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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第四章 ノヴス・ドミヌス

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邂逅の時 5

「君たちの<リーベルタース>。ワープ機関が制御不能の稼働を初めて、一カ月近く。その身動きできない<リーベルタース>を、この女神騒動に乗じて、NUSBが差し押さえてきた……ワープ機関の兵器転用を危惧して、とは言うが、果たしてそうであろうか……」


 藤川は、そう言いながら、どこかへと通信を始めた。マイケル、サラは顔を見合わせ、ロバートとクレアは眉を顰める。


「まさか……全て関連していると?」と腰を浮かせるマイケル。藤川はそれには答えず、通信相手の応答を待つ。まもなく、壁面メインパネルに立ち上がった通信パネルに出たのは、オセアニア支部の支部長モーガン、そしてインナーノーツ・オセアニアチーム隊長のライラだ。


『待ってましたよ、藤川本(・)部長。こちらはいつでも準備万端です』マオリ族の血を引く浅黒い肌の中年女性支部長モーガンは、落ち着いた口調で言った。


『あとは、サニ。あんた次第だ』隣に立つ、凛とした気丈さと妖艶さを併せ持つ女隊長、ライラは、サニに真っ直ぐ視線を向けてくる。


「はっ⁉︎ え、アタシ?」自身を指差しながらサニはキョトンとして、周りを窺う。


『ん、なんだ? 何も聞いてません、って顔だな?』怪訝そうに覗き込んでくるライラに、サニは二度、三度と頷いた。


「こちらの準備にかかっている間に、NUSA支部から来た<テメノス>の入港があってな」藤川は、手で示してマイケルら四人を紹介する。


『NUSA支部⁉︎ じゃあ、<リーベルタース>の?』モーガンとライラは、目を丸めた。


「<リーベルタース>、隊長のマイケルだ。こっちは副長のサラ」マイケルが名乗り、サラは微笑んでみせた。


『ははっ、こりゃ、また絶妙だな』ライラは、カラッとした笑いを立てる。


「よぅし、こちらの準備も整ったぞ。おい、サニ! すぐに、その対人ミッションカプセルに入っとくれ」いつもは真世が担当する席に陣取り、先程から何やら作業を続けていたアルベルトが声を上げる。


「はぁ⁉︎ なんでアタシが⁉︎ どこも悪くないし‼︎」普段は、古屋のように、対人インナーミッションの患者が収容されるカプセルである。腰を浮かせたサニは、顔をひきつらせて後ずさっていく。


「いや、違うって! 前にアムネリアが<アマテラス>のPSI-Linkにアクセスするのに使ってただろ! アレと一緒だ。サニ、お前には<クナピピ>のシドレアと繋がってもらう!」それくらいわからんのか、と言いたげな顔で、アルベルトは面倒くさそうに説明した。


「へっ……?」


『サニさん‼︎ 大丈夫!』通信モニターの向こうから聞いた声が聞こえる。ライラの後ろから、黒い前髪を切り揃え、センターでわけた日本人の好青年が顔をのぞかせた。


「クリバヤシくん⁉︎」サニに呼びかけられ、栗林は慌てて視線を自分の手元に戻した。栗林に、モーガン、ライラの三人が居るのは、<クナピピ>のブリッジのようだと、サニは気づく。


『こ、こちらでもシステムコントロールして、僕がサポートしますから‼︎ 安心して、シドレアに飛び込んでください‼︎』


「う、うん……」——



 ——『で……シドレアで、何しようっての? アタシはどうすればぁ?』


 しぶしぶカプセルに入り込んで、横たわったサニは、困惑げに訊ねるサニの、カプセル内マイクを通した声がIMCと<クナピピ>ブリッジに伝わる。


『これから<クナピピ>でサンプリングしたインナースペースのデータをシドレアに展開します。サニさんは、そのイメージを読み解いてもらいます‼︎』俄然、張り切り出す栗林。


