↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第四章 ノヴス・ドミヌス

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

340/367

邂逅の時 6

 ゥォオ……ヴォォオオ……


 何かが呻くような音に、サニはふと目覚める。いや、そこに『在る』のは身体ではない。音なのか、はたまたその振動なのか……


 ……そっか……振動そのものなんだ……


 そう感じた瞬間。サニの感覚は一気に拡大していき、まるで大地と一体に、溶け込んでゆくような感覚を思える。


 ……世界は波動……時空は、その周波数が定めるエネルギーの形……


 いつだったか、インナーノーツの養成プログラムでぼんやり聞いた話をサニは実感していた。


 ……波動収束……そうよ……波動収束よ! ……アタシは、<アマテラス>観測士(ナビゲーター)、サニ・マティーニ! ……応えなさい! シドレア‼︎ ……


 サニが強く自身を意識した瞬間、まるで<アマテラス>の波動収束フィールドが作動したかのように、サニの周辺領域に形が生まれる——



「……マジか⁉︎ 海図に羅針盤って……大航海時代かよ。よくやるぜ」ティムは唖然として言った。サニとシドレアによる探索作業が始まってから、すでに十分。待つしかない皆は、マイケルらの、<テメノス>太平洋横断冒険譚に耳を傾けていた。


「NUBIの追跡がどの程度あるか、分からなかったからな。まぁ、それで何とか、太平洋は無事に渡りきった」「無事ぃ? あんなに船酔いでゲーゲーしてたくせに」サラはマイケルに、すかさず突っ込む。


「お、おい! サ、サラ!」顔を赤らめるマイケルに、サラはクスクスと笑い、知らんぷりを決め込む。ずいぶんと、仲が縮まったものだと、ティムは兄と、サラを微笑ましく見つめた。


「な、なんだ! ティム」マイケルは眉を吊り上げる。


「別にぃ〜〜。まぁ、途中で捕まらなくて、何よりだったなと……思ってね」と肩をすくめるティム。


「けど、根室沖では流石に冷っとしたぜ」とロバート。隣でクレアとサラも頷いている。ロバートはそのまま、根室近海で、日本の巡視船に発見された時の状況を話し始める。


「……当然、NUSA政府から日本へ、オレたちの拿捕要請があったとしてもおかしくはない。巡視船の方にもそうした動きは見えた」「でも、結局、しばらく睨み合っただけで……」マイケルとサラは困惑気に言う。


「国連の国際救助船シグナルが効いた……って感じではなかったわよね」「とにかく、それっきり。逆に日本領海にエスコートまでしてもらって、あとは悠々とここまでこれたってわけだが……」とクレアもロバートも怪訝そうだ。


