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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第一章 久遠なる記憶
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激突 4

 赤と白の光の渦が、衝突する。

 

 エネルギー同士の正面衝突は、仮初の暗黒宇宙に、灼熱の太陽の輝きを作り出し、白色の光のベールとなって、そこに存在する全てを覆い尽くした。

 

 衝撃に耐えた<アマテラス>のクルーらは、ゆっくりと身を起こし、あたりを窺う。モニターは、揺らぐ白い靄を映すのみ……

 

「……皆、大丈夫? 被害は?」

 

 カミラは、乱れたブロンドの髪を整えながら言った。

 

「左舷広範囲に軽微な損傷確認。シールド増槽残量、三十パーセント」アランは、素早く確認し報告する。

 

「亜夢⁉︎ ……アムネリア⁉︎」直人は振り向いて確認せずにはいられない。二人のフォログラムは健在だ。得意気に満面の笑みを浮かべる亜夢とは対照的に、静かな微笑を浮かべるアムネリア。直人は、ホッとため息をつく。だが、彼女達のフォログラムは、時々、チリチリと乱れを見せる。

 

 本部IMCとの通信ウィンドウも砂嵐と化していた。どうやら一時的な、通信障害が発生しているようだ。

 

「サニ、<天仙娘娘>は?」「……反応は、健在のようです。攻撃してくる気配は認められず」

 

「よし、<天仙>の攻撃再開に警戒しつつ、波動収束フィールド、再ハーモナイズ」「了解!」

 

 浮力で水面に現れる潜水艇のように、靄の中から<天仙娘娘>船体の碧く鈍い輝きが浮かび上がってくる。同時に、あたりの景色が朧げに形作られていく。

 

「ここは……?」

 

 直人は、左右、正面のモニターを見回す。どこかの水面に<天仙娘娘>と<アマテラス>は浮かんでいるように見えた。

 

「現在……次元深度LV3付近、時間、空間座標共にほぼ原点位置」サニは、レーダー盤から読み取れる情報を報告する。

 

「戻ってきたの?」「いえ……そこまでは……」

 

「さっきの空間衝撃波で、LV4から弾き出されたのだろう。誘導ビーコンに引っ張られ、戻りかけたが……どうやら、途中で止まったようだな」

 

「なるほど……とにかく<天仙>の状況確認よ。サニ」「はい! <天仙娘娘(むこう)>のPSIパルスに収束フォーカス、補正します」

 

 サニがフォーカス処理をかけていくと、あたりの状況が、よりはっきりと浮かび上がってくる。両船は、プールに似た、人工的な貯水槽が浮かんでいる。貯水槽は、通路によって九つに区切られているようだ。

 

 <アマテラス>は、隅の一角、<天仙娘娘>は、その隣の貯水槽に位置している。中央の槽は、一段高く作られた湧水槽となっており、そこから周り八つの槽へと、滔々と水が注がれていた。

 

「……ここは、もしや[仙水]の? ……」「ああ、あの処理施設だろうな……」

 

 二人は、ミッションに臨む前、藤川から今回のミッションに、China支部で開発管理されている[仙水]が、関係しているかもしれないとの推察を聞かされていた。その時目にした資料の写真とそっくりであることに、二人は気づく。

 

「ん、あれは……容支部長?」ティムが、<天仙娘娘>の上部に不意に現れた、膝を抱えて座り込む人影を指差して声を上げた。

 

「いや、鯀……?」同じ人影を見遣りながら、直人も声を上げる。

 

 人影は揺めき、重なり合って、二人の人物像を交互に映し出していた。だが、二人の顔は、"相変わらず"影によって覆い隠されており、判然としない。

 

「<天仙娘娘>が……二人の魂を繋いでいる?」その状況を推測して、カミラは静かに呟いていた。

 

 

 ****

 

「状況は……どうなっている? 通信は?」

 

 本部IMCのモニターは、砂嵐を映し出すのみ。東は、苛立った口調で確認する。

 

「……先ほどの衝撃波による、通信障害が!」田中は、<アマテラス>の通信波を探りながら答える。

 

「復旧を急げ!」顔を顰めたまま、東は言い放った。

 

『本部長! これを!』

 

 China支部からの通信ウィンドウが拡大し、呼びかけてくる。彼らから送られてきたデータをアルベルトが、卓状モニターに展開した。

 

 送られてきたデータは、China支部の[集団インナーミッション]模式マップだ。その中で、雨桐の固有無意識域と、途中からセッションに加わった容の固有無意識域の図表が、互いを求め合うように引き付け合いながら、システム内で、その領域を拡大しつつある。

 

「擬似集合場が、容と雨桐の固有無意識域を中心に再構築され始めている……」

 

 藤川は、顎に手を当て、マップを見詰め、思索を深める。IMCの一同も、卓状モニターに集まり、マップの様子を窺う。

 

「すると……この重なり領域は……容支部長と()研究員の……」東は、推測を組み立てながら言った。それに頷き、藤川が言葉を繋ぐ。

 