『読み解く?』


『難しく考えることないさ。アンタは心象に浮かぶイメージを、素直に受け取ってくれるだけでいい。なぁに、アンタにとっては親父さんと気軽におしゃべりするようなもんさ』『はぁ……』ライラは簡単に言うが、サニは、長年精神疾患にあり長い間離れていた父親、ファビオと、言葉を交わした記憶は、先のインナーミッションにより、彼が回復を見せ始めてから、ほんのわずかしかない。


 シドレアはファビオの特異な精神状態をシステム化して、集合無意識、とくにアボリジナルが太古よりその精神基盤としてきたドリームタイムから集合無意識深層にアクセスするために開発されたが、シドレアが採取するデータはあまりに抽象度が高く、それを読み解くのは困難を極めた。その際の、シドレアとのPSI-Linkには、システムモデルとなったファビオの心象パターンとの『相性』に大きく依存することが、運用を始めてから判明。ライラは、何度もアクセスと同調を試み、ある程度までは適応したが、集合無意識レベルのアクセスは、心身への高負荷を伴う割りに、解読成果は乏しかった。ライラは限界に達していた。シドレアは、いや、ファビオは、娘、サニとのコミュニケーションを望んでいる——そんな感覚を何度も受け止めながら。


「全システム、異常なし。それじゃ、始めるぞ! PSI-Link、スタート‼︎」アルベルトの開始の合図とともに、サニは瞳を閉じ、変性意識の瞑想へと意識を落としてゆく。


『サンプリングデータ展開! シドレア、サニさんを受け入れて!』栗林が音声指示を飛ばす。


『PSI-Link、アクセス・シグナル確認。PSIパルス照合、サニ・マティーニ。アクセスを許可します』シドレアの合成音声が、淡々と応答する。


 日本本部IMC、そして<クナピピ>ブリッジの皆は、口を閉ざして状況を見守る。


『PSI-Link、オールグリーン! 接続良好!』栗林の報告に皆揃って、安堵の表情を浮かべた。


『あとはサニが何を掴むか……待つしかないな』とライラ。モーガンが隣で頷く。



「……それで、本部長。そろそろ話してくれないか? いったい、これは何をやろうと?」ここまで、なんの説明もされないまま。マイケルは、痺れを切らして訊ねる。サラやロバート、クレアだけでなく、本部の一同も皆、怪訝げに頷いた。


「<リーベルタース>だよ」藤川は、皆に向き直り、口を開く。


「<リーベルタース>のワープ機関は、どうやらヴァーチャルネットのあらゆる情報を、その演算能力と大容量データ転送能力を持って、どこかへと送っているらしい。そのことはすでにNUSA支部でも判明していたと思うが……」マイケルらは頷く。


「問題は、それをどこへ送っているかだ。それがわかれば、自ずとその目的も見えてくる」


「ああ。だが<リーベルタース>のコントロールは、完全にハックされていて、調べようがない」「そうね。ホセとダミアンには頑張ってもらってるけど……ワープの超空間通信だから、他からその経路を追跡するのもできなくて……」マイケルとサラは、眉を顰めて顔を見合わせる。


「現象界から……ではな。だが、インナースペースにはワープの時空間伝達情報が残る可能性がある。ワープ転送ともなれば、おそらく高次元、集合無意識界面に、その痕跡があるはずだ」


「なるほど、それで<クナピピ>のシドレアを?」とカミラ。


「そうだ。<クナピピ>にはガイアソウル変動兆候の早期発見のため、インナースペースに定期的に潜ってもらい、集合無意識相当の時空間情報のサンプリングを行ってもらっていた。当然、その中には……」


「ワープ転送情報も混じり混んでいるはず!」とティム。


「そのとおり。すでにシドレアによって、それらしい情報は抽出済みだ。あとはその解析なのだが……」『私には役不足でね。それで、サニに協力を頼んだわけさ』と藤川に続けるライラ。口惜しげな口調の割に、通信を通して見つめるサニへ、愛おしげな微笑みを湛えていた。


『シドレア、ニューラルネットワーク活動率上昇! サニさんとの同期率、現在六十五パーセント!』栗林が経過を報告する。


「頼むぜ、サニ」カプセル内モニターに映る、静かに瞑想につくサニに向かって、ティムは呟いていた。

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