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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第四章 ノヴス・ドミヌス

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イリュージョン・クライシス 4

 通信の呼び出しコールが鳴っている。


「向こうからだ、カミラ……」「ええ……いいわ、つないで」


 ノヴス・ドミヌス側からのコンタクトだ。インナーノーツ、そして見守る皆にも緊張が走る。中央モニターに立ち上がった通信ウィンドウに、正面に見えている女司祭がそっくりそのまま現れる。


『ふふ、驚いているようだな。忘れたか? ここはヴァーチャル空間。そして我らの庭先。我が軍の位置座標を変えることなど造作もない』


「くっ……」カミラは奥歯を噛む。


「待って、この女……この顔、どっかで見たことが……」とサニ。「ああ、今、それをオレも言おうと思ったぜ……」と言いながらティムは、最近の記憶を頭の中で掘り起こす。


 ティムの脳裏に、純白の衣装をたなびかせて舞う女の姿が浮かんでくる。ネクサス・アルカディアのプロモーション映像に出ていたあの女——


「ロザリア⁉︎ ロザリア・クロイツェル‼︎」サニとティムの驚きの声が重なる。


『おや、ご存知とは光栄ね。そう、私はロザリア・クロイツェル。そしてワールド様よりノヴス・ドミヌスの全権を預かる者』


「ロザリア・クロイツェル……ヴァーチャルネットのプリンセス……」IMCのアイリーンは、唇を震わせていた。


「……そんな者が、ノヴス・ドミヌスの幹部だということは……」東も戦慄する。


『そういうことだ。ヴァーチャルネットは、我々ノヴス・ドミヌスが管理する世界。その全てを、我らが握っているということだ』言葉を挟むウォーロックの言葉には、余裕が戻ってくる。


『どうやら勝敗は決したな。藤川、すぐに<アマテラス>を引かせろ。そうすれば、彼らの『命』は助けよう。お前たちが固執する『命』を、な』


 藤川は、答えない。ただ、左手に握る補助杖を固く握りしめていた。



『カミラ。私はお前に会ってみたかった。お前たちのミッションを垣間見ていた時、お前の存在が私をざわつかせた……カミラ、お前は一体何者だ?』


「えっ……」目を丸めたカミラの身体は、硬直していた。


 女司祭の深い緑の瞳が、真っ直ぐカミラを見つめてくる。


『答えられぬか……まぁ、良い。なれば、カミラ。私の元へ来るのだ。お前の仲間も共に来るがいい。我らが作る、新たなる世界に、お前のような者が必要なのだ』


『ロザリア⁉︎ な、何を⁉︎』チャリオットは困惑する。ロザリアは構わず続けた。


『お前が望むなら、肉体を残すものとして、迎え入れてやっても良いぞ。PSIクラフト、そしてインナーノーツ。時空を超えるお前たちの能力。これから先、この大宇宙を切り拓く、ノヴス・ドミヌスの優れた剣(つるぎ)となろう』


 カミラは口を閉ざし、ブリッジモニターを見回す。左右、後ろ、上、そして正面……<アマテラス>の包囲網は、完成している。一斉砲火を浴びれば、次こそひとたまりもない。女司祭の言葉を信じるなら、皆の命を救う最後のチャンスなのでは……胸の内が揺らぐ。


 誰もが口を閉ざし、カミラの返答を待つ。カミラは頭を振って項垂れた。


 ……ダメよ! ……何か、何か方法があるはず……


 アランの方へと視線を送る。覚悟を決めた顔で、こちらを窺っている。


 ……くっ……皆の命には……変えられない…………ごめんなさい! …………生きて……生きてさえいれば……


 カミラは顔を上げ、口を開きかけた。


 ……待って‼︎ ……


 心に響く声にハッとなる。ホログラムに、亜夢に重なってアムネリアが浮き上がってきた。


「……ああ、やっと掴んだ! いける‼︎」直人は、左手を置くPSIモジュールに念を込めながら、PSIブラスターのトリガーを手に取る。アムネリアが応え、船に祈りを込め始めた。


