↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第四章 ノヴス・ドミヌス

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

348/367

クリティカル・パス 7

 ドアの開く音に、マイケルとサラは、そちらへと振り向く。飛び込んできた捜査員が、キャプテンシートのマイケルへと銃口を向けた。強面隊員は、傷の痛みで、対応が遅れる。


 その時、トリガーを引きかけた捜査員は、背後から、何者かに右腕を後ろ手に捻られ、たまらず銃を落とす。左腕で反撃しようとするが、腹にニーキック、屈んだ首後ろに肘鉄が落ち、床に崩れた。そこに強面隊員がオーラキャンセラーを撃ち込み、捜査員は完全にノックアウトする。


「た、助かったぜ。副長」


 齋藤は微笑で答えたが、すぐに眉を顰める。


「あなた、負傷してるの?」隊員の出血はどんどんと広がっていた。


「手当するわ!」サラは、ブリッジに備え付けの応急キットを持ち出し、齋藤と二人がかりで処置にあたる。


「……美人二人に、手当てしてもらえるたぁ、ツイてるぜ」「バカ言ってんじゃないわよ!」齋藤は、隊員の袖を切り取り、傷口を確認すると、その腕を押さえつけ、サラに消毒を促す。


『いでぇえええ‼︎』


 <リーベルタース>との通信画面越しに、強面隊員の情けない悲鳴を聞きながら、<アマテラス>は、いよいよトランジッションカタパルトへと搬入されていく。


『ここまで来れば、あとは飛ぶだけだ! 行ってくれ、<アマテラス>!』


 マイケルの気迫が、<アマテラス>の皆を奮い立たせる。


「ああ、任せておけ、兄貴!」ティムは、サムアップで意志を伝え、マイケルも同じサインで返した。


 トランジッションカタパルトの搬入口が閉鎖され、設備が自動的に<アマテラス>を発進位置へと導く。



 格納庫の攻防は、次第に増員が増えた捜査員によってジリジリと追い立てられ、IMS隊員、技術課員の半数近くはすでに投降(無理な応戦はせず、命の危機があれば即投降するように厳命されていた)。また二人が負傷し、コントロールセンターに退避、如月含む、残り三人でなんとかコントロールセンターを死守していた。


「くっ! まだか⁉︎ 部長‼︎」如月の切迫した怒鳴り声が聞こえる。


「もう少しだ‼︎」アルベルトは叫び返しながら、エントリーポートへのPSI精製水注水モニターを睨む。ダミアン、ホセも、声もなく同じモニターを見つめていた。


 日本本部IMCには、アルベルト、如月からの通信が飛び交い、東と田中が逐一状況を追って、マッピングした模式図をホログラムに投影していた。そこに外部からの通信コールが鳴り響く。


「EU暫定本部からです!」コールを受けたアイリーンが叫ぶ。皆に緊張が走った。通信に現れたのは、ウォーロック。場所はハンナの執務室のようだ。


『NUSAの<リーベルタース>が、何者かに奇襲されている、とNUBIから通達があった。おおよそ見当はつく。藤川くん、きみの手のものだな?』


『ブレナン! そんな、決めつけて!』傍らに駆け寄るハンナが止めるのを構わず、『どうなんだ! 答えろ‼︎』とウォーロックはいきり立つ。


「そうだ」藤川は、誤魔化しても無意味だと悟り、はっきりと返した。タイマーを確認する。アルベルトが知らせてきた、エントリーポート注水完了まで残り五分。


『何をしようというのだ⁉︎ どうやったかはわからないが、NUSA政府の、正規の捜査を受け入れた支部を奇襲するとは‼︎ NUSA政府も、我々、国連も敵に回す気か、君は⁉︎』ウォーロックの腕にしがみついて、必死に止めるハンナを振り解き、ウォーロックは迫る。


「ウォーロック顧問。私の方こそ伺いたい。あなたこそ、何をなさるおつもりで?」


「……どういうことだ……Dr.藤川?」


「……ノヴス・ドミヌス……」藤川の発した、その言葉にウォーロックの瞳が、一瞬大きく揺れた。藤川はそれを見逃さない。


「顧問……あなたは、この言葉をご存知ですね?」


 ウォーロックは口を固く閉ざす。


「黄金の女神。我々は一度、遭遇している。バビロニアのミッションで。その時、女神が残した言葉。それが、ノヴス・ドミヌス」


 ウォーロックの顔つきが険しくなってゆく。


「女神、ノヴス・ドミヌスのサブリミナルが、ヴァーチャルネットを媒介して、世界中に広がっている。我らIN-PSIDに向けた憎悪を利用した意識統制。そう、まさに『新たなる秩序』を生み出すかのようだ……」


