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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第四章 ノヴス・ドミヌス

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守るべきもの 3

 サンタ・カタリナ島。太平洋に面した西側の、カタリナ港に近い湾部。IN-PSID NUSA支部が置かれた人工島に、上空から、あるいは海上から続々と光が群がっている。人工島へと続く陸繋には海上から乗り込んだ、いくつもの揚陸ボートから、黒黒とした機械仕掛けの人型が規則正しく群れをなして人工島中央の施設中枢を目指し、NUSA支部の専用港は、すでに巡視艇が封鎖線を築いている。上空にホバーリングしたヘリコプターからは、特殊装備に身を包んだ拠点制圧部隊がリペリングで滑り降りてゆく——


「何かの間違いだ‼︎」寝巻き姿のまま、執務室に入ったマークは、自席の机に両拳を叩きつけ抗議する。彼の抗議を全く意に介さず、とばかりに室内には、背に『NUBI(New Union Bureau of Investigation)』の白抜き文字が鮮やかなジャケットの、十名ほどの潜入隊員らが忙しく動き回り、機材を設置しNUSA支部各部の通信、監視モニターを立ち上げる。武装アンドロイドが守備を固めた出入り口の方から何人かの声が近づいてくる。


「<リーベルタース>と格納庫の制圧は?」「はっ、ちょうど今!」「遅い!」「は! 一時間後、ブラボーチームは交代、チャーリーへ!ブラボーは一週間、強化プログラムだ!」「イェッス! ボス」「『大佐』だ! 大佐と呼ばんかぁ」黒いスーツ姿の、『元軍人』と言わんばかりの風貌の大男が、部下数名の男女を従えて、室内に入り込んできた。


 机に両拳を叩きつけたまま硬直したマークは、大男を睨め付ける。男は余裕ありげに笑みを浮かべ、何も言わずにマークを一瞥した。


「大佐! 繋がってます」「よし、出せ!」


 そう言うと男は、執務室の来客用ソファに深々と腰を下ろし、壁面の固定モニターに現れた通信映像を見つめる。



 ****


 IN-PSID日本本部IMC——


 壁面のモニターに現れた、厳つい男は一方的に口火を切る。


『NUBI 戦略機動捜査局、局長ドレイク・フォン・ハウゼン。部下共は、『大佐』と呼んでいる』そう言い切ると、ドレイクはジャケットの内ポケットから紙の書簡を取り出して広げて見せた。


『令状だ。政府命令により、テロ準備疑惑のあるIN-PSID NUSA支部は、我々の監視、及び強制捜査対象となった。現時刻を持って、NUSA支部の指揮命令系統は、この戦略機動捜査局に移管される。期限は政府命令が解除されるまで、無期限! 以上だ』


「テ、テロ⁉︎」「おい、嘘だろ⁉︎」IMCの一同は色めき立つ。藤川は立ち上がり、モニター向こうの男を睨め付ける。


「IN-PSID本部、代表の藤川だ。NUSA支部がテロを企てるなど、ありえない! どういうことか、説明してくれ!」


『……我々は、命令を執行するだけだ。今回、NUSA支部は我々が対処したが、テロ疑惑はIN-PSID全体にも向けられているようだ。いずれ国連から、相応の命令が下るであろう。くれぐれも、慎まれよ』


「ま、待ってくれ! 我々は!」藤川を待たず、ドレイクの厳つい顔が通信モニターから消える。


「所長……」「オレたちが……テロリスト?」「嘘! やめてよ、そんな!」顔を青ざめさせ、皆、言葉を吐き出さずにはいられない。


『……先手を打ってきましたね』上杉の声は冷静だ。


「うむ……」表情を固めたまま、藤川は頷く。黒幕が国連を動かしているかもしれない……その疑念が、形になって現れてきたのだ。


『おいおい……まずい流れだな。どうすんだ、えぇ、コウ!』勇人の声にも焦りが浮かぶ。藤川の、補助杖を握る左手が、小さくふるえていた。



 ****


『……な、なんだ? なんなんだ、ヨゥ? アンタら? ……わ、わかったぜぇ〜。さぁては、オレっちのご機嫌なビィト! ノリに来たってかぁ? ヘィ、メェーン⁉︎ ……ってんなわけないっすねぇ〜〜‼︎ わ⁉︎ や、やめて! ごめんなさい‼︎』


『NUBIだ! 改めさせてもらう!』


『政府命令に基づき、IN-PSID NUSA支部、並びに、この<リーベルタース>を監視下に置く!』


『抵抗すれば、容赦はしない! 二人とも下船しろ! ん、貴様、何をやっている……』『シ……システムの終了ですよ……下船前は義務付けられてまして……す、すぐに降り……』


 通信音声は、そこでぶつ切りになる。<リーベルタース>からの緊急通信を受信したのは四〇分ほど前。<テメノス>ブリッジの夜間要員も、格納庫で動かない<リーベルタース>からの通信では、気づくのが遅くなっても無理はない。


 幸い、港からまだ距離があり、通信とブリッジ、甲板上から目視で異変を察知した<テメノス>は、すぐに転進し近くの無人島に潜んでいた。


 下手に支部への、確認の通信も取れないまま、何か事態の手掛かりが掴めないかと、マイケル、サラ、そしてIMSのクルーらは、音声のみの緊急通信を何度か聞き直していた。


「……少なくとも、このまま、戻れる状況じゃ……ないわね」サラの一言に、皆頷く。


「とはいえ……こんな無人島に隠れ続けてる気か?」「水、食料の備蓄は、一週間程度はいけっけど」「何もわからんまま、こんなところにいても、すぐ見つかるぞ」「じゃあ、どうすんだよ!」


 <テメノス>ブリッジに集まったIMSらの口調に、苛立ちが混じり始める。


「動くか……」マイケルの一言が、皆の口を止め、視線を集める。


「動くって……どこへ?」不安げにサラが訊ねる。


「日本本部だ。本部なら、何か情報を掴んでいるかもしれない」「け、けど、本部も、ここと同じだったら⁉︎」サラは問い返した。確かにその懸念は十分にある。


「その時は、その時だ。だが、ここで手をこまねいているよりはいい」「それも、そうね……」


「他に、いい案はあるか?」マイケルは、一同に意見を求めたが、妙案は出なそうだ。


「決まりだな。キャプテン?」「オーケィ!」


 <テメノス>の船長を兼任するIMSリーダー、ロバートは、キャプテンシートから立ち上がり、部下たちを見回す。


「夜陰に紛れ、直ちに出航する。二班に分け、二交代で運行、目的地は日本の本部だ。で、どうやっていくか、だが……」


「NUBIの監視網にかかったら厄介ね」とサラ。


「傍受される恐れがある。下手に通信機器も使えないな」


「全て『マニュアル』でいく。支援観測通信は全て遮断、航路計算もこの船の装置だけでやる」マイケルは言い切った。


「マジかよ!」「シビアだぜ、そりゃ」「だが、見つかったら意味ねぇろ!」


「……心配するな。みっちり、訓練しただろ」マイケルは、皮肉めいた笑みを浮かべ、一同を見渡す。苦笑を残してクルー達は、一斉に動き出した。

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