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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第一章 久遠なる記憶
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龍鳳呈祥 1

 誘導パルスの波紋が、靄を押し退け、容を、鯀を優しい陽だまりの中に包み込む。重なり合って見える容と鯀は、その温かな気配に顔を上げた。

 

『雨桐⁉︎』『其方は……』

 

 驚きを露わに、容は、先ほどまで語りかけていた、黒き水鏡の影と陽光を見比べている。

 

『…………ただ……語らいたかった……あなたと……ただ……共に……在りたかった……』

 

 雨桐の声、その声に重なる娃の声が、囁きかけている。

 

『……恐れないで…………恐れが……あなたの眼を……耳を閉ざす…………』

 

『わたしは……ここに……』

 

 

 陽光は、<天仙娘娘>ブリッジにも差し込んでくる。モニターから暗雲が祓われ、仙水処理区画の情景を描き出してゆく。

 

「……こ、ここは? ……」楊は、頭痛に頭を抑えながら、身体を起こし、あたりを見回す。

 

「う、うう……気持ち悪ぅ……」心身に残る不快な情動の残り火が、明明の胃のあたりを刺激している。

 

「あれ、あれ、あれえぇ??」止めどなく身体の裡から湧き上がる得体の知れない恐怖が、次第に引いていくのを感じながら、智愛は、不思議そうに自分の身体を見回した。

 

 静と劉は、呆然としたまま、差し込む日の光を見上げている。その光は、鳥のような形をしている。

 

「火の……鳥……?」

 

 音声変換された柔らかな女の声が、<天仙娘娘>のブリッジに流れ込んでいた。

 

『大地の営み……天の振る舞い……命を育むこともあれば……踏み躙りもする…………天地のありのままの姿に、人は魅了され、畏れを抱く……故に、人は、天地をその手に治めたいと願う……』

 

 その声は、共工の闇に囚われていた、<天仙娘娘>一同の心に、静かに染み渡ってゆく。

 

『……天地を従えようとし、人は……奪い、壊し……作り替えてきた……その度に……天地の理りから離れた人は……"おそれ"の闇を深く抱え込んでしまうのです……』

 

 その声は、<アマテラス>のクルーの心にも等しく語りかけている。

 

『……されど……"おそれ"は……人の心が作り出した影……』

 

 <天仙娘娘>ブリッジを照らす陽光の中に、気品に満ちた古代の女王の顔が浮かび上がってくる。靄は薄らぎ、その眉目をはっきりと映し出す。

 

『……影に怯えた人の心が……どんなに移りゆこうとも……人と……天と地の繋がりは……』

 

『貴方と……私の絆は……途絶えることはない……』

 

 光が、<天仙娘娘>を包み込み、そこに現れた容、そして鯀の顔を黒く覆い隠していた影も薄らいでゆく。

 

『どうか……眼を開いて……耳を澄まして……その心で……感じるままに……私は……いつでも……あなたのそばに……』

 

『……気づいてほしかった……その事に……私に……』

 

 光と共に、差し伸ばされる娃、そして雨桐の手……鯀は、そして容は、光の中に残された僅かな希望へと、恐る恐る手を伸ばす。

 

『あ……い……』『……雨……桐……』

 

「もう少しだ……」直人は、システムを通し、<天仙娘娘>とのリンク回復の兆しを感じ取っていた。

 

 <アマテラス>クルーらは、のブリッジモニターが映し出す、四つの惑いし魂の再会を、固唾を飲んで見守る……

 

 

『‼︎』フォログラムのアムネリアが、何かに気づいて、不意に顔を上げた。その瞬間。

 

 娃、そして雨桐の手を、鯀でも、容でもない、何者かの手が、荒々しく掴み取る。

 

『みぃつけたぜ! 神子ぉおお‼︎』突然、ブリッジに流れ込む、歓喜と狂気の入り混じった声に、一同は顔を上げた。

 

『⁉︎ ……あぁああああ‼︎』「アムネリア⁉︎」何かに腕を引っ張られるようにして、アムネリアのフォログラムが投影機から消え去った。

 

 雨桐と娃が差し伸べる手も、霞の中へと溶け込み、<天仙娘娘>を包み込んでいた柔らかな日差しも薄らいでゆく。代わりに、<アマテラス>のモニターには、暗転した船外の中空へと、引き摺られていくアムネリアの姿が、映し出される。

 