 ウォーロックは黙したまま、藤川を見つめていた。


「怒り、憎悪、敵愾心……この強い激情は、歴史を顧みても、人の心を簡単に支配する。だが、そこに残るのは、破壊と悲しみ……そして新たな憎悪の芽……このようなやり方で、人類が本当に一つになるようなことはない。我々は、ノヴス・ドミヌスの世界秩序に反抗する」


 藤川は、チラリとタイマーを確認する。残り二分。如月らも限界だろう。


『……それでも、それでもなさねばならぬ。ガイアの変動を乗り越え、人類が生き延びるためには……』ウォーロックは、ハンナの首元に腕を回して拘束すると、ジャケット下に隠し持っていた拳銃を、ハンナのこめかみに押し付けた。


「顧問! バカな真似はよせ!」藤川の叫びにウォーロックは、眉一つ動かさない。


『……ユグドラシルはクリティカルパスを示した。だが、その道を歩む、手立ては⁉︎』逆に問いかけてくるウォーロックに、藤川もハンナも返す言葉はない。


『ふふ、答えられまい……そうだ。まだその具体的な方策も、方針すら何も決まらない! いや、決められるはずもない! だが、そうやっている間に、破滅は着実に近づいて来ている!』


 ハンナに突き立てた銃を握る手に、力が籠る。その時、ハンナの指輪型通信端末が、小さく振動した事に、ウォーロックは気づかない。


『ウォーロック……やめて……』ハンナは震える声で懇願する。IMCと、通信を共有する<アマテラス>の一同は、息を殺して見守る他なかった。


『だが、人類は生き延びる! 我々にはその手段がある。プロジェクト・ノア! これこそ、我々、ノヴス・ドミヌスが示すクリティカル・パス! 人類に残された、唯一の正しき道だ‼︎』ハンナは、かつての友人、ウォーロックの鬼気迫る言葉に、言葉を詰まらせた。


 ウォーロックは、何も言い返してこない通信モニター向こうの藤川に、不敵な笑みを浮かべる。


「ふふ……流石は、Dr.藤川。いつから気づいていた?」


『……ノルンのミッションで、あなた達が呼び合っていた言葉。ジャッジメント、運命の輪……最初はちょっとした違和感だった。だが、あれはタロットカードを指す名前。そして、我らの前に現れ、ノヴス・ドミヌスと名乗ったあの黄金の女神。あれはタロットカードの世界、女神、フォルトゥーナ』


 藤川の言葉に、カミラはハッとなる。


『全ての違和感は、我らIN-PSIDへの風向きが変わった、あの会見。あれを勧めた貴方に、私の疑念は収束した。IN-PSID内部への工作、国連への働きかけ……そんなことができるのも、貴方をおいて他にいない』


 藤川は、まっすぐウォーロックを見つめる。


「ふん……Dr.藤川。貴様はいつも……そうやって、私を…………くっ。だが!」


 ウォーロックは、激しく藤川を睨み返す。


「いずれ我らが正しかったことを、これから地球を離れる我らの子孫らが証明するだろう。さあ! すぐに手のものらを引かせろ! そして、我らノヴス・ドミヌスの計画に協力せよ!」


