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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第四章 ノヴス・ドミヌス

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イリュージョン・クライシス 5

 神殿への階段に沿って、垂直上昇してくる<アマテラス>を眼下に見下ろし、女司祭ロザリアは思案を巡らせる。防衛網が破られた今、力技で<アマテラス>を排除する事は、不可能だ。記憶の中に、垣間見た<アマテラス>と<イシュタル>のミッションの一場面が浮かび上がってくる——


『まさか<イシュタル>の攻撃を振り切って、自分の心象世界へ退避させるなど……あのカミラとか言う女隊長……なんと大胆不敵な』


 ——ロザリアは、口元に小さく笑みを浮かべた。


『ふっ……カミラ。お前がそのつもりなら……面白いものを見せてやろうぞ!』


 ロザリアは瞳を閉じ、静かに祈り始め、彼女の巨大なホログラム像が空間に溶け込むように消えてゆく。


「ホログラム反応、消失?」サニは怪訝げに報告する。


「はは、諦めたんじゃないか?」とティム。皆、眉を顰める。天空の神殿まで真っ直ぐ伸びる階段に、遮るものは他にない。


『神殿までガラ空き……『空城の計』、か?』藤川は、<アマテラス>からの映像を睨む。


『とはいえ、ここで足踏みもできません。カミラ、警戒を厳に進むんだ!』東の下命が、カミラの背中を押す。カミラが、はい、と返事を返している間に<アマテラス>は、ピラミッド頂上まで上昇し、神殿を正面に捉えた。


「波動収束フィールド、スケールを神殿に合わせて‼︎」波動収束フィールドの時空間が再プロットされ、周辺位置情報が拡大し、<アマテラス>は、相対的に全長二メートルほどのサイズとなっていく。


「突入するわよ!」「微速前進、〇.七!」


 ありし日のパルテノン神殿を模した、荘厳な神殿。エンタシスを見事に再現した幾つもの柱が並ぶ通路を進むと、周辺空間が揺らめいて、次第に暗闇へと誘われる。


 インナーノーツは息を殺して慎重に進む。き付けば、辺りは再び全天球の宇宙空間の様相へと変わっていった。その宇宙空間の至る所で演算処理を示すコードが流れ、ヴァーチャルネットサイトのソースコードや、テキストデータ、あらゆる画像、映像が次から次に浮かび上がる。ブリッジには、様々な音声が、混ざり合って流れていた。


「<リーベルタース>からのワープ転送信号? そうか! やつらが回収を続けている、ヴァーチャルネットのデータか!」アランが声を上げる。


「という事は、やはりここが⁉︎」「ああ、ノヴス・ドミヌスの中枢、サブリミナルもここでコントロールされているはずだ!」アランは確信をもってカミラに答える。


「同感ね。なら、すぐにやるわよ‼︎ ナオ! PSIブラスター準備! 必要なら、PSI波動砲に切り替える。そっちも準備しておいて!」「了解‼︎」


「サニは全周観測! 発信源を特定次第、収束フィールドを最大フォーカスして捕まえて!」「はい!」


「ティム! アンカー投下、量子スタビライザー作動開始! 船体固定‼︎」「アンカー投下!」


「亜夢、アムネリア! あなた達は保険よ! いざという時はお願い‼︎」『はい』『ほ、ほけん⁇』


「皆、覚悟はいい⁉︎」カミラの声に、ブリッジの緊張は最高潮に達する。


「PSIバリア、モード・マルドゥク解除! サブリミナルパルスとの同調、開始‼︎」「PSIバリア、オートチューニング‼︎ サブリミナル・パルス検出、同調、開始した!」


 PSI-Linkシステムに黄金の女神のサブリミナル・パルスが流れ込み始める。


『……大災厄が……』『……巨悪は……引き起こそうと……』『信じなさい……』音声変換されるヴァーチャルネットを席巻する女神の声、そして、モニターには大災厄のイメージや、黄金の女神の足、腕、胸、顔がランダムにチラつき始める。