『苦労したぜ! やっぁと、オレたちが手ェ出せる次元(ところ)まで、出てきてくれて、ご苦労さん!』『はは、首斬られ損だな、熾恩』『うっせぇよ! 結果オーライだぜ!』

 

 若い男と、もう一人、中年程の男の会話が、音声変換されて聴こえてくる。

 

「この声⁉︎ この間の生意気なやつ⁉︎」サニは、その若い男の声に聞き覚えがあった。前回ミッションで、<アマテラス>に只ならぬ殺気を乗せた呪詛を叩きつけてきた、何者かの声だ。

 

『神子は頂いていく! 焔凱!』『お、おうよ!』

 

「神子⁉︎」このミッションで、何度も耳にする、その言葉が引っかかりを覚えながら、カミラは、アムネリアの引かれゆく先に目を凝らす。しかし、声の主の姿は見えない。

 

『うぅ……』アムネリアが船から遠ざかるほど、亜夢のフォログラムも朦朧とし出し、脱力してへたり込む。

 

「あ、亜夢! くそぉ!」直人は、誘導PSIパルスへ、情動のまま念を注ぎ込む。

 

『誰なんだ⁉︎ 出てこい‼︎ アムネリアを返せ‼︎』空間中へ怒りを撒き散らすように、呼びかけた。

 

『"アムネリア"だぁ? ははぁん、この神子の名前かぁ。チンケな名前だぜ』


『何ぃ⁉︎』

 

「サニ、空間トレース! アムネリアのPSIパルスを辿って、フィールドをフォーカス!」カミラは、冷静に状況を見極め、指示を飛ばす。

 

「了解!」サニも、PSI-Linkシステムへダイレクト接続し、ビリビリと感じる"生意気"な感覚を追いかける。

 

『出てらっしゃい、ガキんちょ‼︎』

 

 サニは、気配の感じる所へ、波動収束フィールドの局所収束場を次々と発生させていく。

 

『女⁉︎ チッ、なんだコイツ⁉︎ わぁ⁉︎』

 

 空間が歪曲し、アムネリアの腕を引き摺る熾恩の念体の一部が、波動収束フィールド内に朧げに浮かび上がる。

 

『そこか!』空かさず直人は、容赦なくPSIブラスターをその一角に叩き込む。アムネリアの至近距離をブラスターが貫く。熾恩は、紙一重でかわすも、アムネリアの手を離さざるを得ない。

 

『熾恩‼︎』

 

 そのまま、熾恩は、波動収束フィールドの外へと追いやられ、姿を消した。だが、アムネリアは、もう一体の"何か"に囚われたまま、戻らない。

 

『くっそタレが!』波動収束フィールドの外へ追いやられた若い男の声だ。まだ"近く"にいる。

 

『大丈夫か⁉︎ ヤツらの"霊場"に捕まったらこっちが不利だ。神子も獲った! ズラかるぞ!』

 

『チッ! 先に行け、オッさん! オレは異界船を()る』『バ、バカ! よせ!』

 

『死ねや! 異界船‼︎』なんらかのPSIパルスの干渉が、<アマテラス>の船体を揺さぶる。その度に、サニが、その気配を追跡、姿を捉えたところを直人がPSIブラスターで応戦する。

 

「くっ! 何なの⁉︎ アレは⁉︎」

 

「魂……いや、強力な意識集中が生み出す、情報体……いわゆる、"思念体"というやつか⁉︎」

 

 カミラの問いに、アランが答える。しかし、波動収束フィールドの追跡を擦り抜ける相手だ。確かな分析は不可能だ。

 

 

『……はぁ……はぁ……うっうっく……』「亜夢ちゃん⁉︎」本部IMCも、にわかに色めき立つ。亜夢のバイタル値が、急速に低下を始めていた。

 

「アムネリアのPSIパルスが⁉︎ いかん!」亜夢のPSIパルスモニターを睨む藤川は、アムネリアの魂が、何らかの理由で、亜夢の身体から遊離しかかっていることを読み取っていた。亜夢の命は、亜夢、アムネリア双方の魂の絶妙なバランスによって支えられている。一方を失うことがあれば、彼女の命は長くはもたないのだ。

 

「真世! 何とか支えろ! くそっ、何が起こっている⁉︎ 通信はまだか⁉︎」「あと、もう少しです!」

 

 ミッションの残り時間は、三十分をきっている。東は、砂嵐のままの通信ウィンドウを歯軋りしながら睨みつけていた。

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