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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第四章 ノヴス・ドミヌス

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イリュージョン・クライシス 3

「波動収束フィールドに感‼︎ 人工アトランティス中心より時空間振動‼︎ ……あれよ! 黄金の女神よ‼︎」サニは、人工アトランティス中央の尖塔に立つ黄金の女神像をフォーカスする。女神像は、鈍い黄金色の光を明滅させていた。


『……聞け! ネクサス・アルカディアの民よ! 我らが友よ‼︎』音声変換された厳格な男の声がブリッジに響き渡る。


『其方らは! 黄金の女神によって選び抜かれた、このアルカディアの礎‼︎ だが、今‼︎ 地上より放たれた、悪意の矢が、この地を貫かんとしている‼︎ 悪魔の最期の抵抗だ‼︎』


「PSIパルス解析‼︎ ……判明! サブリミナルパルスよ‼︎」サニは声を張り上げる。


「来たわね。アラン! 『マルドゥク・アルゴリズム』展開‼︎」「了解! PSIバリア、モード『マルドゥク』! スタート‼︎」


『立てよ! 我ら同胞達よ‼︎ 悪の手から、この地を自らの手で守り抜け‼︎ 悪を打ち倒し、女神に捧げるのだ‼︎』


 地表の映像に映る男達が、女達が、学者らに、政治家らが、そして子供達が——一様に、響き渡る声に顔を挙げ、尖塔高くの妖光を見上げる。彼らが皆同じように、その光を求めるように天高く手を差し伸ばすと、その身体がふわりと持ち上がり、光に寄せ集められていく。


「デ……デジタル・ソウル、集合しています‼︎ 数八〇〇、八五〇……まだ増える……およそ、一〇〇〇‼︎」サニは焦り混じりの声で報告した。


「……ま、仕掛けてくるよな……」ティムは奥歯を噛んで操縦桿を握り直す。


 地表から浮かび上がったデジタル・ソウルの一群の中央に、四つの回転体と鉄の籠、4枚の羽を持つ、エゼキエル書に描かれる天の車「メルカバー」を最新テクノロジーで再構築したような兵器が浮かび上がる。鉄籠の中央に立つチャリオット(男)が号令する。


『さあ、武器を取れ‼︎ エモノは思いのままだ‼︎ 敵は悪魔、<アマテラス>‼︎ 滅せよ‼︎』


 デジタル・ソウルらは、その姿を自在に変えてゆく。銃、砲、ミサイル、戦闘機、艦……『文明のデータ』として蓄積されたデータを纏っていく。


 子供達なのであろうか? 中にはアニメに登場する巨大なロボットや、宇宙戦艦のような形に化けているものもいる。


 混成兵器の大群が、<アマテラス>を包囲せんと人工アトランティス上空に広がった。


「総員、『戦闘』配置‼︎ 進路そのまま! 出力、黒二〇‼︎ シールド最大‼︎ 強行突破する‼︎」カミラは覚悟を決め、号令する。


 デジタル・ソウルを制御プログラムとした兵器群が、一気に火を吹いた。まもなく人工アトランティス外周城壁に辿り着こうとする<アマテラス>に、ビーム、実弾、ミサイル……弾幕の嵐が容赦なく降り注ぐ。


「トランサーデコイ‼︎」「全方位ランダムセット! 発射‼︎」直人は適宜トランサーデコイを射出し、敵弾の直撃を逸らすが、効果は薄い。


「アムネリア!」『はい!』アムネリアの流れる流体シールドは、<アマテラス>の消耗を最小限に抑えながら敵弾を受け流し、<アマテラス>への被害を食い止める。だが、次第に攻撃のエネルギーが障壁となって、推力を奪ってゆく。


