クリティカル・パス 6
『なに、奇襲だと⁉︎ どこからだ⁉︎』音声だけのがなり声は、あの軍人崩れのドレイクだ。不機嫌さを隠しきれない。
「そ、それが……格納庫の奥から突然……」若い新人女性隊員が、あたふたと返答している。
『貴様、寝ぼけているのか! そんなことはありえん!』「で、ですが……現に格納庫は……」
『もういい! 総動員で制圧せよ! 私も向かう!』ドレイクの動き出す音に混じって聞こえる、引き止める女の声。黙れと癇癪をぶつけるドレイクの声と共に電話が切れる。
「……支部長! マーク支部長‼︎」この日、現場指揮にあたっていた中年の男が、両手で机を叩く。
「一体、何をした⁉︎ この状況を説明しろ‼︎」
「……私は何もしていない。これだけ監視されて、外部との通信もできない。一体、私に何ができるというのかね?」マークは、自席に深くもたれかかり、肩をすくめた。
「くっ! ……各班へ通達! 総員、直ちに格納庫へ迎え‼︎ 相手はテロ組織と見做す! 速やかに鎮圧せよ! 全火器の使用を許可! 生死は問わない!」
中年指揮官は、顔面蒼白だ。
「おいおい、ずいぶん過激だな」とマーク。
「……きょ、局長が来る前に……でなきゃ、こちらが殺られる……」
****
<リーベルタース>格納庫では捜査員らとIMSらの一進一退の攻防が続いている。
「ん、あれ? 隊長に、副長?」コントロールセンターのホセは、場内カメラの一つが捉えた映像に、マイケルとサラが映り込んでいるのに気づく。
格納庫内が騒然となっている間、マイケルとサラは、IMS副長の齋藤と、もう一人の隊員に護衛され、搬送ガントリーの走行溝内に身を潜めながら<リーベルタース>へと近づいている。
「あの二人がいるってことは……ああ! そっか! <テメノス>⁉︎ だろ⁉︎」映像を覗き込んだダミアンが、閃いたとばかりに、声を上げた。
「ご明答! <テメノス>が保有する緊急帰還座標を使わせてもらった! ありゃ、量子もつれ通信で、常にここの座標を取得している。そいつを<アマテラス>の時空間転移に流し込んでやりゃ!」
アルベルトは、コンソール端末に読み込ませたプログラムの展開を確認すると手を動かし始めた。
「正確に、ここの帰還ポートに転移できますねぇ」妙に落ち着き払って頷くホセ。
「けぇどヨゥ! そこまでして、オレッちらを助けに来たんじゃねぇって……じゃ、何しに来たんだヨゥ?」ダミアンは、肩をすくめて、首だけを残して身体を右、左と振る。
「<リーベルタース>さ! ワープ転送の謎がようやく解けた!」「えっ?」「マジかヨォ⁉︎」
アルベルトが作業を続けながら、センターのガラス窓越しに見える<リーベルタース>に目をやれば搭乗ハッチに、船内にいた捜査員が上がってきた。銃器を構え周辺を警戒する。
一方で、<リーベルタース>に掛かるタラップへと向かおうとしていたマイケルらは、走行溝から様子を窺っている。
「あれじゃ、船に入れないな。ホセ、<リーベルタース>の緊急ハッチは、ここから開けるか?」
「え? えぇ。それくらいなら」
「よし、頼む。マイケル!」アルベルトは持ち込んでいた無線機で、マイケルを呼び出す。
「<リーベルタース>の下に回れ! ハッチを開ける!」
『了解だ。行くぞ』通信を受けたマイケルらは、走行溝に戻り、<リーベルタース>の下方へと急ぐ。
「あのワープ転送先は、オービタル・エデンにあるネクサス・アルカディアだ! そして、今、世界を騒がせている黄金の女神がそこにいる!」アルベルトは手を動かしたまま説明する。
「<アマテラス>は、ヤツのサブリミナルを止めにネクサス・アルカディアに向かう! それには、<リーベルタース>の次元コミュニケーターを起動させ、ワープ転送座標を<アマテラス>に送らにゃなきゃならん!」「ああ! それで、隊長たちが⁉︎」
「そういうことだ!」アルベルトは、コンソールのエンターキーを勢いよく叩きながら言い切った。
『次元エントリーシステム、モード変更を承認。セットモード、PCG01-AJ <アマテラス>。トランジッションカタパルト、イニシャライズを開始』
帰還ポートの先、トランジッションカタパルトの設備が動き出す様子が、コンソールのモニターに映し出される。