「……どうやらこの世界の流れに、飲まれたくない連中は、我々の他にもいるようでな……」藤川はサニを見守りながら、呟くように答えた。


「世界の流れに、飲まれたくない者たち……」マイケルが、その言葉の意味を考え始めた時、突然、インターフォンが鳴る。東が受話器を取って応答した。片山からだ。


「……やはり来ましたか。ええ、こちらに」そう言って東は受話器を置き、藤川に向く。


「EU暫定本部からです。『届け出』のない、超空間通信が感知されたと言ってきてるそうです」


「うむ……出よう」


 壁面モニター内でオセアニア支部との通信ウィンドウが縮小し、EU支部との通信ウィンドウが開く。


『コーゾー、困るわ。一言、連絡入れてもらう約束よ』通信画面に現れたのは、ハンナ一人。彼女の執務室のようだ。


「すまんな、ハンナ。だが、そちらに監視されているんだ。連絡してもしなくても、同じだろう?」藤川は苦笑しながら返答する。


『あなたって人は……変わらないわね。世の大半は形を大切にするものよ。少しは学んで頂けないかしら? それで、今回は? 緊急でもないようだけど……』


「オセアニアとの定期連絡だよ。ガイアソウル変動データに関する報告を貰っている」


 藤川の言い回しに、IMCの一同は違和感を覚える。


「……そう。ならいいのだけど。あら、そちらにいるのは……ひょっとして、NUSA支部の?」


 マイケルらは身構える。EU政府はNUSA政府との繋がりが強い。IN-PSID暫定本部となったEU支部が、彼らを通報しないとも限らない。


「……<テメノス>で我々を頼って来た。ハンナ、彼らはしばらく、私の元で預からせてはくれまいか?」


『コーゾー……』


 藤川とハンナは、しばらく見つめ合う。


『……コーゾー。あなたのことは信頼している。だから、貴方も私をもう少し、信用してちょうだい。今はこんな状況だけど、力になりたいの』


「ハンナ……」


『……形だけでも、連絡は小まめにお願い。それで安心できる人もいるのだから』ハンナは、少し淋しげな微笑みを浮かべた。


「……わかった。そうしよう」藤川が答えたところで、ハンナの部屋にノックが鳴る。


『それじゃ……また』「あぁ……」


 EU支部との通信はハンナ側からすぐに切れる。マイケルらはホッと安堵のため息を漏らす。


「ハンナ……苦労をかける……」



 通信を切ったハンナは、自室をノックした来室者を受け入れる。現れたのはウォーロックだ。彼は今、ハンナの補佐を買って出て、EU暫定本部に滞在している。


「日本とオセアニア間で大容量通信が行われていると聞いたが……」ウォーロックは太い眉を寄せ、眉間に深い皺を作っている。


「ガイアソウル関連の定期連絡よ。これまでにも何度となくやりとりしているから、申請が漏れていたみたい。私の方で受理しておきましたので、ご心配なく」ハンナは、机上のタブレットでドキュメントの承認作業を行いながら答えた。


「そ、そうか……」ウォーロックは、何か言いたげに部屋の中央で立ち尽くし、じっとハンナを見つめる。


「まだ、何か?」


「……ん、あ、あぁ、いや。……事情が確認できているならいいんだ。邪魔したな」ウォーロックはそう言うと踵を返し、そそくさと部屋を出て行く。ハンナはウォーロックの立ち去ったドアをしばらくじっと見つめていた。



 ****


 ……これは? ……


 人の顔、様々な道具、乗り物、食べ物……


 あらゆるモノが、空間の振動の中から、まるで機織り機が絵柄を描くように、浮き上がってくる。


 どれも、アボリジナルが岩肌に描いたとされるロックアートのような図象だ。


 ……ヴゥウウ……ブッボォォ……


 音の振動は絶えず続いている。


 アボリジナルの長い筒のような管楽器、ディジュリドゥ。そのディジュリドゥの音——振動に合わせて、浮かびあがった図象は、弾け飛び、カラスのような姿になって次々と飛び去って行く。


 サニが、そのカラスの大群が飛び去る彼方へと意識を向ければ、巨大な丸い穴で構成された顔のような絵柄——ワンジナの図象が立ち現れ、上へ上へと登ってゆく。


 ワンジナの胴のような部分は細長く伸びて天へと届く柱のようだ。ワンジナはその大きな口を開けて、向かって来たカラスの大群を飲み込み始めた。


 ワンジナの口の先に何があるのか? サニはそこまで、どうしても行ってみたい衝動に駆られる。だが、サニの意識は届かない。


 進みたいと思えば思うほど、ディジュリドゥの音がする。気づけば、サニの手には、いつの間にか、そのディジュリドゥが握られていた。


 ……これ、パパの……


 そう気づくのと、一緒に吹いてごらんと、父に呼びかけられているような感覚が湧き上がるのは同時だった。


 サニは周辺から聞こえてくる音に身を委ねるようにして、ディジュリドゥを吹き始める。


 舞い上がるカラスの大群と共に、まるで宙に吸い上げられるかのようにサニの意識は浮かびあがった。


 大地が見える。それに、青く広がる大海。太平洋かしら?


 やがて、オーストラリア大陸の全景をも下に見下ろし、意識はどんどんと上昇してゆく。


 遥か下方から天の彼方へと伸びるワンジナの柱に重なりながら、サニは雲を抜け、大気を抜け、星々の海を駆け上る。頭上にワンジナの口。サニはその口の中へと飛び込む。


 一瞬にして、全てが暗闇に包まれたその時。


 ……お前は……何だ? ……


 どこからともなく聞こえた無機質で冷たい声に、背筋を凍り付かせられる感覚を覚え、瞬時にサニの瞑想は破られた。


 カプセルの中で意識を取り戻したサニは、過呼吸になって呼吸を乱す。


『サニさん‼︎』栗林が声を上げ、サニを見守っていた一同は、息を呑みサニの安否を確かめようと、彼女を映し出すモニターに食い入る。


 カプセルは、サニの呼吸の異常を感知して、酸素マスクを自動で彼女の口に当てがい、サニはそのマスクにしがみついた。


「サニ! 落ち着いて! ゆっくり息をしろ!」アルベルトが呼びかける。サニはだんだんと変性意識から戻り、アルベルトの呼びかけに従って、呼吸を整えてゆく。


 皆が緊張の面持ちで見守る中、サニは呼吸がようやく落ち着き、マスクを自ら手放した。


『はぁ……はぁ……ったく……もう、いいでしょ?』悪態めいたサニの口調に、皆、安堵する。


『クリバヤシ! どうだ⁉︎』サニの無事が確認できるや否や、ライラは問いかける。


『……待ってください……えっと……座標は……99.9.999.9999……そんな、座標値、オーバーフロー⁉︎』栗林は顔を曇らせる。


『くそ、失敗か‼︎』ライラが叫ぶ。皆がうなだれ、IMCの空気が沈み込み始めかけたその時。


「いや……おそらく、正解だ」


 その言葉に、皆が目を白黒させる中、サニの横たわるミッションカプセルをじっと見下ろしたまま、藤川は一人、強い確信を得ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。