表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第一章 久遠なる記憶
49/256

激突 1

 ぼんやりと開けてきた視界に、焔凱は深々とため息を付いた。とはいえ、実際に呼気が吐き出されるわけではない。

 

 あたり一面、闇の中。そこに、自分の体がほんのりと浮かび上がっている。

 

 手錠か何かで、腕や脚を拘束され、座らされている。ふと、右手の方に、馴染みある気配が立ち上がる。視線だけをそちらに向け、焔凱は口を開いた。

 

 ……おい、熾恩……ったく……お前のせいで……

 

 右手側に、同じように拘束され、座らされている熾恩の像が浮かび上がる。

 

 ……うっせえよ、オッさん……

 

 熾恩は、吐き捨てるように言った。言葉は、耳に入る音ではなく、直接、心に響いているように、焔凱は感じていた。

 

 焔凱が左手側を見遣ると、彼らと同じように、拘束され、座らされた、兵士らしき人の体が前のめりに、倒れ込んでいるのが見える。すると、左二つ隣りの男が、他の体に倣うように、前のめりに倒れ込む。首が無くなっている。頭を失った首から、滔々と、黒々とした液体のようなものが流れ出していた。

 

 二本の脚と、ギラギラと鈍い煌めきの刃が闇の中から浮き上がってくる。その影に包まれた処刑人が、左隣りの男の目の前で立ち止まった。

 

 熾恩の右隣には、刈り上げ頭の痩せこけた男が同様に座らされている。他よりも鮮明に闇に浮き立つ彼は、呆然としたまま、何やら命乞いを口にしていた。

 

 焔凱の左隣で、音も無く殺人儀式が始まる。

 

 ……チッ、何回目だよ、コイツに首、斬られんの……

 

 焔凱は、居心地悪そうに、首を振る。

 

 ……しゃあねぇだろ、コレしか手がねぇんだよ、こっから、あの船のいる次元に跳ぶにはよぉ! ……

 

 熾恩は、苛立ちを露わに言った。

 

 ……そりゃ、わかるが……いくら死なねぇったって、あんま気持ちいいもんじゃねぇ……なあ、もう戻ろう。ここまでしろとは、言われてねぇし……

 

 彼らの身体は、インナースペースで活動するための、思念の形。いわゆる念体だ。身体の構成情報である魂の外殻を成す『魄』を基に、強い意識集中によって、作り出す。

 

 彼らは、この思念体で潜り込んだ、哀れな兵士の心象世界の中で、僅かに<天仙娘娘>の気配を感じる、インナースペースの深部への糸口を模索している。兵士の壮絶な恐怖こそが、その鍵であると踏んだ彼らは、その心理的体験のトレースを試みていた。

 

 ……帰りたきゃ帰れよ! 念でも送って、飛煽に知らせりゃ、拾ってくれるさ! ……

 

 ……ふん、お前を見殺しにしたら、後味悪いだろうが……

 

 ……チッ! ……

 

 焔凱の正面で、処刑人の脚が止まる。黒々とした犠牲者の無念が、ギラつく刃から滴り落ちた。

 

 ……ほら、また来たぜ。行くならさっさと殺されろ……

 

 熾恩は、冷ややかに言い捨てた。

 

 ……ふぅ……しゃあねぇなあ、もう。先行ってるぞ……

 

 そう言いながら、焔凱は処刑人の手に自らの頭を委ねる。

 

 ……ああ! ……

 

 熾恩が答えるのと、焔凱の喉笛が斬り裂かれるのは同時だった。焔凱の目玉が飛び出さんばかりに見開かれると、そのまま彼の思念体は、闇の中へと消えていった。

 

 何事もなかったかのように、処刑人は熾恩の正面へと歩を進める。

 

 熾恩は、不敵な笑みを浮かべながら、首を突き出した。

 

 ……さっきより気配が変わってきている……ぜってえ、捕まえてやんぜ、異界船! ……

 

 

 ****

 

「どうなっている、あの二人は?」

 

 煌玲は、入室するなり、飛煽に問いただした。

 

 北京軍立病院、インナーミッションコントロールルームに足を踏み入れた煌玲の目の前で、熾恩と焔凱の身体は、彼らの仕掛けた装置の端末部を握りしめたまま、ぐったりと床に横たわっていた。その傍らで、斜視の瞳を寄らせた飛煽が、装置を通して、熾恩と焔凱の思念体を懸命に追跡している。