「なるほど、ここのエントリーシステムを使って<リーベルタース>の転送座標をもらいつつ、<アマテラス>をワープさせるわけですね。考えましたね」「ああ、ティムの発案さ! アイツはパイロットだからな。支部の設備を使えること、知ってやがった」
IN-PSID設立初期の頃、本部、支部間で、緊急時などを想定し、PSIクラフトの相互互換運用を可能とする設計が、次元エントリーシステムに組み込まれていた。特に同時にほぼ建設された日本本部、EU支部、NUSA支部のシステムはほぼ同規格であり、PSIクラフトに合わせたセッティング変更をするだけで、他拠点のPSIクラフトの次元エントリーを可能としていた。(後発の拠点は、次第に専用化していったが……)ちなみに、月への合同ミッションでこのシステムを使わなかったのは、同時エントリーで、<アマテラス><リーベルタース>の時空干渉と、システムダメージのリスクを回避するためだったと、アルベルトはホセもダミアンも訊いてもいない説明を付け加える。
「カミラ! こっちの準備はオーケーだ」アルベルトは、無線機をとって向かって呼びかける。
「エントリーポートの注水もあと五分! カタパルトへの搬入を始めるぞ!」『了解しました!』
NUBIは、さらに増援を投入してきており、コントロールセンターを死守する如月らも、徐々にこちらへ向かって後退してきている。
「あとは、アイツら次第だ……」アルベルトは窓外の<リーベルタース>を見つめる。搭乗口の捜査員はまだ何も気づいていないようだ。
****
<リーベルタース>ブリッジまでは、警備員の姿はなかった。彼らが船内に戻ってくるのに備え、齋藤がキャビンに残って警戒にあたり、残りのIMSの強面隊員を先頭にマイケル、サラはブリッジ扉前に立つ。
「オレが先に飛び込む。敵がいたら援護してくれ」
強面男が言う。マイケルとサラは、神妙な面持ちで頷いた。
「へへっ! 心配すんなって! 守ってやるって言っただろ?」強面隊員は、<アマテラス>船内でサラに声をかけてきた男だった。
「行くぞ!」男が踏み出すのと同時に自動ドアが開く。
「と、止まれ‼︎」案の定、ブリッジ内には捜査員が二人、銃を向けて、待ち構えていた。強面隊員の気迫に捜査員らが、一瞬たじろいだ隙に、隊員は左肩を前面にして猛突進する。
パァンと乾いた銃声。飛び散る血飛沫。サラがあっと声を上げるのと、隊員が捜査員を組み伏せたのは同時だった。
「ちぃ‼︎」マイケルは舌打ちして、隊員に狙いを向けた、もう一人の捜査員を的確にオーラキャンセラーで仕留める。組み敷かれた捜査員も、隊員に至近距離でキャンセラーを撃ち込まれ、あっという間に伸びてしまった。
「だ、大丈夫⁉︎」サラは隊員に駆け寄る。左腕を撃ち抜かれ、結構な出血だ。
「へへ! ネェちゃんに心配してもらえるのは嬉しいが! こっちはいい、早く次元コミュニケーターを!」痛みを堪えて、男はニッと笑みを浮かべる。
「サラ! 急げ!」「う、うん!」
隊長席にマイケル、副長席にサラが着き、マイケルは次元コミュニケーターの起動を、サラは<アマテラス>への通信回路を開いた。
****
搬送ガントリーが移動し始め、駐機している<リーベルタース>を横に見ながら、<アマテラス>は、トランジッションカタパルトへと搬送されていく。
「<リーベルタース>より入電!」「メインに出して」アランが通信を<ブリッジ>正面のメインパネルへ投影した。
『サラよ! 今から次元コミュニケーターの通信を開始するわ! 同期スタンバイ、よろしく! マイケル⁉︎』『次元コミュニケーター、ワープ機関接続良好! いいぞ!』
「スタンバイOKだ! 始めてくれ!」『よし! スタート!』
アランのコンソールモニターに、次元コミュニケーターからの時空間情報コードが流れ始める。
「同期成功だ! いけるぞ!」カミラは顔を上げた。
「こちら<アマテラス>! 次元コミュニケーターとの同期成功! 直ちに、インナースペースへ再突入し、ネクサス・アルカディアへ向かいます!」『よっしゃあ!』IMS隊員らの反応が真っ先に返ってきた。
『頼むぞ、カミラ! インナーノーツ! ワープ転送の終了予測まで、残り三時間ほどだ。何が起こるかわからん。十分警戒して、ミッションにあたってくれ』メインモニターに開いていたIMCとの通信ウィンドウの藤川が返答した。
「はい!」カミラが返事した、その時。
「あ! 兄貴‼︎ 後ろだ‼︎」ティムが突然声を上げた。




