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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第一章 久遠なる記憶
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激突 2

 共工は、再び広がり始めた雨空へと上昇を続けている。

 

 その周囲は暴風を伴い、さながら竜巻を彷彿とさせた。それはまた、亜夢の心象世界で対峙した、アムネリアのもう一つの姿である、メルジーネの作り出した、あの爆弾低気圧をインナーノーツに想起させる。

 

 暴風に覆われた雨空が波打ち始め、次第に景色を変えてゆく。

 

「時空間パラメーター、共工を軸に変動しています!」サニは振り返って報告する。

 

「PSIバリアパラメーター、空間変動に同期! 上昇角九十! いくわよ!」「ヨーソロー!」

 

 カミラの発令に、ティムは操縦桿を目一杯引き倒し、応えた。<アマテラス>は、共工の周辺に発生する空間変動の流れに沿って、共工の龍体を中心に、螺旋を描きながら上昇する。

 

「これは……」

 

 龍体が通った空間に、共工を名乗った鯀の、その後の人生が、走馬灯のように描き出されていく。

 

 中原に戻った共工は、相柳、浮遊を従え、天候不順による飢餓への不安、頻発する洪水の恐怖、そして人の無力さを煽り、共工への絶対服従を説く、宗教的な一大勢力となっていった。

 

『……共工を畏れよ! ……生贄を捧げよ! ……人が犯した天地への罪を償え! ……共工を畏れぬ罪人に、天地の復讐を! ……』

 

 勢いづく彼らは、中原各地で叛乱を起こし、黄帝勢力の治政を脅かす存在となっていったが、次第に弾圧、鎮圧され、捕らえられた鯀は頭を割られて処刑された。

 

 その一方、"共工信仰"は既に、中原深く浸透していた。まるで、中原の大地に、限りなく拡がる、河川のようになって……

 

 中原の支配勢力は、彼らを弾圧する一方、その恐怖に根ざした支配の仕組みは、取り込んでいったようである。

 

「中華は、幾多の民族が相争い、入り混じり、融合、統合を繰り返してきた。いくつもの王朝が興り、滅びながらも中華圏を束ねてきた、その中核にあるもの……それは、『底知れぬ、おそれ』なのかもしれない……」

 

 藤川は、<アマテラス>から送られてくる、ビジュアル構成された映像に注視したまま呟いた。モニターの中で、<アマテラス>が追跡する共工は、大河が下流へと流れていくように、歴史を下ってゆく。

 

 その姿は、人面蛇体の奇怪な姿から徐々に形を変えていく。力強い四足、一対の鹿の角、牛の耳、駱駝の頭……さまざまなトーテムを融合しながら、今日の『龍』を特徴づける意匠が、共工の龍体に、はっきりと浮かび上がってくる。

 

 殷、周、秦、漢……歴代の王朝が立ち現れては、消えてゆく。その歴史の大河を龍は行く。

 

「中華に限ったことではないが、権力の側面は、端的に言えば、『恐怖』。これ以上に人を効率良く束ねるものはないだろう。中華は、王朝が交代しようとも、その根源は温存し続けた。そのシンボルこそ、"龍"なのだ……」

 

 一面、暗黒に包まれた暴風雨の吹き荒れる空を、黒き龍が舞う。龍の咆哮が、雷鳴を辺りにもたらす。

 

「うっ……波動収束フィールド補正! <天仙娘娘>再捕捉! 前方、約二千!」

 

 幾つもの時代と場の記憶を超え、畝り狂う龍を追跡する<アマテラス>は、ようやく波動フィールド内にその全容を捉えていた。

 

「くっ……こんなに時空間転移くりかえされると、堪えるわね。アラン、<天仙>との通信は?」「……だめだ。共工に阻まれてしまう」

 

 <アマテラス>は、暴風に揺さぶられながらも、共工から引き離されぬよう、一定の距離を保ちながら翔び続ける。

 

「でしょうね。それで、"共工"へのアプローチと<天仙>のピックアップ。どうやる?」

 

「ああ。誘導パルス放射機を使う」アランは、力強く言い切った。

 

「あんな形になっているとはいえ、中核は、<天仙娘娘>が同調している、鯀の魂だ。誘導パルス波に、アムネリアに託された娃の意志を乗せれば、反応があるはずだ!」

 

 インナーノーツ一同は、アランの説明に一様に頷いた。

 

「さらに<天仙>がくらい付けば、あちらとPSI-Link接続できる。<天仙>を通して、娃の意志を鯀に届けつつ、<天仙>を引き上げることができる!」

 

「一石二鳥な戦法ってわけね?」船を操りながら、ティムはニヤリとして言った。

 

「いいわ、それでいく! ナオ、アムネリア! 誘導パルスの方は、貴方達に任せる。亜夢は、引き続き、共工コンタクト時のシールド防御をお願い」「亜夢! 出力はもう目一杯だ! あのフェニックス、もう一度、頼むぜ!」

 

『うん‼︎』フォログラムに現れる亜夢は、メラメラと燃え上がる。

 

「いくわよ、<アマテラス>全速前進!」

 

 <アマテラス>のシールドが、再び鳳凰を形作り、巨大な羽根を拡げる。鳳凰の力強い羽ばたきが、最大出力で進む船に、さらに推力を上乗せする。

 

 加速して距離を縮める<アマテラス>の姿は、<天仙娘娘>のブリッジ全周モニターには、まるで火の塊となって映し出されていた。

 

「……後方……高エネルギー体……接近……」淡々と、楊が報告する。それが、<アマテラス>であると気付く様子もない。

 

「火? 火だ……火が追ってくる……何なん……だよ……コイツ……」後方を振り向いた明明は、殺気立つ。

 

「怖……い……怖い……よぉ〜……」「……くっついて……くる……しつ……こいし……」虚な表情のまま、呟く智愛と静。

 

「……ギリ……私たちを……捕える……つもり……そうはさせ……ぬ……」劉もまた、敵意を剥き出しに、歯軋りする。

 

 彼女らに『目覚めよ』と呼びかける、モニター一面に立ち上がった『危険的同步等級』の警告表示が、ブザーと共に虚しく点滅を繰り返していた。

 

 

『……黒き暴流……捉えました……』

 

 毅然と顔を上げ、アムネリアが告げた。

 

「前方、波動収束率高まる! <天仙娘娘>は、エレメンタル頭部に囚われていると推定!」

 

 サニは、捉えたデータを天井部の解析モニターに回し、共工の全体像をフォログラムで表示する。その頭部の一角がクローズアップされと、まるで、龍頭の骨格のようになっている<天仙娘娘>の図表が、浮かび上がってきた。

 

 カミラは、モニターの<天仙娘娘>を一瞥すると、すぐに指示を飛ばす。

 

「ティム! 龍体に沿って前進! ナオ、共工頭上に達したところで誘導パルス放射、<天仙>とPSI-Link接続!」

 

「了解!」ティムと直人の返事が重なる。<アマテラス>は、船体下部に装備された誘導パルス放射器を展開しながら、龍の背との距離を狭めていく。

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