『あたしが出る‼︎』衝撃に揺れるブリッジに、亜夢の声が響くと同時に、アムネリアのホログラムに重なって亜夢の姿が浮き上がった。


「亜夢! 頼む‼︎」直人が叫ぶ。


『うん‼︎』


「いいわ! シールドモードチェンジ‼︎ ファイヤーバード‼︎」


 アムネリアは、ひっそりとホログラムから姿を消し、亜夢と入れ替わる。


『なおと! やるよ‼︎ うぉぉおおおお‼︎』


 亜夢の気合いと共に<アマテラス>の二基の機関外殻上部に炎の翼が形成される。


「推力が回復してきた! いいぞ、亜夢‼︎」ティムは操縦桿を弾き、攻撃によって逸れた進路を立て直す。


『いっけぇえええ‼︎』亜夢が念じれば、翼は大きくはためき、巻き起こる熱風が弾幕に穴を穿ち、城壁上空を抜ける進路を確保した。


「今よ! 突入‼︎」カミラが発し、鳳凰となった<アマテラス>は、雄大な翼を伸ばして、猛禽の如く滑空してゆく。


『おのれ、<アマテラス>! 追撃だ‼︎』チャリオットは身を翻し、自ら先頭となって、兵器群を引き連れ追ってくる。


「高度下げ! 地表を盾にして飛ぶのよ‼︎」「下げ舵‼︎」


 <アマテラス>は、地上に築かれた街並みの上を、ギリギリの高度まで下げて、飛び続ける。勢い余った兵器群の攻撃が街へと降り注ぐ。


『くっ! 撃ち方止めぇ‼︎』チャリオットは唇を噛み、デジタル・ソウルを引き連れたまま<アマテラス>を追う。


『……ワールド様が築かれた『文明』。これ以上傷つけるわけには……』チャリオットが思案を巡らせていると、女司祭の声がする。


 ……案ずるな……そのまま中央へ追い込め……


 チャリオットは怪訝に眉を顰めるが、その声に従い、追撃の足を早める。


「敵軍、後方! 進軍速度を上げています!」レーダーからいっときも目を離さず、サニが声を上げる。


「最大船速‼︎ このまま振り切る‼︎」とカミラ。


『よぉおおし‼︎』亜夢が、俄然張り切り出した時。


 ブリッジまで伝わる全力運転の機関稼働音が突如、風船の空気が抜けるような音に反転してゆく。


『ん、えっ?? あれぇええ??』システムに深く同調している亜夢は、真っ先にその異変に気づく。炎の翼は、光を失って消失し、<アマテラス>のメインノズルの噴射がどんどん細くなっていく。


「推力、三十パーセントダウン‼︎ くそっ‼︎」

 ティムは高度を下げ始める機体を、スラスターを駆使してなんとか安定させようと必死だ。


「どうした⁉︎ アラン⁉︎」すでに状況確認に入っているアランにカミラは答えを急かす。


「くっ! ……炉内のPSIパルス反応が進まない。ここはネクサス・アルカディアの影響圏内……彼らのPSIパルスが俺たちを拒んでいる以上……」「機関が働かない……」カミラはすぐに理解した。


 それは<アマテラス>が対象に寄り添い、PSIパルスの同調をエネルギーに変える設計上の特性だ。


「でも、それは想定していた事態よ! こんなに早く⁉︎」「ああ、だから、内燃用のPSI精製水を目一杯積んできたが……あの弾幕を躱すのに、ほぼ使い切っている……シールド用の精製水も回さないと、機関を維持できないぞ!」


 カミラはシールド形成用のPSI精製水残量を確認する。アムネリアのコントロールで、三割程度の消耗に抑えられていた。


「仕方ない! サブリミナル発信源に辿り着くことが先決よ! シールド出力五〇、精製水を機関へバイパス!」「……わかった、ティム! 急いでくれ‼︎ 分析したが、やはりあの尖塔が、発信源と見ていい! あそこまで船を近づけろ‼︎」「だと思ったぜ。もう向かってる‼︎」


「よし、精製水バイパス、機関へ注入!」


 反応炉の稼働音が再び息を吹き返してくる。


「こ、後方! 敵編隊‼︎ 距離二〇‼︎」サニが叫ぶ。


「増速! 黒一五!」


 <アマテラス>が目指す中央の山は、巨大な階段ピラミッドだ。段毎に文明建築が階層わけされて立ち並び、上方に行くほど新しい時代のものとわかる。中央に階段があり、オベリスクを頂く、頂上の神殿のような建物へと続いている。<アマテラス>は、その階段へと至る、広大な参道のような広場へと躍り出た。


「上方の神殿へ突入する!」カミラは直感に従い、すぐに目標を定めた。その時。


「ま、待って‼︎ 前方‼︎ 波動収束反応‼︎ 数、およそ三〇〇‼︎」


「何⁉︎」


 皆が正面を覗き込むと、時空の歪みから、先程まで後方にいた兵器群が、次々と姿を現す。


「こ、後方からも‼︎ 追いつかれる‼︎」


「囲まれた⁉︎」


 前方の一群の中央に、メルカバーが悠然と姿を現し、<アマテラス>の進路を塞ぐ。<アマテラス>はやむなく停船する。


『よもや……ここまで斬り込んでくるとはな……大胆不敵、やはり油断ならぬ女よ』


 ブリッジに入り込む女の声と共に、神殿へと続く長大な階段の中程に、大きな反応が立ち現れてくる。


 純白のベールを被り、そして清純な空色の法衣を身にまとった、女司祭—— その巨大なホログラム映像だ。


『だが、もはや退路はない。ここまでだ、カミラ』


 カミラ——その女は明らかに、そう名指しする。その女の冷たい呼びかけの刃が、カミラの胸を貫いていた。

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