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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第二章 月と夢と精霊と
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空音 2

「それじゃ、次。これは?」

 

「木! たくさんの木!」

 

「うん、まぁ正解だけど……それを何という?」

 

「ん〜〜〜〜……あ、森! 森だぁ!」

 

「オッケー。じゃあ、今度はこれ……」

 

 亜夢は丸く大きな両目を輝かせ、真世の出す次の問題を待つ。

 

 IN-PSID本部IMCに設置された、対人インナーミッション用保護カプセルは、ここ最近、本来の用途から離れ、専ら亜夢と<アマテラス>のメインシステム、PSI-Link4000との接合のためのデータ収集装置として機能していた。

 

 カプセルの傍に立ち、真世は端末から決められた次のテストサンプルを立ち上げる。

 

 サンプルは、システムとリンクした亜夢の心象に抽象的なイメージとなって浮かび上がる。そのイメージを意識化する際の、精神活動、肉体の反応を詳細にシステムに記録していく。(このサンプル出力作業は、保護カプセルから離れた、コントロールブースからのリモート操作でも可能であったが、亜夢の不安、緊張をなるべく減らすべく、彼女がよく懐いている真世を傍に立ち合わせていた)

 

 まるでクイズに挑む子供のように、亜夢は作業を楽しんでいる。和やかなデータ収集作業を一段高いコントロールブースから眺めながら、東は口を開く。

 

「アーキタイプ波動収束の観測同期……アムネリアは、言わずもがな、ですが、亜夢もほぼ同等ですね」

 

「ああ。だが知性、知覚、感性……この世の肉体的感覚には、アムネリアと亜夢、それぞれの魂にも差異がある。その差異の調整が、今一番の課題だ」

 

 東の斜め後方、普段は真世が担当する、対人生命維持オペレーティング席で、随時上がってくる、亜夢の精神活動、及び身体反応の詳細データを監視しながら、アルベルトが答えた。

 

「つまり、その調整さえ上手くいけば、アムネリア、亜夢、二つの意識による、より精度の高い集合無意識域の収束効果を得られるというわけだ」

 

 そう補足する藤川もまた、東の傍に立ち、同じく亜夢のデータサンプリングを見守っている。

 

「それじゃ、集合無意識レベルの[エレメンタル]も、じゃんじゃん炙り出してくれちゃう訳ね。そりゃ大助かりってもんだぜ」

 

 藤川の背中に声をかけたインナーノーツのメンバーの一人、ティムは、大げさな手振りを交えながら言った。

 

「そう亜夢の能力ばっかり、当てにしてられないのよ、ティム」「そうだ。アムネリア・亜夢は、<アマテラス>のPSI-Linkシステムに直接アクセスして船の限界値を引き上げてくれている。だが、それをコントロールして、ミッションに有効活用するのはオレ達の仕事だ」

 

「まあ、そうだろうけどよ」隊長、カミラと副長、アランの、お約束なまでの慎重な物言いに、ティムは半笑いしながら、壁にもたれて作業を見守るサニに視線を向ける。

 

「少なくとも観測性能が上がるのは確かだろ? それだけでもさ、航路策定に、ターゲット補足。へへっ。オレ達はだいぶ楽できるな、サニ?」

 

「そうね……」サニは、笑み一つなく、ただ、眼下の亜夢と真世に視線を落としている。

 

「っと、何だい? ブスッとして」

 

「別に……」

 

 サニのぶっきらぼうな返しに、ティムはそれ以上、声をかける事を諦め視線を泳がせる。

 

「サニ?」彼女の近くに立っていた直人は、心配気に声をかけた。

 

「何でもないから! ほっといてよ」いつに無い機嫌の悪さに、直人は言葉が続かない。軽薄な笑みを浮かべた首を振って、『止めておけ』と伝えてくるティムが視界に入り、直人も今はそれが賢明だと後退りした。

 

「まあ、<アマテラス>のブリッジに、亜夢の席も用意してやらんといかんし、当分はここ(IMC)からの間接エントリーに変わりはない。お前たちは、今までどおり、しっかり頼むぞ」モニターに向かったままのアルベルトが、わざとらしく大きな声で言い放つ。

 

「わかってるって、おやっさん」とティム。

 

「で? 話って?」サニは、壁から離れ、IMCの出入り口の方へと向く。

 

「亜夢の見学って事なら、アタシ帰るわ」

 

「まあ、待て」藤川の声が、逃げるように足を踏み出したサニを引き止めた。

 

「東くん」「はっ」

 

 すぐに東は、オペレーションブース中央の卓状モニターに資料を展開する。その場のインナーノーツ五人がモニターの周囲に集まると、東は唐突に説明を始めた。

 

「次のミッション……アメリカ新合衆国支部との合同ミッションのスケジュールが確定した。来月の八日、日本時間〇六〇〇、ミッション開始だ」

 

「うげ、まぁた朝っぱらからかよ」わざとらしいくらいに顔を顰め、ティムは抗議した。

 

「仕方あるまい。アメリカ側の時間でベストなタイミングに合わせる必要があるからな」

 

「ベストなタイミング? 次のミッションは一体……?」隊長であるカミラもまだ、次のミッションについての仔細は訊いていない。

 

「うむ。君たちには月へ行ってもらう」

 

「えっ⁉︎」藤川の言葉に一同は、狐に摘まれたような表情を浮かべていた。一人、ティムを除いては……

 

 ティムの顔からは、さっきまでの、どこか(おど)けた表情はすっかり消え、かわりに吊り上がった眉が眉間に皺を浮き上がらせている。

 

「月って、あの空に昇ってくる?」呆れたようにサニが問う。

 

「ふふ、他に、何があるかね?」

 

 藤川の口元を覆う白い髭の端が、少しばかり持ち上げられていた。


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