「コーゾー! 私のことはいい! あなたのすべき事を!」ハンナは叫ぶ。そのハンナに、ウォーロックは、憎悪の眼差しを露わに、銃口を彼女のこめかみに押し付ける。


「あぁ‼︎」『ハンナ!』


「私は、私は人類が生き残るためなら! 誰であろうと、この手にかける覚悟だ!」


 藤川とウォーロックが通信パネル越しに睨み合っている間に、アマテラスの発進準備が整う。


 ****


『……エントリーポート注水完了。時空間ゲートスタンバイOK。ゲート開放』


 コントロールセンターに、システム音声ナビゲーターの、場違いなほど穏やかなアナウンスが流れた。


『よし‼︎』アルベルトは、通信器に向かって叫ぶ。


「<アマテラス>! 発進コントロールを渡す! あとはお前たちのタイミングでエントリーしてくれ!」『りょ、了解。ですが……』


「どうした⁉︎」アルベルトにはEU支部の状況が伝わっていない。如月らはコントロールセンターまで後退して、最後の抵抗を続けている。


『急げ、カミラ! こっちはもう、保たない! 奪還されたら終わりだぞ‼︎』


「くっ……!」<アマテラス>クルー一同の視線がカミラに集まる。


『なに? ……<アマテラス>⁉︎ …………そうか、<アマテラス>で奇襲を……<リーベルタース>……まさか⁉︎ 狙いは、黄金の女神⁉︎』


 ウォーロックは、顔を青ざめさせ目を見開く。


『藤川ぁ〜あ‼︎ おのれ、貴様ぁああ‼︎』ウォーロックは、ハンナの首元をさらに締め上げ、銃口を捻り込む。ハンナは苦痛に悶えていた。


『<アマテラス>を止めろ‼︎ さもないと撃つ‼︎』


「ウォーロック‼︎」藤川は叫ぶ。


『藤川! お前には、できまい! 成すべきことのためとはいえ、友人を犠牲にするなど‼︎ お前の負けだ‼︎ さあ! <アマテラス>を止めろ‼︎』


『ダメよ‼︎』ウォーロックの怒声に、ハンナは負けじと叫ぶ。


『お願い! 行って‼︎ きっと、それがユグドラシルの示す……いえ、ソフィアの願った世界だから‼︎』


 意を決して、カミラは顔を上げた。



『スロットル! 突入出力へ!』


 ウォーロックは、ギョッとなる。


「やめろぉぉお‼︎ 藤川ぁあああ‼︎」


 ハンナは目を固く瞑り覚悟した。ウォーロックの指先が、引き金を引く……引く、引く……引こうとしている……


「ぬぅ! う、ぐっ! ……ハンナァァァ……」ウォーロックの腕が震え出し、指先は動こうとしない。


「支部長‼︎」その時、執務室のドアが勢いよく開き、EUミッションチーフのケンと、三人の男達が駆け込んでくる。ウォーロックが咄嗟に銃を向けるも、三人はあっという間に、その腕を、身体を拘束。ケンはハンナをウォーロックの手から解放した。


『<アマテラス>発進します‼︎』


 時は今! カミラは声を張る。


「だ、ダメだあ‼︎ い、いいくなぁああああ‼︎」ウォーロックは、三人の男に拘束された巨躯を捩りながら叫ぶ。


「人類の! 希望を消してはならぁん‼︎」


 構わずティムは、スロットルレバーを引き倒す。メインノズルを噴かせた<アマテラス>は、リニア加速器によって、トランジッションカタパルトを疾走し、エントリーポートに形成された時空間ゲート(光球)に飛び込む。


 本部IMCのメインモニターに映っていた、<アマテラス>からの通信ウィンドウがホワイトアウトする。再突入した証だ。皆、固唾を飲んで、白色の一面を見つめている。


 その間に、アルベルトからの通信音声が、奇襲組のIMS全員投降し、マイケル、サラ、アルベルトも含み、皆、NUBIに拘束されたことを物語っていた。


「……皆……無事に帰ってきて……」真世は手を組み、祈らずにはいられない。残ったEUとの通信映像に、ウォーロックは拘束されながらも、脅迫めいた口調で迫ってくる。


『こ……こんな事をして……取り返しがつかなくなるぞ!』


『ユグドラシル……』ハンナの呟きに、ウォーロックはハッと振り向いた。


『……貴方がアレに拘る理由……ようやくわかったわ……本当は、恐れているのでは?』


 ウォーロックの余裕を失った顔が強張る。


『……貴方の選んだ道が……ユグドラシルの示す道と違えている事を……いえ、違えていると……貴方……わかっているのではないかしら……』


 ウォーロックは、声なく肩を落とす。ケンは彼から奪い取ったネクタイで、手首を縛り付け、部下の三人と共に執務室から連れ出そうとする。その時、ウォーロックは、ハンナに背を向けたまま、ようやく声を発した。


「……人は己の信じる道を進む他……あるまい……たとえ、どのような結果になろうと……私は、間違っていたとは思わぬ……」


「……残念よ……私は……ブレナン……」ハンナは、執務室から連れ出されるウォーロックの背を、姿が見えなくなるまで見送る。二人の視線が重なることは二度となかった。



 ****


 EU支部の動向、及びNUSAの状況は、ノヴスドミヌス中枢、ネクサス・アルカディアの女司祭にも随時報告が上がってきている。


「これまで、日本本部のシステムに介入できなかった……それが最大の誤算か……おのれ、Dr.藤川」


 女司祭は、無意識に親指の爪を口に運んでいた。


「<アマテラス>……あの女が来る……カミラ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。