「チッ! こうしないと、発信源を捕まえられないからって……」「もう! 気持ち悪いぃ‼︎」


 胸を押し潰すような圧迫感に、脳内にまで入り込んで、囁く女神の声。直人は、腹の内にかかえこんたままの、罪悪感を撫で回されているような感覚に、吐き気を覚え始める——


 サブリミナル・パルスと最大同調して、マルドゥク・アルゴリズムを乗せたPSIブラスターを撃ち込む——


 これが、ネクサス・アルカディアに向かう前に決めた、サブリミナルパルスを止める作戦だった。


「要するにお前たちが、『黄金の女神』システムのコンピュータウィルスになる、ってわけだ」短時間のシミュレーションを踏まえ、そう言い切ったのはアルベルトだった。


 コンピュータウィルスは、無害を装って、あるいは、有益、有用であると信頼させて、コンピュータの中枢へと忍び込む。そう、まさしくPSIパルス同調という『共感』のプロセスそのものだ。それを逆手にとって、発信源をハックし、そこにサブリミナル・パルスを阻害するマルドゥク・アルゴリズムをブラスターで叩き込もうという作戦だが……


「ったく! 誰だよ、こんな無茶苦茶な作戦立てたのは‼︎」ティムは悪態をつかずにはいられない。


「……っ! サブリミナル、同調率、七〇パーセント突破!」「サニ、どうなの! 発信源はまだ⁉︎」


「ダメ! ガードが固いのよ! この女神(くそ女)‼︎」


「っう……くっ……」直人は額に脂汗を滲ませる。


『風間くん⁉︎ ……チーフ! 風間くんのバイタルが‼︎』モニターの向こうで、真世が声を上げている。


『まずいな、カミラ! すぐに直人を、亜夢と交代……』「だ、大丈夫!」東の指示を遮って、直人は顔を上げた。


「ダメよ、ナオ! 亜夢……」「そんな余裕ない‼︎ 今、捕まえないと!」『なおと⁉︎』


「いいから! もう少しで……⁉︎」PSI-Linkモジュールにさらに集中を乗せた直人は、PSIバリアに入り込む、サブリミナルとは異なる奇怪な気配が、身体の貫いてゆくのを感じる。インナーノーツの皆も、直人に続いて何かを感じ取って顔を上げた。


「PSIバリアに、新たなPSIパルス干渉⁉︎」「待って! この感じ……さっきの……」カミラは、なぜかすぐにわかる。


「ああ、そうだ。パルス照合した! ロザリアだ!」


『ふふ……カミラ。サブリミナルを直接取り込むか。その身を切る剛毅さ。嫌いじゃないわ』音声変換されたロザリアの声が語りかけてくる。


『けれど! これ以上、お前達の好きにはさせられない! 今度はこちらの番よ』


「ロザリア! 一体何を⁉︎」カミラは、焦り混じりの声を上げた。コンソールにグラフ化されたパルス波形を監視するアランが叫ぶ。


「パルス同調が‼︎ ロザリアにシフトするぞ‼︎」「何⁉︎ 皆、サブリミナルに集中して‼︎」インナーノーツの五人は、PSI-Linkモジュールに念を強く注ぎ込む。だが、サブリミナルへの『共感』を持続するのは、皆もう限界に近い。サブリミナルへの集中のはずが、ロザリアへの同調へと誘導されてしまう。


「ダメだ! ロザリアに完全に引っ張られている! 同調反転、八十五パーセント! PSIバリア、偏向開始‼︎」


 モニターに映る映像が歪み、入り乱れ、時空間転移の兆候を見せ始めた。


『すぐに全同調カットだ‼︎ ロザリアに引き込まれるぞ‼︎ 急……』東の叫ぶ声が、切断される。IMCとの通信が切れたのだ。


「同調カット……カットできない‼︎ 転移するぞ!」「くっ……まさか……これは……」カミラは、奥歯を噛み締め、揺れ動くモニターの映像を睨め付けた。


『そう……心当たりがあるだろう』「ロザリア⁉︎」


『あのバビロニアのミッションで、カミラ。お前が使った手。さぁ、いらっしゃい! この私、ロザリア・クロイツェルの心理空間《イリュージョン・ワールド》へ‼︎』

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