 

「ど〜ぉもこうも。気配だけは感じるが〜〜。あっちこっち、あの患者の無意識領域で行ったり来たりよ……なかなか捕まえらんねぇ……」

 

「何をやっている?」「もっと深ぁ〜く、潜る気さぁ〜、ったく帰って来れなくなっても知らぁ〜んぞ……」

 

 インナースペースの中で、活動を可能とする念体は、そこで発生する事象を肉体感覚、心理的感覚を伴って感知することができる。念体の手足をもがれようが、首を切られようが、彼らの肉体に残す、魂とのつながりが切れぬ限り修復され、念体は活動可能ではある。とはいえ、インナースペース内で、極度にその構成情報が失われたり、肉体に念体が戻れなくなってしまった場合、肉体はおろか、魂にまでダメージ(PSIシンドロームを発症したり、最悪、肉体死、魂情報の欠損、損失など)が及ぶ危険性もあるのだ。

 

 煌玲は、眉を顰め、しばし二人の残した肉体を見つめていた。

 

「熾恩のヤツ……飛煽! もうじき、IN-PSIDのシステムは稼働限界のようだ。そうなればアイツらの念体は、システムに閉じ込められる。早く見つけ出すんだ」

 

 煌玲のいつになく厳しい物言いに、飛煽の寄せていた斜視の瞳が、ゆっくりと左右へと戻っていった。

 

 

 ****

 

「黒龍……『共工』か……」

 

 藤川は、<アマテラス>が捉えた共工の姿を凝視したまま、呟いていた。<アマテラス>の波動収束フィールドによって与えられた形とはいえ、その圧倒的な存在感、威圧感は、まごうことなき龍であると、IMC、<イワクラ>でミッションを見守る皆は、思わずにはいられない。

 

「洪水神であり、鯀に並ぶ四罪の一柱。まさか……鯀と共工は同一神?」東は、中国古代神話の知識と照らし合わせ、疑問を口にする。

 

「共工は、事あるごとに洪水を起こし、天下に仇なしたというが、治水神としての側面もある……元は同神だったのやもしれん」

 

 藤川は、神話で語られる鯀と共工の類似性を思い返していた。

 

「……人の、水への畏れが集合した形……複合表象(シンボル)である龍の、一つの原型(アーキタイプ)か……」

 

「動き始めた⁉︎」東が声を上げた。

 

 モニターを埋め尽くす龍体が、ゆっくりと螺旋を描きながら上昇してゆく。

 

『時空間連続変化率、上昇! 蛇体、及び周辺気流に次元震発生しています!』通信モニター越しに、サニが、観測状況を報告している。

 

「まさか……時空間転移⁉︎」カミラは、共工の動きに注視したまま言う。

 

「ああ、<天仙>が飲み込まれた時と同じ」解析を続けながら、アランは、カミラの声に答えた。

 

『……そうか! おそらく共工も、あの[ヤマタノオロチ]と同じだ。集合無意識に潜み、時代と時を超えて、人の想念に引かれて現象界に姿を現す。大河の如く、久遠の時を流れ続ける、共工……その源こそ……』「この時空間点! だから、ここに⁉︎」モニター越しの藤川が口にする推察の意味を、カミラは、直ちに理解した。

 

「追おう、隊長! コレを逃したら、<天仙娘娘>は!」

 

 直人の言うとおりだ。カミラは頷いて頷いて答える。

 

「アラン、共工とのPSI-Linkを、亜夢のシールド効果も入れ再計算!」「もう済んでる」

 

 振り返って一瞥するアランに、カミラは小さく微笑みで返すと、凛として顔を上げた。

 

「では、PSIバリアパラメータ、再サーモナイズ! 悪いけど亜夢、もう少し踏ん張ってね」『うん‼︎』

 

 <アマテラス>を覆うシールドに、再び熱が篭る。

 

『……共工……あの者の追跡は、我が……』「ええ、頼むわ」

 

 アムネリアのフォログラムは、再び腕を下方に伸ばし、空間の小波に集中する。

 

「総員、第一種戦闘配置のまま共工を追跡! ヤツへの突入の糸口を掴み次第、<天仙娘娘>の救助を敢行する!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