「……無意識の共有場か……言うなれば、二人が共に見ている夢の中……」

 

 

 ****

 

『こちらにも……もう一人……』

 

 不意にアムネリアが言う。

 

 <天仙娘娘>に現れた、容とも鯀ともつかない人影に注視していた<アマテラス>クルーらの視線が、ブリッジ中央、フォログラム投影機に集まる。

 

 IN-PSID Chinaの紫のスタッフユニフォームの上に白衣を羽織り、前髪を長く垂れた中肉中背の女性のフォログラムが浮かび上がっている。<アマテラス>の現在クライアント、雨桐だ。

 

『この者にも、伝えたい想いがある…………お願いします……なおと』

 

 雨桐の姿を吸収しながら、光像は、再びアムネリアの姿へと戻ってゆく。

 

 アムネリアの真摯な眼差しに、直人は深く頷いた。

 

 <アマテラス>貯水槽から離水し、ゆっくりと高度をとりながら、<天仙娘娘>の上空へと移動する。再び誘導パルス放射機が、起動する。

 

 

 近づく<アマテラス>に気づくこともなく、<天仙娘娘>上部で、ふらふらと立ち上がる容。中央の湧水槽から流れ落ちてくる流水を見詰めながら、ヘラヘラと笑い声を立てていた。

 

『……見て! ……水がこんなに溢れてくる! ……私と、貴女の……二人で作った水よ! ……』

 

 <アマテラス>ブリッジに流れ込む、容の声はどこか狂気めいている。

 

『私たちの水が、夢がどんどん、溢れててくる! ふふ、ははははは! 私たちはやったのよ! 自然に勝ったのよ! ねぇ、見てよ、雨桐!』

 

 流れ落ちる滝状の水の流れの中に、容の影が映り込む。影は次第に形を変え、表情のはっきりしない雨桐の姿を浮かび上がらせた。容は、しきりにその水鏡に向かって、語りかけているようだ。

 

『……都……立て……直す……壁……堤……儂らの…………夢…………』重なる鯀の声。水鏡の雨桐の姿が、今度は顔の見えない古の女王の姿を重ねて映し出している。

 

 水鏡に移る人影が、答えて語り出す。

 

 ……大地を穢し……壊し……奪い……作り変え……

 

 …………罪深き人よ……

 

 清らかな湧水の滝に、黒々としたヘドロのようなものが混入してくる。ヘドロは、段々とダマ状の形を生む。大小様々な岩石となり、湧水はいつの間にか土石流へと変わり、各貯水槽へと雪崩れ込み始める。

 

『え⁉︎ ……そ、そんな……い、嫌ぁああ‼︎』身を震わせ、両手で頭を抑え、容は悲鳴を上げた。

 

 土石流が注ぎ込まれた貯水槽の一つの水面が変容し、そこに人の顔らしきものを作り出していく。口を形作った部位が蠢き出す。

 

 ……人は……たくさん……奪った……

 

 その顔は、娃を生贄に捧げようとした、あの王太母によく似ている。

 

 ……そして穢した……

 

 また別の貯水槽にも同じように顔が浮き出す。こちらは、雨桐の母親のようだ。

 

 ……私からも……たくさん……そうだよね、麗ちゃん……

 

 娃とも雨桐ともつかない者の声が、重くのしかかってくる。

 

 ……まだ……奪うの? …………

 

『やめてぇええ‼︎』

 

 容は、頭を抱えたまま、しゃがみ込む。その背後に重なって、鯀もまた同じように身を屈めていた。

 

『人は……私は! ただ生きようとしただけ! 生きるために、何だって手に入れようとした! それの何がいけないの!』

 

「容さん! ……鯀! ……ダメだ……こっちにまるで気づかない!」

 

 直人は、自分の想念も上乗せして、誘導PSIパルス派を発信し続ける。だが、俯いた容は、目の前の水鏡に、ひたすら独白を続けていた。

 

『……怖かったの……私には……何もなかったから……』

 

 目の前に流れ落ちる滝に映る人影は、何も語らず、容を見詰めている。

 

『雨桐……そんな……そんな目で、私を見ないで…………』

 

『……奪う……つもりなんてなかった……仙水だって……人のために……水の無い苦しみを消したかった……』

 

 手をついて項垂れる容に鯀の姿が重なる。

 

『……儂は…………皆を……救えると信じて…………』

 

『……雨桐……私が……間違って……いた……の……? ……』『……儂は……人は……』

 

 容と、彼女に重なる鯀は、顔を上げると、悲痛な声をあげて訴える。

 

『じゃあ! どうすればいいの! 教えてよ、雨桐!』『儂は……どうすればよかったのだ……あ……い……』

 

 容と鯀の言霊が、インナーノーツの胸の奥を抉る。

 

「容さん……それは、影だ。気づいて! 雨桐さんは、本当の彼女は!」『…………』

 

 直人、アムネリアは、協働して、さらに誘導パルスに念を注いでゆく。まるで、祈りをこめるように……

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