々、聞こえてきて……」

 

「おいおい、幻聴かよ?」

 

「あ……そのせいで、昨日の合奏も……」「うん……」

 

『まあ、忙しいだろが、睡眠時間は十分取る事だな』

 

「はは! 大方、夜な夜な飲み歩いてんじゃねぇの? しばらく禁酒だな、サニ」

 

 ティムは、笑いながらサニの肩を二、三度軽く叩く。

 

「そんなんじゃない! 最近は、寝酒に一杯くらいよ!」「って……飲んでんだ」

 

「いいじゃない! 飲まなきゃ、やってらんない仕事なんだから」サニの返しに、直人は呆れ顔を浮かべている。

 

『ティム、だいたい、あんたにはデリカシーってもんが!』『おーこわ!』

 

 コントロールブースに、だんだんとヒートアップしてくる、検査ルームの言い合いが木霊する。うんざりしながら、医師はスピーカーの音量を絞っていく。

 

「サ、サニ……」「センパイも! そんな顔されると鬱陶しいから! 二人とも出てってよ!」

 

「っても、そろそろ訓練の時間だぞ」「あのね、先生の話聞いてた? アタシ寝不足なの! もう一眠りするんだから」「はぁ?」

 

『……いや、それくらい元気なら訓練行ってきなさい』三人の間に、マイクを通して割り込んできた医師の声色は、さっさと追い出したくてたまらないと言わんばかりだ。

 

『ええー、でもぉ!』

 

 医師が溜め息を一つ吐き出すと、内線電話の呼び出しが鳴った。

 

「……はい、医務室。サニ? ああ、まだ居るよ」

 

『サニ、電話だ』声をかける医師は、どこかほっとしたような笑みを浮かべている。

 

「あ、はぁい」

 

 パタパタと、小走りにコントロールブースに入り、サニは受話器をとった。

 

「ハァイ、サニです。あ、真世さん? ……え、オセアニア支部? うん…………Hi. Yes, I am……」

 

 興味本位の男二人が、コントロールブースへと入ってきた時。

 

「what!?」サニは声を裏返らせた。

 

「……ok. Thanks……」

 

 呆然と目を見開き、サニは受話器を滑り落とすように置いた。

 

「……ん、どうした?」「サニ?」

 

 何か良くない知らせであることは、直人、ティムともすぐに理解した。医師も無言のまま、サニを見守る。

 

 呆然としたサニの震える唇から、静かに言葉がこぼれ出す。

 

「……パパが……」

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