『なんだ?』突如、ヴァーチャル空間の至る所が捻じ曲がり、あちらこちらの造形データが乱れ始める。呼応するように<アマテラス>のPSIバリアが赤や青、紫と言った色彩のマーブルを描き出す。


「き、機関、融合反応、上昇⁉︎ どうなっている⁉︎」アランは突然のことに動揺を隠せない。


『くっ、な、何をする気だ⁉︎』『ま、待て! チャリオット』『えぇい、構わん‼︎ 全軍! 撃ち方始めぇえええ‼︎』


 チャリオットの軍団の砲口が、<アマテラス>に火を噴きかけたその時。


『何⁉︎』兵器群は、突然、人の形と兵器の形を、まるでチャンネルが混線しているかのように行ったり来たりを繰り返し始める。戻りかけたデジタル・ソウル体は、まるで、業火に焼かれでもしているかのように、奇妙な動きで悶え苦しんでいるかのようだ。


『……あ、ああ、つい!』『いや……しに……たく……ない……』『マァマァぁあぁ‼︎』『……なんで、こ、こんなことを……オヤジぃい‼︎』


 悶え苦しむ、数多の声が<アマテラス>のブリッジ、そしてネクサス・アルカディアの空に響き渡る。阿鼻叫喚の声に、チャリオットも女司祭もたじろぐ。


「ずっと聞こえていた……わけもわからず、焼かれ、デジタル・ソウルにされてしまった人達の声が‼︎」直人は叫びながら、ターゲットスコープに兵器群——デジタル・ソウルの集団を捕捉していく。


「皆がオレに訴えてくる……死にたくない、もっと、生きたかったって……デジタル・ソウル(こんなの)は、オレじゃない! 私じゃないって‼︎」


「き、機関、エネルギー回復⁉︎」「デジタル・ソウルにされた……本当の人たちの想いと……繋がったというの⁉︎」


「皆の怒り、オレが預かった‼︎ 偽物なんていらないんだ‼︎」直人は、自身の渾身の想いを乗せ、全方位にPSIブラスターを放つ。


 放たれた光の矢は、的確にデジタル・ソウルを撃ち抜き、命の残骸のデータは、次々とPSI情報素子に還元され、霧散してゆく。<アマテラス>の包囲網は、一瞬のうちに崩壊した。


『ば、馬鹿なぁ‼︎』『チャリオット‼︎』チャリオットは、なりふり構わず、<アマテラス>に砲を撃ちかけながら突進してくる。


 ホログラムを水妖メルジーネの姿に戻しながら、アムネリアはシールドと一体となって舞い、<アマテラス>の前面に水流を生み出す。チャリオットの攻撃は悉く、その水流に受け流されてしまう。


「アバターか⁉︎ それなら‼︎」


 直人は、ブラスターを連射モードから集束モードに切り替えてゆく。左右両舷から発せられたブラスターが二つの光の刃となって、突進してくるチャリオットと、彼の駆るメルカバーを挟み込んで、撫で斬りにしてしまう。


『がぁあああ‼︎』チャリオットは断末魔を残し、ヴァーチャル空間から消滅した。しばらくは、ネクサス・アルカディアのアバターとなって蘇ってくることはできまい。


「敵戦力、完全に消滅‼︎」「全システム、八十パーセントまで回復! カミラ!」サニに続いて、せっつくようにアランが声を上げる。


「カミラ!」「え、ええ……」カミラは気を取り直して、凛と顔を上げた。


「作戦続行‼︎ 機関いっぱい‼︎ 神殿へ向かえ‼︎」


 <アマテラス>は再び飛翔する。


『おのれぇ〜……』


 女司祭の巨大なホログラムは、ふと、右手の親指を口に押し当てる。


 ……爪齧り? ……


 その奇妙な行動に、なぜかカミラは見入っていた。


 女司祭は、親指の先にやや長く伸ばした爪を二、三度噛むと、さっと両腕を広げ、<アマテラス>の行手に立ちはだかる。


『カミラ! インナーノーツ‼︎ それが其方らの答えか‼︎ 断じて進ませぬ‼︎ ワールド様の元へは行かせぬ‼︎』

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